最終話
やっぱり先週は更新できませんでした…………すんません
「…………クククククククク……」
突然怪しい笑いを始めたのは、先生とともに戦った謎の助っ人だった。
「ご苦労だったな。ドローチン・ヴェンよ」
一瞬、誰のことか分からなかった。隣を見るとセレナも首をかしげていた。
「……なぜ私の名前を知っている。自己紹介をした覚えはないぞ」
先生がそう言って初めて、ドローチン・ヴェンと言うのが先生の本名だったことを思い出した。
「……ああ、知っているとも。お前が赤子のころから、良く面倒を見てやったではないか」
「え……、先生の昔の知り合い?」
セレナが聞いたが、先生は僕たちの方を振り返ることすらしなかった。代わりに、再び戦いの構えを見せた。
「まあそういきり立つでない。十年ぶりの再会なのだ。積もる話もあろう」
「……十年以上昔に知り合った友などいない」
「まあ、そうだろうな、ドローチンよ。そなたはあくまで我が子のようなものであった」
「……誰だ。お前は」
先生が身にまとう魔力を一層強めて問うた。
「まさか忘れたわけではないだろう。この私、中央の魔王たるリュ―ファク・デ・ラミサールを!」
「な…………」
僕とセレナはそろって絶句してしまった。(この時グルーアルは意識を失って倒れていた)
なぜ中央の魔王が他の魔王を倒すために僕たちと共闘していたのか。なぜ、魔王と先生が十年来の知り合いなのか、なぜ…………。
答えの出ない問いが僕たちの頭の中で渦巻き始めた。おそらくこれらの問いの答えは間もなく与えられるのだろう。しかし、教えられて初めて知ったのでは、致命的に遅すぎるのだろうという確信があった。しかし、解答のヒントは与えられていなかった。…………僕達に答えを見出すすべはなかった。
僕達が時間を無駄にしている間にも、先生は行動を起こしていた。真横にいた魔王に向かって神速の抜刀術。あんな武器何所にかくしていたのだろうか。
しかし先生の斬撃が切り裂いたのは、魔王の残像のみ。僕たちの頭上に現れた本物は、余裕の表情で、僕達を一瞥。
「無駄だ。ドローチン。今のお前如きでは、私に勝つことはできない」
「黙れっ」
珍しく大声を発した先生は、すぐさま呪文を唱えて飛び上がり、魔王に尚も追撃を加えた。
「はっはっは。当たらんぞ。その程度の速度では」
対するに魔王は、先生の視認困難な連続攻撃をことも無げにかわしていった。
「勝てない……」
セレナが絶望の呻きを上げた。僕も同感。万全な状態の先生ならともかく、この時の先生は、魔王達との連戦で、激しく力を消耗していた。
「ひとついいことを教えてやろう」
先生の猛撃をかわしながら、軽く片手を一振りした魔王は、その手より強力な闇の魔法を放ち、先生を地に落とした。
「私がお前たちを援護した理由はな……」
こう前置きして、魔王は僕達を蔭ながら援護していたことを暴露した。道理で何もかもがうまくいきすぎるわけだ。
「……私は気がついたのだ。お前達人間どもが我々を全滅することが不可能なように、我々魔王もまた、人類を全滅することはできないと。私はこの世に生を受けて以来、ずっと人類の全滅を目指してきた。今までの魔王がなしえなかった、魔獣を作るという奇跡の術式を発見し、それを応用して魔王を作り出すことまでも成功させた。この時代にこれほど多くの魔王が生まれたのは、私の努力のたまものなのだよ」
「そんな…………」
僕は思わず呟いてしまった。魔王が作為的に魔王を生み出せるなど、人類にとってはとてつもない驚異だ。と言うかそれだけでも人類を全滅させられるのではないだろうか?
