第78話 束の間の休息
アレシアの遺体を抱え王都へ戻る途中に、オリアン、リース、ミラに出会った。事情を説明してもオリアンには判ってもらえず、リースは泣き出してしまう。唯一表情を崩さなかったミラにアレシアの最後の言葉を伝えた。
「衣装部屋の奥……ね。私もアレシアの部屋に入った事はあっても衣装部屋までは判らないわね。いいわ、私が取ってきてあげる。アンタじゃ王宮に入るまでに牢屋行きか処刑されそうだもの」
リースはミリアに任せてあり、徐々に落ち着いてきてはいるがそう簡単に整理は付かないだろうな、幼い頃からの友人だったのだから。オリアンは事情を聞くと罵倒を放ち王宮方面へ行ってしまう。こればかりは時間をかけて判ってもらうしかないのだ。
「でも、なんでミラは俺の話を聞いて落ち着いていられるんだ?」
「何?泣き喚いてアンタを黒焦げにした方がよかったとでも?」
ルシアが前に飛び出してくれるが、恐らく本音で言っている訳じゃない。落ち着かせると続きを促す。
「そりゃ悲しいし、泣きたくもなるわよ。けど今はそうも言ってられないんでしょ?少なくても私はそう思うし、なんでかな?アンタとアレシアは必ず戦う運命なんでしょ?そしてアンタが勝った。正直言うとね世界接続に興味があるのよ、ちょっと見せてくれない?」
本当に研究熱心だな。見せてもいいけどミラには使えないだろうに……
「ねぇ!マコト!これ!見て!」
ルシアからの声に振り向くと、素晴らしい谷間をこれでもかと見せ付けてくる。
「おい!弁えないか、こんな時まで……「違うよ!ボクだってその位はわかってるよ、隷属の魔法の刻印が消えているんだよ!」
そう言えばルシアの刻印は谷間の奥だったな、でもなんで刻印が消えるんだ?
「ルシアって言ったけ?私はミラ、今のところ敵意はないわ。それにコイツの知り合いに手を出したら私が殺されそうだしね、聞きたいんだけど刻印はいつまであったと記憶している?気付いたのは今みたいなんだけど」
答えを渋るルシアに、頷いてみせる。
「ミラは魔法関係について詳しいぞ?何か手がかりがあるかもしれない、俺からも頼むよ」
「マコトがそう言うんじゃ……いつも見ているわけじゃないけど、陛下と登城する際に湯浴みをしたときはあったのは確認してるよ。それも二ヶ月ほど前かな?」
「その間に何か変化なかった?何でもいいわ、例えば誰かと生殖行為としたとか……」
とんでもない事をさらっと聞くな……
「な!なななな!そ、そんなことするわけないだろ!ボクはマコト以外とそういうことはしないの!マコト!本当だからね?ボクは本当に……」
ここはどうやって答えるのがベストだろう?気にしないと懐の深さを見せるか?いや、それだとルシアの気持ちを無駄にするか、だが、認めてしまえば、いや、元々そんな事は気にしないのだが、判らん。どっちを答えても気まずい空気になりそうだ。
「別に焦る事なんてないじゃない、一番身体に変化が現われそうだったから聞いただけよ。そうなると……まだ仮説だから言えないけど、可能性は高いか……ねぇ悪いけどリースを頼むわ。私はアレシアの言っていた場所へ向かってみる。またここで落ち合いましょう」
「そうだな。頼むよ、リースはこちらで見ておく」
ミラを見送ると、リースの様子を伺いに行く。ルシアが何度もそういった行為はしていないと言って来るが正直答えがわからない。ここは誤魔化しておこう。
「ルシア、今はリースの様子を見よう。その話は全てが終わってからな?」
木の根元にミリアがリースを抱き寄せながら座っている。近づくとミリアが人差し指を口元に当てる、泣き疲れて眠ってしまったようだ。俺との戦いで心を乱し、終わってみればアレシアが亡くなってしまう、心が壊れなかっただけでも、良かったと思うべきなのか?
