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勇者と魔王。異世界転生者と闘う!  作者: 藤原ぴーまん
第ニ章/How to Win Friends and Influence People
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8/8

TURN7/勇者とふたりの姫君

 時は現代に戻る。

 ここは解決部隊(ソリューションズ)の飛行戦艦トリグラフの艦橋(ブリッジ)。

 最新の銃火器と黒尽くめの戦闘服で武装された近代兵士たちが慌ただしそうに、操作機器や表示画面に四苦八苦している。

 そんな中、壁に持たれかかりながら退屈そうにしている三つ編み茶髪ポニテの糸目武術装束(チャイナ)。

 周囲が目まぐるしく動き回っている中、彼だけが不遜な態度を示しているのは、解決部隊(ソリューションズ)で確立した地位を築き上げていることを暗に物語っていた。


「──動き出したみたいやな、タロー」


 そう、ハッカイだ。彼はせせら笑うように呟く。

 糸目で清涼感ある面持ち。だが勝ち気で自信に満ち溢れた風格。そしてまさしく『武』を連想させる研ぎ澄まされた佇まい。元勇者パーティーとして、只者ではない貫禄を感じさせる。

 

「状況はどうなっている?」


 不意に艦長席に座る白い特攻服の女性が部下たちに聴取する。

 額あてをしっかり縛り、ジャケットの下はさらしのみ。

 羽織った特攻服の背には、天上天下唯我独尊。

 まるで暴走族のような出で立ちの彼女は、しかしその容貌には知性と品性を兼ね備え、凛々しく頼りがいのある雰囲気を滲ませている。

 そして両手で杖のように床に突いているのは、鞘に収納された日本刀。

 彼女こそが、元勇者パーティーの女剣士/アスカである。


 彼女の質問に対して、兵士のひとりが回答する。

 

「ハッ!ただいま解放戦線(レジスタンス)より、我が社に対するサイバー攻撃が顕著に活性化しております。これは情(・)報(・)の(・)攪(・)乱(・)が目的と推測。解放戦線(レジスタンス)に潜伏する諜報員を情報筋とした件(くだん)の勇(・)者(・)と(・)魔(・)王(・)2(・)名(・)の(・)み(・)で(・)構(・)成(・)さ(・)れ(・)た(・)独(・)立(・)部(・)隊(・)が行動を始めた時期と一致しております」


「あの胡(・)散(・)臭(・)い(・)青(・)髪(・)も一緒なんかい。そりゃ好都合やな」

 そう云うと、ハッカイは艦橋を去ろうと歩を進める。

「何処へ行くつもりだ」

 それを静止するのはアスカだ。その声色には明らかな苛立ちが込められている。

「決まってるやろ?再挑戦(リベンジ)や、再挑戦(リベンジ)。わいはあの青髪に一度敗(や)られてん。ここで汚名返上しとかんとバツが悪いんや」

「今は作戦行動中だ。私怨は慎め」

「同格のおまえに俺を止める権限ないやろ。大体常日頃から生意気いうと勿体ない言うとろうが、別(・)嬪(・)さ(・)ん(・)」

「………殺すぞ」


 刹那、殺気が室内を充満する。

 否、そんな生易しいものではない。

 まるで元勇者パーティーの二人を中心に突風が巻き起こり、吹き抜けていくような感覚。

 息苦しい。そして身体の外側は異様に熱く、だが芯が冷めていくような怖気が隊員たちに疾る。


「せやな、おまえとは一度白黒付けとくんもええかもしれん。どっちが強いか前から気になってたとこやしな」


 そんな中でも、どこ吹く風と謂わんばかりにハッカイは飄々としている。

 その態度に生真面目な飛鳥(アスカ)の表情がより一段と険しくなっていった。


 闘いの機運が昂り、いよいよ火蓋が切られそうになる。

 その瞬間、艦橋の扉が開く。それは来訪者の合図だ。


「はいはい!そこまでですよ御二方!外まで殺気が駄々漏れじゃないですか。いい大人が喧嘩なんてしないでください。まったくもう、みっともない」


 そんな空気に臆すことなく入ってきたのは、水(・)色(・)の(・)少(・)年(・)。

 まだ15歳にも満たないような、あどけない容姿。

 

「なんやおまえも来とったんかいな、アイン」

「お久しぶりですね、ハッカイさん。それに飛鳥さんも───」


 水色の少年の名は、アイン。

 彼の登場により、元勇者パーティー二人から放たれた殺気は急速に沈静化。

 室内の解決部隊(ソリューションズ)はホッと胸を撫で下ろす。


「なぜ【勇(・)者(・)部(・)隊(・)】がここにいる?」

「当然、本社からの命令です。“勇者本体(オリジナル)”を殺せ、と」


 勇(・)者(・)部(・)隊(・)。それがアインたちの通称だった。

 そして、その隊長を務めるのが何を隠そうこの水色の少年/アインだ。

 彼は勇者研究機関が最先端テクノロジーを駆使して勇者を人工的に再現した【量(・)産(・)型(・)勇(・)者(・)】の1人であり、首席。

 その潜在能力(ポテンシャル)は量り知れず、底が知れない。

 

