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34.領内貴族のリャン

 出発はつつがなく行われた。ポプリはコロンに対して「くれぐれもノースとファリアのことをよろしく頼みます」と念押しして、後ろ髪をひかれるように何度も振り返りながらもとうとう城を発ったのだった。

 エカルによる替え玉作戦は、道中に予定通り行われた。

 一つ目の町では、順調だった。オレンジのドレスに着替えたエカルは買い食いやおしゃべりを楽しみ、それをフレスがおいかけてたしなめた。


「あれはもしや……、ポプリ様では?」


 そんな声がささやかれ始めた頃にうまく撤退することができたし、他に何も起きなかった。

 治安はよく、盗賊らしい者も見当たらなかったのである。

 無事に任務は完了した。

 リッシュは兵士たちの待っている野営地に戻る途中で、退屈そうに肩を回す。


「いきなり連れ去られるパターンも想定してましたけど、大丈夫でしたね」

「このへんは城にも近いし、我々が時折巡回している。さすがにな」


 フレスも気楽だった。エカルだけが歩きにくそうにしている。


「いいですね、のんきなもので。こっちはどうにかやっと、動き方がわかってきたくらいなのに」


 お腹のあたりをさすって、恨めしそうにリッシュを見やった。やはりコルセットがきついらしい。

 リッシュはそれを見て、ニヤリと笑った。


「歩きにくいんですか? ポプリ様、抱っこしてあげましょうか」

「やめろ、マジで」


 手を伸ばしてくるリッシュに対して、エカルは本気で拒絶の声を出す。わが身を抱いて、嫌そうに口元をゆがめてさえいた。


「悪寒が走るんだよ! ポプリ様の抱っこならまだかわいげもあるけど、お前のは危険を感じる」

「おいおい、大きな声を出すなよ」

「ばか、お前がそうさせてるんだろ」


 二人のそんな喧嘩を見ながら、フレスは周囲を見回す。今のところ、誰かに見られているということはなさそうだ。

 平穏無事に終わったところで、彼らは兵士たちの野営地に合流した。まったく平和であった。

 しかし、二つ目の町では異変があった。


「それじゃいきますよ」


 と、ドレスを晒して飛び出そうとしたエカルを、フレスは後ろからその肩をつかんで止めた。


「ちょっと待ってください、あれを」


 フレスが指をさした先には、驚くべきことにローズピンクの派手なドレスを着た令嬢が護衛を連れて歩いていたのであった。腰のあたりまで伸ばした髪がなめらかに輝く、あきらかに貧しさとは無縁の女性。

 領内貴族の娘だろうか、フレスは咄嗟に名前が出ない。目をこらしてみたが、思い当たる名前がなかった。


「あれは、誰でしょうか」


 領内貴族の数はそこまで多いわけではないが、その子息や令嬢のすべてまで把握できてはいない。一応、ほとんどの領内貴族は城に挨拶に来たはずだが、彼女を見た覚えはなかった。

 この場にコロンがいればなにかわかったかもしれないが、今回は連れてきていない。


「わからないんです?」


 リッシュが不思議そうにフレスの顔を見た。彼女にとって、フレスは領内のことを何でも知っている生き字引なのだろう。その知識にないというのが不思議らしい。


「わからないな」


 フレスは素直に答えた。

 ポプリ領にいる領内貴族とは、ロンシャロン政権下からザメル軍に降伏して寝返った土着の勢力たちのことをいう。彼らは現在のポプリ軍とは別に兵力を持ち、それぞれ自分たちの土地をまもっている。彼らには徴税権を認めているが、その税率はポプリが上限を定めているという方式だ。

 彼らの持っている領地はそれほど広いものではなく、ポプリ領内に点在しているすべての貴族の土地を総計しても直轄地の三分の一を超えない。


「それでも、別に臆することはないんじゃないですか? こっちは最高権力者のポプリ様なんですから」


 リッシュは作戦の決行を促したが、ここにいるポプリは影武者なのでそういうわけにもいかない。万が一因縁を付けられたらややこしくなってしまう。

 かまわずに突っ込もうとするリッシュをなだめていると、じっとローズピンクの令嬢を見ていたエカルが口を開いた。

 