「泣きつかれて眠ってしまいました。今はそっとしておきましょう、マコト。こんな事を言うのは不謹慎ですが、貴方が無事でよかったです。そして、改めてお久しぶりですね。マコトは人間ですのにあまり外見の変化が見えないようですね?」
「ああ、本当に久しぶりだね。っと、今は女王陛下とお呼びしなければなりませんね、それとも妖精女王ですかね?」
少しおどけて見せる。きっとそんな事は望んでいないのだと判っていても、久々の再会で少しテンションが上がっているのだろう、ミリアの顔も頬を大きく膨らませそっぽを向いてしまう。
「せっかくの再会なのにあんまりです。これでもマコトの為、エルフを纏め、王として即位して力をつけてきたのです、もう少し労ってくれるなり、抱きしめてくれるなりしてくれも良いのではないですか?」
「最後のは別として、どうして俺の為に?そこはエルフの為じゃないのか?」
「母が言っていました。マコトはきっと私の助けが必要になると、当時は何も出来ませんでしたが、いつか貴方の助けになれるように、そのために出来る事をしなさいと。本当に言った通りになるなんて……母は先見の明があったんですね。長く一緒にいますが、初めて知りました」
エルフの村を出るときにエリザさんと会話をしたが、ミリアともそんな話をしていたのか。今となってはそういう事かと判ってしまうが、あの当時は全く気付きもしなかったな。
「さっきのミリアの答えだけど、ルシアも聞いて欲しい。俺は人の形をしているが人間じゃない。それにな、俺はこの世界の住人でもない。今更だけど君たちには聞いて欲しい。俺が何故ここにいるのか、俺の目的を、そして……いずれ来る別れのときの事を……」
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リースを彼らに預け、一人王宮へ向かう。考えてみればアレシアの技術や知識は、いくら天啓の勇者といえ理解の範疇を超えていた。そうか、異世界なんて本当にあるんだ。こことは違う世界、どんな場所なんだろう、どんな種族が住んでいるのだろう、魔法はどのように進化を遂げたのだろう、色々と興味は尽きない。
もし、私も連れて行って欲しいと言ったら、彼はどのような答えを出すのだろう。
きっと答えは決まっている、連れて行けない。困ったような顔でそう言うのが目に浮かぶ。別に彼を好いているわけではない。だけど……楽しい旅に……ならないな。私は雑談等は得意ではない、きっとメクレンでの時のように黙ったまま旅を続けるのだろう。少しは私も素直になればいいのかな……
「ミラ、君は彼らの味方をするのかい?アレシアの無念を晴らそうとは思わないのかい?」
宮殿内、アレシアの部屋の前でオリアンが生気のない顔で問いかけてくる。味方をするとか敵に回るとか、そういう状況じゃない事を王子様は判っていないのか?愛する人が亡くなった。その事実は辛いものだと理解もしてる、アレシアが亡くなった事も信じられないくらいだ。
「むしろアレシアの無念を晴らすなら、彼らと共にいるのが正解じゃない?彼女を殺したのはリグハルトとかいう魔王と言っていたわよ?魔王を倒す勇者ならば、貴方の行動は決まりきっていると思うけど?」
「そんな事は判っている!だけど!彼をアレシアは……僕に向けていたのは何だ?体のいい駒か?僕は一体彼女をどれだけ解っていたんだ?どうしたらいいのか、もう……解らないんだ」
こう言ってはオリアンに悪いが、彼の女々しさのおかげで私は随分と冷静に見られるようになった。アレシアの事なんてきっと、私だって判らない。彼女の事を半数も理解していないだろう、だからこそ、ここに来たのだ。
「貴方が泣いてもアレシアは戻ってこない。私だって彼女の事は貴方以上に知らない。だから、私は知りたい。アレシアが何を思っていたのか、衣装部屋の奥に何があるのか、それを確かめに来たの。さぁどいて頂戴。彼女の友人として、仲間として、私はアレシアのことが知りたいの」
ゆっくと扉を開けるとアレシアの部屋はシンと静まり返っている、衣装部屋の扉に手をかけるとオリアンが手を重ねてくる。
「僕が開ける。アレシアのことをもっと知りたいと思う気持ちは、僕だって一緒だ」