「舐められたもんやな。わいらだけじゃ役不足っちゅーことかいな」


「えぇ、勿論。だってそうでしょ?貴方たち二人とも、そ(・)れ(・)ぞ(・)れ(・)解(・)放(・)戦(・)線(・)に(・)出(・)し(・)抜(・)か(・)れ(・)ち(・)ゃ(・)っ(・)て(・)る(・)んですから。存外、元(・)勇(・)者(・)パ(・)ー(・)テ(・)ィ(・)も大したことないんですね」


 両名はそれぞれ一度、解放戦線(レジスタンス)と対峙。

 ハッカイは北方軍事大国/イヴァンでのエルザ姫追跡戦で。

 アスカは極東の島国/ヲウスでの桜都事変(おうとじへん)で。

 いずれも黒星を付けられていた。


「だから我々、勇者部隊が出張る事になったんです」

「……とはいえ貴様ひとりのようだが?」

「隠密行動ってヤツですよ。今回の作戦は、政(・)治(・)も(・)絡(・)む(・)。勇者と魔王もまた然り。だから少数精鋭。こちらも2(・)人(・)で行きます。ま、そーゆーわけですのでこの場は1番階級の高い僕が仕切らせていただきますね。なに、御二方の悪いようにはしませんから」


 爽やかな笑顔を振り撒くアイン。

 その一方で、“元勇者パーティ”ことハッカイと飛鳥は不服と謂わんばかりに、苦虫を噛み締めるように表情を強張らせるのだった。


 ◆◆◆


 勇者と魔王は、千年以上の歴史を有する広大な国・ウパニシャッドを訪れていた。

 ウパニシャットは、北方は世界最高峰の山岳地帯・イシュタカ山脈、南方はウパニシャット洋に囲まれる。季節風(モンスーン)の影響で一般的には暑季、雨季、乾季の三種の季節に分別されるも、イシュタカ山脈周辺を除いては全体として常に気温が高温であり、あとは地域によって湿度が高いか乾燥しているかの差分だ。

 現地で暮らすウパニシャット人の国民性は、社交的でお喋り好きだが時間にルーズ。

 主食はナンやチャパティなどの小麦ベースの加工食品とスパイスを多用したウパニシャット料理。服装はサリーやクルタなどが主流だ。


 そして国教として、【龍王教】が栄えている──


「龍(・)王(・)教(・)?」

 勇者タローが質問する。


 赤髪マッシュはセンターに分けられ、ゆるめの無造作スパイラルパーマがかかっている。

 左耳にはゴリゴリに黒いピアスがあっちこっちにブッ刺さり、髪型と合わさってワイルドな印象を構築するも、その真っ直ぐな碧眼と中性的な容貌が緩和を促し、柔らかな雰囲気を醸し出す。

 身体(からだ)に合致(フィット)した革ジャンとオーバーサイズの黒いズボン。そしてブーツという出で立ちはあまりに現代的で、それだけ時代が変異したことの証明だ。

 背には解放戦線(レジスタンス)から支給された疑(・)似(・)聖(・)剣(・)レーヴァテインを装備している。

 正式名称は量産型疑似聖剣レーヴァテイン。

 勇者装備のひとつ・聖剣セフィロトの謂わば模造品(レプリカ)であり、本来は株式会社ハピネスの精鋭/勇者部隊の隊員に与えられる代物だ。

 解放戦線(レジスタンス)は、株式会社ハピネスに潜伏する間者(スパイ)経由で疑似聖剣(これ)を入手。

 その性能に遜色はなく、勇者の超人的な戦闘に着いていけるだけの潜在能力(ポテンシャル)が期待されている。


「こ(・)の(・)世(・)界(・)。魔界と人間界の表裏一体を創世したのが『女神』だと主張する世界宗教/女神教に対して、龍王教はその名のとおり創世者は『龍』だと唱える宗教の一派だ」

 

 一方、魔王/イスカリオテは相変わらずのアロハシャツ姿。戦闘になるかもしれないというのに、短パン、サンダル。まるで長期休暇(バカンス)を楽しんでいるかのように、あまりにカジュアル。


「無論、それには理由がある。───時に勇者よ。『龍』と聞いて、貴様はなにか心当たりがあるんじゃないか?」

 勇者はしばらく考え、そして解答する。

「“勇者の伝説”のこと?」

 その言葉に、魔王は肯定の笑みを浮かべた。


         *********


 むかしむかし あるところに いっぴきの龍がいました。


 ある日 龍は ニンゲンのお姫さまに ひとめぼれ。

 龍は お姫さまをさらい すんでいた古城に とじこめてしまいます。


 お姫さま つらすぎ ぴえん。


 しかし そんなお姫さまを たすけるために

 どこからか 勇者さまが 現れました。


 勇者さまは 龍とたたかい 勝利します。


 あまりのかっこよさに

 お姫さまは おもわず トゥンク。


 ふたりは またたくまに 恋におち

 どこか とおい国で しあわせに暮らしましたとさ。


 めでたし めでたし。


        *********


「然様。このウパニシャッドはかつて【龍王ザハーカ】が支配した領土であり、伝説どおりこの地には当時のペンドラゴン王国の王姫が連れ去られた。そして王姫を助けに【初代勇者】が訪れている」


「なんだって?」

 タローが怪訝そうに尋ねる。


 それは人(・)間(・)界(・)に(・)は(・)残(・)さ(・)れ(・)て(・)い(・)な(・)い(・)史(・)実(・)だからだ。

 初代勇者とザハーカが対決した舞台がウパニシャッドであることも、ましてや連れ去られたお姫様がペ(・)ン(・)ド(・)ラ(・)ゴ(・)ン(・)王(・)国(・)の(・)血(・)筋(・)であることもだ。


