第六十話 天之日矛
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天之日矛は矛というよりも斬馬刀といった方がいいだろう。
真っ赤な穂が付いており、柄からは荊棘のような綱が出ている。
俺がこれまで出会ってきた武器の中で天之日矛が最高最悪の武器だと思う。
最高の理由はやはり攻撃力だ、自分で斬っていて引くぐらいよく切れるこの矛は、魔法障壁だろうが、ミスリルだろうが関係ない。
俺が天之日矛を買うときに闇市のように裏のルートを使った。俺は運が良かったと思う。
もし、公になったら間違いなく王家に没収されるからだ。それぐらい恐ろしい武器だ。
最悪の理由は天之日矛の使い方に関係する。
天之日矛は柄から荊棘のような綱が出ているのだが、これを腕に巻いて使わなければならない。イメージはキシリカの政宗と同じだ。
しかし、天之日矛は魔力ではなく多分生命力を消費していると思う。
多分なのは説明書がないからだ。しかし、使うほど疲れていくし、魔力が余っているのに動けなくなってしまうので俺は天之日矛を使うのを控えている。
そして、俺は今ダンジョンマスターとタイマンをしなければならない。さすがに天之日矛を使わなければ、負けるのは俺だ。
それに、2人とも俺の姿を見ることができない。ちょうどいいだろう。
「おい、よだれ出てるぞトカゲ野郎。よくも俺のかわいいかわいいキシリカを吹き飛ばしやがったな。さっさとくたばれ」
『コロスゥゥゥゥゥ』
俺は何を話しているか分かるが、魔竜人は俺の話は理解していないようだ。全く会話が成立していない。
どっからどう見ても通じる相手には見えないけど。
こんなに切羽詰まった戦闘なのに、何故か落ち着いて考えることができる。こんな意味がないことを戦闘中に考えたことはないのにだ。
前回の魔竜人戦で俺はキシリカのように、第三形態になる時の蒸気で吹き飛ばされて瀕死になった。その時の姿で何か思ったのかもしれない。
しかし、まだそれが何なのかわからない。
まぁ、後でいいだろう。先にこいつを倒さなければな。
「よし、ボコボコにしてやる」
最初に天之日矛の荊棘を腕に巻き付け、生命力を吸わせる。それを火魔法と風魔法と土魔法を複合した爆撃を作り出し、それを付与して魔竜人の障壁を関係なしに振り落とす。
魔竜人はあっさり砕けた障壁に驚きつつも、咄嗟に体が動いたのか左腕を盾にした。
それはさすがに悪手だろう。
残っていた左腕は肩ごと爆撃によって吹き飛び、右腕と違い跡形もなくなったので左腕だけが襲ってくることはない。
俺も少しその衝撃を喰らったが別にそこまで気にしなくていいだろう。
両腕がなくなった魔竜人の攻撃方法は魔法しか残っていない。しかし、魔竜人の最大の攻撃方法は魔法なので、油断はできない。
俺は幻影魔法を使って姿を消しながら後方に下がる。それから生命力をまた天之日矛に注いだ。二日酔いの気分だ。
魔竜人は回復魔法を自分の腕にかけるも止血程度だ。これは魔力がそれほど残っていないので、攻撃魔法に残しているのだろう。
腕を治して、魔力を空っぽにするバカなら良かったのに。
それからふわっと風が来てからこっちを見た。どうやら探知魔法を使ったようだ。
だが、近づいてこない。相当天之日矛を警戒している。確かに今の俺は天之日矛で斬る以外の攻撃はほとんど意味をなさないだろう。
まだ、魔力は半分以上残っているので魔法で攻撃しても通じるだろう。しかし、それは博打に近いので今は使わない。
そこで俺は魔竜人に向かってケラケラ笑った。
「ハハハハハハ!お前ビビってるのか?雑魚が!」
俺は挑発をする。話は通じないと思うが馬鹿にされていることくらいはわかっているだろう。馬鹿にされて近づいてくるのを誘うのだ。
それに、挑発はちゃんとした戦略なので、別に俺の精神がおかしくなったわけではない。
『ギャアアアアァァァァ!!!!!』
魔竜人は耳に響くような声で叫ぶ。俺の超翻訳を通して聞いても叫んでいるように聞こえたので、本当にただ叫んだのだろう。
だが、そこから動かない。なかなか頭の良いやつだ。しかし、ムカつかせるのには成功したようで、一歩も動かずに圧縮された火の玉を俺に撃ってきた。
