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怪異旋律狂騒曲  作者: シクル
第二章「トイレの怪」

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5/11

「其の一」

 旧校舎での一件の翌日は、まるでマスク女との事件が嘘だったかのように平穏だった。そもそも旧校舎に立ち入らない限りはあまり関わるハズのない非日常であるため、むしろその平穏さの方が普通だろう。

「……えっ?」

 体育の授業を終えて教室に戻った雫は、自分の机を見るなり小さく戸惑いの声を上げた。

 机の中に収めておいたハズの教科書が机の上に放置されている。基本的に雫は几帳面な性格で、出したものを片付けないでそのまま放っておくようなことはない。何より、雫自身が授業の後に教科書を片付けたことを覚えている。訝しみながら教科書の中を開くと、中にはマジックやボールペンで大量の落書きが書き殴られており、その内容は「馬鹿」だの「死ね」だの「ブス」だの非常に子供じみた内容だった。

 いじめられるような覚えはない。クラスメイトとはうまくやっている方だと思うし、そもそも身に覚えがない。困惑した様子で落書きを見つめていると、背後から香織がその教科書を覗きこんだ。

「……最低だよね、こういうことする奴って」

 恥ずかしそうに教科書を閉じる雫に、香織は不愉快そうな面持ちでそんなことを呟く。

「……うん。それより、体調はもう良いの?」

「大丈夫大丈夫、ちょっと気分が悪くなっただけだから。それより、雫こそ大丈夫?」

 体育の途中で体調を崩して先に教室に戻っていた香織だったが、既に体調はある程度戻っているらしく、顔色も良い。そんなことよりも、雫の方が心配だ、と香織は雫の顔を覗き込んだ。

「大丈夫……そんなに気にしてないし……」

「……何かあったらすぐ言いなよ?」

 強がって見せる雫にそう言って、香織は雫の教科書へチラリと視線を向けて呆れた様子でため息を吐く。

「私が教室に戻った時はもう教科書が置きっぱなしでさ……。雫にしては珍しいなって思ってたんだけど……。今時こんな小学生みたいなことする奴っているんだね」

「他のクラスの人かな……。全然身に覚えがないのに……」

 そもそも他のクラスの生徒との交流なんて和弥や勤くらいで、他はほとんど接点がない。何故こんなくだらないいたずらをされなければならないのか、雫には皆目見当がつかなかった。

「そういえば、今日は部活行くの?」

「あ、うん」

「そっか。じゃあ犬飼君がいるから、私が慰めなくても大丈夫だねー」

 茶化すようにそう言って笑う香織に、雫は小さく頷く。

「でも、あんまり心配かけたくないから、和弥君達には言わないでおこうと思う」

 雫が「和弥君」と口にした瞬間だけ、香織は少しだけ雫から視線をそらす。雫がそれに気づきもしない内に、香織は目を逸らしたまま少しだけ微笑んで見せる。

「……そっか」

 そう答えた香織の表情に、少しだけ影が差したことに雫が気づく暇もなく、次の授業の開始を告げるチャイムが鳴り響いた。





 部室へ向かうと、既に勤が来ており、パイプ椅子に座ったまま腕を組んで何か考え事をしている。和弥はまだ来ていないのか、部室にはまだ勤しかいないようだった。

 雫は適当に勤と挨拶を交わすと、勤の正面のパイプ椅子へ座る。

「傷の方は大丈夫なの……?」

 心配そうに雫が問うと、勤は問題ない、と微笑んで見せる。元々傷が浅かったこともあり、何ともないというわけではなくともそれ程生活に支障が出るような怪我でもないようだった。