「しかし、この方法は、時間がかかる。一体の魔王を生み出すのに、二年もの歳月を要し、その間一切の魔獣を生み出すことができなかった。魔獣を生み出すためには、魂と対をなすもの――――私はこれを還魂と呼んでいるが……が必要だからだ。知っていたか?世の中の魔獣は、お前達が生を受けるときに、その身の内に魂を宿すために、同時にその還魂を生み出しているのだ。その還魂が集まって、魔獣が世界に現れていたのだ。そしてわたしはこれを狙ったところに狙った量だけ集める事ができた。ただそれだけのことで、私は好きな魔獣を私の手元に生み出すことができたのだ。と、話がそれてしまったな。とにかくだ、この方法で無数の魔王を生み出したところで、この広い世界の隅々まで、隈なく人類を探し出して、その命を絶つことは難しい。何人魔王がいてもだ。それはこの十年で嫌というほど分かった。そなたたち人間はゴキブリの如くしぶとい」
僕たちは余りの話に唖然として聞き入っていた。先生ですら、攻撃するのを忘れているようだった。
「しかし、私はあきらめる気にはならなかった。人類の全滅は、我々魔獣の夢なのだ。――――おそらくこれはこの魂と還魂の相性が良くないことが原因なのだろうが――――、私はそこで一つの方法を見つけた。徹底的に人類を消すための一つの方法。それは魔王の数では解決できない。量の多さでは解決できない問題なのだ。それなら、どうするか。答えは一つしかない。質を上げるのだ。たったひとつだけでいい。誰も想像できないような、圧倒的な実力があれば、或いはこの星もろとも、人が住めない環境にすることも可能ではないだろうか?二年あれば魔王を作ることができた。私の計算では、そのおよそ二百倍の量の還魂があれば、何かが生まれる。圧倒的な実力を持った何かが」
「……だからか。だから、人がたくさん生まれるように、人を殺す他の魔王を殺したのか。僕達を使って」
ここにきてようやく僕は答えにいたった。そしていずれにせよ、手遅れなのだと悟った。僕達に話すということは、既に僕達がどうしようと、この魔王の計画には影響を及ぼさないのだろう。おそらく、その強大な何者かを生み出すための魔法は、既に発動している。東西南北の魔王が消えた今、その魔法は貪欲に還魂をかき集め、いずれ人類にとって致命的な存在を生み出すのだろう。
「そういうことだ。すでに私の魔法は発動している。そしてお前たちにそれを止めるすべはない。たとえ私を殺しても、な。お前たちにこのことを教えたのは、他でもない。お前たちこそが、私の計画の最大の協力者だからだ。協力者に計画の内容を教えてやらない道理はないからな。特にドローチンには大分助けられた。魔王を生み出す実験をしている過程で生まれた失敗作で合ったにも関わらず、最終的には成功作以上の働きをしてくれたのだから。感謝しようじゃないか」
「く…………」
流石の先生も、悔しくて言葉も出ないようだった。まさか僕達が利用されていただけだとは。
「そういうわけだ。私はそなたたちに答えを教えると言う義理も果たしたことだし、そろそろ話を聞くのも疲れただろう。全てを知ったそなたたちには、まあ、念のため、死んでもらうことにしようではないか」
直後、僕達の周りに、闇の魔法の津波が生じた。僕たちを一気に飲み込んで殺す気らしい。
頼みの綱の先生は、余りのショックに、顔をあげてすらいない。
…………終わった。
僕達を波が呑み込もうとしたまさにその瞬間、先生が何か一言だけ呟いた。それは封印の魔法。魔王を封じるつもりだろうか、しかし、今の先生では、封印を成功させるだけの魔力は残していないだろう。相手が強大なら、封印はそれだけ難しくなるのだ。
僕の憶測は、百八十度間違っていた。
先生が封印したのは、僕達。より正確には、僕とセレナ。意識を失っている人間に封印はかけられない。しかし、ひ弱な僕達になら…………、先生なら朝飯前だったのだろう。
――――――以来、僕達はずっと、何所とも分からないこの石室に封印されていた。
時も分からぬまま――――――
これで完結。
出来れば近いうちにエピローグを書いてしっかり話を終わらせます。
のでまだ未完ということにしておきます。




