第19話 亜種
北の森へは街道が続いていて、迷う心配が無い。森に目印を付けて置けば帰りも安心だ。そこまで奥に進まずともゴブリンを発見できた。
最初に戦闘した小鬼のような魔物がゴブリンで間違いないようで、力は弱いが集団で行動し知能も低くないため新人冒険者でも油断をすれば、簡単に命を落とすと半ば脅しのような言われ方をした。
「それでも、この武器があれば問題ないけどな」
青い刀身の剣を抜き駆け抜けざまに斬りつければ、まるで手応えもなく恐ろしい程の切れ味でゴブリンに致命傷を与えていく。
更に進むと少し先にガサガサと音が聞こえる。
目視できるのは3体だが、1体が道を歩きながら周りの草や枝を錆びた剣で切り落とし、後ろの2体は両腕に何かを持ち引きずっているようだ。木に飛び移り上から見ると正体がわかった。
「冒険者か、ゴブリンに捕まる位なら同じ新人かな?」
冒険者は両足をゴブリンに握られ、気を失っているのだろうか両腕を上げたままだ。先回りして救出のタイミングを計ると一気に先頭のゴブリンを斬りつける。
他の2体が戦闘態勢に移るため足を離すが、遅い。右のゴブリンの首を落とす。左側より剣が振り下ろされるが、身体を捻って躱し剣を逆手に持ち替え、胸の辺りに一撃を入れると赤黒い血を大量に流しながら絶命した。指の回収も忘れずに行うと、冒険者の介抱にあたる。息もあるし、特に大きな怪我もないようだ。黒く短い髪に革のジャケットは比較的新しい。
「うぐっ、ここは……」
どうやら目を覚ましたようだ。
「さっきゴブリンに連れて行かれそうになっていたのでね。同じ冒険者だろ?俺は昨日なったばかりだけどな」
「助けてくれたのか、ありがとう。俺一人か?仲間がいたはずなんだが、知らないか?」
キョロキョロと辺りを窺う。
「仲間は知らないな。あんた以外の冒険者は見てない」
「なあ、一緒に探してくれないか?頼むよ。一緒の町で育った仲間なんだ!この通りだ!」
男は頭を下げながら懇願するが、万が一これが罠だったら?そう考えると了承もできないが、フッと呆れてしまう。町で少年に言った言葉は確かに自分の思いだったが、他人を信じきれない俺が言って説得力がないな。
「何が出来るか判らないし、力になれるかも判らない。こっちも依頼の完了まではこの森にいるから、その間だけで良ければ、付き合おう」
「助かる!ありがとう!俺はニックだ。まだ冒険者になって日が浅いから初心者も同然だ」
鉄のカードを見て見ると17歳とあった。こちらもカードを見せるとニックの顔が強張ってくるのがわかる、悪かったな。出遅れで!
「マコトでいい。それで?仲間と逸れたのはどの辺りだ?若しくは覚えてる所までで構わない。教えてもらえないか?」
ニックと共に仲間を探すが早々見つかるものじゃない。森は広大だしニックが気を失う前も記憶が曖昧らしい。仲間はユイカという女性で魔法使いのようだ。魔物にも出会わず、時間だけが過ぎて行く。
「なあ、あそこに洞窟がある。あの中かな?」
ニックの指差す方には、岩壁に大きく縦割れた場所がある。奥の広さは判らないが、狭いのなら可能性はあるだろう。
「奥が広いなら隠れたりするには確かにいい場所だと思うが・・」
「なら行ってくる!悪いがここで見張っててくれ!」
「待て!何か出てくる」
ニックを強引に引き留め様子を伺うと、ピンク色の肌、豚の顔にだらしなく出た腹、手には棍棒らしき物を持っている、2メートルはある巨体が3体、縦割れ穴から出てきた。あの巨体が出てくるのであれば、中はそれなりの広さなんだろう。
「ニック、あれが何だか判るか?」
「オークだ、クッソ!Dクラスじゃ2人でも勝てるかどうか……おい……何だよ、あんなオーク見たことが無い……てあれは……ユイカ!」
視線の先には3体のオークとは別の赤黒い肌のオークが出てきて、その手に持っていたものを見てニックが叫び声を上げる。服は破られ、白い肌は所々血に染まっており、金髪の髪は引き千切らて長さがバラバラだ。
「うわああああああああ!ユイカあああああ!」
「ニック!よせ、出るな!」
制止を振り切り、オークに飛び掛かる。あれだけの叫び声だとっくに気付かれている、3体が赤黒いオークを守るように壁となる。オークの一体が振るう棍棒を剣で真正面から受けようとするが、それも敵わず吹き飛ばれて木に激突してしまう。慌てて彼の元へ向かうが既に意識はない、辛うじて息はあるようで急いでポーションを飲ませるが早急に対処しなければ命に関わるかもしれない。
