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彼女は思いを秘めて(2)

 さすがに二度目となると最初ほどには緊張しなくなる。まあ、緊張しないといえば嘘になるが。未だに座ってても浮き足立ってるし。

 だからこそ、その部屋の主が早く来ないかと待ちわびていた。


「お待たせ〜」


「すげえ待った」


「いや、そこはあまり待ってないとか言いなさいよ。気を利かせて」


「気持ち的にフワフワしたまま待つのは俺の精神衛生上よろしくない」


「そのままフワフワして空を飛んでいけばいいんじゃない?」


 そ〜らをじゆうにと〜びた〜いな


「タケコプターって空を飛ぶほどの回転をさせると首引きちぎれるらしいな」


「唐突になんなのよ」


「お前が空を飛んでけっていうから」


「佐原育也。趣味:スカイダイビング」


「ここから飛び降りろとかいうイジメ?」


「お姉ちゃんなら言いかねないけど……私はこんなこと言わないわよ。あんたにはいてもらわない困るし」


「へえ」


「抑止力という意味合いで」


 誰を俺は止めるんですかね。


「あんたとパイプがある人全員ね」


「俺が暴走をつなぎとめていたのか⁉︎」


「暴走しかねない人が何人もいるでしょ」


「否定はできんな」


 思い当たってもポンポン出てくるのは俺の人間関係としていかがなもんだろうか。


「そういや、止めるといえばお前の姉さんはいいのか?」


「お酒が回って寝てるから当分はいいわ。しかし、いつまでいる気かしら」


「なんか前も俺の家に逃げ込んでたよな」


「言ったでしょ?関わるとロクなことがないのよ」


「ならいっそのこと関わらなければいいと。お姉さんの方はお前のこと大好きみたいだけどな」


「一方的な愛情は時に弊害を生むのよ」


 なんか名言っぽい。

 確かに一理ある言葉でもある。こちらから愛情表現をしたところでその相手側にそれが届いてなければ、ただ単なる自己満足の押し付けのようなものだ。

 受け入れてもらわなければならない。


「ということで、お姉ちゃんの愛情をあんたに向けようと思う」


「自分だけ安全圏に逃げようとするんじゃねえよ!俺に修羅場を作らせる気か⁉︎」


「周りが女の子ばかりだからたまにはこういうことがあってもいいと思うの」


「思うのは勝手だが実行に移すな‼︎お前は自分の姉が友人とそんな修羅場を繰り広げてて気分はいいのか⁉︎」


「言われてみればその通りね。私としては香夜ちゃんとさっさとくっついて欲しいもの。そうすれば、私はアリサちゃんを可愛がってくから」


「お前はアリサちゃん本当好きだよな」


「良くも悪くもあの子が1番純粋だからよ。恵ちゃんや香夜ちゃんはあんたに毒されてるから」


 人をなんらかの感染源みたいに扱わないでもらいたい。


「じゃあ、アリサちゃんも染めていくか……」


「アリサちゃんだけは守ってみせるわ!」


 ブーブー


「ん?」


「電話?」


「いや、ただのメッセージ。音が鳴らないようにしてるからバイブで知らせてるだけだ」


「誰から誰から?」


「嬉しそうに人の携帯見ようとすんな」


 一応美沙輝から見えないように確認をした。先ほど待ってる間にアリサちゃんに確認を取っていたのだ。その返信が今来たというだけだ。


「ぶー。ケチ。減るもんじゃないじゃない」


「減る。俺の中の何かが減る」


「減るものが明確ではないので減らないと思いまーす。だから見せなさい」


「まあ……別にいいけどよ。アリサちゃんから」


「なんであんたのとこにアリサちゃんから連絡が来るのよ!」


「恵が勉強してたかどうかを聞いてただけただ!今日は全員で水族館行ってたからやってねえだろうけど」


「あ、写真ある」


「あ?」


 それについては気づいてなかった。添付されてたのだろう。自分たちが水族館行ってきましたーみたいなことだろうか。


「ぶっ!」


「吹き出すな。というか吹き出すようなことがあったのか」


「ご、ごめん。さすがにはしたなかったわね。……これ」