「このへんの貴族っていうとトリアン卿でしょう。そのへんであのくらいの年で、視察というか、あんなふうに堂々とウロウロできる身分の女。ちょっと思い当たりませんね」

「じゃあ、豪商の娘とか? それこそわからんが」


 腕組みをしたリッシュがこたえる。

 フレスは息を吐いて、唸るように言った。


「商人はまるで思い当たりません。それに、トリアン卿にはあれほど若い子女はいませんよ。たしか挨拶に来られた時も未成年は男が二人だけだと」

「でも、女がいないってことはないんでしょ。あれか、その未成年の男が変装でもしてるんじゃ」

「意味がありません。お忍びならあれほど護衛を付けている意味もないですからね。そもそもこの町もトリアン卿の領地ではありませんから」


 と、そこまで考えてフレスは結論を出した。


「行きましょう、ぶつかってみます。万一のことがあろうと、リッシュがいればあのくらいの護衛は吹き飛ばせる。ただし、ポプリ様としては振る舞いません」

「えっ」


 エカルが不安げにフレスの顔を見上げる。

 そのエカルの顔を見下ろして、フレスはこともなげに言った。


「ポプリ様の護衛の、実地調査をかねた予行演習をしているということにしましょう」

「もろに本番ですよ」

「ポプリ様ではないことが説明できればいいです」

「しょうがないですね」


 マントを脱ぎ捨てて、エカルはドレス姿で往来に飛び出した。

 そのすぐ後にフレスが続く。リッシュもその隣についた。


「あっ」


 その気配に気づいたローズピンクの令嬢が振り返る。彼女はパッと顔を輝かせて、大きな声を上げた。


「いらっしゃいましたわね。お待ちしておりました、ポプリ様!」

「ええっ」


 エカルが驚いているが、令嬢は躊躇もなくドレスのままバタバタとこちらに走り寄ってくる。

 彼女はあっという間にエカルの前にやってきて、スッと頭を下げた。かと思えば許しもないまま頭を上げ、両手を差し出して、エカルの手をとろうとしている。


「おい、何をしている!」


 これはさすがに後ろから来たリッシュが手で払ったが、それでも令嬢はめげずに近寄ってきた。


「すみません、わたしったら。でも、ぜひご挨拶をしたいと思っておりましたのです! 私はトリアン卿と縁あって今度嫁入りさせていただきます、デュポア領カルメシアが三女、リャンと申しますわ」

「カルメシア三女? デビュタントにズボンでやってきたっていうあの?」


 名乗られて咄嗟にエカルが切り返した。


「そうです! 私のことをご存じとは!」


 リャンと名乗ったローズピンクの令嬢は、すっかり舞い上がっていた。ニコニコとして、自分の両頬を手でおさえてさえいる。

 近くで見てみれば、リャンは遠目から見たよりもずっと幼く見える。ポプリよりもおそらく下だろう。ノースと同じくらいだろうか。


「えっと、どうします?」


 偽の触角を揺らしながら、エカルがフレスを見上げてくる。ポプリを演じるのか聞いているのだろう。

 デュポア卿というのは少し離れたところにある領内貴族のひとつ。トリアン卿とは良好な関係なので、輿入れがあったとしても不思議でも何でもない。フレスがそれを知らないのは、おそらく嫁入りがまだ本決定ではなく、知らされていないからだ。

 リャンという名前にも心当たりはある。城に挨拶には来なかったが、その理由が「まだ幼く、分別がつきづらい。落ち着きもなく、ここに連れてこられるような子ではない」と説明を受けていた。デビュタントにズボン姿であらわれた、という事件も確かに耳に入ってはいる。

