第80話 魔王との謁見
やはり、この世界はクレールたちの時代から随分と先の世界のようだ。技術が発展していないのもアレシアの歴史改変による影響だろう。
「それよりなんで、お前は創国者であらせられる、クレール様について知っているんだ?もう何百年も前の話だぞ?」
一緒に冒険したなんて言っても信じられないだろうが、魔王を倒し世界に平和を取り戻すのはこの世界の人間の役目だ。協力してもらう為にも事実を話しておいたほうがよさそうだ。
「聞いての通り、俺は異世界を渡って神の力を回収する為にここに来た。前回はクレールとアシュリーという人たちと邪神を倒して世界を去った。次に来たのがこの世界だ、前回と関連の深い世界に来るなんて初めてだったから、気が付かなかったけど、今は解る。少なからず世界は繋がっているんだと」
一呼吸置いて、彼らの顔を見るとミリアとルシアは信じてくれているようだが、オリアン、ミラは半信半疑といった所か。
「リグハルトに奪われたアレシアの力は必ず回収する。だけど俺一人じゃ無理かもしれない、だから頼む一緒に戦ってくれないか?」
「ボクはマコトと一緒に戦うよ。その為に力をつけたんだ」
「私も同様です。妖精女王の名にかけて、貴方を守って見せます」
「アンタと一緒にいるほうが何かと都合が良さそうね、私もいいわよ。貴女もいいでしょ?リース」
どうやらリースも起きてきたようだ。何度も擦ったように目の周りは赤く腫上がってしまっているが、しっかりと前を向き、気持ちの整理もついたみたいだ。
「未だに信じられません。ですが、私も戦います。アレシアがどのように私を見ていたのか今でも解りませんが、でも私は彼女の事を親友だと思っています。安心して眠れるよう彼女の希望を叶えてあげたい」
「僕もアレシアの望んだ世界を作ってみせる。天啓の勇者ではなく、一人の男として愛する人の願いを叶えてあげるんだ」
これで、六人。後は現魔王一派どう動くかだ。あれだけ世話になったんだ、出来れば敵対したくないが実際会ってみないと解らないな。それに王都にいた亜人たちの様子も気になる。
「早速だけど、魔王に会ってみようと思う。いきなり戦うなんて事はないだろうから安心していい。エルフの女王と獣王の娘がいるから尚更だ」
「でもどうやって?転移魔法は使えるけど、私は魔王城へ行った事がないわよ?」
「そこは任せてくれ。それじゃぁ行くぞ?世界接続:瞬間移動」
周りの景色が大きく変わる。徐々に空が白ばんできて長かった夜が終わりを告げようとしていた。その中でもミラのテンションの上がり具合は異常なほどだった。
「凄い!これが世界接続?転移と似たような感じなのね、でも六人同時ってどれほど魔力を使うの?いえ、神の力なのだから魔力を使わないのかしら?」
研究熱心なのは知っていたが、まさかここまでとは。若干ルシアとミリアが引き気味だ。移動して来たのは魔王城の……ここは正門か。
「これはこれは、随分と珍しいお客様ですね。人間の勇者にその仲間、そして我が同胞とそのご息女。そして、見放されたのにも拘らず、もう一度ここに来るとは……余程死にたいのか、またはそれ以上の力をつけた、という所ですかね?」
正門の上から飛び降りてきたのは、魔王側近のシュベルト。突然の登場で勇者達が武器を構えるが、間に入って止めないと、ここへは争いをしにきた訳ではないのだから。
「ご無沙汰しています、シュベルトさん。その節は大変お世話になりました。随分と遠回りをしてしまいましたが、漸く自分の力に気づけてきた所です。失礼を承知で申し上げます。魔王様との謁見を取り計らって頂けないでしょうか?」
「それは何よりです。少なからず貴方には魔王様も期待をされていました。あのまま腐っていくようなら私が手を下す所でしたよ。それと、謁見ですか?それ自体は問題ありませんが、そこの人間も一緒という事でしょうか?」