 開いた画像を俺に見せてきた。


「ぶっ!」


「ちょっ!私に向かって吹き出すな!」


「俺が悪いのか⁉︎不可抗力だろ!」


 いつの間に撮ってたか知らないが俺と美沙輝が手を繋いでマリンチューブを歩いているところを撮られていた。

 パパラッチかあの子は。

 その末尾には


『香夜ちゃんと恵ちゃんは気づいていないようでしたので貸し一つですよ!(≧∇≦)』


 その顔文字流行ってるのだろうか。

 別に構いやしないのだが、こうも堂々と画像を送られてくると今更ながらに照れくさくなってくる。

 それは美沙輝も一緒なのか、自分がやったことに対して少し頬を染めていた。


「ま、まあバレたらその時だしな。俺から上手く言っておくから」


「え、ええ!よろしくね!」


 なんかテンパってやしないかい?美沙輝さん。


「お前も後でバレてオタオタするぐらいならやるなよな……」


「い、いいじゃない。あの時はそうしたいって思ったんだから……それとも、育也は嫌だったの?」


「知らんやつならともかくお前だからいいけど」


「ふう……」


「しかし、これだといつアリサちゃんにこき使われるか分からんな。お鉢は全部俺に回ってくるわけだが」


「なんで?」


「アリサちゃんが脅しを使ってお前を使おうとするか?」


「まあ……確かに」


「今日のことは特に誰にも言ってないしな。もしかしたら、アリサちゃんは俺が美沙輝を適当に言いくるめてデートしてたとか思ってる節もある」


「あの子、頭いいのに回転の方はなんか微妙に違ったベクトルに向かうわよね」


「そんなん料理を作ってる姿で分かるだろ」


「あの子なりに努力はしてるのよ……進歩の兆しは恵ちゃん以上に見られないけど」


 だからあの子の料理能力はどうなってるんだ。下手とかで済まないレベルだぞ。


「つーか、今度料理コンテストあるって言ってたじゃねえか。あれっていつだ?」


「え?あー。……ちょっと待ってて」


 忘れてたんかい。7月中ではなかったような気がするからまだ猶予はあるはずだが……。


「あー、うん。合宿の2日後ね。ちょうどよかったわ。逆だったら面倒かった」


「要するに、合宿でそのメニューを開発してコンテストに出ようってことか?」


「そそ。もっとも、通ってなかった時はあの子たちのスキルアップのためだったけど」


「……本当か?」


「何よ、その疑り深い目は」


「その割には海やらなんやら楽しみにしてたよなーって」


「ギクッ。……ちょうど話したいこと話せたし、育也、鉢合わせにならないうちに帰ろっか?」


「絶対これ本題じゃないからまだ帰らん。鉢合わせになったとしても挨拶はきっちりしていく」


「私をイジメて楽しいか⁉︎」


「普段俺をいじめてるやつが言うセリフじゃねえよな……いつもどこかに縛り付けられて拘束されてるってなんだよ」


「さ、最近はやってないでしょ?」


「と、まあ茶番は置いといて。何を話したかったんだ?」


「あー、うん。お姉ちゃんのことよ。まあ、大したことじゃないけど」


「お姉さん?」


「うん。私のお姉ちゃん。沙百合っていうけど……まあ、それはどうでもいいか。昔っから私のこと過保護にしててね……。まあ、近場にお姉ちゃんが勉強したいことが学べる大学がなくて、遠方で一人暮らししてるけど、ギリギリまでなんとか私といようと粘ってたぐらいで」


 唐突にお姉さんの話を始められたが、話が見えてこない。何を伝えたいのだろう。


「私としてはようやくお姉ちゃんから解放されたってところなのよ。高校に入ってね。しばらくは家の電話が鳴り止まなかったからお母さんがいい加減にしろって怒って切ってたわ」


 なんだか俺も離れたらそんなことになりそうだなあ。俺の未来を聞かされてるようで複雑な気分だ。

 まあ、うちに親が滞在してることなんてほぼほぼないんだが。してても大抵寝てる。


「そりゃ、お母さんやお父さんと会われるのもそれはそれで私としてもあまりいいものではないけど、お姉ちゃんはそれ以上なのよ。女の子の友達ならともかく、男のあんただから」


