第32話 休息の日2
防具屋は武器屋と併設されており中は差ほど広くは無いがそこかしこに乱雑に置かれた武器は、あまり質の良い物とはいえなさそうだ。
これなら服を扱っているところが良いかと色々と物色する。
「おや?お客人とは珍しい。何を探しているんだ?」
体格の良い男が出てくる。そんなに客が珍しいのか?考えてみれば、それだけ戦火には程遠い場所なのだろう。聞いたほうが早いな。
「連れの衣服を探している。あまり重たいものじゃなくて軽めのものがいいな、華やかさはいらないが、動きやすいものでいい」
「奥様かい?フードで隠すなんて相当の美人なんだろ?」
別の意味で隠しているのだが、ルシアは何故かクネクネと体を揺らしている……聞いていたのか。
見繕ってもらったのは、革でできた簡素な鎧、腰の部分は広がっておりスカートのように見える。こちらは鉄か?少し重いな。それにしても全く判らない。自分ならまだしも女性の防具なんて選ぶ機会なんて無い。
本人に聞くのが一番だな。
「ルシア、何か気になる物があったら言ってくれよ。正直判らない」
「わかった。じゃあ選んでくるね」
暫く待った後彼女が持ってきたものは、布で出来た服にショートパンツ、胸部を覆うプレート、小手と足につける物は革。それぞれを試着してみるといい、奥へ引っ込んでいった。
「ちなみに今彼女が持っていたもの全てだとどのくらいになる?」
あまり高いと困る。一応騎士でもあったので給金もある程度貰ってはいたが、此処から更に保存食等も買うとなると心許ない。
「久々の客だからな。銀貨……20……いや17枚でいい」
それならなんとかなるか。
「マコト?出来たよ。見てくれる?」
マントはきちんと羽織ってくれているし、フードも大丈夫みたいだ。
「ただ……ちょっと胸がキツイかな?でも大丈夫だよ」
布の服は胸元が少し開いており、プレートで押し上げられた胸が窮屈そうに収まっていて前屈みになりながら胸の位置を調節している。革のブーツは膝下を全て覆っていて丸出しなのが太ももだ。
店の主人が鼻下を伸ばして見ているので、さっさと支払いを済ませ店を出る。
「なんか変な目で見てたよね、あの人、失礼しちゃうな」
あんな風に胸を見せられたら、誰だってそうなるだろうに。
「災難だったな。でも着るものは何とかなったな。そうだ、下着とかも必要だろ?そういうのは別の店だろうから、探して見るか」
俺の分はさっさと決まったが、ルシアの下着には苦労した。先ずフードが取れないから試着も一苦労だし、なかなか合うサイズが無かったらしい。デカイのも考えものだな……女の店員が羨ましそうに胸を見ていた。予備なども含め3着購入し、これで銀貨8枚。
「後は保存食を買ってから一旦宿に戻ろう」
干して塩に漬けた肉や穀物、パンを購入。飲み水に関しては井戸から持って行っていいという。ルシアとチェロの分だけなのでそれ程多くは必要ない。だが食事や睡眠が不要な事をルシアには言うか迷うところだが、そこは聞かれてからでもいいか。
そろそろ夕刻になるので、一旦宿へ戻るとちょうど食事の準備が出来たようだ。宿の1階でルシアと共に食事を取る。焼いたパンに穀物が入ったスープは老婆曰くこの辺りの郷土料理でシチューのようなモノだと言う。村の北にある放牧場で羊を飼育しており、その肉を焼いた物は香草の良い香りが肉の臭みを消していて噛むほどに味が浸み出てきて絶品だった。ルシアの様子を見ていたが、肉を食べる事自体生きる為には仕方の無い事だから気にしない。その代わりしっかりと残さず食べるのが礼儀だと言っていた。
食後に湯浴みができると聞いて、宿の奥にある部屋へと案内された。男女で別れているようで、入り口だけ見るなら温泉だな。一緒に入ろうとしてきたルシアを遇らうと大きな広間に出る、至る所にカゴがあり服を入れるようだ。更に奥にある戸を開けると、石畳がありその先には温泉があった。まさかこんな所で温泉に入れるとは思わなかった。思わず大きく息を吐く。露天風呂みたいに天井がなく、辺りは星空が広がっていた。ルシアの頭の耳が心配だったが、布を頭に巻けばある程度はわからないだろう。
「何これ?お湯がいっぱいだよ!うわー凄い!気持ち良い!」