 その本人の実態がまさかこんなことだとは。

 フレスはひとまず、頭を下げた。


「失礼いたします、リャン様。私はポプリ様に助言などをさせていただいている、フレスと申します」

「フレス様?」

「はい。リャン様のご期待には沿えない形となるのですが、こちらのお方はポプリ様ではございません。我々は秘密の視察を行うために事情があり、このようにやってきております。どうか騒ぎ立てず、静かに見守っていてくださいませんか」

「無理です」


 あっけなく、リャンはフレスの懇願を拒否した。


「無理です! この方は誰がなんといおうとポプリ様ですよね! 触角もあるし、私のことをご存じだったし!」

「どうします? 面倒ですよ、この手のファンは」


 エカルは真後ろにいるフレスを見上げて、半目で面倒くさそうに問いかけてくる。

 フレスはまるで子供にするように、エカルの頭を手で戻して前を向かせた。そうしながら、リャンの顔を見て口を開く。


「わかりました。リャン様はどのようになさりたいのですか?」

「えっ?」

「我々は任務と警備の確認のためにやってきただけです。こちらのお方も、ポプリ様ご本人ではありません。リャン様と少しの間お話をするくらいならよいかもしれませんが、我々のことをあまり触れ回ってほしくはありません」

「む、むう。わかりました。あちらで少しお話ししましょう。いいお店を知っていますわ!」


 リャンが後ろにあるカフェを指さす。フレスはそれに首を振った。


「店は我々が決めます。時間も十分きっかり」

「いえいえ! 素晴らしいお茶をだす店なんです、ぜひポプリ様にも召し上がってほしいんです!」


 情熱がすさまじい。リャンは若く、物怖じも一切なかった。

 しかしフレスはとりあわなかった。


「すでに時間は始まっています。ついてくるんですか? こないんですか?」


 厳しい。リャンは折れた。


「わ、わかりました。行きましょう」


 フレスが選んだのは、通りから少し外れた場所にあるややさびれた店だった。よくこれで続けられているな、と思うほどに人の通りがない。落ち着けると言われればそうだが、貴族たちが利用するような店ではなかった。その上建物の中ではなく、野外に直接イスやテーブルが備えてある。


「ゲッ」


 その店に行くと気づいたエカルがそんな声をあげた。


「ここ、パスティの店じゃないですか! 入るつもりですか」

「だからこそです。変なことはされないでしょう、むしろ安全です」


 軽く答えてフレスは直接、野外のイスに腰かけて隣にエカルを座らせた。

 どこか落ち着かなさそうに、キョロキョロと周りを見ながら、対面にリャンが座る。


「護衛の方もどうぞ。ここは知り合いの店ですので、心配はありませんよ」


 フレスは落ち着き払って、店の奥から面倒そうに出てきた女を見る。不貞腐れたその店員らしき女は「なんです? 客ですか?」と不愛想に言い放ってきた。


「やあ、店主はいるか? いないなら茶を三人分だしてくれ。金は、ここにいる人数分支払う」

「ええー? オーナーは二階で寝てますよ。昼間はずっとそうです」


 フレスの問いかけに店員は軽く答え、「まあ、お茶ですね。ちょっと待っててください」と戻って行く。


「パスティのやつ、こんなところに店を出してたなんて。それに、昼間寝てるんですね。夜に出てくるってことですか」


 リッシュが呑気にそういったが、エカルは苦い顔で後ろに立っている彼女を振り返った。


「ここが夜に何やってるか知らないのか? あいつも働いてるんだろうよ」

「パスティが働くっていうと? もしかして?」


 意味深な含みで言われたリッシュも、察してしまう。

 パスティというのは内戦を生き残った二人の戦友だが、すでに軍を辞めていた。生き残った数少ない女兵士の一人で、シャコナほどではないが色仕掛けも得意としていた。彼女の場合は特に味方側に対してその力を発揮しており、男どもから食料や秘密のオヤツなどを奪い取る代わりにささやかなお楽しみを提供するといったことをしていたのだった。