「なんでそんなこと知ってんだよ?」

「吾輩が魔王だからだ」

 威風堂々。魔王節が炸裂する。

「貴様たち“勇者の一族”との因縁は1000年前にまで遡る。当時の地上侵略作戦。その指揮を執っていたのが何を隠そう龍王ザハーカだ。そして、その裏で暗躍していたのが吾輩だ」

「おまえかよ」

 タローは呆れた様子でツッコミをいれる。

「龍王ザハーカを退治した後、吾輩の存在に勘づいた初代勇者は単身魔界に乗り込んで来た。そしてあっという間に当時の魔王軍を壊滅させる。あれはまさしく鬼神の如き。後にも先にも、あんなおっかないヤツはおらん」

 魔王は懐かしむように昔日を語る。


 初(・)代(・)勇(・)者(・)。

 勇者たちの始祖にして、この世界における原初の英雄。

 種における生存競争で圧倒的優位に立つ筈の魔族が人間に敗れた一番の要因であり、その余波は1000年後の現在でも継続している。


「まさかその末裔と共闘する日が来ようとは、人生わからんもんだのう」

「前にも同じこと言ってたぞ。耄碌してんじゃねぇのか?」


 そう言いながら、勇者は眼前の風景を見下ろした。


 彼等がいるのは、渓(・)谷(・)である。

 その眼下には湖があり、中央には人工島がひとつ。

 それは謂わば、一言で言い表すなら『塔』である。

 中華建築の一本の塔。それを支柱に周囲に幾多もの寺院が継ぎ接ぎのように密集しており、雑多で歪な形容を催していた。

 そしてその塔は『城』のように見えなくもなかった。


 タローは、そんな城の主に思いを馳せる。


「龍(・)王(・)姫(・)、か」


 龍王姫シャロン。

 かつての龍王ザハーカの孫娘。

 彼女は強大な魔族の一人でありながら【魔王軍】には所属せず、かといって【株式会社ハピネス】の傘下に入ることもなく、独(・)自(・)の(・)勢(・)力(・)圏(・)をこの地に構築していた。

 いわばここは、中(・)立(・)地(・)区(・)であり治(・)外(・)法(・)権(・)。

 故に解放戦線(レジスタンス)共同代表のひとり・エリザベス=ペンドラゴンの隠(・)れ(・)蓑(・)には打ってつけの立地だった。

 魔王イスカリオテは、かつての縁故を頼りに龍王姫と交渉を行い、いざという時にエルザ姫を匿って貰えるよう話をつけていた。

 そして彼女は勇者奪還作戦の折、この地に身を隠した。


 しかし数週間前から──。

 避難したエルザ姫は勿論の事、龍王姫とも連絡がまったく取れなくなってしまったのだ。


「解放戦線(レジスタンス)の情報筋じゃあ、ここウパニシャットの解決部隊(ソリューションズ)をはじめとする株式会社ハピネス傘下の組織に主だった動きはないようだ。つまり、龍(・)王(・)姫(・)側(・)で(・)な(・)に(・)か(・)ア(・)ク(・)シ(・)ョ(・)ン(・)を(・)起(・)こ(・)し(・)て(・)い(・)る(・)可能性が高い」

 神妙な面持ちで、魔王は見解を述べる。

「裏(・)切(・)り(・)の可能性があるってこと?」

 一抹の不安を、勇者は問う。

「然様。ぶっちゃけエリザベス代表を匿うことは、龍王姫になんらメリットはないからな。無論、たまたま何かしらのアクシデントに見回れている可能性もあるが、ヤツの性格的に考えづらい」

 魔王は思案しながら話を続ける。

「龍王姫は何事もそつなくこなす傑物だからな。ヤツにその気があれば、何かしら連絡手段を講じるはずだ」

「その真意を探りに僕たちはここに来たってワケだけど──」


 タローはここに出立するまでのことを思い出す。


 勇者と魔王。二人だけでの潜入任務。

 【解放戦線(レジスタンス)】における二大派閥。

 すなわち、【魔王軍】ならびに【王女派】。

 双方から反対意見が殺到する中、しかし魔王はこれらを一蹴。強行的に本作戦を決議する。

 勇者も魔王の意見に賛同。この横暴に解放戦線(レジスタンス)のメンバーたちは最後まで引き留めようとするものの、結局は現在の有様に至っている。

 周囲の意見は至極当然なものであり、旗印である勇者と魔王になにかあれば【解放戦線(レジスタンス)】の瓦解は確実なものとなる。

 しかし集団で動けば【株式会社ハピネス】側に察知される恐れがある他、龍王姫側をも刺激しかねない。

 ましてや龍王姫は【解放戦線(レジスタンス)】としても大きな援助を受けている、いわばVIPの一人である。

 彼女との謁見は裏切りを考慮すれば単騎でそれなりの戦力を保有し、且つ相手の位階に礼節を合わせるのであればやはり旗印である魔王や勇者が妥当だろう。

 無論、それならば魔王ひとりでも事足りるのだが、それをタローが許す筈もなかった。


 ──なぜなら勇者は、今も尚お姫様に片(・)想(・)い(・)中(・)だからだ。


「事は政治も絡む。少数精鋭。必要最低限の戦力としてこれほど戦闘能力の高い部隊編成も中々あるまい」

 そして魔王は楽しそうに笑った。

「フハハハ!まさか勇者とバディを組むことになろうとはな。お膳立ても上々。中々に感慨深いものがあるわい」


           ◆◆◆


 塔の名は、龍王寺。

 かつての龍王ザハーカの根城跡にして、聖(・)域(・)。

 龍王信仰が根強いウパニシャットにとって、龍王姫はまさに現(・)人(・)神(・)そのもの。

 龍王姫自身、その逆鱗に触れることさえなければ性格的にはおとなしく人畜無害。そのため現地住民たちは信仰をより一層厚くしており、結果として彼女に様々な恩恵を与えることになった。


