TURN5/THE BEGINNING ④
かくして、勇者パーティーは全滅した。
その後、ブラック社長はたった一人で連合軍に勝ち星を挙げ、解散を命令。
勇者パーティーならびに【連合軍】の敗北は、つまるところ世界の敗北。
――人類は、ブラック社長の傘下に与することになった。
ブラック社長は連合軍を解体したあと、【株式会社ハピネス】を設立。世界各国の財閥や商会を吸収し、瞬く間に【国際巨大企業】へと成長させる。
その過程で民間軍事会社という名目で、実質の私兵部隊である【解決部隊】を編成。部隊の大半は元連合軍兵士であり、つまるところ各国の主要戦力たち。
彼等の活躍により、この世界からは国境。
すなわち『国家』という枠組みが消え、人類史上初となる統一国家。否、統一された企業自治体が誕生する。
さらに王族・貴族などの階級制度は廃止され、個人の能力評価を重視した報酬制度を導入。
実力主義。
成果主義。
資本主義。
この三本柱を主軸に、以降【株式会社ハピネス】は徹底的に世界情勢を管理・統制。
文明開化と産業革命を興し、人類文明の水準を我々の世界でいう中世から現代レベルにまで急速且つ大幅に昇華させていった。
「………さぁ、ビジネスの話をしようか。勇者パーティよ」
世界の中心/ワールドセントラルタワー。
“経済による平和の世紀”の象徴。
【株式会社ハピネス】の本社にして、その最高経営責任者となった異世界転生者/ブラック社長の根城でもある。
地上高829m。階数163階。
総工費1兆5000億money (この世界共通の通貨。1money→1円)。
勇者タローを除いた勇者パーティ。
グリフィン。ハッカイ。飛鳥。
そしてホグワーツ。
以上4名が集められたのは、セントラルタワー頂上にある荘厳な会議室。
彼等は魔王城での最終決戦にて確かにその息の根を、その命の鼓動に終止符を刺された筈だった。
しかし、勇者パーティーは生きていた!
否、甦ったのだ。
どういうカラクリなのか。
とにもかくにも異世界転生者/ブラック社長の手によって、勇者パーティーは復活を成していた。
「その肝心の勇者がおらんやないかい」
不服そうにハッカイは顔をしかめる。
当然の反応だ。なにせ勇者パーティはこの異世界転生者に殺されたのだから。
「しばらく眠りについてもらっている。今、勇者が目覚めるのは得策ではないからな」
ブラック社長は述べる。
勇者を殺すことは、事実上不可能だ。
タローは寿命以外で死すことを、この世界に許されていない。
だがしかし、その復活を遅らせることは可能だ。
これまで体験した勇者の死に様は、大きく別けて2つに分類される。
即ち、遺骸の有無である。
勇者がその肉体を消失すると、どーゆー理屈か最寄りにある人里の教会に設置された空の棺桶に肉体を蘇生させた勇者が転送される。
一方、肉体が残ったままだとそれらを回収して教会に持って行かなければ、勇者は復活が出来ないのだ。
つまり勇者が眠っているという表現は、この後者の性質を利用したものであることが容易に想像ができる。
「今、勇者が目覚めるのは得策ではない?」
訝しむように、飛鳥は気になった台詞を反芻する。
ブラック社長にとって、勇者という存在は当然邪魔な筈である。復活の阻止に成功しているのならば、この状態を維持することこそが妥当な判断というものだ。
しかし彼の言い分は、まるでいずれ勇者を復活させることが折り込み済みであるかのようだった。
「そうだ。俺は今、この世界に新たな固定観念を構築しようとしている。その完成には勇者の復活が不可欠」
「―――新たな固定観念、ですか?」
ブラック社長の構想に、グリフィンが口をはさむ。
「そのために、今日諸君にはここに来てもらったのだ」
そう言って、ブラック社長はテーブルへと案内する。
テーブルには、【解決部隊】に入社するにあたっての契約事項が書かれていた。
「【勇者パーティー】には、我々【株式会社ハピネス】が経営する民間軍事会社/【解決部隊】の役職者としてそれぞれ従事してもらいたい。報酬は勿論弾もう。貴様たちの実力は、直に相手をした俺が一番よく知っている」
それはどれも【勇者パーティー】の彼等にとってはメリットだらけの破格なものばかり。金額は勿論、個々の生い立ちに関わることも記されていた。
