十九話 騒乱のテーマパーク 一
「本当にやるのか?」
「ここまできて諦めるつもりか?」
約束の日。俺は殴られる覚悟でその場にいた。現在地は電車で少し行ったところにある遊園地だ。規模はそれなり。さすがに世界中に展開するようなテーマパークまでとはいかないが、日本ではそれなりに有名な場所だ。
入園ゲートの前。石畳で舗装された場所で二人並び立っているのである。それは傍から見ると、それはカップル同然ともとれよう。
「見方によってはかなり最低な男だよな……俺」
「いいじゃないか、両手に華だぞ?」
「二つとも今はバラになってるけどな」
おかげで下手な選択をすると流血沙汰になる。
「大丈夫だ。いざという時は私が解決する。魔法があれば全て解決だ。救急セットくらいすぐにでも作れるぞ?」
「せめて治癒魔法とかにしてくれよ」
「あいにく、そっちは専門じゃないものでな」
「だろうな」
はあ、とため息を漏らし辺りを見渡す。
休日と言う事もあり、来場者数はかなり多い。列車が駅に着いたのか、人の波の中がこちらへ向かって歩いてくるのがみえる。
そんな波の中で俺は見つけたのだ。
栗色の髪に首には黒いマフラー。身丈に合わない大き目な白のセーターを着用しているが、だらしがないということはない。むしろ、幼さを演じるにちょうどいいくらいだ。
だが、明るい服装に比べて表情は複雑だった。
それもそうだろ。
何せ、この状況だ。孔明とかならちゃちゃっと作戦を立ててくれるのだろうが、俺の脳内参謀部にはそこまでの策士がいないのだ。
どいつもこいつも頭を抱えていやがる。
「あ、レイ君!」
俺を見つけた瞬間、葵は顔をパッと明るくした。
その移り変わりがまた痛々しく見える。
「あ、ああ……」
葵が小走りになってやってくる。
だが、葵になんて声をかければいいんだ?
二人とも声をかけられずに、ただ黙り込む。
そんな中。
「さ、そろったことだし行くぞ」
唯がそういって俺の手を引き始めた。
「お、おいちょっと」
「れ、レイ君!? ちょっと待って」
こうして引きずられるようにして園内に入っていく。
「ねえ、これっていったい」
唯の提案でコーヒーカップに乗っているときだった。葵が不思議そうに聞いてきたのだ。
「ああ……これはだな」
できるだけ伏せたい情報を開示すべきか否か。俺は判断を迫られていた。
俺が葵に秘密にしてくれと頼んだことを彼女は簡単に言いふらしたりなどはしないだろう。
それについては信頼できる。
しかし、その信頼以上に俺は葵をこの厄介ごとに巻き込みたくないのだ。
「……」
「……やっぱり、その子と付き合ってるの」
俯きながらそうとう彼女。
確かに、今ここでそういって『お前など嫌いだ』などと言ってしまったら実に気が楽になるだろう。
彼女をこれ巻き込み核はない。これで彼女に怪我などをさせてしまタラ俺は一生悔いることになるだろう。
それだけは嫌だった。
だというのに、だというのに。
俺は『嫌いだ』。この簡単な三文字を口にすることが出来ないのだ!
「違うな。私は、こいつの彼女などではない」
悩んで頭を抱えているところに、唯が口を出した。
まるで、独り言のように。
「え?」
彼女は不思議そうにこちらを見つめている。
「でも、その手は……」
「やむを得ん状況なんだ」
唯が言葉を挟ませない様に、言い切った。
「だったら、もう少し話してくれても」
唯が話そうとしたところで俺はそれを止めた。
ああ、ここから先は俺の出番だ。
「今は話せないんだ。別に俺はお前を嫌いになったわけじゃないんだ」
諭すように話す。これで、信じてもらえなければそれまでだ。




