第68話 王都の噂
「オリアン!もう少し敵を押し込んで!リース!少し下がって!ミラ!お願い!」
「炎よ、舞え!眼前の敵を焼き払え!最上級火炎魔法」
「オリアン!」
「判っている!爆風突進!」
オリアンの技で、敵三体が一箇所へ集まると、ミラの最上級魔法が天空より炎を落す。轟音と共に魔物はその姿を灰に変える。相変わらず物凄い威力だ。勇者として天啓を受けたオリアンと私達は連携の確認と彼の訓練も兼ねて近くの森へ来ている。魔物自体は弱いが連携をするのであれば丁度いい。
「だいぶ連携も上手くなってきたわ、これなら魔王に挑むのも時間の問題ね」
オリアンと私が前衛を代わる代わる行い、中衛にはリース、後衛にミラという布陣。前衛に出ていない勇者が指示を行い全体を把握する。勇者としての暦が長いと言うだけで私が指示を出す事が多くなる。
「やはり、アレシアの指示、リースの補助、ミラの攻撃と三つ揃えば怖いものはないね、どんな魔物でも負ける気がしないよ」
「いえ、オリアン様が防いでくれているので補助がかけられるのです。私などまだまだ、アレシアに注意ばかりされちゃって……」
「そうね。リースは少し移動に難があるわね、その無駄に大きいモノを二つもくっつけているからじゃないの?」
オリアンが謙遜して、リースが遠慮して、ミラがからかう。いつもこのパターンよね。最後は私が纏める。
「はいはい、ミラは僻まないの、リースの胸が大きいのは仕方ないでしょ?小さいモノ同士僻むのはやめましょう?持つ者にはわからないわよ」
「アレシアは普通に大きいじゃない、それに引き換え私は何で成長しないのよ!やっぱり好きな人に触られると大きくなるって本当なの?」
視線がオリアンに集まるが彼は爽やかな笑みで、視線を躱す。
「いいかい?胸の大きさはそれぞれ違って当たり前だろ?君たちはそれでなくても美しい人たちだ。そんな人達と旅が出来るなんて僕は幸せ者だね」
本当にそう思っているから、この王子様は怖い。品行方正で民に優しく悪には容赦しない。正に絵に描いたような勇者様。剣だけじゃなくて魔法にも才能を持ち、天啓を受けてから僅か数ヶ月で、前衛で戦い指示もできる。
「今日はもう少し奥へ行きましょうか、オリアン交代ね」
「判ったよ。アレシア、くれぐれも無理はしないでくれよ、君だけじゃない、リースとミラも辛くなったら言って欲しい。僕らが目指すのは遥か先だ。休めるときに休むのも使命の内だからね……それとリース」
「は、はいオリアン様」
「いい加減、様はやめて欲しい。僕らは仲間だ、地位は関係ない。今の僕は王子じゃない、それに……生命の鼓動よ、安らぎを。中級治癒魔法、怪我をしたら言ってくれよ?君はパーティーの生命線だ、お互い頑張ろう」
そういって微笑む彼は口角を上げ少しだけ歯を見せる、効果音がつくならキランッとなるだろう。こういった僅かな気配りも忘れない。恐らく彼と共に旅をすればどんな女性だって惚れるだろう。リースも顔を赤くして照れていて、マコトの事はすっかり忘れているようだ。随分と連絡もないし、そうなっても仕方ない事だ。
「だいぶ歩いたね。少し休憩にしよう」
オリアンからの提案で、大きな木の根元に腰掛ける。メンバーを見るとリースもミラも肩で息をしている、少し歩きすぎたかもしれない。その辺はキチンと彼が見てくれているので気が回らなかった事は反省しよう。
「ごめん。私も人のこと言えないわね、もっと皆の事見られるようにならなきゃね」
皆からは笑顔で答えを貰う。オリアンの成長速度は物凄く早い、もともとの才能もあるのだろうが、それだけでは説明の出来ない速度だ。出来なかった事、足りなかったものなどは、その日のうちに吸収して一回りも二回りも成長していく。
やはり神様の力というのは理不尽なほど強力で一歩間違えれば、その力に耐え切れず、変わり果ててしまうのだろう。その辺りも加味して天啓を授けるのだろうが、彼が王子でなければ妬みや嫌悪の対象となってしまう。理解できないものは怪物の一括りにされてしまうのだ、弱い人間であればそうなっても不思議じゃない。
「どうしたんだい?僕の顔に何か付いているかな?君に見つめられるのは嬉しい事だけどね」
考えながら彼のほうを見続けてしまったようだ。
「そういえば、この頃王都で持ちきりの噂と言うのを知っていますか?」
ふと、リースが言葉を出す。彼女は昔から街へ出て無償で治癒を続けている、一番王都に詳しいのも彼女だ。
