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40話:部員勧誘

 部費ありきで食材も使いたい放題ならいざ知らず、同好会で作るものの費用は実費という話では部活においてなかなか興味を持ってもらえる材料は少ない。

 女子部員のレベルは高いですよ。残念ながら男子諸君のものには永遠にならんがな。


「あんたはさっきから何余計なこと交えて宣伝してんの」


「中間テスト終わった時期にわざわざ転部しようやつなんざいるわけねえだろ」


「甘いわね育也。この時期だからこそ所属した部の本質というものが見えてくることもあるわ。そこに辟易した人が転部したいと考えてるかもしれないじゃない」


「転部ったってなあ。所詮同好会だし。なんの実績があるわけでも、なんかの大会に出るわけでもないし」


「実績は自分の手で作るものよ。憧れてはいるだけじゃそれは憧れに終わるわ」


「カッケェっす姐さん。一生付いていきます」


 文字通り、俺は美沙輝の犬と化していた。ちなみに飼い犬は二匹。一匹は脱走しました。

 俺は忠犬なので尻尾を振って媚を売っていくことにします。

 しかし、勧誘と聞いて逃げるなよなあいつ。


「人数が少ないのがよくて入ってるようなものだからね。女子ならいざ知らず、男子を勧誘しようって来るわけないわね」


「なんで男子なんだ?」


「まあ、香夜ちゃんが本当にあんたにしか懐かないのか。クラスメイトと言えど仲良くする気はないのか見極めようと思って」


「おいおい香夜ちゃんを試そうとするんじゃねえよ」


「別に男子の方が歓迎とだけで入ってくれるなら女子でも全く構わないわ」


「お前の言い方だと女子に入って欲しくなく聞こえるんだよ」


「あんたが毒牙をかけていくからよ。何人の子を今まで落としてきたつもり?」


「二次元の話か?」


「このギャルゲーオタクが!現実に可愛い妹がいてなお求める気か!」


「妹じゃないやい!妹系女子だ!」


「違いがわからん!」


 こんなわけのわからん啀み合いをしていたせいで香夜ちゃんが来てしまった。


「人の教室の前でなんのパフォーマンスですか先輩方」


「部員勧誘」


「すさまじいほど違うと思いますけど。どこかに料理の要素ありましたか?冒頭でかじってた程度でしょう。しかも、非難してたでしょう」


「同好会じゃ部費は雀の涙だし、俺たちの代で作った部なんだから実績も何もないのは当然の話だぞ。それに美沙輝がいい話っぽくまとめてくれた」


「わざわざ昼食の時間に来るってなんですか。なんのPRですか。私が昼休みでぼっちなことを笑いきたんですか」


「……一緒に食べるか?」


「同情するならお金をください」


「君は何歳だ」


「16ですが?」


 どこでそんなネタを仕入れてくるんだろう。かと言って俺たちと一つしか違わないのだが。だから、知ってる俺も大概である。しかし、相変わらず一人なのか。どうしたもんか。


「育也」


「なんだ?」


「きっと、香夜ちゃんは振り回してくれるタイプのが付き合い的にはいいのよ。あんたたち兄妹みたいな」


「おいおい、振り回した記憶は…………」


「記憶は?」


「多々ありましたね。すいません」


 思えば出会ってから振り回しすぎである。振り回しすぎて香夜ちゃん酔ってるんじゃないかというぐらい。

 待てよ?それならば、今の香夜ちゃんの感情はいわゆる吊り橋状態なのではないか?


「なんてこったい……」


「なんですかこの人は」


「さあ。また自己嫌悪か深読みしすぎて落ち込んでるんじゃない?こいつはさておき、香夜ちゃん食べ終わった?」


「いや、まだ途中です。ですが、あまり上級生が下級生のクラス前でうろちょろしてるのはいかがなものかと」


「いや〜ちょっと兼ねてからの部員不足を解消しようと思って、ちょっと偵察」


「わざわざそんな先輩みたいな行動をしないでください」


「こいつは何をやったの?」


「私を付け回してました」


「待て待て。語弊だし誤解だ。さすがにあの時の恵を見てたら香夜ちゃんが恵のことを構ってくれる理由が見当たらなかったんだ。だが、今日解決した」


「……でも、めぐちゃんにとっては数多くいる友人の一人でしかないですよ、私は」


「今、一番一緒にいる友達は香夜ちゃんだと思うけどな」


「私にとって一番の友達がめぐちゃんでも、向こうの一番がそうとは限らないです」


「……えい」


 香夜ちゃんの頬を挟んでいじりまわす。そりゃもういじりまわす。段々触ってて楽しくなってきた。柔らかくてもちもちなんだものこの子。


「何するんですか!」


 ようやく怒ってもらったので離すことにする。

 とってもご立腹のようですが、俺は養分を補給出来たので大満足です。


「香夜ちゃん。俺たちもまだなんだ。一緒に食べようぜ」


「……いいです。気を使ってもらわなくても」


「だとさ」


「香夜ちゃんがそう言うんじゃしょうがないわね。お騒がせしたわね。私たちも戻るわ」


「え……あの……」


 香夜ちゃんが言葉を発しようとするのが聞こえて足を止めようとしたが、美沙輝に背中を叩かれ振り向くのを制される。

 あの子は自分から関わろうという意思を持つべきなのだ。

 このまま立ち去る俺たちを見送るのなら、教室の誰かが話しかけてくれるかもしれない。俺たちを追いかけてきたり、呼び止めようとするならば、俺たちはちゃんと答えて手助けをしてやろう。選択は香夜ちゃん次第だ。

 いっそ、その話しかけてくれたやつがそのまま同好会に来てくれればそれが一番都合のいい話なんだけどな。

 上の階に上がり香夜ちゃんの姿が完全に見えなくなり、俺は足を止めた。


「これでいいのか?」


「あんたは過保護過ぎるのよ。少しは突き離すってことも覚えなきゃ。あの子は一人でもできるけど、誰かの支えがあったら依存するタイプよ。一人でもできることを思い出してもらわなきゃ」


「頼ってもらえるなら最大限応えたいだけなんだけどな」


「依存するって意味では似てるのかもね。二人は。……似たものだから惹かれあったのかしらね?」


「そうだと思うか?」


「それでもきっかけは必要だけどね。さて、あと10分ぐらいしかないしご飯食べないと」


「今日忘れたから分けてくれ」


「そのまま飢えてしまえ」


 俺のご主人様は飼い犬に対してどこまでも冷たい人でした。餌を与えてください。


「ちょうどいいわ。プラカードでも首から下げてなさいよ」


 教室にたどり着くや否やどこからかプラカードを取り出して俺に『料理研究同好会部員募集中』と書かれたものをぶら下げさせられた。

 なんか、『餌を与えないでください』的なあんなのを思い出した。

 午後からの授業で教師が見て見ぬ振りして笑ってたのは言うまでもないことである。


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