第48話 身体の異変
まずい、非常にまずい。とにかく落ち着こう。自室に戻り私は大きな寝台へ飛び込むと、柔らかな感触が私を包んでくれる。先ずは一つずつ考えていこう。これだから異世界旅行者は嫌いだ。
私の計画が徐々に崩れて来ているのは判る。それも今までに無い程に。先ずは5000の兵とエルン伯爵、冒険者ギルドの2人だ、正直無視しても構わない。
5000の兵やギルドが束になって戦ったところで、魔王は倒せない。それが出来るのが勇者だからだ。ならば無視してしまおう・・・と言いたいがそうも行かない。
エルン伯爵この男が曲者だ。とにかく権力が大好きで今回捕縛されたのだって自業自得だが、王宮内外に多数の協力者を持ち、王宮内では救出隊の編成に、私とリースを入れようとしてくる。魔王討伐に出るのは成人の儀から2年の歳月が必要だ。それまでは魔王の直接的な部下と戦い、手の内を見せるのは避けたい。
次に、悪魔王とかいう正体不明の魔物だ。今までの記憶からそんな名前は聞いた事がない。それに名前・・リグハルト・・・初代魔王と同じ名前だという。それも不可解だ。人間であれば偉人と同じ名前を付けるのは納得できる、そのように育つかどうかは疑問だが。
それを悪魔が行うか?・・・となれば初代魔王の生まれ変わり?ではなぜ今の魔王の下にいる、そのうちに魔王の座に付くつもりか?これも判らない。
ならば、マコト=レイトバードを使うか?それだと戻ってくるまでに1年は掛かる。ならば私が転移の魔法を使うか?それだと確実にバレてしまう。今はまだバレる訳には行かない。知識や力があっても9歳の体では体力的に太刀打ちできない。最低でも16か17まで隠し通す必要がある。
色々考えては見るが、やはり救出隊に参加して戦うしかなさそうだ。オリアンに頼む手も考えたが、まだただの王子である彼にそこまでの力は無い。一瞬で終われば手の内も何も無い。
リースの補助魔法と今の実力であれば・・・救出隊に選ばれ、旅立つ支度をするのは、次の日の朝早くの事だった。
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慎重になり、辺りの様子を伺う。今はまだ魔物はいないようだ。一度通れば、ある程度の道筋は判る。
「やっぱり少し寒いな、マントを買ってきて良かった。そういえば、ルシアは無事に旅を続けているかな?」
今は隣にいない仲間を想う。彼女の事だ、持ち前の明るさで旅先でも上手くやっていけているだろう。人間の街での長期滞在は難しくても、買い物くらいなら大丈夫な筈だ。
いつかは彼女らの記憶から消えてしまうと思えば、寂しくもなる。だが、自分はそれと引き換えに望みを叶えてもらえた。恩返しのつもりは無いし、それが条件なのだが、出来るだけ長く旅行者で居たいとも思う。
そういえば、ミラに魔法の使い方を教えて貰えばよかった。口をきかなかった道中では聞けるはずもなく、戻って来てからは、ミラの多忙さで結局最後まで聞けなかった。それにしても、世界が変われば、色々変わるが俺の技術はあまり変化がない。いつまでたっても剣の腕は上がらないし、魔法も下級が精一杯なのはどこでも一緒だった。当然外見も変わらない。
「何だろうな、歴代旅行者の中でも最弱だったり?ハァーッ自信なくすな」
大きなため息を吐くと、前方からガサガサと草むらが動き、ゴブリンに似た魔物が3体。全身が緑色だが剣と木の盾、胸当てで武装している。背は然程大きくない。せいぜい130センチ、俺の腰程度だ。
剣を抜こうと思わず、左手で腰に触れるが、そういえば剣は1本だけだったのを思い出す。こういう習慣も直していかないとな。右手で剣を抜き、腰を落とす。まずはいつも通りに全身に魔力を巡らさせて行く。これで、素早い動きや剣の振りにも威力が出る。1体が剣を振り上げ襲ってくる。
おかしいな?どうも相手の動きが遅く見える。今迄戦って来た相手が速すぎるのだろう。気持ちを切り替えて、上段からの斬り降ろしを横に躱す、すれ違いざまに首を横薙ぎに斬ると、呆気なく首が落ちた。
??何だか身体が変だ。体調は問題ない。だが力が有り余っている気がする。気にしても今は仕方がない。もう2体に向かう、盾を構え斬撃を耐えるようなので、盾に向かって左足を軸に一回転しながら右足の蹴りを突き出す。