「如月飛鳥。極東の島国/ヲウス出身。
国家創立に携わった十二の血族/十二氏族の末裔にして、名家である如月家の次期当主。
おまえが故郷を出て冒険者になったのは、国家転覆の首謀者であり一族の裏切り者である兄/如月蒼空を粛清するため。我々はすでに彼の潜伏先を把握している」
刹那、飛鳥の眼の色が変わる。
そして唐突に発せられる殺気。それは憎悪を端とするものであり、室内の壁や床が一瞬にして一斉に軋み、音を立てる。
「劉八戎。武術大国/方天画戟出身。
生涯孤独の身であり、孤児院で育った。
だがその孤児院が財政難だったため、おまえはその金銭問題を解決するため武術の道を歩んでいく。
天下一武術大会優勝後、国の英雄となったおまえは方天画戟国内のおまえと同じような境遇の子どもたちを少しでも援助するために、陰ながら活動を行っている。実に素晴らしい。我々なら更なる助力ができると思うが、いかがかな?」
ハッカイは言葉を失う。
彼に今、野心などは皆無であり、すべては幼き頃のトラウマ。孤独の払拭を兼ねて善行に励んでいた。
ハッカイにとって、彼を求める子供たちは家族であり生き甲斐なのだ。
「グリフィン=ゴドリック。北極軍事帝国/イヴァン出身。
中流階級の可もなく不可もない平凡な家庭で育った優等生。おまえの転機は幼馴染であり、のちに婚約したその伴侶が冒されていた“不治の病”を治すため医療の道に充事した。
残念ながら妻は帰らぬ人となったが、この世界には古代魔術のひとつに死者を甦らせる術が存在する。
おまえ自身、体験したのがそのひとつだ。
我々はこれらを社会実用するために研究を行っている。おまえは再び、妻に逢いたくはないかな?」
グリフィンは明らかな動揺を露にした。
突如脳裏に甦る温かく穏やかな日常。
そして、永遠の別れ。
彼女の優しい微笑みが、グリフィンの胸中を抉るように締め付ける。
「そして灰色のホグワーツ。魔法国ヴィヴィデバビデの叡知は今や我々の管理下にある。適切な人事として、貴殿を賢者の長へと推薦したい。
無論、そういった権威にまるで興味がないことはこちらも把握しているが、となると貴殿以外の後任者で俺が適性だと判断するのはただひとり。魔法監獄に幽閉されている【禁忌のモルガナ】くらいか………。
だがモルガナを解放すれば、貴殿たちが築き上げた魔法界隈の秩序は崩壊の一途を辿ると伺っているが、いかがかな?」
ホグワーツの眼光が鋭さを増す。
それは憤怒。【禁忌のモルガナ】は若き天才にして危険な魔術師だ。
かつて賢者ホグワーツはこの魔術師と対峙し、その脅威を充分過ぎるほど体感している。
モルガナの解放は魔術師界隈。ひいては世界の均衡を大きく破壊することになるだろう。
「さぁ、決断を―――」
動揺する【勇者パーティー】たちに、新世界の王は詰めよった。
◆◆◆
『皆様の幸福は、【株式会社ハピネス】が提供させていただきます!』
どこからかアナウンスが響き渡る。
ワールドセントラルタワーの城下町/セントラルシティ。
そこには最早西洋ファンタジーには似つかわしい、近代都市の姿があった。
高層ビル群が聳え立ち、行き交う人々もまた現代人のようなスーツや衣服を身に付けている。
道路には自動車をはじめとする文明の利器や、乗り物代わりとして土木工事用に運用される魔物の姿も散見される。
この世界には、【魔導器】と呼ばれる超古代文明の遺産が存在する。
いわば魔力を動力源とする機械装置。
この世界の住人をはじめ、植物や海、大地などの自然物にもまた魔力は宿っている。
それらを引き出し、運用するのが【魔導器】である。
魔法の習得が専門的あるいは訓練が必要なのに対して、【魔導器】はそれら一切を省略し、誰でも魔法が使えるようになる代物だ。
但し【魔導器】は希少であり、一般大衆にあまり知られているものではなかった。
これに着目した【株式会社ハピネス】は、掌握した世界を総動員して【魔導器】の発掘と量産化、開発や応用を展開していき、瞬く間にここまでの近代化に成功したのだ。
「―――よかったんかいな、グリフィン?」
ベンチに座ったハッカイが、気を遣って問いかける。
ハッカイとグリフィンは今、そんな都会のド真ん中にある自然豊かな公園のベンチに座っていた。
