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異世界旅行者の冒険記  作者: 神祈
二人の勇者
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第79話 アレシアの過去

 衣装部屋の奥に一際綺麗なドレスがケースに入れられ飾られてある。確かこのドレスはこの国を最初に作った王の妻が着ていたものだと聞いたことがある。その後ろに隠れるように箱が置いてあるのを見つけた。

 中を開けると一冊の本が置いてあった。表紙も綺麗で恐らくこれがアレシアの言っていたものだろう、どんな理由があるにせよ、最初はやはりオリアンに見せるべきだろう。



「いいのかい?僕が最初で」


「アレシアの婚約者でしょ?マコト(あの男)よりも先に見る権利はあるんじゃなくて?」


 オリアンが部屋から出て行く、大事そうに両手に(かか)えて。一人衣装部屋に残されると、(ようや)く私にも彼女がいなくなってしまった実感が出てくる。先程までは緊張の連続で涙すら出てこなかったが少し時間が出来ると私の目にも涙が(あふ)れてくる。



「寂しいよ貴方と会えなくなることが、(つら)いよあの笑顔を見れなくなる事が……アレシア……」


 声を出さずに泣いた。蘇ってくる彼女との思い出はどれも掛け替えのないものだった。それを奪ったのは誰だ?マコトか?リグハルトとかいう魔王か?戦って死にたかった、そういい残したと聞いた。嘘を伝えるとも思えない。復讐をしたところで彼女は戻ってこない、そんな事はわかっている。ならばせめて彼女が言い残した戦う事で手向(たむ)けとしよう。


 たとえ相手が誰であろうと……



 --------



「うーん……よく判らないけどマコトは異世界から来た人で、今は神様の化身(けしん)っていう事でいいの?」


 要領よく伝えるのは苦手だが、まさかこんな簡単に言われると否定したくもなるが(おおむ)ねその通りだから何とも言えない。


「簡単に言えばそうなるかな。ただ神様の化身といわれても実感がないのが正直な所だから、異世界から来た人でいいよ」


「その目的は神様の記憶を集めること。それが終了したら、また別の世界へ旅立つのですか?」


「そうだね。それが役目だから、いつまでも同じ世界にいるとアレシアと同じように俺の後任者が来るかもしれない。そうなればまた同じことの繰り返しだ。その度に皆を傷つけるわけにもいかないだろ?」


「ボクは平気だよ。誰が来たってマコトを守って見せるよ?ボクのご主人様だからね」


「もう刻印(こくいん)はないんだ。ルシアのご主人様じゃないだろ、なったつもりもないし」


 なぜ刻印が消えた?もしかしてルシアと同じように亜人たちに刻まれていた刻印も消えているのではないか?だが、それを確かめる手段はどうする?彼らの移動先が判れば良いのだが……気は進まないが魔王と会ってみるか、ミリアとルシアがいれば話だけでも聞いてくれそうだし。



「ねぇねぇ、もう一つ聞いてもいい?」



 ルシア、顔が近いぞ?ミリアも何故か物凄く真剣な眼差しだ。


「いいけど、なんだ?」


「マコトはこれからどうするの?きっとリグハルトと戦うんだよね、まさか一人で戦うつもりなの?」


 アレシアの力を持っているなら俺が戦うのが適任だけど、そうだな。彼女達もその為に力を付けたんだ。


「いや、すまないがルシア、ミリア、一緒に戦ってほしい。俺一人じゃまた(くじ)けてしまいそうだ、君達と一緒ならきっと勝てる。俺に力を貸してほしい。頼む」



 --------



「じゃぁ、私達はお払い箱って訳?(ひど)いわね、少しではあるけど一緒に旅をした仲じゃない」


 声のした方を向くと、ミラとオリアンが立っていた。手には装飾(そうしょく)が施された本を抱えて。


「ミラ、見つかったのか?」


「ええ。読んでからも改めて思ったけど、あなた達異世界からの来訪者は凄いわね。なんだか本当に神様の使いって思ったわよ。オリアン、さあ」


 ミラに(うなが)されて、オリアンがこちらに歩いて来る。ルシアが警戒するが手で抑止(よくし)する、あの表情は覚悟を決めた者がする顔だ。何処と無くクレールを思い出す。手に持った本を俺に渡してくる。


「いいのか?王子様の想い人なんだろ?」


「本当は見せたくもない。だけどその本にはアレシアの願いが書いてあった、正直その願いを叶える為の方法は間違っていると思う。それでも僕は彼女の遺志(いし)を継ぎたいと思う。彼女が成し得なかった願いを僕が叶えるんだ。悔しいけど、その為にはお前の力が必要なんだ。僕の事は嫌っても良いし、どんな屈辱(くつじょく)も受け入れる!だから、アレシアの願いを叶える為に力を貸してほしい。この通りだ!」