「信者たちは龍王姫に様々な貢ぎ物を捧げた。食料や金品、土地に従者。無論、国の有力者たちにもフォロワーは多い」

 先導する魔王が丁寧に説明する。

 一方、呆れた様子で勇者は前方にジト目を向けていた。

「その結果が増改築を繰り返したこの“違法建築の塔(ダンジョン)”と、こいつら“死霊系(アンデッド)魔物(モンスター)”ってワケね」


 勇者と魔王は渓谷を降り、湖を渡って龍王寺の麓にある、いわば廃墟となった城(・)下(・)町(・)に訪れていた。

 そこで待ち構えていたのは、木乃伊(ミイラ)となった僧(・)兵(・)たち。

【即(・)身(・)仏(・)】

 様々な近接武器。弓やクロスボウ。

 そして仏具のような形状をした魔法道具。

 その干からびた昏い眼差しは皆、侵入者である魔王と勇者に向けられる。


「──龍王姫。まったく趣味の悪い女だぜ」

 勇者は吐き捨てながら、疑似聖剣(レーヴァテイン)を構えた。


 龍王教を信仰した僧侶たちのなれの果て。

 無論、信徒の誰しもがこんな末路を辿るはずもなく、彼等は衆生救済を目的に自ら志願してその肉体を龍王へ捧げたに過ぎない。

 まさに滅(・)私(・)奉(・)公(・)。そして世代が変わった今も尚、孫娘である龍王姫に仕えており、これこそが献身の極致。

 龍王姫のためならばそのすべてを顧みない地獄の兵卒となって、即身仏たちは勇者と魔王に立ち塞がる。


「そんじゃ、ま!いっちょ派手に───」

「お互い、お手並み拝見といこうかのう」


 刹那、躊躇なく敵陣に飛び込み、先陣を切るタロー。

 疑似聖剣(レーヴァテイン)を大きく振り被って、横一文字。

 たった一太刀で、10体ほどの即身仏たちを一斉に薙ぎ払う。

 その姿はまるでボウリングのピンをすべて倒してストライクを獲得するボウリングボールのよう。

 先制した勇者の剣撃が波状となって旋風を巻き起こし、木っ端微塵に即身仏たちを粉砕していく。


 タローの視界には勇者特権/【全表示化(ステータスオープン)】が集約され、まるで計器のような視覚情報が写し出されている。

 敵情報。地図。体調管理(バイタル)。残存魔力。装備。etc。

 不意に警告音(アラート)が鳴り響き、視界が赤く点滅する。

「魔法攻撃!?」

 当然これはタローにしか認知できない視聴覚情報。

 8時の方向より敵の魔法が様々に射出され、こちらへ迫ってくるのを報知してくれたものだ。


 これに反応し、勇者は疑似聖剣(レーヴァテイン)に魔力を込める。

 勇者特有の膨大な魔力量をありったけブチ込んだことで、青白い発光がその刃を激しく覆う。

「猪口才!」

 一閃。そして、剣による乱舞が始まる。

 次々と迫り来る幾多の魔法攻撃を迎撃。

 炎弾。氷槍。風刃。稲妻。石礫。光矢。闇玉。

 勇者はこれらを驚異的な動体視力で捉え、即応しながら続々と斬り伏せていく。


 そこに近距離装備の即身仏たちが這うように急速接近。

 勇者を取り囲むような配置を取り、即座に襲いかかってきた。


 初撃目は、槍による刺突。

 弐撃目は、剣による袈裟斬り。

 参撃目は、斧による兜割り。

 肆撃目は、鉄爪による高速切り裂き。


 これに対して、勇者は即反応。

 勇初撃目を剣で受け流し、擦過による火花を散らしながらその回転運動で回避。

 続く弐撃目は切り払い、そのまま回し蹴りをお見舞いする。

 参撃目もまた、回転運動で回避。そのまま跳躍し、振り下ろされた斧を持つ敵の両腕を素早く叩き斬る。その勢いのまま、即身仏の鳩尾に肘打ちをぶつけ、距離が空いた瞬間に拳打を顔面に叩き込む。

 すぐさま肆撃目を剣で防御。そして身体を翻して躱しつつ、最後には斬り伏せた。


 槍を持った即身仏が再度攻撃を仕掛けてくるが、タローはその槍術を尽く受け流し、その懐に急速接近。

 袈裟斬りによる一撃をお見舞いし、槍を持った即身仏を破砕する。


 ▼勇者は 呪文を唱えた!


【ロケットパンチ】、発動。

 振り返りながら、魔力形成による鉄拳を射出。

 背後から迫る剣を所持した即身仏に叩き付ける。

 宙を舞い、そのまま滑り込むように地面に伏せる即身仏。

 痙攣のような反射行動をしばらく続けるも、やがて動かなくなった。


 ──しかし、即身仏たちの猛攻は続く。

 魔法攻撃部隊が再び、勇者目掛けて呪文を唱え出す。


 ▼魔王は 呪文を唱えた!


