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十五話

 天にも届かんばかりの巨大な樹木が、鬱蒼と生い茂っていた。

 まだ春だと言うのに、競い合うようにして生えている無数の葉は、貪欲に太陽の光を貪り、地上に一切の光を届かせまいとしていた。

 流石に魔王の住処だけあって、魔獣の人口密度?がやたらと高く、未だ正午にもならないというのに、朝から倒した魔獣の数は三桁にも上ろうかと言うほどだった。

「はあっ!」

 僕が気合とともに狼モドキを切り倒し、僕らは尚も奥深く、魔王がいるであろう樹木のドームの中心地を目指して歩いていった。

 のんびりしている暇は無かった。

 僕たちは何としても、魔王が異変に気がつくまでに魔王の元へ辿り着き、他の魔王が呼ばれるよりも早く魔王の息の根を止めなければならなかったのだ。

 万が一の時のために、ヘイドとグルーアルが野営地に残り、転移魔法で他の魔王達がやってきた兆候が現れたら、僕達に知らせる仕組みになっていた。

 この時は、まだ、ヘイドから渡された魔法のペンダントは形を保っていた。

 ウィルは時々風を操作して、僕達の臭いを誤魔化し、魔獣や魔王に気づかれないようにしていた。

 レイは強化の魔法を全員にかけて、少しでも早く進めるようにし、僕は襲ってくる魔獣たちを手早く始末していた。

 セレナも僕と同様に、襲ってくる魔獣の対処。先生はと言うと、魔王との直接対決のために力を温存していた。

 シリアは、僕達の疲労を緩和する呪文をほとんどひっきりなしに唱えていた。

 そんな状態で、僕達は静かに魔王の元へと向かっていた。

 襲ってくる敵の対処にも慣れてくると、僕には別のことを考える余裕が生まれてきた。

 とはいっても、とりたてて考えることもない。

 魔王との対決のことを考えても緊張するだけなので、なるべく考えないようにしていた僕は、ここまでの道程を回想しようとして……、驚くほどあっさりと来てしまったと改めて思った。

 僕達の隠れ家から百キロを超える遠方までやってきたというのに、何もかもが先生の予定通りに運び、道中事件に遭遇することもなく、出会った魔獣もサタンレベルのやつはおらず、せいぜいが単体のオーガで、僕たちは特に油断して危険な目にあうこともなく、無難に倒して、無難に進んできてしまった。

 これはひょっとすると凄いことなんじゃないだろうか?

 普通、魔王の住処に侵入をするとなっても、それ以前に何かしらのトラブルに巻き込まれたりと、なかなかうまくいかないものなのだと僕は聞いたことがあった。

 ただでさえ、魔王の住処の近くには魔獣も多く、未確認の魔獣に出くわすことも少なくないのに、加えて、魔獣の密集地に生じる独特の負のオーラというか、空気と言うかが、人間の判断力を鈍らせたり、ストレスを与えたりして、不注意による思わぬ事故を引き起こさせたりすると言う話は良く耳にする。

 それなのに、僕らは誰一人として、これといったトラブルも起こすことなく、魔王の住処の奥深くまで来てしまったのだ。むしろ何も起こらなさ過ぎて、印象にほとんど残らなかったくらいだった。

「ラルクっ、目ェ覚ませぇ」

 後ろから、レイにどつかれた。

「もうすぐ魔王とご対面かもしれないとよ。気ぃ引き締めていこうぜっ!」

「もうそんなところまで来ちゃったのか……、何も無さ過ぎて正直拍子抜けだね」

「まあ、いいんじゃねえか?どうせ本番はここからだしよ。それにこんなにうまくいっていたら、本番も案外あっさり言っちまうかも知れねぇぞ」

「そうよ。何にせよ油断している場合じゃないわよ。ラルク」

 セレナも表情がいつになく真剣だった。

 僕も再び気を引き締めて、周囲の気配を探ることにした。

 と、その時、僕達の周囲に生えていた木々が、突然震えだした。

「強力な風の魔法だ。魔王の魔法だよ!」

 ウィルが叫んだ。

 直後、凄まじい轟音を立てて、僕達の周囲の木が一斉に僕らの方に倒れてきた。

「よけろっ!」

「無理だっ!」

 レイと僕がわずかな時間差で叫んだ。

 レイがとっさに避けようとしたが、今まで木の周りでしか吹いていなかった強風が、突如僕達の周りで吹き始めたのだ。

 余りの風の強さに、僕たちはまともに立っていられなかった。これでは木々を避けることは出来そうもない。

「やばいっ!」

 レイが叫んだのとほぼ同時に、先生の魔法が発動された。

 先生が発動した強力な闇の魔法は、先生の周りから四方八方に放出され、僕達に襲いかかってきていた木だけを的確に飲み込んだ。

 飲み込まれた木は跡かたもなく消えていた。

 余りの威力に、僕達は逆に動揺してしまったが、目の前に二つ頭の狼が降ってきたことによって、我に返った。

「グルルルルるるるる……」

 獣のような唸り声をあげていたそれは、余り知性的とは思えない雰囲気を纏い、口からは大量の唾液を滴らせていたが、気配からして、魔王に間違い無かった。

 とっさに僕たちは飛びのいた。

 そんな僕達を逃がすまいとして、魔王は一番遅れたシリアに飛びかかった。

 しかし、先生が新たに発動した魔法によって、魔王の行く手が塞がれた。

 そのすきに僕たちは十分に距離をとり、すぐさまシリアが呪文を唱えた。

「code:9342b・何者も逃すまい。そこにあるものすべてを捉えよ」

 ほぼ同時にセレナも魔法を唱えた。

「code:9110a・力を固めよ。そこにあるが如く、枠よ固まれ」

 シリアが教頭と魔王とをまとめて結界の中に閉じ込め、セレナがすぐさまそれを強化。二人は結界の維持に専念し、後は僕とレイとウィルが、結界に近寄ってきたり、セレナ達を攻撃しようとする魔獣をたたけば良い。

 シリアとセレナはひっきりなしに魔法を追加し、補強していた。これで結界の中と外の世界は、ほぼ完全に分離されたはずだ。結界の中の状況は外にはほとんど漏れてこない。事実結界の中からの光さえもが遮断され始め、結界が真っ黒に近づいてきた。音・光・魔法の完全な遮断。セレナ達はただそれだけに集中し、中のことは完全に教頭先生に任せる。

 こうなると中の様子は見えないので、僕たちはただひたすらに先生の勝利を祈りながら、自分の役目を果たすしかない。あくまで僕たちは脇役なのだ。

 僕が大きく深呼吸して、近くから集まってきた魔獣たちを睨みつけた時、黒く染まった結界の中では、実力において僕達の遥か高みにいる者たちの戦いが始まろうとしていた……。

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