 そのような問題行為に対してフレスも策を講じないわけではなかったが、最後まで完全に抑制することはできなかった。

 そうした兵士生活を過ごしたパスティが何の店をやっているのか、リッシュは察した。


「あいつ、軍を辞めてもまだそんなことをやってんのかよ」

「楽じゃないだろうけどな」


 エカルは完全にポプリの演技を放り投げていて、素のままで振る舞っていた。ここまできては、むしろポプリではないと思われたいのだ。

 それでも目の前に座っているリャンはまだ目をキラキラとさせたままである。


「ポプリ様の素はそんな感じであられるのですね。かっこいいですわね」


 エカルは苦い表情を戻せなかった。ついこの前同じようなことを誰かに言われて、随分困ったのだがそのときと似たようなことになっている。

 ともかく、ただ普通におしゃべりをするだけのつもりはない。エカルは軽く息を吐き、すぐに話題を変えた。


「かもね。リャン殿は、もしかして私を待っていたとか? ここに来ることがわかっていたんです?」

「そうですとも!」


 バッと両手を打ち鳴らし、リャンは上機嫌に応える。


「五日も前からこの町に毎日、視察に来ていたんです!」

「ま、毎日?」


 驚いた。デュポア卿もトリアン卿も、よくそれを認めていたなとフレスは思う。

 もちろん、噂は流していた。「近々、ポプリ様が城から出て国境まで行かれる」というのは意図的に流布していたのだから、リャンが知っていても不思議ではない。五日前というのもデュポア領やトリアン領にその情報が届き得るもので不自然なこともなかった。

 だが、ポプリに会いたいといって毎日その通り道の町を視察するというのは、あまりにも。大した行動力だと言わざるを得ない。


「これは予想外ですね。どうします?」


 リッシュがフレスに近づいた。どう考えてもやばいぞ、という意味だ。

 リャンのような貴族子女が毎日ウロウロしていたのであれば、どう考えてもよからぬ輩に目を付けられている。むろん護衛がしっかりとついているので襲われはしなかったのだろうが、ここにポプリが来てしまえば別だ。

 ポプリは、三貴族の一人。この領の最高権力者。多少の犠牲を出してでも捕まえるべき相手。


「急にひとけがなくなったと思っていたんです。まあ本番に向けてちょっとした肩慣らしにはなりそうですかね?」


 リッシュが剣に手をかけて、背後を警戒した。リャンについてきていた護衛たちも異様な気配に気づいたのか、腰を落として武器を確かめている。

 一人、リャンだけが事態についていけていなかった。


「どうかしたんですの?」


 どうすればいいのかわからない、といった風に声をあげたが答える者はなかった。

 そこに先ほどの店員が戻ってくる。茶を載せたトレイを持ってきている。


「なにやってんです? お茶をお持ちしましたよ」


 彼女はリャンたちがついているテーブルにトレイを置こうと歩み寄ってきたが、途中で何かに躓いたのか、バランスを崩した。


「おっ?」


 トレイが傾いて、茶の入った器が前のめりに飛ぶ。

 リャン側の護衛の一人が、それを支えようと手を伸ばす。

 その一瞬、リッシュが反応した。椅子もテーブルも力任せに押しのけて強引に体を入れる。


「どけ!」


 そう言いながら、転びかかっている店員に痛烈な前蹴り。

 前のめりから反転し、彼女はあおむけに倒れる。抱えていたトレイと茶が地面に落ち、ナイフがカランと音を立てた。彼女はトレイの下に刃物を隠し持っていたのだ。


「見え透いた芝居しやがって!」


 あわてたリャンの護衛たちが即座に彼女を拘束する。

 フレスがほっと息をついた瞬間、五人ほどが店の物陰から飛び出してきた。いずれもボロけた茶色い服で、金への執着に目をぎらつかせている。

 護衛の何人かが、あらわれた暴漢たちへ食らいつこうとするが、それをリッシュは止めた。


「邪魔だ、どいてろ!」

 

