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【完結済み】愛し子のトリセツ  作者: 西九条沙羅
第二章

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30/50

学園での出来事を聞いた王妃の計らいで、レティシアとアビゲイル、そしてフランシスカとベルティーナは、王宮の貴賓室で休んでいた。


ベルティーナだけが王妃に呼ばれ状況の説明に向かった。


フランシスカは王宮で役職を持っている父親が迎えに来て、屋敷へと帰って行った。



レティシアとアビゲイルは、貴賓室でただ待っていた。




(何を?)



レティシアは、漠然と考えていた。


私はここで何をしているのだろう。 何を待っているのだろう・・・。




学園の応接室から、早足で馬車へと乗り込む時、何人かの生徒とすれ違った。

彼らの目が多くを語っていた。


「何もしてくれないの?」

「何もしてくれないの?」



(妖精姫様って、何が出来るの ———— ???)



レティシアの不安に、妖精達が共鳴しようとした瞬間 ————。




「レティ」



レイラがレティシアの腕をぐっと掴む。


レティシアがハッと顔を上げると、そこには真剣な顔をしたレイラが居た。



「お母様・・・」

「しっかりしなさい。あの森での日々は何だったの?

妖精達が戸惑っているわ。落ち着いて」



レティシアは、何か分からない物が込み上げてくるのを感じた。

それを表わすかの様に涙が込み上げてくる。


しかし泣くことをレイラが許さない。

レティシアは深呼吸をして心を落ち着かせる。


よくできました、という様にレイラがレティシアの頭を撫でる。


「さ、アビゲイルも帰りましょう。

お父様は今日も帰れないそうだけど、当分は二人とも学園を休むようにとの伝言を受け取ったわ」



レイラは二人を急かして、公爵邸へ帰る準備を促す。



「レオは、まだ帰ってきてないの?」


レティシアの問いに、レイラは眉を下げただけで返事をしなかった。

しかしそれだけでレティシアは意気消沈した。







(何が出来るの ———— ???)




レティシアは自室で考えていた。


しかしもう既に分かっているのだ。


自分には何も出来ないと・・・。



「愛し子」とは、ただ妖精に愛される魂を持っているだけ。それだけなのだ・・・。


異国の聖女の様に怪我を癒す事などできないし、事件を解決することも出来ない。


レティシアは、自分の髪の毛で遊んでいる妖精達に視線を向ける。

「きゃっきゃっ」と子供の様に楽しそうに遊んでいる妖精達。

彼らはレティシアと感情を共有するだけで、都合よく使えるわけではない。

レティシアが幸せなら、生きとし生けるものに恵みを与える。

レティシアが不幸なら、不幸の元凶へと無差別に攻撃する。


人間とは違う世界で生きる、違う感覚を持ったものなのだ。



レティシアはベッドで横になり、ただ心を落ち着かせて、妖精達が動揺しないように心掛けた。

ただそれは、心の悲鳴を聞かなかった事にし、蓋をするだけ。

ただそれだけ。







うつらうつらとしていたのか、レティシアは微かな物音で目を開けた。

どれぐらいの時間が経ったのか。

気が付くと、目の前には自分を優しく見つめるアメジスト色の双眸。



「レオ・・・」



目覚めたレティシアに気づいたレオナルドが、優しく微笑みかける。

彼の名前を呼ぶと、自然と涙が溢れてきた。



ベッドから起き上がって彼にしがみ付く。



「ううぅ・・・」



溢れ出る涙を堪えきれず泣いてしまう。


(ヤバい・・・。落ち着かなきゃ!)