【暗黒疾駆(ダークネスドライヴ)】、発動!

 すぐさま魔王イスカリオテが援護に転じる。

 魔法詠唱を行っていた即身仏たちに対して、膨大な闇のエネルギーを纏って宙より飛来(ダイブ)。

 まるで隕石のような体(てい)を成したその技は地面に衝突すると共に爆発を巻き起こし、黒い炎を一帯に延焼させる。

 灰燼と消える即身仏の魔法部隊。その有り様を眺めた魔王は爆心地でご満悦の笑みを浮かべている。


 ──刹那、そんな魔王イスカリオテ目掛けて、一本の矢が飛来する。


 新たな増(・)援(・)部(・)隊(・)。その一体が放ったボウガンの一射である。

 だがその矢は、一瞬にして弾かれる。

 地に落ちるは、真っ二つに裂かれた矢。

 それを成したのは、イスカリオテの手に握られた逆手の短刀(ドス)。

 瞬間、それを皮切りに無数の矢の雨が降りかかる。

 しかし魔王イスカリオテは接近する矢を次々と斬り払いながら後退し、回避行動。


 ▼魔王は 呪文を唱えた!


【暗黒斬撃(ダークネススラッシュ)】、発動!

 短刀(ドス)が墨のような漆黒のエネルギーを纏う。

 魔王はこれを横一閃。エネルギーはまるで三日月のような弧を描き、遠隔に居る弓兵部隊をすべて一掃する。


 不意に背後から、剣を握った近接戦闘要員の即身仏たちが三体。

 急襲。一斉に魔王目掛けて飛び掛かる。

 刹那、発(・)砲(・)音(・)。それも妙なことに、幾多の射撃が重なったような不(・)協(・)和(・)音(・)。

 イスカリオテのもう片方の手に握られた回転装填式(リボルバー)の拳銃(チャカ)から発せられたものだ。

 つまりは速射連撃(クイックドロー)。即身仏たちは身体に風穴を複数穿たれ、一瞬挙動が制止する。

 その一瞬の隙を魔王は見逃さない。

 横一閃に振り抜かれた短刀(ドス)が、即身仏たちを容赦なく切り裂いた。


 一方、勇者を包囲する即身仏たちは一斉に機(・)関(・)銃(・)の銃口を差し向ける。


「……なんだそれ?」

 タローは間の抜けた声を出す。

 機関銃も然り、魔王が持つ拳銃も然り。

 これらは“経済による平和の時代(パクス=エコノミカ)”以降に生産されたものであり、タローは初見。

 そのため思わず興味が惹きつけられてしまい、大きな隙を与えてしまう。

 刹那、一斉射撃(フルファイヤー)。

 銃弾の嵐が、勇者の肉体に殺到する。

「あだだだだだだだッッッ!!!?」

 面食らった勇者は悲鳴を上げる。

 しかし身体能力向上兼防御壁として展開する全身に纏った魔力の奔流が、膜(・)として銃弾を阻む。

 とはいえ結局は痛い。

 さらに追い討ちを掛けるように、バズーカ砲から放たれたロケット弾が飛んでくる。

 着弾。勇者に直撃。

 爆発後。後方に飛ばされた勇者は真っ黒焦げになりながらも、しかしケロッとした様子で宙返り。

 そのまま量産型疑似聖剣(レーヴァテイン)の切っ先を地面に突き立て、地面を滑走しつつ体勢を持ち堪える。

 やがて停止した勇者は、たまたま魔王イスカリオテの真横に辿り着く。

 魔王は背を向けた状態でジト目を向ける。


「たわけ。脇が甘いわ」

「しょうがねぇだろ!こっちはブランクがあんだから──」


 啀み合う2人。

 そんな勇者と魔王を狙って、即身仏たちが追撃する。

 即身仏たちは、勇者と魔王を囲うように円陣を組む。

 そして詠唱。手に携えるのは仏具の数々。

 それはこれまでの魔法攻撃とは、肌感で異質を報せるほどに別物であり、その違和感の正体を魔王は瞬時に看破する。


「召(・)喚(・)魔(・)術(・)か」


 ▼即身仏たちは 呪文を唱えた!


【モンスターパニック】、発動!

