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騒乱のテーマパーク五

「あれが……」


 シルエットしか見えないが、それはまるで悪魔の様な雰囲気を醸し出している。その影が二つ。一人は短く、もう一人は長い髪を携えていること以外、どちらも同じような容姿だ。互いに背を預け、片腕を相手の腕に絡ませて恋人の様に手を繋ぎ、もう片方の手で何か、槍の様なものを携えていた。


 それが何かが分からないが、何を意味するかは俺にも分かる。


 それは死だ。


 逃げ出すか、身を隠すか。


 そう戸惑っている間に逃げられないような事態に陥る。


「よぉ、野蛮人ども。まだぁ、息があったとはなぁあ。まあ、息はできる程度にしといたけどなあ」


 天から聞こえるその声は明らかに女性のものだった。声の音程は高くはなく、声の所々は男っぽくしているが、それでも女っぽさは残っている。


 これで目を付けられた。


 やばい。今までのとは比べ物にならないほど。


 ここは戦略的撤退をした方がいいのではないか。


 そんな、俺の思いなど爪先ほども考えずに、唯は吼える様に叫んだ。


「誰だ! 魔法犯罪は重罪だぞ!」


「は、魔法もなにもわかんねえ、ガキが大きなくちたたくじゃねえか? でかく見せるのは胸だけにしときな。ネズミちゃん」


 その煽りに唯は何のためらいもなくのる。


「私が出まかせを言っているとでも? 丸焼きになってから試してみるか?」


 唯が明らかな怒りと共に、気を強めたように感じた。それを敏感に感じ取ったのか、相手は軽く口笛を吹いた。


「へえ。お前、俺と同じ魔法使いか? てっきりぼんくらかとおもっちまたぜ。凡人引き下げてるわりにゃあ、見どころアンじゃん。なあ、ちょいと俺と遊んでみねえか?」


 それはチャラチャラとした若い男が、繁華街で女をナンパするような。それでいて、相手にケンカを売っているような。そんな声色であった。


「断る。私はお前の様な不躾な女とつるむ気はない」


「はあぁあん。じゃあ、男ならいいわけだ。とんだビッチだな」


「キ、貴様、言わせておけば!」


 唯はビッチと言われたことが相当腹立たしかったらしく、わなわなと腕をふるえさせた。目を鋭くさせていた。


「お、いいじゃん。その眼。そうだよ、俺が味わいたいのはそういう目なんだよ。いい味出せそうじゃん」


「私もそういうの好きだな」


 今まで黙っていたもう一人がそう告げた。長い髪のほうだ。


「ねえ、目的を遂行する前に少しくらいおやつ食べてもいいんじゃない?」


「手あたり次第食うのは俺の趣味じゃねえが、これは格別だ。味わいてえ」


「たべちゃおう?」


「ああ、」


 瞬間。


 今までの視界にとらえていたはずの影が消えたかと思ったら、直後。俺たちの目の前に先ほどとは比べ物にならないほどの衝撃が地面と空気を介して俺達二人に伝わった。


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