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十八話

 僕達の命運は決まった。

 そうやってあきらめざるを得ないくらいに、この時の僕達の状況はよろしくなかった。

 追ってきた二匹の魔王。東西の広い地域を治める、僕達には到底かなわないであろう敵が、すぐ目の前に迫っていた。

「少しでも時間を稼いで、せめてシリア達を生かすわよ」

 セレナが自分に言い聞かせるように呟いた。この段階で、彼女も生き残ることをあきらめていたのだろう。グルーアルも、僕も、逃げることをあきらめ、魔王達に一矢報いるべく、戦闘態勢に入っていた。もとより僕達が地を駆けるスピードと、魔王達が空を滑空するスピードでは、勝負にならない。

「フフフフフふ……、さっきのようにうまく逃げられると思うなよ。この私にかかれば、お前たちなど……」

 東の魔王が、いびつな形の口をさらに歪めて僕達を睥睨した。

「そんなことよりも、どういうことだ。さっきよりも随分と人数が減っていないか?北の魔王の奴、殺りすぎだろう?」

「そのようだな。私達が喧嘩をしている間に、彼においしいところを持って行かれたようだ」

 どうやらこの二匹の魔王は、レイ達が既に殺されたのだと思っていたらしい。僕たちは、あえて本当のことを教えようとはせずに、いかにも悲しみに暮れている風を装った。

「さて、ガキ二人におっさん一人よ、魔王の領地に侵入したからには、それなりの覚悟ができているのだろうな……?」

 東の魔王の言葉に、グルーアルが「おっさん……」などと呟いていたが、僕たちはそんなことを気にする余裕はなかった。

「code:1400b・我が意思の支配の下、水よ来たれ」

 セレナが真っ先に魔法を唱えた。

「code:9233a・to1400b・塗り替えよ。支配よ我に。世界の全ては我が意のままに……」

 東の魔王が素早く魔法を唱えると、セレナの()んだ水は瞬く間に消し去られた。やはり僕たちでは勝負にならないのだろうか。

 セレナと魔王が魔法を唱えている間に、西の魔王が襲ってきた。巨大な翼を広げると、僕達とはそもそものサイズが違った。僕達の胴体程もある太くてがっしりとした腕が、真横になぎ払われた。

 すぐ後ろでセレナが魔法を唱えていたために、僕たちは避けるわけにはいかず、グルーアルと僕が二人がかりで押しとどめた。グルーアルは既に人ならざる容姿となり、いつか戦った黒服の男達と同様の、人間の枠を超えた筋力を有していたが、それでも防ぎきるのは困難だった。

 一撃を受けただけで意識がブラックアウトしそうなくらいの衝撃を受けた僕は、続けて放たれた左下からのアッパーをもろに食らった。

 素手での攻撃であったにもかかわらず、一撃で戦闘不能に近い状態まで追い詰められた僕は、僕と同様に殴り飛ばされたグルーアルを視界に収めていたが、とても援護に回る余力はなかった。

 セレナはいつの間に習得していたのか、cランクの中でも割と上位の魔法を放っていたが、それすらも、東の魔王に軽い傷を負わせただけで、逆にセレナが力を使いはたしてその場に倒れこんでしまった。やはりかなり無理をしたのだろう。普通は僕達の年ではcランクの下位の魔法が限界である。

 僕もせめて傷だけでも負わせてやろうと思い、油断しまくっていた東の魔王に手持ちの剣を投げつけてやったが、胸を浅く切り裂く程度だった。

 絶望的な状況だが、しかし僕は心の何所かで期待していた。何をと言われれば、何とも答え難いのだが、僕達はここまでやたらと幸運に恵まれていた。まだ何とかなるかもしれないと思っていたのだった。


 実際、救いの手は差し伸べられた。



 僕達の存在意義はなんだったのだろう。時々、そう思うことがある。

 それほどまでに、強者同士の戦いと言うのは、僕達『中途半端な実力者』の介入を許さない。

 北の魔王と戦っていたはずの先生が、驚異的な速度で戻ってきたのだった。それも、仲間を連れて。

 どうやら先生自身も誰なのかわかっていないようだったが、先生とともに二匹の魔王と対峙しているのは、先生並、下手をすれば先生以上かもしれないというほどの圧倒的強者。二匹の魔王が目に見えて押されていた。僕たちは戦いの余波だけで殺されかねないような、別次元の戦いを見せられた。僕達が一つの呪文を詠唱するのにかかるのと同じくらいの時間で、何十もの魔法が同時に放たれ、それらを的確に見切り、かわし、迎撃してゆく。

 強者同士の戦いは、凄まじい速度で展開してゆき、あっという間に勝負がついた。

 何の危なげもなく勝利した先生を見ると、僕たちは本当に何か不思議な力が宿っているのではないかとすら思えてきた。――――僕たちは運が良すぎだろう。

 むしろかなり危険なこぼれ球を頂戴した僕たちの方が危なかったのだが、こちらも何とか無事に生き残ることができた。この段階で、僕は自分達の幸運を疑うのをやめていた。

 なんという奇跡だろう。討伐不可能とさえいわれていた五匹の魔王のうち、四匹がこの世からいなくなった。人類の驚異は去ったと言ってもいいだろう。このまま中央の魔王が現れても、先生と謎の協力者がいれば、問題なく勝利を収めることができるだろう。

 僕達がサプレサーになる必要なんかない。どう訓練を積んだって、先生達のような異常な実力になどなりっこない。そう僕達に確信させるだけの、圧倒的な壁を感じた。この二人を前にすれば、セレナの才能など取るに足らないものに思えてきた。

 この戦いで、僕は命を失わずに済んだ。むしろ失ったのは、サプレサーとしての自信だろう。

 僕でさえこれほどまでの自信喪失を感じていたのだ。まして普段から自信たっぷりのセレナが受けたショックはどれほどだろう……。そう思ってセレナを見れば、彼女は涙を流していた。うれし涙を。

「勝った。生きてるよ……ラルク」

「そ、そうだね……」

 ショックを受けていたのは僕だけだった。セレナはむやみやたらな自信家では無かったのかも知れない。普段は、自信たっぷりにふるまってはいたが、その実、自分の実力をしっかりと分かっていたのかも知れない。

 その点、僕はなんだったのだろう。僕が一番傲慢だったのかも知れない……、そんな負の連鎖が僕の心を満たしていった。本来なら、どれほど喜べる状況か。身に余る幸運。およそ人が一生のうちにえるであろう幸運を、この日一日だけで全て体験したというくらいに幸運が続いたのだから。



 実際、この時すでに僕は一生分の幸運を使い果たしたのかも知れない。

次か次の次辺りで完結予定

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