 刹那、空(・)が(・)割(・)れ(・)る(・)。

 硝子が割れたような破砕音。それは次元の壁が裂けた合図。

 次の瞬間、見上げた空は元に戻ってはいたものの、しかし明らかな異物が無数に点在していた。

 魔(・)物(・)の(・)大(・)群(・)。多種多様な魔物の数々が、この戦場に降ってくる。


「魔界から増援を呼び寄せたか。まったく世話の焼ける連中だ」

「なんだよ、魔王。ビビってんのか?」

「フン!愚問だな、勇者よ。このような局面なぞ、お茶の子さいさいよ」


 そして勇者と魔王は、魔物の軍勢に飛び込んでいく。

 時には防御。時には攻撃。

 お互いがお互いをカバーし合いながら、2人は阿吽の呼吸で次々と迫りくる敵を続々と撃滅していく。


 ◆◆◆


「──ようやく到着したみたいね」

 龍王姫/シャロンは、静かに呟いた。


 銀色の流麗な長髪に、細長い睫毛。

 頭部からは牡鹿のようなニ対の角が生えている。

 瞳は赤く、その肌は瑞々しく滑らか。

 その声色は透明感と静寂。何よりも冷徹さを内包しており、薄氷を想起させる。

 身に纏うのは、緑と黒を基調にしたチャイナドレス。

 彼女は扇で口許を隠しつつ、その眼差しで眼(・)前(・)の(・)賓(・)客(・)を冷ややかに射ぬく。


 龍王寺最上階。

 豪奢な室内は中華建築の様相を呈しており、その玉座には金髪の麗人が行儀よく鎮座していた。

 解放戦線(レジスタンス)における共同代表のひとり/エリザベス=ペンドラゴン。

 いわゆる【王女派】と呼ばれる解放戦線(レジスタンス)内の人類勢力をまとめる旧ペンドラゴン王国のお姫様だ。

 彼女は困惑と焦燥を宿した瞳で、龍王姫と対峙していた。


「これからどうするおつもりですか?」


 その言葉は問いかけではない。

 エルザ姫は結論をすでに知っている。それでも尚、まだ別の選択肢が残されていることを示唆し、そちらを促す物言いだ。


「もちろん、闘うわ」

 だが龍王姫は断言する。

 エルザ姫がそれを望まぬことを理解した上で、だ。

「妾(わらわ)たちは、そうなる運命にあるのだから──」

「他にも道はある筈です!」

 エルザ姫は必死に叫ぶ。

 彼女からは、龍王姫への嫌悪がまるで感じられない。

 その態度には親しい間柄だからこそ身を案じるような、確かな慈しみが漂っている。

「其方(そなた)は優しいな」

 ふと龍王姫が儚げな笑みを溢した。

 それは少し寂しげな、でも確かに温かな笑顔。

「だがこれだけは譲れん」

 それでも尚、龍王姫は気丈に振る舞うのだった。

「1000年前。妾(わらわ)の爺様は勇者の祖先と相対し、そして敗れた」

 彼女は遠くを見据える。

 それは現在ではなく、遠い過去へと思いを馳せた視線。

 まるで初代勇者と龍王ザハーカの戦いを幻視しているかのような、繊細な輝きをその瞳から放っていた。

「そして、今。永き時を経て、両者の子孫が相まみえる」

 やがて、その瞳はエルザ姫へと直接向けられる。

 その眼光はすでに過去から切り離され、眼前の現在を確実に捉えていた。

「──再び、ペンドラゴンの姫君を巡ってな」


 エルザ姫は沈黙する。

 彼女は理解している。最早、龍王姫/シャロンは止められない。

 それでも尚、納得がいかない。

 なぜ、勇(・)者(・)と(・)龍(・)王(・)姫(・)が(・)戦(・)わ(・)な(・)け(・)れ(・)ば(・)な(・)ら(・)な(・)い(・)の(・)か(・)。

 エルザ姫はただただ歯痒い思いに駆られていた。


「これを“運命”と呼ばずして、いったいなんというのだ?」

 龍王姫は自嘲する。しかしその瞳は本気だった。

 確かな覚悟の灯火が、そこには宿っていた。

 