大はしゃぎだな。迷惑かけなきゃ良いけど……
風呂を出た所でルシアと鉢合わせとなった。
「凄いね、お湯がいっぱいだったよ。人間ってこんなの毎日入っているの?」
かなり興奮気味だったので少し落ち着かせる。
「ここが特別なんだろう。旅が始まれば、また野宿の毎日だ覚悟しておけ」
「ボクはマコトと一緒なら野宿でも大丈夫だからね!ちょっと驚いただけだよ。ホントだよ?」
部屋に戻り、ルシアの事を聞いて見た。狼の獣人で歳は18、獣人は幼少期から成人期迄は急激に成長し、成人期を迎えると成長が緩やかになるだけで衰える事はないようだ。成人期の期間が長く、16から70迄は成人期として外見もあまり変わらないらしい。70以降は後老期となり若者の育成や一族の方針を決める長老会に入るという。
魔法はあまり得意じゃなく基本は武器や体術で戦い、咆哮という固有魔法が使えるようだ。相手を怯ませたり注意を引いたりと補助の役割が多い。武器は得意なものは無く、一通り使えるが熟練度は高くないとの事だ。
「だいぶ判って来たよ。ありがとう、明日は武器を見てみよう。それから出発だ」
夜も更けて来たな。そろそろ休むか。
「マコト、ボクも聞きたいんだけどいいかな?」
「答えられる事ならな」
「沢山あるんだけど、今は一つだけ。マコトはどうしてボクを嫌わないの?人間はボク達亜人を嫌っているでしょ?それが不思議なんだよね。優しくしておいて、後で裏切るって感じでもないし・・上手く言えないけどマコトは普通の人間とは違うって思うんだ。……あっ!でもでも、マコトの事好きだし、ボクの全部をあげてもいいって思っているのも嘘じゃないよ」
最後の台詞が無きゃ鋭い勘だと思ったが、台無しだよ。信じて貰えないだろうし、信じられる話じゃない。証拠になるものなんて何も無い。旅行者を知っているのは、本人と先輩とあの人だけ。何かの拍子に現れて、誰にも覚えてもらえず居なくなる。それが異世界旅行者なのだ。
「そうだな・・俺も上手くは言えない。だけど、亜人だって、ルシアのように笑ったり、泣いたり、怒ったりするじゃないか。愛する人と結ばれれば、子を成し、それを愛しく思う。それは人間だって同じだろ?だったら何が違う?姿形が違う。だけど心は同じ。なら一緒じゃないか?俺はそう思っている。上手く答えにならなくて、悪いな」
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そう言うマコトの顔は何故か寂しそうだった。寂しそうに笑って、困ったようにボクの頭を撫でてくれた。
きっと何か隠してる?ううん、言えない事なんだろうって思う。ボクは頭も良くない、マコトが何を考えて何を思ってるのかなんて全く判らない。ただ一つ、あの日、奴隷なるって言ったボクを怒ってくれた事、涙を流してくれた事、あれは嘘じゃない。きっと本気でボクを怒ってくれたんだと思う。人間じゃないのに、嫌われている亜人なのに……
だからボクは心からマコトにご主人様になってほしかった。隷属の魔法が無くても、ボクは彼に惚れていたと思う。父様が聞いたらビックリするかな?獣族の王の娘が人間に惚れたなんて聞いたら・・・
相変わらず、ボクを先に寝かそうとする。そうやって夜いつも寝ていないのも知ってる。でも彼は言わないだからボクも聞かない。一緒に……とは思うけど。おやすみ、ボクの愛するご主人様……
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ルシアが寝たのを確認すると、宿の外に出て井戸へと向かう。月が綺麗で、星が輝いて見える。この頃身体の様子がおかしい。衰えは無いはずだ。俺の身体は生前の最高潮である二一で止まっているのだから……だが、あの夢に始まり、ルシアの前で泣いた事、先ほども一瞬でも判って貰おうと旅行者の事を話そうとした事。寝ないのも、食べないのも苦痛じゃないし何も変わらないはずだ。だが身体に感じた違和感はずっと残っている。
判らない事をいくら考えても仕方が無い。今日は聞いた酒場にでも行ってみよう。酒は飲めないが話は出来る。何か情報が掴めるかも知れない。




