第22話 出来すぎた象徴
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色々と突っ込み所がある本作ですが、皆様に楽しい一時を届けられる様に頑張っていきます!
どうぞお楽しみください。
……彼女は今なんと言った?「あいたかった?」そう言ったのか?会った事など無いし、一方的に見ていただけだ。やはりあの時気づいていたのか?何者だこの少女、勇者とはなんだ?全く判らない。だが一つ納得できることがあった。「化物」ギルドマスターが言っていた言葉をようやく実感した。
「マコト殿?何をボーっとしている、勇者殿の美しさに見惚れたか?」
グランは笑いアレシアはニコニコと笑顔を崩さない。
「悪いが話を進めても良いかね?」
ギルドマスターの言葉で漸く我に返る。そうだ、処遇の話だった。グランがいるのだから悪い話ではないと思いたい。
「マコト=レイトバード君、君を魔王の手先と疑ったことは謝罪しよう。申し訳ない」
「判って頂けたのなら良いです。それよりも何故と聞いても良いですか?ニックらが証明してくれたとも思えません」
彼らは気を失っていたのだ。判るわけが無い。となると……
「君の潔白は、勇者殿が証明してくれた。彼女が一部始終を目撃していたと申し出てくれたのでね」
!? 一部始終を?そんなはずは無い。周りには気配すらなかった、誰か居たのなら加勢やギルドへ運ぶ手伝いをしてくれても不思議じゃない。
「周りには気配を感じませんでした。勇者様が居たのなら判ると思いますし、彼らをギルドに運ぶ際も自分一人でした」
「そうだな。君がそう思うのも不思議じゃない。勇者殿?お願いしても構いませんか?」
その言葉にアレシアは頷き、オークを倒した時のことを細かく表現してくれた。剣の動き、斬り方、更には陸式までも……オークを倒してから他の者と会っていない事、真っ直ぐギルドに向かってきたこと、それゆえに潔白であると。
「確かに。勇者様の仰るとおりです。潔白であると言ってくれたことには感謝します。ですが……」
そこまで言っておいてあることを思いついた。何故忘れていたのだろう?エルフの村で判定の技法があったではないか!あれならわかるはずだ。
「そうだ!判定の技法、あれをかけてください。あれなら嘘か本当か判るはずです」
それを言い切ると、一気に部屋の空気が変わった直後ギルドマスターに殴られた。鎖で繋がれた手では受身もとれず、膝をついた。
「何処で聞いたかは知らないが、技法は亜人のみが使える外法だ!二度と口にするな!」
そうだった。魔法は人間の、技法は亜人専用と聞いていたのに……怒るマスターを手で遮ると勇者が腰を折り介抱する様に口を耳元に近づける。
「もう喋らないで下さい。このままでは収まりが付きません。いちいち貴方が納得する必要もないのですから。いいですね?あとは任せてください」
今は言う通りにしたほうが良いだろう。頷いてみせるとアレシアが立ち上がる。
「彼の処遇はこのアレシア=ベイウッドが陛下より一任されてます。このままではギルドも示しがつかないでしょう?そこで、マコト=レイトバードは冒険者ギルドを追放。今後は私、勇者の共としてこの王都での生活を命じます。異論は陛下のご決断に反対するものと心得なさい」
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冒険者カードを返し、グランとアレシアに連れられてギルドを出る。僅か一日の冒険者生活……装備も無事戻ってきたし、いっそのこと王都を出てしまおうかとも考えるが、勇者の事も知っておきたいし情報収集もしておきたい。ならば暫くは勇者の言う通りにするのが妥当か。
「ところで、何処へ向かっているのですか?。」
「マコトさん、貴方は色々と王都について学んで行かなくてなりません。それに、共として私と行動するのですから、当然王宮です。グランさん、構いませんね?」
先ほどまでほとんど口を開かなかったグランが漸く口を開く。
「仰せのままに。マコト殿、貴殿は少し常識が欠如していると見える。しっかり勇者様の共として勉学に励んでくれ。王宮での身分は此方で用意するから、安心して欲しい」
冒険者から一変いきなり王宮住まいか、勉学はしたくないが、色々足りないことが多いのも事実だ。暫くお世話になると決める。しかし少女の上司とはなかなかに面倒だ。
「畏まりました。勇者様、騎士団長殿。ご指導宜しくお願いします」
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その日から約一年、アレシアの供として恥ずかしくない様に王宮での生活を送っていた。そのおかげでこの世界について、大分理解が出来てきた。人間以外の種族を亜人と称し差別が非常に激しい事、亜人は基本奴隷として扱われ、荷物持ちや重労働、冒険者に至っては敵からの攻撃を受ける盾として、エルフなど見た目が麗しい亜人は貴族などに買われ道具の様な扱いを受けている。
人間に比べ肉体的にも魔力的にも秀でている亜人を奴隷として扱う為、隷属の魔法が開発され効果が非常に強力で尚且つ解除には膨大な時間と労力がかかるらしい。
そして勇者。
世に一人だけ存在する人間の英雄、身体の何処かに神々の恩恵を受ける紋章があり、剣を振れば大地が割れ、その魔法は勇者独自の物もあるという。神によって選ばれし者、天啓の勇者と呼ばれている。アレシアの紋章は右手の甲にあり不思議な文字が刻まれていて実際見せて貰った事もある。この世界の言語は理解出来るはずなのだが、全く解らない物だった。
「マコト?どうかしましたか?ボーッとしてますよ」
お茶を飲む姿はとても10歳に満たない少女とは思えない。金色に輝くような髪は肩の辺りまで伸びていて、蒼い瞳は強い意識を感じさせる。成人ともなれば非常に美しくなると思う。文武両道、才色兼備これで背中に羽でもあれば神や天使として崇められる対象となるだろう。
だが
何かがおかしい。違和感が拭えない。多感な時期に剣や魔法の講義を受け、礼儀作法も覚え、勇者としては完璧なのだが、まるで何十年と勇者として生きてきたと思わせる。形がピッタリなはずなのに、なぜが型にはまらない。少女というよりは、達観した仙人だろうか。完璧過ぎる勇者か……王都や王宮でも非常に人気が高い。
「すみません。少々考え事をしていました」
「だいぶ様になって来ましたね。近衛騎士様?」
王宮にただの旅人がいるの身分的にも良くないとの理由から、勇者の近衛騎士としての位を授かった。
騎士団団長と同様の権限があるのは、未だに理解が出来ないが近衛騎士は俺一人なので権限を振るいたくても相手がいない。王宮内では「忠犬」と有り難くない二つ名を頂いた。
「からかわないで下さい。勇者様。本日はエルン伯爵と会食の予定がございます」
この頃は勇者と会食を希望する貴族が多い。自分の子供と結婚させ勇者と名声と確固たる地位が欲しいのだろう。先日の貴族の息子は28歳と下手すれば勇者と親子程の差があった。
「会食といっても、伯爵のご子息との結婚話でしょう?私はまだ成人でもないしそんな話はしたくないわ。勇者として魔王討伐が優先よ。そろそろ訓練しましょうか、お相手お願いね騎士様」
毎度少女にボコボコにやられるのは精神的に辛い。勝てる見込みがない。あれで全力ではないという。今日も完膚なきまで打ちのめされるのだろう憂鬱な表情のまま訓練場に向かう。まるで死刑を宣告された囚人の気分だ。
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