「良かった‥…。和弥君は大丈夫かな……」

 傷のことで心配なのは、傷口の浅い勤よりも和弥の方だ。昨日の様子を見る限りそれなりに深く刺されたようで、口では大丈夫だと言っていたがかなり辛そうな様子だった。

「それより雫、君の方こそ大丈夫なのか」

「あ、うん、大丈夫だよ。私は怪我もしてないし……」

 雫がそう答えると、小さく嘆息しながら安堵の笑みを浮かべる。

「君にもしものことがあれば大変だからな。大丈夫ならそれで良い」

 そう言いながら雫へ向けられた勤の笑みが、どこか気持ちが悪くて雫は顔をしかめた。勤が雫の身を案じてくれているのはわかるが、どうにも過剰に感じてしまう。大事にしようとしてくれているのはむしろ嬉しいのだが、それにしたって勤はどこか過剰だ。それに昨晩の強いアプローチのことも考えると、勤のことが少し恐ろしく感じてしまう。

 それに勤の目は、何だか雫ではない何かを見ているような気がしてならなかった。

「ねえ勤君……私って、そんなにお姉さんに似てる……?」

 思い切って雫がそう問うと、勤は一度口ごもる。そのまま数秒沈黙が続いたが、やがて勤はどこか呆れた様子で首を左右に振った。

「姉さんは関係ない。俺が見ているのは君だ」

 まっすぐに雫を見据えて勤はそう言ったが、その視線が恐ろしくて雫は思わず目を背けてしまう。勤は決して雫に危害を加えるような人間ではないが、向けられている好意がどこか歪んでいるような気がして思わず拒んでしまう。

 視線が、雫を捕らえて放さない。へばりつくような、まとわりつくような視線だ。決してそこに悪意は感じられないし、勤が性的な目で雫を見ているわけではないのはわかる。しかし、勤のその視線は雫にとって心地良いものではない。

「どうしてわからない? 俺は君が好きだ。それをこんなにストレートに伝えたのはこれで何度目だ? どうして応えてくれない?」

 勤の言葉に、雫は答えようとしない。ただ勤から逃げるように目を背けるだけだった。

「何故和弥の方を見る? 何故和弥なんだ?」

「私、私は‥…」

 まるで尋問のような問いかけだ。勤の態度は威圧的で、力づくでも雫を自分のものにしたがっているかのような感覚を覚えてしまう。それが恐ろしくて、雫は思わず視線を下に向けた。

 何が勤をそうさせているのか、雫にはハッキリとわからない。ただそれが、異性に対する純粋な好意とは違っていることは何となくわかる。勤が自分に何を求めているのか、どうして欲しいのかよくわからないのが気持ち悪いと感じた。

「答えてくれ雫、何故――」

「この部室には、お菓子がない」

 尋問を続けようとした勤の言葉を遮るように、間の抜けたことを言い始めたのは、いつの間にか勤の隣に現れた白い少女だった。

 あまりにも唐突な登場に、その場にいた二人共が少女へ視線を集中させる。部室のドアが開いた様子はない。何の音も前触れもなく、白い少女はこの部室に出現したのだ。

 これで現れたのが先日のマスク女であれば立派な怪現象でホラーなのだが、現れた少女が「お菓子がない」だなどとぼやくのでどちらかというとギャグだ。張り詰めていた部室の空気が、一気に緩んでいく。いや、どちらかというと白けていく、と言った方が正しいかも知れない。どちらにせよ緊張の糸が一度切れたのは確かで、思わず雫は白い少女へ感謝してしまう。

「どうして」

「……学校にお菓子を持ち込むのは校則違反だからな……」

「そう……」

 かなり苛ついた様子で勤が答えると、少女はどこかションボリした様子でうなだれた。

「それより、君は何故音もなく唐突に現れる?」

「さあ?」

 とぼけた様子で首を傾げる少女を、勤は苛立った様子で睨みつける。しかし少女はまるでそれを気に留めていないのか、お菓子……と小さく呟いて部室の中をキョロキョロと見回し始めた。

「よし、集まってるな」

 そんな微妙な空気になっていた部室のドアが開き、中に入ってきたのは和弥だった。和弥は部室に入るなり少女に視線を向けると、バッグの中からバームクーヘンを取り出してすぐに少女へ投げてよこした。