二人はすでに予感していた。
勇者パーティが解散する瞬間を。
つまりはそう、別れの時を。
「えぇ、私は皆さんみたいに使命や生き様があって冒険者をやっていたワケではありませんから」
グリフィンは苦笑しながら答える。
結局、【株式会社ハピネス】の申し出を断ったのはグリフィンのみ。
ホグワーツ、飛鳥、ハッカイは株式会社ハピネスに与することを選んだのだった。
「妻の病気を治療する目的で医療魔術を学んで、彼女が失くなってからはその杵柄でここまで冒険者をやっていましたから。なんとなく流れなんですよ」
グリフィンはすでに冒険者としての引退を決意していた。
「せやかて時代は変わったんや。ホグワーツの爺さんはともかく、わいら三人にとっは悪い話やなかったろう? 【魔王軍】と戦ってたんやって別に大層な大義があったワケやない。【外交旅団】の延長で【連合軍】に雇われる条件が良くて、わいらにはそれに応えられるだけの実力が備わっていた。ただそれだけの話やん」
「ありがとうございます。でもどのみち決めてたんですよ。【勇者パーティー】に参加したとき、この旅が終わったら故郷に帰って静かに余生を暮らそうって………。結果は想像以上の事態になりましたが。それでも私の決意は変わりません」
グリフィンはいつもと変わらぬ温厚な表情で、しかしどこか疲れたような哀愁を漂わせる。
優しい彼の事である。殺伐とした冒険者ならびに戦争従事者の生活は、精神をさぞ摩耗させたことであろう。
「………そうか」
長い付き合いだ。それらを察知したハッカイはやれやれと肩をすくめ、苦笑する。
「おまえの医療魔術にはえらい助けられたからな。これからも一緒にやってけると心強かったんやけど、しゃあない。―――おおきにな、グリフィン」
そう言って、ハッカイは聳え立つ目の前の高層ビルを寂しそうに見上げる。
これら建造物こそが、この世界が最早ハッカイが知る世界ではなくなってしまったことを徹底的に痛感させるのだ。
「これで【勇者パーティー】も解散か………」
見上げた空に、胸中の諦観すら飲みこまれて消えてしまいそうな、そんな錯覚をハッカイは胸中に抱くのだった。
◆◆◆
かくしてグリフィンは故郷に帰った。
かつての北方軍事大国/イヴァンは都市開発が進み、機械的かつ近代的な街並みに変容こそしていたものの、しかし相変わらずの真っ白な雪景色は未だ色褪せることはなかった。
彼は片田舎で小さな診療所をはじめ、慎ましくも穏やかな生活を送っていた。
かつて【勇者パーティー】に所属していたという肩書きは風の噂として流れているようで、度々遠方から遥々患者が来訪し、わざわざ診察を懇願されることも少なくはなかった。
新しい時代。
新しい世界。
新しい固定観念。
時の経過と共に、グリフィンは自分らしい新たな生き方を見つけつつあった。
―――そんな矢先の出来事だった。
「………お久しぶりです、グリフィンさん。助けてもらえませんか!」
とある日の晩。閉院後の訪問者は、かつてのペンドラゴン王国【外交旅団】をはじめ、【連合軍】でも苦楽を共にしたペンドラゴン王国/元騎士団長。
そして、その腕の中に血塗れで蹲っていたのは他でもない。グリフィンがよく知る人物だった。
「――エルザ姫!?」
グリフィンは、驚愕を露にする。
◆◆◆
魔王城の最終決戦。異世界転生者/ブラック社長に敗北した【連合軍】は再編成され、現在の民間軍事会社/【解決部隊】の母体となった。
【連合軍】の長だったエルザ姫は、しかしその実力を高く評価され、異世界転生者/ブラックの右腕に就任。無論、それは彼女の意向ではなく、連合軍や無辜の民を半ば人質を取られた結果であり、致し方なくの決断。
エルザ姫は新世界創成のために、その手腕を遺憾無く発揮することになる。
とはいえ当初。
急速な文明の発展は、世界の治世をより良い方向へと向かわせた。
王族・貴族制の廃止により、既得権益から派生していた社会の闇が抜本的に払拭され、すべての民が平等の上、労働に従事し、かつその働きに応じた収入や地位を得る。
旧社会上層部の人間たちには辛酸を嘗める者も多かったが、下々の民からすればマイナスなどあるはずもなく、むしろ待遇への好転により、異世界転生者/ブラック社長を大いに賞賛する声が大多数を占めていた。