 ◆◆◆


「偵察部隊の言っていたとおりだ。解放戦線(レジスタンス)に潜伏している工作員からの情報とも一致している。間違いない」

 龍王寺全体を見下ろせる渓谷。

 先刻、勇者と魔王が居た同じ立ち位置に【勇者部隊】の隊長/アインもまた訪れていた。

 勇者特権のひとつ・全表示化(ステータスオープン)。

 先程まで龍王寺周辺で行われていた勇者と魔王による即身仏たちとの戦闘。これら情報を理詰めのために分析しながらも、しかしアインはすでに確信していた。

「ボクの見立ては正しかった。勇者と魔王がここに居る。すなわち、エリザベス=ペンドラゴンもここに居るんだ」

 嬉々とした様子でほくそ笑む。

 それは齢10代には似つかわしい邪悪な笑顔。

 獲物に嗜虐的な愉悦を見出した悪魔の素顔だ。

「無駄足を踏まずに済んだな。これでオマエ(・・・)を試す算段もついたわけだ。なぁ、“七つの大罪(セブンス=シン)”?」


 アインの一瞥の先に佇むのは、黒い外衣(ローブ)に身を包んだ異形の巨体(・・・・・)。

 人型で、その体躯は3メートル程。肌は黒く、まるで焼け焦げた樹木が絡みついたような甲殻質。その隙間から見える剥き出しの筋肉繊維は、呼吸と共に橙色に点滅している。

 魔族だろうか。一目で人ならざる者と認識出来るものの、しかしアインに従順であることはその姿勢からも判断できる。


「さぁ、征こう。勇者と魔王を倒すのはこのボクだ。ボクこそが真(・)の(・)勇(・)者(・)であることを証明するんだ」


 ◆◆◆


「お待ちしておりました、魔王様。──そして、勇者よ」

 凛とした佇まい。そして憤怒と決意を滲ませた瞳を燃やしながら、龍王姫シャロンは対峙する。


 勇者と魔王、最上階へ到着。

 城下町の即身仏たちをはじめ、多種多様な魔物たちが道中に襲いかかってきた。

 しかしこの両者に太刀打ちできる筈もなく、すべて返り討ち。

 そして龍王姫が居座る玉座の間に辿り着いた勇者の視界には、その再会を待ち焦がれ人物の姿がついに飛び込んでくる。


「エルザ姫……!ご無事ですか!?」

 タローの表情に思わず笑顔が溢れる。


 解放戦線(レジスタンス)共同代表のひとり/エリザベス=ペンドラゴン。

 彼女もまた歓喜に身体を震わせ、思わず叫ぶ。

「タローっ!!」

 やがて、その表情は安堵によりみるみる緩んでいく。


 勇者研究機関より解放戦線(レジスタンス)が勇者を奪還した勇者奪還作戦。

 エルザ姫もまた作戦に参加していた。

 彼女は周囲の反対を押し切ってまで最前線に立ち、勇者奪還を完遂するためにありとあらゆる手段を用い、そして達成したのだ。


 すべては勇者タローのために──


 無論この作戦には魔王イスカリオテも参加しており、元勇者パーティのハッカイおよびアスカの両名を相手取ったその功績は非常に大きい。

 だがそれでも勇者奪還作戦を主導したのは、他ならぬエリザベスだ。

 3年ぶりの再会は、しかし勇者が社会インフラの魔力供給源として酷使されていたため衰弱しきっており、意識不明の状態。

 勇者奪還後は、株式会社ハピネスの追手を避けるために解放戦線(レジスタンス)は一旦散り散りとなる。

 そしてエルザ姫はウパニシャッドを訪れ、龍王姫の庇護を受け、それが今回の騒動へと発展した。


 そのため、こうしてちゃんと意思疎通を取れたのは今回が実質3年ぶり。

 2人はあからさまに気持ちを昂ぶらせていた。


 そんな勇者とお姫様の間に割って入るように、

 龍王姫が立ち塞がる。


「あんたが、龍王姫……!」


 勇者は義憤を募らせ、声を震わせる。

 しかし龍王姫は答えない。

 そして返答の代わりに、憎悪が込もった視線が沈黙のまま返されるのだった。


「久しいな、龍王姫シャロン」

 そんな彼女の名を、魔王が呼びかける。

「解放戦線(レジスタンス)共同代表/エリザベス=ペンドラゴン。彼女を返してもらうぞ」

「それはできません。エルザにはここに居てもらいます」

「何故だ?」

 魔王は質問する。

「確かにエリザベス代表を匿うことに正直貴様にメリットがあるとは思わん。だが此度の騒動。まるで意図が詠めん。株式会社ハピネスに寝返ったわけでもなく、解放戦線(レジスタンス)に何か要求するワケでもない。……龍王姫。貴様の目的は一体なんだ?」


 その言葉に龍王姫は、静かに答えるのだった。


「………妾(わらわ)が欲しいのは、安(・)寧(・)」


「安寧?」

 勇者が不思議そうに問いかける。


「そう、心(・)の(・)ね(・)」


 龍王姫のその言葉に、勇者と魔王は不可解そうに眉を顰め、顔を合わせる。

 話の落とし処がまるで見えない。


「妾(わらわ)は龍王教における生ける伝説。故に欲しいものはすべて簡単に手に入れることができた」


 龍王教は、この世界の3大宗教のひとつである。

 無論、ここウパニシャットだけでなく、極東の島国/ヲウスや武術大国/方天画戟(ホウセン)など主に東洋諸国で厚く信仰されており、その信者数は4億人程度と推測されている。

 宗教(・・)とは、いわば超国家(・・・)。

 ひとつの思想に基づいた民族や旧国家を越えた精神的(コミュニティ)規範の共有(ネットワーク)。

 龍(・)王(・)の(・)孫(・)娘(・)とは、すなわち龍王教という超(・)国(・)家(・)の(・)元(・)首(・)に値する。


「それ故に、妾(・)は(・)い(・)つ(・)も(・)孤(・)独(・)だ(・)っ(・)た(・)」


 というよりも、孤(・)高(・)と表現するべきだろう。

 信者からの羨望の眼差し。

 そこまで神格化されれば当然、外部の人間も無下にはできず、必然的に誰しもが等(・)身(・)大(・)の(・)彼(・)女(・)を決して見ようとはしない。

 人は誰しもがつまらない実態ではなく、華やかな建前に目を向ける。

 大衆が抱く龍(・)王(・)姫(・)と(・)い(・)う(・)偶(・)像(・)は、シャロンという一人の女の存在証明(アイデンティティ)を曇らせていた。

 それもまた運(・)命(・)。

 龍王姫シャロンは己が宿命に悲嘆していた。


「けれども、彼(・)女(・)と出逢って変わったわ」

 龍王姫は、その瞳にエ(・)ル(・)ザ(・)姫(・)を写す。


 エリザベス=ペンドラゴン。

 元ペンドラゴン王国の姫君にして、現在は【解放戦線(レジスタンス)】の共同代表に名を連ねる1人。

 先の時代では、勇者パーティーたちと共に魔王軍から諸国を解放したその功績を讃えられ【救国の聖女】などと呼ばれ、そして“経済による恒久的平和(パクス=エコノミカ)”に入ると一時期は異世界転生者/ブラック社長の下で働き、新たなる社会規範を構築したその政治的手腕から【創世の女神】とも謳われる伝説的存在。

 ペンドラゴン王国の王位を失っても尚、影響力を存分に発揮する彼女もまたインフルエンサー的な立場にあり、精神的(コミュニティ)規範の共有(ネットワーク)に基づいた超国家の元首といえよう。