 同時に彼女は剣を抜き、一息に踏み込んでいく。目にも止まらない横なぎの一撃で、あっという間に一人が切り倒されて、近くにいたもう一人の指が切り飛ばされる。

 エカルはといえば、テーブルの上に飛び乗っている。すでにダガーを振りかぶってさえいた。


「ひっ!」


 リャンがその乱暴な動作にひっくり返りそうになっているが、意にも介さない。次の瞬間にはあらぬ方向にダガーが投げられている。

 飛んで行ったダガーは向かいの建物の、二階の窓からクロスボウでリャンを狙っていた男の首筋に突き刺さっていた。


「あ、あんなところに……」


 護衛たちが狙撃を阻止したエカルの視力に驚いている。


「ちょっと!」


 店の二階から女が顔を出す。化粧をしていない、今起きましたといわんばかりの乱れた髪をしている。パスティだった。


「誰かと思えばリッシュ、私の店を潰す気か!」


 当然の抗議が降ってきた。

 すぐさまリッシュは言い返す。


「お前のところの店員が先に手を出してきたんだ! 正当防衛だぞ」


 そのときにはもう、すでに五人の暴漢は地面に転がっていた。二人は死んで、三人は手足を切り飛ばされて戦闘不能。血だまりが広がっていく。


「おい、後ろ! まだいる」


 パスティが咄嗟に叫んだが、遅い。

 リッシュがパスティを見上げている隙をついて、さらに二人の暴漢が襲い掛かってきていた。一人はリャンを、もう一人はエカルを狙ってきているようだ。


「あっ、ちょっ」


 さすがに遠い。リッシュはいつかのように剣を投げようとしたが、暴漢とリャンの距離があまりに近すぎる。躊躇した。

 狙われたエカルはといえば、自分よりもリャンを守ることを優先。

 リャンをつかみ上げようとしていた暴漢の顔面にダガーを突き刺す。鼻すじの左側あたりに深々とダガーが根元までめり込む。それで一人は昏倒。即死だった。

 しかしもう一人は、攻撃に夢中になっているエカルの体を背後から素早く抱き上げ、そのまま逃げ去ろうとした。誘拐が目的なのだ。


「エカル殿!」


 フレスは慌てた。さすがにそれはまずすぎる。

 連れ去られてしまっては、何をされるかわからない。咄嗟に走りだそうとしたが、五歩もいかないうちに足を止めた。

 暴漢の方が倒れてしまったからだ。


「い、いてぇ……!」


 エカルをつかみ上げて誘拐しようとしていたはずの男は、逆にエカルに組みつかれていた。見てみればまるで両肘が背中でキスをするような、複雑な形に締め上げられている。エカルが抱き上げられたまま、足を絡ませて両腕を関節技に極めていたのだった。


「折っちまいますか。逃げられてもうっとうしい」


 ドレスのまま、男の腕に組みついていたエカルはそのまま一言呟くと同時に、グイと頭の側に腕を押し倒してしまった。バキバキと鈍い音が鳴り、男が甲高い声で絶叫する。


「あー、うるさい。泣いても変わらねえよ」


 両肩を折られて動けなくなった男を放り捨てて、エカルは立ち上がる。オレンジのドレスは泥で汚れてしまっていた。


「打ち止めですかね? あっけなかったですね」


 リッシュがそう言いながら剣を振って、鞘に叩き込んだ。エカルも平然としたまま、フレスのもとへ歩いてくる。

 パスティの店は死体だらけになり、リャンは真っ青になって震えたまま椅子から動けない。彼女の護衛は一応仕事をしているようだが、浮ついた感じがある。


「これはどういうことよ。軍師殿、私、何か悪いことでもした?」


 二階から降りてきたパスティがそう言って、自分の店員を指さした。彼女はあばらを折られて血の泡を吹いている。魔人種といえども、そのままではさすがに死ぬだろう。医者を呼ぶ必要がある。

 フレスが口を開くより先に、リッシュがパスティの問いに答えた。


「久しぶりだな、パスティ。お前のところの店員は不良だった。私たちに刃物を隠して近づいたんだ。教育が必要だろ? 私たちがしといてやった」

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