「フゴッ、ブヒッ」
何かを言っているようだが、当然判らない。だが彼の行動を嘲笑うかのような顔が、声が気に入らない。
棍棒を担ぎ、3体が向かってくる。仲間の為に勝てないと判っている相手に立ち向かうのはどれだけの勇気がいるだろう。
「ユイカ……待ってろ……助けて……やるか……ら……」
意識も朦朧としているのに彼女の心配か。凄いよ、とても格好がいい。俺には真似できない。
「ブッヒヒッ!ブモッ」
棍棒こちらに向け舌を出しながら、何が可笑しいのだろうか大笑いしているように見える。
不愉快だ、イライラする、胸の奥が熱い、握った拳からは血が出ているのがわかる。
「殺す」
一体を炎の剣で斬りかかる、紙を切るような手応えだが、首を飛ばす。
「何が可笑しい?アイツは凄いよ。お前に判るか?」
返す刀でもう一体を胴体から真っ二つにする。切り口から炎が燃え上がりオークを焼き尽くしていく。
「熱いか?痛いか?ニックが受けた痛みや悲しみはこの比じゃないぞ」
最後の一体の頭に剣を突き刺すと、一気に振り下ろし切り裂いた。
「せめて受けろよ、アイツは立ち向かって行ったぞ」
護衛が倒れて焦ったのかブヒブヒと醜い声を上げながら後ずさりを始めるが、彼女は離さないようだ。
「その娘を離せよ、黒豚、お前がボスか?なら部下の不始末はお前の責任だな」
赤黒いオークの頭上へ跳躍する。
---------陸式 龍烙---------
身体回転させながら肩、脇、膝に続けて攻撃を当てる。威力のある技ではないのでダメージはほぼ無いはずだ。予想と違ったのか、身体を確認しダメージが無いことを確認するとニタニタを笑いながらオークが迫ってくる。
「それで終わると思うな」
一つ一つが絶大な威力を誇る式の中でも特異な陸式は瞬間的な威力はないが…
迫ってくるオークのスピードが徐々に落ちて来て最後には苦痛の表情を浮かべ止まってしまう。
「痛いだろ?苦しいだろ?烙印を刻まれた場所は徐々に痛みを増幅させる。どうした?足が止まっているぞ?おいおい…もう片膝をつくのか?気概を見せろよ、ニックは意識を失う最後まで仲間を案じていたぞ?」
ブモッーブモッーと喚き声か呻き声か判断がつかないが涎を垂らし転げ回っている。その様を笑ってやりたいが何故か冷静にオークを見つめている自分に気づく。
「もう少し見ていてやりたいが、流石に聞き飽きた。死ね」
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ユイカらしき人物に近づくと、異様な匂いが鼻につく。綺麗な金髪の髪は引きちぎられており長さはバラバラで頭皮からの出血、衣服もボロボロで白い肌には赤黒く痣が付いている。
微かに動く胸が息がある事を証明していた。
「ポーションでどこまで回復してくれるか…死ぬなよ」
彼女の上体をゆっくりと起こし、ポーションを口に当てがう。
「ゆっくりとでいい。飲めるか?ニックも近くにいる、頑張れ。そうだ、それでいい」
彼女の喉がなり、ポーションを飲み込むのが見える。
「うっ…。うう…い…や…誰か…ニック…たす…け…て」
「大丈夫だ、今ポーションを飲ませた。支給品だが、直ぐに連れて帰るから安心しろ」
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二人を背負いながら、目印を頼りにギルドへ向かう。
自分に出来ない生き方をする、勇敢な冒険者には何とか助かって欲しいと思いながら……
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「ちぇっ、もう少しで今回も追い込めたのに…意外だけど他人の為に怒れるんだ。計画は変更して、仲間がいいのかな?迷うところだけど、もう少し様子を見ようかな」
マコト達から遠く離れた森の中、一本の木の頂点に立つ少女は呟く。肩より長い金髪の髪を靡かせながら誰から見ても愛らしい笑みを浮かべる。
「そろそろ戻らないとね。お休み中だけど遅くなると煩いからな~応援してるよ、後輩君」
少女が右手を空中に翳すと、黒い球体が現れる。少女が球体に飛び込むと球体が消え、辺りに残ったのは静寂だけだった。
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