勿論、それは窓口となった“救国の聖女”改め“創世の女神”/エルザ姫の人徳による賜物でもあり、彼女がいなければブラック社長が世界を掌握するのはまだまだ先の事だったであろう。
エルザ姫もまた、異世界転生者/ブラック社長には当然懐疑的だったものの、しかし民衆が幸福な方向へ進んでいるならと自らの行いに納得しようと務めていた。
しかし、それも束の間だった。
ブラック社長は、世界中の人々に対して社会への奉仕を求めていた。
すなわち、労働の義務。
労働の生産性だ。
当然、様々な理由でそれらに適応できない人間も社会には必ず一定数居るものである。
身体的問題。精神的問題。エトセトラ……。
しかしブラック社長は、そんな人達の存在を許さない。
ブラック社長は資本主義上の弱肉強食を大いに崇拝する思想の持ち主だ。
弱者は淘汰されるべき。
無能は駆逐されるべき。
非生産的文化は排斥すべき。
そんな男が頂点の統一国家。
それはまさに地獄絵図だ。
株式会社ハピネスはそんな非生産的な人々を文字通り、社会に還元するため、ある方策を施行する。
その名も、魔解炉送り。
その燃料となるのは、生命体。
基本的には、魔物と魔族だ。
魔界の生命体は、人間界の生命体と比較して純度の高い魔力を内包しており、低コストハイリターンが確約されている。
よって【解決部隊】をはじめ、【冒険組合】の冒険者たちは“経済による平和の世紀”を迎えた現在でも、魔物討伐を生業のひとつとしており、昨今は魔界進出にも注力している。
そして当然、それは人間でも代替可能だ。
“魔解炉送り”とは、いわば死刑宣告。
その命を文字通り、世界のために費やせという非人道の政策そのものだ。これに強く反発したエルザ姫は、株式会社ハピネス内の有志たちと共に【王女派】と呼ばれる反体制組織を結成。
その横暴を食い止めるため、世界に反旗を翻す。
しかし、それこそが残酷な運命の始まりだった。
【王女派】を取り締まるのは、当然【解決部隊】。
そして【解決部隊】には飛鳥とハッカイが所属しており、且つ彼等は主力部隊の隊長相当。
無論、天下の大逆人となったエルザ姫に差し向けられるのは、その武勇からしてかつての勇者パーティの面々こそが適任だった。
かくして【解決部隊】に所属する飛鳥とハッカイは、世界を股にかけてエルザ姫を執念深く追い回す。
そしてついに、かつての軍事大国だったイヴァンへと追い詰めるのだった。
奇しくも、逃亡先がグリフィンの故国であり、彼が営む診療所も把握していたエルザ姫とその側近たちだが、しかしかつての仲間に迷惑はかけまいと距離を置こうと配慮する。
だが結末として、エルザ姫が【解決部隊】が差し向けた刺客によって、負傷。その治療を施すため、かつての仲間である医療魔術師/グリフィンに助力を求める形となってしまった。
「ごめんなさいねグリフィン。貴方を巻き込んでしまって………」
目を覚ましたエルザ姫が謝罪を述べる。
彼女たちが、グリフィンの診療所に訪れてから3日が経過していた。
快方には向かっているものの、エルザ姫の顔色は未だ青白く、静養が必要だった。
「いえ。僕もブラック社長の政策には思うことがありましたし、なにより姫様の命を救えて良かったです」
グリフィンの心の底から出た言葉だった。
冒険者になってから、常に出逢いと別れがあった。
当然、危険な職業だ。冒険の最中、仲間との永遠の別離は珍しいことではなかった。
何より、それらの前からすでに彼は“最愛の人”を喪っている。
「……貴方は以前と何も変わらないようね」
そんな背景を知るエルザ姫は、ホッと安心感を浮かべる。
「わたくしは変わってしまったわ。何もかもが変わってしまった。……ウフフ。なのに皆、未だにわたくしのことを姫様って呼ぶの。おかしいったらありゃしない」
苦笑。そこには哀愁と懺悔が混在していた。
ペンドラゴン王国の姫君。
救国の聖女。創世の女神。
そして、現在は世界の敵対者。
まだ10代の身でありながら、この短期間での立場の変容があまりにも目まぐるしく、彼女の胸中は常人には計り知れないものがある。
「姫様は姫様ですから」
グリフィンはそれでも尚、そんな彼女の根っこの部分を信じている。対面することで感じられるエルザ姫の人柄に、懐かしさと安らぎを感じるのだ。