「なあ、王子様、ありがたくこれは読ませてもらう。読んだ後一つだけ聞かせてほしい事がある。それが条件だ。正直に答えてほしい」



 …………


 ……


 本には、彼女が負った心の傷が克明(こくめい)に記されていた。何度目かの転移で人々の記憶から消される辛さを自覚し、徐々にアレシアの心は壊れかけていた。それでも役目を全うする為、転移したこの世界。俺と同じく冒険者として王都に来て、そこで二人の冒険者を紹介された。それが、俺が助けた冒険者のニックとユイカだった。



 三人になった一行は、魔王を倒す為世界を旅して行く。途中で仲間になったのは、聖女と呼ばれる者、数多の魔法を操る者、そして勇者。強力な力を持つ三人に日に日に劣等感(れっとうかん)(つの)らせていくニックとユイカ、二人はついに凶行(きょうこう)に出た。 パーティーを抜けた二人は魔王に密告をする、そしてアレシア達が立ち寄った獣人の国で悲劇が起こる。



 獣人の国では、豪華な宴席(えんせき)が設けられた。野宿や安い宿を転々としていた一行は心ゆくまで楽しんだ。必ず魔王を倒し、世界に平和を、アレシアも勇者が適合者である事。力を返してもらう為勇者の目的に力を貸す約束をしていた。



 夜、鉄臭い匂いにアレシアが目を覚ますと辺りは血の海だった。聖女も魔法使いも、そして勇者は右手首が切り落とされ、身体中から(おびただ)しいほどの血を流し、息を引き取っていた。何故か自分の手に握られている赤く滴るモノが付着した剣。訳がわからなかった。慌てて外へ出てみると、そこには亜人達が周りを取り囲んでいた。何を弁明(べんめい)しても聞いてもらえず、勇者を語る不届きものと|罵《ののし

》られた。



 ジリジリと距離を詰めてくる亜人達。その後ろでヘラヘラと笑っているニックとユイカ。アイツらが!だがその意見も即座に否定される。ニックこそが真の勇者である事、右手の甲に天啓の紋章があると言うのだ、その為に勇者の手を切ったのか!?



 勇者と魔王はお互い手を取り合い、平和な世界を作っていくと言った。お前達こそが戦乱の火種となると、そう口々に言われ、遂に心が壊れた。かつての仲間に裏切られ、勇者たちは殺され、自分も今や死ぬ直前だ。



 悪い夢だ、きっと気がつけばまた、いつもの様に旅が始まるとそう信じたかった。ヘラヘラと笑っている二人、どちらが真実か考えようともしない亜人。全てが許せなかった。もしあの時、もっと早く勇者達に合っていたら、最初からこの世界にいたら、その想いばかりが頭を埋め尽くした。



 その時にアレシアは記憶のカケラの力を手に入れた。



 小さな田舎町に一人の女の子が誕生した。名をアレシア=ベイウッド

最初は驚いた。何故自分が赤ん坊になっているのか?時間はたくさんあった。何せ赤ん坊だ。大人や親の話を聞けば情勢はおおよそ解ってくる。どうやら自分は時間を(さかのぼ)った様だ。これはチャンスだ、あの二人の冒険者に復讐を、亜人達には制裁を。


 …………


 ……


「これが、アレシアの過去。って事は隷属の魔法を開発したのはアレシア?だからルシアの刻印が消えているのか!」


 呪いなどの類は術者が死ぬと効力が切れる。魔法というよりは呪いだったのか。


「でもね。隷属の魔法……正確には呪いだけど、一つだけ本来の力を取り戻す方法があるのよ。心からこの人の為ならと思って契約を交わすと亜人本来の力が発揮されるの」


 成る程。ミラの説明は納得できるものだ、だからルシアとキスをした後彼女に尻尾が戻ったのだ。でもどうしてこんな抜け道を作るのだろう?


「僕の勝手な想像だけど、アレシアは本当に信頼できる人物を待っていたんじゃないかな?損得じゃない。本当に信頼できる仲間が欲しかった。だからこその処置じゃないのかな?それは人間だけじゃない、亜人に対してもそう思っていたんだ」



 此処まで差別が(ひど)かったのは、アレシアが何度も歴史を繰り返し、その度に少しづつ歴史に改編(かいへん)を加えて行ったせいなのだろう。恐らく誰にもアレシアの辛さは理解できない、俺を除いて。何度も何度も人間関係をやり直すのだ。上手くいくことばかりじゃない、強力な力を見せれば恐れられるし、だからと言って役目がある以上、力を証明する必要がある。



 いつしかそれすら嫌になる。だから常に一人で行動する様になる。一人でなら、そう考える。俺だってそうだった。だから彼女の気持ちはよくわかる。



「オリアン、それで聞きたいことだけど、クレールとアシュリー この名前に聞き覚えはあるか?」



「君がどこでそれを知ったか興味があるね。覚え?忘れるはずがないだろ、クレール様とアシュリー様はバルト王国の創国者(そうこくしゃ)だ。遥か昔だけど、僕にもその血が受け継がれているんだ」


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