プロローグ
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「ブフォ…ブフォ…」
薄暗い空間に二つの荒い息遣いだけが響く。
部屋の奥に置かれた金色の宝箱を手にするためには、こいつを倒さねばならない。
二足歩行の牛の魔物。
ミノタウロス。体長はこちらの二倍ほどもある。
その両手には巨大な曲刀が二本握られていて、ダンジョンの仄かな明かりを受けて鈍く光っている。
対してこの手に持っているのは一振りのロングソード。
もう頼れるのはこいつと自分自身だけだ。
今までの全てを使ってこいつを倒さねばならない。
状況は五分。
負けてもいないが勝ってもいない。
もうどれほど時間が経ったのか。防具の下に着ているインナーが肌にべたっと貼り付く。
血なのか汗なのか、はたまた奴の体液なのかもわからない液体で全身が気持ち悪い。
ぴくり…とミノタウロスが動く。
片脚を引いて身体を沈ませている。ミノタウロスの下腿、大腿、股関節と筋肉が力を溜めているのが見える。
芸術品の様に張り詰めた筋肉に見惚れる。みちみちという音が聞こえてきそうだ。
全身をまるで弓の様に引き絞り、一歩ごとにダンジョンの床を抉りながら一気に肉薄してきた。
今までよりさらに一段階速い。
しかしそれすら見えている。
その速度から袈裟に振るわれた曲刀をロングソードで迎え撃つ。
左前方に踏み込み、金属が触れ合う瞬間に曲刀を受け流す。
そのままミノタウロスと交差した。
通り過ぎたミノタウロスの背中、今度はこちらから接近する。
奴ほどではないが、爆発的な加速で背に迫る。
ミノタウロスの体勢が悪いのを良いことに、全身で振りかぶったロングソードを上から叩きつける。
「だらあぁぁぁ!!!」
渾身の一撃も、しっかり反応されている。曲刀二本とロングソードの衝突で衝撃波が生まれた。
ミノタウロスの足元が数センチ沈み込む。
ミノタウロスの口の端が歪に上がった。
力で跳ね返されるが、難なく着地。
着地の体勢から反動をつけ、ミノタウロスと同時に地面を蹴る。
衝突。
ロングソードを横薙ぎに振るうと、ミノタウロスの曲刀を弾き返す。
すぐにもう一つの曲刀が迫ってくるが、それも見えてる。
無数の火花を散らしながら、霞む程のスピードで剣を打ち合う。
考えてからでは間に合わない。反射レベルで二本の曲刀を弾き返し続ける。
脳が焼け付く。
ロングソードと身体、その境界線すらなくなっていく。
まるで、魂と魂で殴り合っているかのよう。
そこには生も死も、恐怖すらない。
奴は笑っていた。俺もきっと笑っているだろう。
どっちが勝つとか負けるとか、もうどうでもいい。
奴と俺、どちらが最後に立っているか。
重要なのはただそれだけだった。
ガキンッ!
唐突に、その瞬間は来た。
目の前でロングソードが、折れた。
破片が飛び散ると、それがスローモーションの様にはっきりと見える。
折れたロングソードの向こうでミノタウロスの目が細められた。その表情は、到底勝者のものではない。
「はっ…」
止まっていた息を吸う。
たったそれだけの刹那で、曲刀はすぐ目前まで迫り---
はじめまして!
現代ダンジョン風のローファンタジーやってきます!
よろしくお願い致します!
代表作がまだの方はそちらを是非とも!
空間魔法は殴る(近接戦闘)ための魔法です!~アルと狐のダンジョン回遊記~