「私は噂なんて興味ないわね。大体のものなんて小さな事実に尾ひれがついて大きくなった程度でしょ?噂が魔法に関するものなら徹底的に調べるけどね」
研究に余念が無いミラは、ほぼ研究室兼自室から出てこない。薄暗い部屋に閉じこもっているから、成長にも差が出ているのか?基本外で活動するリースと基本室内に居るミラ、成る程、身長は差ほど変わらないが体格はミラのほうが細く、リースはややふっくらしている。だが二人とも美人だし、やはり体格に差が出るようだ。今度外に連れ出すときは、このネタで行こう。
「噂……ね……僕は気になるな。何よりリースが此処で言う事にね。ただの雑談なら王宮内でいくらでも出来るけど、ここは僕ら以外は居ない。そこで噂の話をするんだ、何かしらの確証、若しくは僕らでなければ解決が出来ない何かがあると思うんだ。話してくれるかい?」
「はい。ミラが言うように小さな事実に尾ひれが付いたものかもしれませんが、どこかに事実があるのなら放っては置けません。近頃王都で持ちきりの噂は、亜人たちが秘密裏に何かしでかそうとしている。というものです。どんな事なのか、いつなのか、詳しいことはわかりません。ただ、オリアン様が天啓をお受けになってからの事です」
噂程度だ。そんなに気にする事もない……とは言いたいが、確証がない。私が知る限り、魔王討伐前に大きな事件はあったか?答えは無い。だ。それに今の状況では、少なくても二つのイレギュラーがある。一つはリグハルトという悪魔が居た事、これは以前に倒したはずだし放っておいてもいいだろう。もう一つがマコト=レイトバード、歴史上名前を残す事がない、もう一人の神の代行者。以前に会った彼では、問題視しなくていい程だった。強さはあるが人並み程度。本気なればオリアンにすら手が届かない。だが腑に落ちない点はある。
彼の行動を何度か遠目から見ていたが、他人の為に怒ったり、他人の命を哀れんだり、とにかく人間みたいに感情が露骨に出すぎている事。これがおかしい、まさかとは思うが知らないのではないだろうか?いや、そんなはずは無い。知らないのであればどれほど強運なのか、どれほどの加護を受けているのだろうか。もっと調べておけば良かったと後悔はするが、やはり、私の最大の敵は魔王ではないマコト=レイトバードだと認識しておこう。
「その噂は私も知らないけど、いつからあるの?私たちが小さい頃はそんなの無かったでしょ?」
「うん。私も気になって少し調べてみたの、そこでミラの言っていた小さな事実と思う話を聞くことが出来たの。エルン伯爵の救出に行ったのは覚えているわよね?あの少し前王都に伝令が来たとき、人だかりが出来ていて、そこで当時はまだ小さい男の子が見たって言い張るのよ」
「見たって、何を?」
「真っ黒いローブを来た亜人が笑いながら居住区に入って行ったって。その子は今宿屋で働いているんだけど、以前に宿屋のご主人が怪我をしたって聞いて治癒に行った事があって、そこで当時の話を聞いてこれが事実なんじゃないかって思ったの」
大きなため息をついてミラが立ち上がる。もしかしたら彼女も何か知っているかもしれない。
「あのねぇ……リース、それ真に受けているの?真っ黒いローブを着ていた。これはいいわ、私も黒いローブなら着るし、ありふれているものね。ただ……それが亜人だってどうしてその子は判ったの?普通は頭からスッポリ被っているでしょ?腹立たしいけど、見分けはそう簡単につくものじゃないと思うわ」
確かにミラの言う事も判る、むしろそっちの方が自然だと言える。ただ、その子が嘘を言って何か得になるのだろうか?
「なら話は簡単だ。今からその男性に会って見よう、リースの話も気になるし王都に怪しい者がいるのなら放っては置けない。ミラの言うように見間違いなのかもしれない。それなら安心して魔王討伐に行ける。僕はどちらの意見にも賛成だ。アレシア、君はどうだい?」
相変わらずこの王子様は美味しい所を持っていくな……それを考えなしにやっているのだから、本当に凄いと思う。
「私も賛成。なら一度王都へ戻って明日にでもしましょうか、この時間帯だと宿も忙しいでしょうから邪魔しちゃ悪いわ」
今回はミラに教えた転移魔法で王都へ向かう。万能と思えるミラだけど、転移は少し苦手のようで前回は何故か川の上に出てしまい、全員びしょ濡れで戻った経緯もあり今回はそうならない事を祈ろう……。