 故に何かと共有できる部分が多く、二人はいつしか互いの理解者となり、対等な関係へと発展していった。

 はじめは政治上の付き合いであり、龍王姫も暇つぶし程度にしか考えていなかった。

 しかし時間の経過と共に彼女の中でエリザベス=ペンドラゴンという存在は日に日に大きくなっていき、やがてか(・)け(・)が(・)え(・)の(・)な(・)い(・)も(・)の(・)へと変容していったのだ。


「妾は、彼(・)女(・)を(・)愛(・)し(・)て(・)い(・)る(・)」

 龍王姫は力強く断言する。

「故に、これより妾はエリザベス=ペンドラゴンと巣籠もりに入り、子作りに励む」


「──へっ?」

 勇者は思わず、マヌケな声を漏らした。

 超展開。話の方向が何やら思わぬ方向に舵を切り出した。

 何を隠そう作者もビックリである。

「……愛してるって、友愛とかそーゆーこと?」

 今一度、タローは問いかける。

 もしかしたら何かの聞き間違いかもしれない。

 リピートアフタミー。

「恋愛だ。情愛。偏愛。とにかく妾(わらわ)はエリザベスを情欲的に愛している」


 龍王姫、再び力強く宣言!

 作者もビックリである。こんなの聞いていない。

 何を隠そうプロットにも書いていないのだ。

 故に勇者共々、作者は混乱した!


「……ってことは何か? 貴様、そんなことのためにここまでの騒動を??」


 さすがの魔王様も今回ばかりはあまりに想像を超えていた模様。

 呆れた様子で不機嫌を露わにし、仁王立ちで構える。


「そんなこととは何事ですか!?」

 一方、感情(スイッチ)が入った龍王姫は憤慨する。

「妾にとって、この戦いは一世一代の大勝負。たとえ世界中を敵に回しても、妾はエリザベスと添い遂げると決めたのです!」

 そして龍王姫は、人差し指を勇者に向ける。

「そのために勇者よ!其方(そなた)はここで倒す!!」

「いぃッ!? なんで僕!!?」

「惚(とぼ)けても無駄だ。其方(そなた)がエルザに恋慕を抱いていることなど、とっくに調べがついている!」

 龍王姫はキッと睨みを効かせる。

「つまり妾たちはお互いが恋敵。かつて龍王ザハーカ(妾の爺様)と初代勇者が当時のペンドラゴン王女を巡って争ったように、妾たちもまた争う運命にあるのだ!」


 とんだ言い掛かり。とんだこじつけ。

 感情論ばかりであまりにも話がブッ飛び過ぎている。

 こののっぴきならない状況に、呆然としたまま勇者はだたただ言葉を喪っていた。


「──くだらん。茶番だな」

 魔王イスカリオテはそう云うと壁際に向かって歩いていく。

 その背中に最早闘志や警戒心というものはまったくなく、完全に投げやりといったご様子。心底やる気を失っているのが見て取れる。

「勇者よ、貴様をご指名だ。負けたら承知せんぞ」

「えっ、魔王は闘(たたか)わねーの?なんでよ??」

「興が乗らん。それにこんな理由で吾(わ)が組織が振り回されたと思うと情けなさすぎて面目が立たんわ」

「でもここでエルザ姫を助けないと組織が立ち行かなくなるだろ?」

「その程度の組織ならばいっそ潰してしまった方が懸命だ。貴様が敗(ま)けることがあれば、吾輩は解放戦線(レジスタンス)を解散する」

「……まじ?」

「マジも本気(まじ)。大真面目だ。それに1人の女を懸けた真剣勝負。外野が水を刺すのは野暮というもの。──というわけだ。精々励めよ、小僧」

「……やれやれ。まったく気高いんだか、無責任なんだか」


 勇者は一度、溜息をつく。

 なんだかとことんおかしなことになってしまった。

 3年の眠りから目覚めたら世界は異世界転生者に奪われ、魔王と共闘することになり、そしてエルザ姫を巡ってこれから龍王姫シャロンと闘わなくちゃならない。

 無節操極まりないとはこのことだ。


「何がなんだか全然わかんないけど……」


 と言いつつも勇者の声に迷いはなかった。

 元々くよくよ悩むような性分ではないのだ。

 百考は一行に如かず。案ずるより生むが易し。

 思い立ったが吉日だ。

 タローはその背に携えた量産型疑似聖剣(レーヴァテイン)を抜剣する。


「いいよ。やろう!どのみち勝たなきゃいけないんだろ?」


 脳筋全快。勇者は快活に決闘を了承した。


「望むところだ」 

 龍王姫もまた前に出る。

 元より彼女が望んだ決闘。故にその胸中から沸々と闘志が湧いてくるのを実感していた。

「エルザよ、そこで見ているがいい。其方(そなた)に相応(ふさわ)しいのは、勇者か妾か。決着をつけてくる………!」


「あの、わたくしの気持ちとか、そーゆーのはほったらかしですか?」

 一方、エリザベス=ペンドラゴン当人が一番困惑した様子でたじろいでいた。しかし多勢に無勢。彼女を置いてきぼりに着々と話が進んでいく。


 かくして、千年の刻を経て

 初代勇者と龍王ザハーカ。双方の末裔による宿命の戦いが今、始まろうとしていた。

 あまりにもしょうもない理由で……。


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