「そらよ」

 少女はバームクーヘンを受け取ると、少しだけ嬉しそうに笑って和弥を見つめる。

「昨日助かったのは一応お前のおかげみたいなモンだからな。礼だと思って食ってくれ」

「そう。感謝する……」

 そう言って少女はバームクーヘンの封を開けると、小さな両手でバームクーヘンを持って小動物のように食べ始めた。少女がバームクーヘンを食べ始めたのを確認した後、和弥はバッグを長テーブルの上に置くと、上座のパイプ椅子に座り込んだ。

「で、次はどこだ?」

 和弥がそう言うやいなや、机を強く叩きながら強く立ち上がったのは勤だった。

「君も懲りないな……! 何故関わろうとする!」

「ほっとけねーだろ」

 肩を怒らせる勤に対して、和弥の方はあっけらかんとした様子でそう言い放つ。その態度が気に入らなかったのか、勤は顔をしかめて怒声を上げる。

「危険だというのがわからないのか!? それとも君は昨晩のことをもう忘れてしまうような鳥頭なのかな……!?」

「昨日のことを覚えてるからこそほっとけねーんだよ! あんなのほっといたら、次は誰が犠牲になるかわからねえだろ!」

 負けじと怒号を飛ばす和弥に、勤は更に顔をしかめたが、やがて和弥を嘲るかのように笑みをこぼす。

「こうして関わっていれば死者に会えるかも知れないからな……! 君は桜に会いたいんだろう……!?」

 次の瞬間、頭に血が上ってしまったのか和弥はすぐに立ち上がる。そして勤の元まで早足で歩み寄ると、勢い良くその胸ぐらを掴んで正面から勤を睨みつけた。

「言って良いことと悪いことがある」

「放してくれるかな……?」

「桜は関係ない、取り消せ」

 冷えた怒りをぶつける和弥に、勤は小さくかぶりを振る。

「死んだ人間のことをいつまで気にしようが還りはしない。他の誰を助けようとも助けられはしない。いい加減目を覚ませ」

「お前にだけは言われたくない」

「どういうことかな……!?」

 勤の方もかなり頭にきたのか、和弥の胸ぐらを掴み返す。一触即発の様相を呈する二人の雰囲気に、雫は耐え切れずにその場で泣き出してしまった。

「お願い……やめてよ……」

 雫の声でハッと我に返ったのか、和弥も勤も互いに胸ぐらを離して小さく息を吐く。まだ雰囲気は険悪だが、少なくとも取っ組み合いにはならずにすんでいる。

「雫……悪い」

「君が謝るべきなのは俺なんじゃないかな」

「うるせえ、黙ってろ」

 嫌味っぽくそう言う勤を睨みつけてそう言い放つと、和弥は静かに元の席へと戻って行く。

「今日は、やめた方が良い?」

 流石にこの空気の中では話しにくいと感じたのか、少女は和弥へそう問いかけたが、和弥は首を左右に振った。

「いや、話してくれ。すまなかった」

「そう」

 少女は短く答えた後、少しだけ間を置いてもう一度口を開く。

「次は、トイレ」

 その言葉から始まり、少女は旧校舎のトイレに潜む怪異について語り始めた。


 当時、執拗ないじめを受けていた一人の女子生徒がいた。最初の頃は軽い嫌がらせですんでいたものの、いじめは次第にエスカレートしていき、日に日にその女子生徒は暴力を受けるようになっていた。そんな彼女はある日三階の女子トイレに呼びだされ、いつものように一部の生徒から暴力を受けることになる。その上殴る蹴る等の暴行を受けた後、主犯格の女子生徒の手によって彼女は、バケツに汲まれた水の中へ顔を強引に突っ込まれてしまう。その時既にいじめる側は完全に歯止めが効かなくなっており、気がつけば女子生徒はバケツの中に顔を突っ込んだまま事切れてしまっていた。ここまでやってしまった時点でやっと自分のしたことに気づいた主犯格は、女子生徒の遺体を慌てて三番目のトイレに隠してしまった。