そこで、その火の玉に水魔法で作った大きな水の玉をぶつける。すると、大きな水蒸気爆発が起きた。
俺はそこで、さっきキシリカが飛ばされた時に思ったことが何なのかわかった。
それは魔竜人が水魔法を使っていることだ。
水蒸気を魔法で作る際に必要なのが火魔法を水魔法だ。魔竜人はドラゴンに分類されるので火魔法が使えるのは当たり前だ。
しかし、水魔法が使えるドラゴンは一種類しかいない。それは水竜だ。
どうやら魔竜人はドラゴンの中でも水竜に分類されることに俺は気が付いた。
魔竜人が水竜だと気づいたことにより、その苦手属性もわかる。
俺は何も言わずに風魔法を使いかまいたちを作り放つが、障壁に弾かれる。しかし、少し怯んで後ろに一歩下がった。その間に接近して障壁を叩き割る。
右手で天之日矛を持っているので、左手で風魔法を使い球体の台風を作る。
それを魔竜人の腹に叩き込んだ。
その叩き込まれた魔竜人もなんとか俺に攻撃しようと、氷で作った剣の先を尻尾につけ振り回して攻撃してきた。
その速度は身体強化を行なっているのか、ものすごい速度で振り回す。
それを天日矛で受けるも、受け流すことができず吹き飛ばされた。
もう満身創痍の魔竜人への最後のトドメが届かない。
転移魔法を無意識に唱え、魔竜人の背後に移動をする。それも察知され一撃を入れると同時にこっちも攻撃を受けるということを何度も繰り返した。
「おい、お互いもう限界だろう?次の一撃で決めないか?」
俺は魔竜人に話しかける。
もう天之日矛に生命力を吸われすぎてもう立つのもギリギリだ。それは魔竜人も同じだろう。
魔竜人も俺に向けて頷き返す。
あんなに気持ち悪かった魔竜人も今では勇敢な戦士に見える。なんて俺は単純なんだと思いながらも次の一撃に集中し直す。
1人と1匹の間に数秒静かな時間が流れる。
すると、俺が土魔法で作った壁が少しだけ崩れ、地面に落ちた。
それと同時に俺たちは動き出し、俺は魔力のほとんどを使い風魔法を使い天之日矛に付与をする。魔竜人は足以外の体に氷を魔法で作り、槍のようになって突っ込んできた。
パンッと音がなり、またもや静寂が起きる。しかし、それも一瞬で終わり、魔竜人の氷が砕けて倒れ込んだ。それと同時に体が光った。これが恩恵なのだろう。
まぁ、これは後で確認しよう。
1人で納得をして、振り返るとそこにはもうドロップアイテムである魔竜人の魔石しかなかった。
勝敗はどうやら魔力量が関係していたのだと思う。最後の魔竜人の一撃は魔力量が残っておらず、強度も槍の長さも全く俺に届いていなかった。
やはり、ロメオが魔力量を減らしてくれたおかげで勝てのだろう。
「はぁ、疲れた。キシリカ達のところに行かないと」
天之日矛を空間魔法に直してから、土の魔法を消して、2人の方に向かう。転移魔法はもう魔力がなく、使えないので100mほど歩いて行かなければならない。
そこには仰向けに寝ているロメオと体操座りをして顔を埋めているキシリカがいた。どうやら2人とも俺と同じように限界のようだ。
「終わったよ」
「え?あなたなの?本当に終わったの?良かったわ!」
キシリカは泣きながら俺に抱きつく。心配してくれていたようだ。
「ああ、本当に終わったよ。恩恵も貰った。帰ろうか」
「うん!」
「本当に終わったようだね。やっぱりエルくんは強いね」
「ああ、でも寝るぐらいなら助けに来てくれよ」
「いや、まだ腕動かないからね」
「そうだった。腕出せ」
俺はなけなしの魔力を使って回復魔法をかけてあげる。酷い火傷でもう少しで爛れ落ちそうだ。ギリギリだったな。
「じゃあ、帰ろうか」
「そうね」
「そうだね」
俺たちは魔法陣を探しに行く。キシリカが1番怪我が少ないので、俺を支えてくれた。
「ねぇ、あれじゃない?」
「そうみたいだね...あれ?」
「おい、嘘だろう」
そこには何故か2つの魔法陣があった。
1つは脱出用の魔法陣。
もう1つは次の階層に進むための魔法陣だ。
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