「見境なく攻撃される可能性があると?」


「今日のあれはマシな方よ。…………」


「どうした?」


「イヤ、まさかね……」


「ちょっと待て。一人で思案にふけってないで俺にも話せ」


「お姉ちゃん、あんなんだから……とも言いたくはないけど彼氏とかいなくて。下手したらあんたターゲットにされたかも」


「どういう理屈だよ」


「図式としてはこうね」


 美沙輝に近づく男が現れる→このままでは美沙輝が取られる→ならば私がその男を取ってしまえ→その後捨てられます


「完成」


「姉として最低だなこれ」


「まあ、今まで私にそんな男がいなかったからいいんだけど。このままお姉ちゃんとかち合うとマズイわね」


「お前が会わせたくない理由が分かったよ。まあ、でもこのままってわけにもいかないだろ?お前にだっていつか彼氏が出来るんだろうし」


「そう……だけど」


「俺としてはそれはそれで不安だけどな」


「なに?ヤキモチでも妬いてくれてるわけ?」


「そいつ拘束されたりしてねえかなあって」


「あんたの中の私の像はどうなってるわけ⁉︎そんなことしてるのあんたぐらいだから!」


「なら俺にもやらないでくださいませんか⁉︎話はそれからだ!」


「あんたが女の子たちに余計なことをしないと誓えるなら」


「え〜香夜ちゃんにもちょっかいかけれないの?」


「よくあんた香夜ちゃんから嫌われないわね……」


「愛情表現というのも形はそれぞれだぞ」


「じゃあ、私のも愛情表現ということで」


「人が嫌がることは愛情表現とは言いません」


「あんた、その言葉ブーメラン過ぎるわよ」


 あれ?


「美沙輝自身はどうなんだ?」


「何がよ?」


「好きなやつとか、いたりしないのか?」


「……言ったでしょ。負けレースを挑みたくないって。答えはそれよ」


 そうか。美沙輝は……

 俺は床に、美沙輝はベッドに座っていたが、俺は美沙輝の隣へと位置を変えた。


「……なんか悪いな」


「謝らなくてもいいわ。それでも、あんたは私のワガママに付き合ってくれるんでしょ?」


「ああ。まだ、見つかったわけじゃないだろ?」


「まあ、卒業するまで、もしかしたら卒業しても見つからないかもだけど」


「さすがにそこまでは付き合えんぞ」


「私だってそこまで図々しくないわよ。でも、資格のいる職業なら今のうちに視野に入れておかないといけないじゃない」


「俺だって決まってるわけじゃないけどな」


「育也はなんかないの?やりたいこと」


「昨日も言っただろ。別に何かに感化されたこともないから将来なんて考えちゃいねえよ」


「そっか……そういう時って好きなことから連想していくといいって言うわよね」


「香夜ちゃんから連想していくのか?」


「どんだけ無茶な連想ゲームしようとしてるのよ」


「ふむ。ゲームという手があったか。……無理だな。プログラムなんか組めねえし、絵も描けねえし、文才もねえし、企画力があるわけでもねえし」


「一気に道を狭めたわね……」


「またおいおい考えていくか。勉強して高レベルを保っておけば行きたい大学のレベルに合わない!ってこともなくなるだろ」


「世の中にはそれが出来ない人の方が多いわよ……。そろそろ本当にいい時間ね。今日はありがと。育也」


「俺がここに泊まるという選択肢は?」


「存在しないわ。あんたの家と違って家族がたくさんいるのよ」


「そうだな。じゃあ、またなんかあったら……明日宿題に付き合ってくれ」


「ええ。それぐらいなら行く時にまた連絡するわ」


 こうして後腐れなく、なんとか美沙輝の姉との邂逅はあの時だけで済み、両親とも鉢合わせすることなく帰路につくことが出来た。

 それでも、自分の恋を諦めるというのはどんな気分なんだろうか。

 あいつが俺にしてほしいことがあれば俺はそれに最大限応えてやろう。

 俺はそう決意し、自転車のペダルを踏み込んだ。




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