「フッ!」
-----バキッ-----
蹴りだけで盾が砕けるか?砕けた盾を見て、他の2体は背を向けながら草むらに消えていった。手を握って見たり、軽くジャンプして見たりするが、余り変化がない。目の前の木に向かって剣を振るうが、軽く傷つけただけで斬り倒すなんて事は無かった。
「なんか変だよな・・・まぁいいか、強くなっていると思おう。そうじゃないと説明できない」
軽く肩を回したり準備運動のように、動きながら先を進んで行く。昼夜を問わず動けるのは非常に便利だ、戦闘も意外と何とかなる。最初の予定通り、メクレンを出てから2日で目的地へ着くことが出来た。
村の中心付近に土を盛り上げ、木の破片を組み合わせ十字架を作る。花束と装備の破片を燃やすと、微かに香りが漂ってくる。成る程、線香とは違うが中々良い香りだ。道具屋で購入した酒を振り撒く。跪き祈りを込める。正しい作法か不明だが、今は目を瞑って貰いたい。
「人間が酷い事をした、許される事じゃないのは判っている。俺には祈る事しか出来ないが、いつか君達がこの世界にもう一度生を受けたなら、幸せに生きて欲しい。だから、今はゆっくりと休んでくれ。それと、皇の装備品、何度も助けて貰って本当に感謝している。最後まで付き合って欲しかったが、ここでお別れだ。ありがとう。ゆっくりと休んでくれ」
膝の土を払い、立ち上がると風が下から上へと吹き抜ける。きっとこの地に眠る者達を連れて行ってくれたんだと思う。
「さて、戻るか。街の復興なんて必要ないが、暫くは暇になるな」
ゆっくりと身体を伸ばす。
「そうか、暇なのか、ならば丁度良い。一緒に来てもらおう。拒否権はない」
突然の声に驚き、振り向きつつ剣を構える。そこに立っていたのは、燃えるような赤い髪は短く、意志の強さを秘めている大きな瞳も赤、身体を覆う鎧は黒一色。肩当ては無く、黒い小手の先は鋭く、足を膝下まで覆うブーツも黒、胸元は大きく広がっていて窮屈そうに、胸が収まっている。これまた非常に美人だ、そして見覚えがある・・・確か、代変わりしたばかりの・・・
「ま・・・魔王!」
口元を緩ませ、両手を広げながらゆっくりと近づいてくる。敵意無いとでも言いたいのか?物凄いプレッシャーだ。リッチの比じゃ無い。今の装備で何処まで保つのか、1時間か?30分か?援軍も無ければ、策も無い。これは・・・マズイ、逃げられたりしないかな・・・
「そう身構えるな、おや?お前は見覚えがある。そうだ!エルフの村でメデューサと戦っていた人間だな?成る程、こんな事もあるのだな。さて、もう一度言う。我と共に来てもらおう。拒否権はない、とは言えいきなり連れて行くのもな・・そこで少し我と話をしよう。それから連れて行く。そうだな・・・先程貴様は墓を作って祈っていたな。あれは亜人に対してか?」
魔王から発せられる声は、少し高くそれでいて威圧感もあり、聴き入ってしまう。そんな声をしていた。それよりも、一応戦う気は無いようだ。連れて行くと言っていたな、拒否権ないのだから抵抗しても無駄だろう。ここは大人しく言う通りにしよう。こちらも剣をしまい、反撃の意思がないように手をあげる。それを見た魔王は美しい口元を緩ませる。
「判った。と言うか、覚えていたのだな。あれだけ短い時間だったのに、よく覚えていたものだと感心するよ。そうだな。亜人達と俺の大事な物の為だ。それがどうした?まさか、あの方法では、作法が違っていたのか?」
「・・フフッ・・フハハハハハハッ良い、良いぞ、人間。作法なんてものは我々には無い。死ねばそれまでよ。弔も何も無い。だが墓を作った。何故だ?貴様ら人間は我々と敵対しているのでは無いか?おお、そうだ、名を聞いてなかったな。我はアデーレ、魔国の王アデーレだ」
赤髪の魔王は魔王らしく無く、右手を差し出して来る。握れば潰されるんじゃ無いかとも考えるが、それは無粋だろう。こちらも手を握り返す。
「人間の大多数がそうだろうな。だが俺は俺だ、俺の意思は俺が決める。今は敵対したいとも思わない、俺はマコト=レイトバードだ。宜しくな、魔王様」