焦れば焦るほど零れ落ちる涙。



『レティシア、悲しいの~?』

『レティが悲しいと、悲しいの~』

『ぐすん・・・』



「皆、とりあえず落ち着いて。

レティは悲しいわけじゃないんだ。

だけど、心を落ち着かせる為にも、俺たちを二人っきりにしてくれないか?」



レオナルドが妖精達を諭す。

レティシアはびっくりして涙が止まり、レオナルドの顔を見上げた。

何故ならば、リンゲンの人間は魔力が無い為、妖精が見えないからだ。


そして顔を上げたレティシアが見たものは、



全く妖精のいない空間に向かって話すレオナルドだった・・・。



「レオ、誰に話してるの?」

「え? 妖精。 ・・・いない? この辺・・・」

「いないわ」

「惜しいな! この部屋にはいっぱいいそうだったから当たりを付けたんだけどな。

この辺?」



そう言って、違う空間を手で撫でる。



『キャハハハ!』

『レオナルドのバカー!』



妖精達は楽しそうにレオナルドの周りを飛び始めた。


「この辺?」


今度は、レオナルドが示した所から、妖精達は「キャッキャ」と笑いながら逃げる様に飛び回る。

妖精のいない空間を指すレオナルドは、彼の顔や体にいっぱいくっついている妖精に全く気付いていない。



レティシアは涙を拭いてレオナルドに笑いかける。


「バカ」




レティシアが笑ったのを見て、レオナルドは破顔した。







上半身をソファの肘置きで支え、ソファに横向きになって足を投げ出すレオナルドの上に、被さるように抱き着くレティシア。

レオナルドは今日学園で起きた事を聞きながら、レティシアの髪を優しく梳く。

レティシアはレオナルドの胸に頭を置き、耳を押し付けて彼の心音を聞く。

時々自分の頭頂部に、レオナルドがキスを落としてくれるのを感じながら。


「怖かった。

私が解決できると信じて縋ってくる人も。一体私に何が出来るのかと、怪しんだ目を向けてくる人も。

全く違う感情だけど、どちらの目も怖かった・・・」


レティシアは言葉にする事で、自分の中に溜まっていた沈殿物に名前を付けていく。



彼女は気づいたのだ。


何も出来ないのに押し付けられる期待。


期待に応えられないんじゃないかという疑念。





そして、失望。




この半年で、生徒の中にも気づいている者もいるのだ。レティシアは「愛し子」であるけれども、自分達と変わらない、人間だということを。


それが正しい。


しかし心の奥底では、”天候さえも左右できる妖精姫”なら、出来ない事は無いのではないかと。

そして自分達が助けを必要としている時に、助けて貰えないだけで勝手に失望するのだ。


自分達と同じただの学生だと思いながらも、未曾有の事件の時に、”妖精姫”が王太子と一緒に現場に向かわない事に不満を持つ。

人間の考える事は、たいていが自分本位なのである。



「それについては童話の影響があるからね、一長一短では片付かない。

少しずつ、俺と模索していこう、ね?」



レオナルドはそう言って、レティシアのこめかみにやさしくキスをした。



レティシアは、心の中でため息を漏らす。

彼女が一番恐れているのは、愛するレオナルドが自分に失望する事だった。

彼の横に堂々と立ちたい。だけど、自分には何も出来ない。

トリーアまで行って、疲れている筈なのに、学園での話を聞いて会いに来てくれた。

嬉しいのに、自分が彼の足手纏いになっている気がして、レティシアの心は塞がっていく。



しかしレオナルドは、そんなレティシアの感情の揺れに気付かず、トリーアで見たものを話しだした。


今回トリーア港では、五箇所で同時に爆発が起きたことが分かった。それは、燃え残った残骸で分かったのだ。そして、それが燃える前の物を見た者が生存していた。湾岸をパトロールしてたトリーア港の民兵が、見たことも無い物を発見し、王国より派遣されている警吏に報告したのだ。


「筒状の物がいくつもくっつけられていて、上に小さな時計が付けられていたそうだ。

そして爆発が起きた場所には、それが燃え残っていたそうなんだ」

「誰も何もしていないのに、それが急に爆発したの?」

「そうなんだけど、その五つの物は、同じ時間に急に爆発したそうだ」


未知の物の正体が分からず、王宮では多くの専門家が招集されたが、未だに解決の糸口は掴めていない。




「これからすぐに王宮に戻らないといけない。

もしかするともう一つの港にも行く事になるかもしれない。

レティシアは危ないから、当分公爵邸からは出ないようにして欲しい」


レオナルドがレティシアの目を見て、くぎを刺す。



レティシアは未曾有の事件に背筋が凍り、ブルっと身震いした。



レオナルドはきつくレティシアを抱き締めた。



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