↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
16/36

16.手放す:川瀬匠海は手放せなかった

「お兄ちゃん、おはよー」

「匠海さん、おはよう」

「おう、二人とも、おはよ」


 俺、川瀬匠海は駅前で妹の美海と幼馴染の夜と待ち合わせていた。



 今日は詩音ちゃんの通う中学で文化祭だ。

 中学の文化祭といっても、中高一貫校で高校と合同開催だから、なかなか豪華なものらしい。

 それに女子校だから行きたい人がたくさんいるらしいと、大学の友達に聞いた。


「ま、え、川瀬、あそこの文化祭行くの!? マジかよ、連れてけよ」

「やだ。つーか無理。入校証の申請、出したって言ってたし」

「いーなー、俺も女子校で深呼吸したい。あわよくばちやほやされたい」

「学生は制服、大学生以上はスーツ必須だってさ」

「ひえー、ちゃんとしてる」


 キモいことを言う友達を鼻で笑ったのは、一週間くらい前のことだ。



 美海と夜と三人でバスに乗り、詩音ちゃんの通う中学へ向かった。


「去年もそうだったけど、制服で来るの嫌なんだよね」

「なんで?」

「ダサいから」


 美海が渋い顔で言った。

 わからんではない。

 でも、詩音ちゃんが着ているやたらとおしゃれな制服と比べたら、だいたいの制服はダサく見えるのは仕方ない。


「美海はいつでもかわいいよ」

「そういう問題じゃないの!」


 相変わらず美海に甘い夜に呆れているうちに、バスは山の上まで来ていた。

 三人で入校手続きを済ませて、詩音ちゃんのクラスへ向かった。


「おかえりなさいませ、旦那様方」

「お、おお……」


 キラキラした美少女が、クラシカルなメイド服姿で出迎えてくれた。

 ちょっと眩しすぎて、腰が引ける。

 三人で奥の席に案内された。

 すぐに、別の綺麗なメイドさんがメニューを持ってきてくれたと思ったら、詩音ちゃんだった。


「美海、夜、匠海さん! 来てくれてありがとう!」

「詩音かわいい! 写真撮らせて!」

「いいよ~。その間に匠海さん、メニュー見ててよ」

「俺も撮るよ!」

「えー、じゃあ先にメニュー決めて。伝えたらまた戻ってくるから」


 メニューは飲み物と軽食、それに簡単なデザートだ。

 俺はコーヒーとサンドイッチ、美海は紅茶とカップケーキ、夜はコーヒーとロールケーキにした。


「じゃあ、写真撮ろう」


 戻ってきた詩音ちゃんは、俺のスマホをパッと取って俺らに向けた。


「匠海さん、あとで送って」

「送るけどさ。ちげーよ、詩音ちゃんの写真撮らせろよ」

「かわいく撮ってね」

「いつもかわいいから大丈夫。美海並べ。夜はいらねえ」

「なんで。僕も映るよ」


 わいわい言いながら何枚も撮った。

 最後に俺と詩音ちゃんで撮って、彼女は持ち場に戻っていった。


「匠海さん、詩音に甘くないですか?」

「普通だけど」

「いつもあの調子ってこと? 付き合ってるの?」

「アホか。犯罪だっつの」


 呆れた顔の夜と美海に肩をすくめていたら、詩音ちゃんがトレーを持って戻ってきた。


「お待たせしました」


 詩音ちゃんは練習したのか、滑らかに食器を並べていった。

 ……つーか、使われてるカップや皿が、めっちