第47話 それから
メクレンでの一件で、ミラはリッチ討伐に多大な貢献をしたとされ、更なる魔法技術探求の為、勇者自ら魔法の講義をするという、破格の待遇で王都へと旅立っていった。去り際に
「宿の3階は好きに使って良いわよ。向こう5年は宿代払ってあるから、それじゃね」
別れの挨拶もなしに飛び出して行ってしまった。兵士の宿舎でも良かったが、折角なので使わせて貰っている。防具や武器は龍化が解けると、砕け散ってしまい修復すら不可能な状態だったので、道着は切れ端、剣は破片を拾い、袋に入れ首飾りに掛けてある。
今の格好は何処から見ても普通の街人だ。麻布作られた服に革の靴。一応鉄剣を購入し腰に差している。少しのんびりさせて貰ってから、西の村へ行って亜人達の供養をしようと思い、この地域での弔い方法を聞いて回って準備を整えている。
しかし・・・原因の究明は終わったし、アンデットが徘徊する事もないだろう。俺も王都に・・は呼ばれなかった。街の兵たちの指揮を取り復興に尽力せよ。お褒めの言葉もたった一行だけ。つくづく王都の連中に嫌われているのだなと実感する。
こちらに居るほうが、精神的にも楽なので、文句は無いが・・・
---------------
魔国 王の間
「では、これよりジルク様にご質問を行います」
シュベルトが高らかに宣言する。尋問や裁判などでは無く、任意での聴取。聞いた時は魔王すらも驚いた。
-----龍王に謀叛の疑い。人間と結託-----
ジルクは当初龍化してまで暴れ回るかと思われたが、シュベルトから言われた言葉で大人しく今日を迎えていた。高い位置に豪華な椅子を拵え、魔王アデーレが見下ろしている。隣には側近のシュベルト。
悪魔王リグハルト、獣王デュオンがジルクの脇を固めている。王に逆らうのなら、例え最強最古の龍であろうと・・・
「ジルク様、人間と結託したと言う事実は・・」
「無い。今の一度も」
「人間はまるで今の貴方のように羽と尻尾がありました。これはどう・・」
「知らぬ」
全く会話にならない。シュベルトがため息をつくと、黙って聞いていたアデーレが突然立ち上がり、ジルク前まで飛んで降りる。ジッとジルク目を見つめる。
「ジルク、嘘、詐りは無いな?龍王の名にかけて」
「無論。魔王様はお疑いか?」
アデーレはニヤりと笑い、大きな声で宣言する。この下らない茶番劇を、最も早く、確実に処理する方法が思いついた。
「今、この瞬間、我は龍王ジルクを無罪放免とし、今迄と変わらぬ態度で望もう。それと、その根源、人間の男を魔王城へ連れてきて、問いただす!シュベルト、デュオン!人間迎える準備をせよ!
リグハルトとジルクは獣国の復興の支援をせよ。我は人間を迎えに行く!」
----------
「ブヘックシュッ」
急に悪寒が体を巡り、盛大なクシャミをした。今日は気温が高いと思ったが、少し薄着だったかな?
供養の方法は、人によって違いが多く独特の物というのは無いようだが、共通して言えるのは
『亡くなった人への感謝と尊敬を忘れずに祈りを捧げる、そうすればいつかこの世界に戻ってくる』
というものだった。輪廻転生か・・・その輪から外れた俺は、幸せなのか・・・考えるのを止めた。
自分で選んでこの場所に居るんだ。良いも悪いもないよな。
燃やすと香りが出るという花を購入した。生前の世界での線香みたいな物がないのかと思い、色々聞いてみたが、そういうものは無く、弔うときに一緒に燃やすようで、役目は似た様なものか。
上空を見れば、青く澄み渡った空が続いている。特にやる事もないし、今から向かうか。僅か2日ばかりの旅だが、装備が破損している現状もう2,3日多めに見積もったほうが良さそうだ。この装備にも随分と助けられたな。別世界のものだが一緒に弔うとするか。
道具屋で旅の品を買い込み、街の出口に向かう。兵士に挨拶を行い、そこから西へ。装備無しの実力で戦わなければならない、余裕を捨て、常に慎重になりながら、出発していこう。
-----
「でも良かったわね。マコト様も無事で、こっちには戻ってこないの?」
午後の一時、リースと一緒にお茶を楽しんでいる。このセリフは何度目だろう・・強大な力を感じた後、それを越えるほどの力を感じ、一つが消えた。どちらでも良かったが、出来れば彼には消えていて欲しかっただが、知らされた報は期待を裏切るものだった。
「リース、何度目?残念だけどマコトは戻ってこないわよ?その代わり・・と言ったら失礼だけどミラという少女が来るわ。なんでも魔法の使い手で、天才と呼ばれているそうよ」
自覚が無いのだろうか、同じセリフを何度も言っていると事実に顔を赤らめ、俯いてしまった。そんなにいい男かしら?よく言っても普通、悪く言ってしまえばキリが無いが10人が見れば、1人振り向けば奇跡だろう。見た目は悪くは無いと思うけど、普通の域を出ないわね。私には興味の無い事だし、リースとの仲が悪くなっても、またやり直せばいい
「アリシアは、オリアン様に夢中だからね。きっと判らないわよ、でも、愛する人を待つ気持ちは同じでしょ?」
まだ9歳なのに、なんで愛するとか判るのかが不思議だ。キラキラと目を輝かせながらウットリとしているリースの頭の中が心配だ。バルト王国第一王子、オリアン=フォン=バルト、将来を約束され、成人の儀で勇者として選ばれる。容姿、家柄、そして実力、全てを兼ね備え世界を平和に導く先導者。そして哀れな適格者
「私はリースみたいに、オリアン様の事ばかり考えている訳じゃないわよ?考えなければならない事、身に付けるべき物、しっかりと理解してるからね。それに私たちは9歳よ?『愛』なんて判らないでしょ?背伸びをしすぎると、かえって幼く見えるわよ?歳相応が一番」
ゆっくりとお茶を口につける。芳醇な香りは体の奥からリラックスさせてくれる。考える事に囚われていた自分には、至福の一時だ。
「アレシア・・なんだか、お婆様みたい」
リースの一言で、盛大にお茶を吹いてしまった。生きている時間を全て入れればそうかも知れないが・・・
「ゲホッ・・ゴホッゴホッ・・ちょっと・・リース?それは酷いでしょ?」
「ご・・ごめんなさい。何だがお婆様に、お小言を言われているみたいで、大丈夫?」
漸く落ち着きを取り戻した。すこし年寄り臭かったかな?せっかくのお茶が台無しだ。だが、この後に届く報は更にお茶の味を不味くし、深く考えなければならない事態となった。
----------
「伝令!伝令!至急国王様、勇者様に言伝を!」
一人の兵士が血相を変えて、王都に入ってくる。その手に持っている書状に押されている印は・・エルン伯爵のものだ。確か、亜人狩りで南に進軍をしており、そろそろ獣国まで到着する頃合だ。兵士は異たる所に傷を負い、息も絶え絶えの様子だ。
「しっかりしろ!とにかく王宮へ、馬を出せ、大至急だ!」
俄かに慌しくなって行く王都入り口。馬に乗せられた兵士と、馬を駆る騎士に視線が集り、人ごみが出来ている中、小さな少年が、人を避けるように真っ黒いローブを羽織った人物が口元に妖しい笑みを浮かべ、王都の中へ入っていくのを見かけた。王都に入って右側、亜人たちの居住区に入ると、脇道に逸れ、その後姿を見せなかった。
--------
国王の前に連れて来られた伝令はその書状を読み上げる
南の獣国に亜人のいる気配なし。住居等はそのままだが、亜人が1匹も見当たらない。だが、そこに1匹の亜人が現われた。彼は名を名乗った。悪魔王リグハルト。この地は我が主の物、無断で足を踏み入れること適わず。愚かで醜悪な人間達よ、貴様らが捕らえている我らの同胞を解放せよ。
その返答次第では、貴様らの都が炎に包まれるぞ。そして我が問いの回答が帰ってくるまで貴様らの身柄を拘束させてもらう。
応援に向かった冒険者ギルドのギルドマスターとその助手も健闘虚しく、5000の兵と共に囚われの身となった。
国王は至急勇者と聖女の謁見を許可し、対策を練る事となる・・・