「やめてよ。もうそんな時代じゃない。貴族制は撤廃されたの。今のわたくしは、ただのテロリストよ」
そして彼女は嘆息をつく。
「……みんな、変わってしまったわ」
「飛鳥とハッカイ、ですね」
グリフィンは躊躇なく、核心に迫る。
その言葉に、エルザ姫はコクリと頷いた。
「仲間を殺されたわ」
彼女の表情は、言葉に反して穏やかだった。
「でもわたくし、わからないの。彼等を恨む気になれなくて。殺された人々も、わたくしにとって決して安易な命ではなかったの。それこそペンドラゴン王国からの臣下も居たわ」
彼女は複雑な胸中を吐露する。
「それでもやっぱり、飛鳥とハッカイを恨む気にはなれないの」
「姫様は優しすぎるから」
グリフィンは優しくも、悲痛が雑ざった表情をする。そんな彼に視線を向けながら、エルザ姫はまた苦笑する。
「その言葉。そっくりそのまま貴方に御返しするわ」
そして彼女は、再びタメ息をついた。
「こんなときタローが側に居てくれたら、どうしてたのかしら……」
エルザ姫は、ふとかつて傍らにいた“人類の希望”を夢想する。鬱陶しいほど情熱的で、そして誰よりもも圧倒的に頼りになった存在。
そんなタローは今、隣にいない。
だがその答えは明白だった。
「戦うでしょうね。かつての仲間といえど、容赦なく。そしてしつこく姫様に求婚する」
グリフィンは断言する。そして苦笑した。
それに釣られて、エルザ姫もまた笑うのだった。
◆◆◆
エルザ姫たちとの再会から一週間が経過した頃、事態は急変する。
グリフィンの診療所周辺を警備していた民間人に扮した【王女派】の諜報員たちが忽然と消息を絶つ。
そして町には【解決部隊】の市街警備員たちが明らかに増員。物々しく自動小銃を携えている上、彼等に付き従う魔物の姿も散見される。
「囲まれています」
元騎士団長が警告する。
部下たちに警戒体制を通達し、すでに総員配置済み。
「ここは危険だ。すぐに移動の準備を」
グリフィンは久方ぶりに杖を取る。
戦闘の予兆。久しぶりの感覚に胸中は複雑だ。
「【王女派】の各方面の人脈はすでに差し押さえられている可能性があります。私の大学時代の友人が外交官をやっていて、現政権に懐疑的な姿勢を持っています。彼に協力を仰ぎましょう」
グリフィンの申し出を、エルザ姫たちはすぐさま受け入れる。
かくして、彼等は【解決部隊】が敷く包囲網からの脱出を決行する。
◆◆◆
囮として、影武者を搭乗させた車を市街地に走らせる。
その間に本物のエルザ姫一行は、森林地帯を馬に乗って駆け抜けていた。
舗装道路をはじめとする人工的な手入れが施された陸路は【解決部隊】が押さえている可能性があるため、獣道同然の閑道を使い、迂回する。
急速な文明の発達により現代的となったこの世界だがまだまだその年月は浅く、未だに中世的な文化に触れると存外身体がまだまだその名残を覚えていることに彼等自身驚嘆する。
慣れない雪の林道ということもあり一抹の不安はあったものの、しかしはエルザ姫一行は外交旅団や連合軍に従事した謂わば皆、冒険者。これまでの経験則と培われた勘が、【王女派】一行に地元民顔負けの乗馬スキルを発現させる。
「見事な手綱裁きですね、エルザ姫!」
グリフィンは、白く染まった針葉樹群を掛けながら賞賛する。
「昔、凱旋中に披露したことなかったかしら?お姫様はお城に籠るだけが仕事でなくってよ」
エルザ姫は逃亡中の身とはいえ、今この瞬間を楽しんでいるようで、少し高揚した様子で返答する。
「懐かしいですね。幼き日の姫様は乗馬を覚えるなり、ペンドラゴン騎士団の軍馬に乗ってよく城下町に無断で飛び出していきました。……国王陛下や大臣によくどやされたものです」
元騎士団長が昔を思い出しながら、しみじみと語る。
「お転婆だったんですね」
グリフィンが柔和に微笑む。
「ええ、とても」
「ちょっと!昔の話はよしてよ、団長っ!」
エルザ姫の狼狽に、一行は和やかに笑う。
囮作戦による【解決部隊】包囲網脱出は上手く行っているように思えた。
しかしエリザベス=ペンドラゴン率いる【王女派】の追跡者たちは、元勇者パーティの面々。
すなわちエルザ姫の手口を重々承知していた。
――故に彼等の再会は、必然だった。