 当然女子生徒の遺体はすぐに発見され、いじめを行なっていた生徒達は主犯格を含め全員が呼び出されたが、主犯格だけは行方不明となってしまっており、それ以降発見されることはなかったという。


「じゃあ、そのいじめられて殺された女子生徒の怨念がトイレに残ってるってわけか」

 少女の話をひとしきり聞き終えた後、和弥がそう言うと少女は静かに首肯する。

「封じられる前は、トイレの花子さんと言われていた」

「学校の怪談らしい怪談だな……。それで、また弱らせて封じれば良いのか?」

 勤がそう問うと、少女はそう、とだけ短く答える。

「……意外だな。関わるのか?」

「君を放っておくと雫も君もどうなるかわからないからな」

「……そうかよ」

 つい先程喧嘩しかけたばかりだというのに、こんな風に言われてしまっては和弥もバツが悪い。何とも言えなさそうな表情を浮かべて、和弥は勤から目をそむけた。

「私は、大丈夫だから……」

「いや、雫はもう手を引いた方が良い。こういうのは俺と勤だけでやりゃ良いさ」

 昨晩のマスク女のことを考えれば当然の判断だ。和弥や勤でさえ殺されかけたのだから、これ以上雫を危険な目に遭わせたくない、という考えは和弥も勤も同じだった。それに、昨晩雫がマスク女の封印を躊躇ったこともある。元々人間だったとは言え相手は怨霊だ、ああして封印を躊躇ってしまっていてはいつ足元をすくわれるかわからない。

「ううん、私も行く。私だってほっとけないし、和弥君こそほっとくと無茶しちゃいそうだから……」

「……そうか。でもなるべく俺と勤に任せておいて欲しい」

「……うん」

 和弥の気遣いが嬉しかったのかどこか嬉しげに頷く雫。そんな二人の様子を見ながら、勤は心底面白くなさそうに小さく舌打ちする。

「あまり簡単に関わらない方が良い。俺だって手を引きたいくらいだ。雫、頼むからこの件には関わらないでくれ、俺は君に傷ついて欲しくない」

 不安げにそう言う勤だったが、雫は大丈夫、とだけ小さく答える。勤はまだ何か言いたげだったが、雫がもう何を言っても聞かないだろうと判断したのか諦め気味に嘆息する。

「よし、じゃあ今回は現地じゃなくて一旦俺ン家に集まろう」

「……まさか、もう今晩には行きたいとか言うんじゃないだろうな?」

 やや威圧的な勤の問いに、和弥は小さく頷いた。

「ああ、そのつもりだ」

「昨日のこともあるし、怪我してるんだから二人共休んだ方が良いよ……」

 心配そうにそう言う雫だったが、和弥は頑なにかぶりを振る。

「ほっとけばいつ誰が犠牲になるかわかんねえだろ」

「あんな場所の……それもトイレなんかに誰がわざわざ入るというんだ。二日三日放っておいたところでどうにもならんだろう。俺も君も怪我をしている。治るまで待てとは言わんが雫を連れて行くならお互い万全な方が良いんじゃないかな」

「だからって、あんなのほっとけるかよ!」

「ほっとけと言ってるんじゃない。どうせ行くなら確実に封じれるようにせめて今日だけでも休めと言っているんだ」

 言い方こそあまり良いとは言えなかったが、勤の言うことは正論だ。急いで封じなければいけないのは確かだが、万全でない状態で全員が怨霊に飲み込まれてしまったのでは元も子もない。勤の休め、という意見が間違っていないのは和弥自身理解しているようで、まだ何か言いたいことがあるような様子ではあるものの、確かにな、と呟いて渋々引き下がった。