やはり勇者と一緒というのは無理があるのか?側近としてはここでそう簡単に通すわけにも行かないのは解るが、何か方法が無いか考えていると、ミリアが俺とシュベルトの間に入る。
「では、妖精女王ミリアル=バーラントが申請します。魔王陛下との謁見を何卒許可頂きます様お願い致します。皆、敵意はありません。それも妖精女王の名の下に保障します」
「同胞であり、王の名を持つ貴女からの依頼を断るわけにはいきませんね、判りました。謁見を許可しましょう。ですが、城内での戦闘行為は禁止とさせて頂きます。これは我々魔王側も一緒です、くれぐれも約束を守ってくださいね?魔王様は一度火が付くと消すのに大きな労力を使いますので」
シュベルトを先頭に謁見の間までの歩きがてら、おおよその経緯を説明しておく。
「成る程。大体は掴めました、私から一つ質問があります。隷属の魔法の正体も判りましたし再度発現する事もないでしょう、ではそれも踏まえて勇者殿、貴方の目指す世界のあり方とは何ですか?それを是非お答え頂きたい」
突然の質問に慌てた様子のオリアンだったが、さすが天啓の勇者であり第一王子だ。このような場所でも、それが何を意味するものなのかが判っているようだ。
「今はまだ考えつきもしない。だがアレシアが望んだ心から信頼できる人達がいる世界を作るのに必要なのは、恐らく、いや、僕たち人間だけじゃ成し得ない。きっと貴方達亜人の協力が必要不可欠になると思っています。僕は確かに勇者で魔王を倒す事が使命です、ですが命を奪う事が倒す事ではないでしょう?協力し合い、より良い世界作りに協力してもらえるように説得して、それでも納得が出来なければぶつかり合う事もあるでしょう、僕はそれで良いと思っています」
歩くのを止めてしまうほど、オリアンの短い回答はシュベルトに大きな印象を与えたようだ。
「驚きました。政治的内容も含んでの質問でしたが、さすが第一王子ともなれば私の浅はかな考え等お見通しとは恐れ入りました」
深々と頭を下げるシュベルトを心底不思議そうな顔で見つめているオリアンだったが、慌てたように手を何度も振る。
「ちょ、ちょっとやめて下さい。僕は何も政治的とかそのような意味で言ったのではありません、本当に自分の思いを口にしただけで、深い意味は無くてですね……。あぁどうしたらいいんだ、ミラ、リース。君たちからも何とか言ってくれないか?」
「人間の勇者はこんな感じよ?深い意味は無くても答えが正解になっちゃうのだから、ある意味反則よね」
「オリアン様は、物事の一片を聞いたら何故か本質までを言い当ててしまう稀有な能力を持っておられますですので、本当に意味を判ってらっしゃるかどうかは……」
二人とも勇者であり、第一王子なのに容赦がないな。オリアンが二人に詰め寄っているが二人とも苦笑いだ。
そしてついにたどり着いた、大きな黒い扉は見事な装飾が施されており、依然見たときと全く変わっていない、古びた様子もなく未だにあの当時のままだ。
「皆様、これより謁見の間です。くれぐれも粗相のなきようお願い申し上げます。魔王様以下獣王、龍王、そして妖精女王と三人の王の元、魔国の今後と人間との協力ができるかどうかを決める場です」
シュベルトが扉に手をかけると、音もなくゆっくりと開かれる。
一歩中に入ると、相変わらずの豪華絢爛さで芸術の一欠けらも判らないので「すっげぇ」の一言しか出てこない。だが他のメンバーはあの柱の作りがどうとか、天井の模様は何とか調で今では余り見られないなど俺からしてみれば、どれも同じにしか見えないが……。ルシアでさえ芸術に明るいと初めて知った。元気キャラじゃなかったのかよ……。
赤い絨毯の上をゆっくりと歩く。大きな玉座にはあの赤い髪が印象的で強い意思を瞳に宿した魔王アデーレが頬杖を付いて座っている。右には獣王、龍王がおり、シュベルトにここで待つように言われると、彼とミリアは左側、ルシアは父親の元へ、これで役者は揃った。できればここで協力を得たいところだが……。