「私は、いつでも良い」

「君には生活がないからな」

 小さく呟いた少女に、突っかかるように勤がそう言い放つ。少女は特に気に留めていない様子だったが、和弥は表情をしかめた。

「さっきから何ピリピリしてンだよ。その子にあたったってしょうがねぇだろ」

「君には関係ない。出来れば今日は早く休みたい、俺はもう帰るぞ」

 ぶっきらぼうにそう言い残し、勤は足早に部室を後にする。

「……やれやれ。とりあえず今日は休むか」

「うん、それが良いと思う」

 少し安心したかのように微笑むと、雫は鞄を持って静かに席を立った。

「帰るのか?」

「うん、今日はちょっと疲れちゃったから……」

 そう言って雫が部室を出ると、部室の中には和弥と少女だけが残された。お互い一言も発さず、和弥も何か考え事をしているのか帰ろうとする様子はなかった。

 それからしばらくして、最初に沈黙を破ったのは少女の方だった。

「あなたは、死者に会いたがっている」

 少女の言葉に、和弥は一瞬ムッとした表情を見せたが、すぐに溜息を吐いて呆れたような表情を見せる。

「勤の言ってたことが気になるのか? 真に受けなくていいぞ」

「もし、会えるとしたら」

 少女がそう言った瞬間、和弥は表情を変えた。食い入るように少女を見つめる和弥だったが、少女は表情を変えない。

 そのまま少しだけ間を置いた後、少女は再び口を開いた。

「教えても良い。あなたが、望むのなら」





 その日の夜、和弥は少女に導かれるままに旧校舎を訪れていた。前回のマスク女のように徘徊するタイプの怨霊はもういないらしく、トイレのような怨霊のいる場所を訪れない限り危険はない、と少女は和弥に告げた。

 死んだ人間に会える、そんな言葉を鵜呑みにしたわけではなかったが、可能性があるのであればそれにすがりたくなるのが人間だ。

 ひと目で良い、もう一度会いたかった。

 和弥には年の近い妹がいた。同じ学校に通う妹――桜は、かつて超常現象研究会に所属しており、和弥や雫、勤と共に活動していた。他愛もない話に花を咲かせたり、学園のちょっとした不思議を調査したりなど、今の超常現象研究会の空気からは想像も出来ないような平穏な日々を過ごしていた。

 そんな桜が、和弥の知らない所でいじめを受けていたなどとは和弥も予想だにしていなかった。

 和弥達に心配を掛けたくなかったのだろう、いじめられていることを誰にも打ち明けないまま、桜の精神はいじめという病に余すことなく蝕まれていた。そんな彼女が、次第に苛烈になるいじめに耐えかねて命を絶とうとするのを、和弥は止めることが出来なかった。

 桜が最後に言葉を残そうとしたのは和弥にだった。もっと早く気づいて、もっと早く手を差し伸べればこんなことにはならなかった。屋上から飛び降りた桜の手を、和弥はつかめなかった。どれだけ手を伸ばそうとも、桜の手は離れるばかりで、掴めない。空を切るばかりの自分の手が憎たらしくてしょうがないとさえ思えた。

 あの時の風の冷たさが、今でも和弥の手を冷やす。誰かの手を掴んでいなければ凍えてしまいそうな冷たい手だ。和弥が誰かを助けたい、怨霊の犠牲にしたくないと思うのは、誰かの手を掴んで、温めたかったからなのかも知れない。

 他の誰を助けたって、どんな手を掴んだって、もう桜は助けられない。

 そんなことは、勤に言われなくたってわかっていた。


 少女に案内されて和弥が辿り着いたのは、美術室だった。名画や有名な像のレプリカは既に取り払われており、古くなって使われなくなった机や椅子、錆びついた彫刻刀等が物悲しく放置されている。そんな部屋の隅には、二つの姿見が、丁度合わせ鏡になるように置かれていた。

「大丈夫、あなたに危険は及ばない。鏡を、見て」

 少女にそう言われ、和弥はゴクリと生唾を飲み込む。恐る恐る合わせ鏡に近づいて、和弥はそっと中を覗き込み、息を呑んだ。


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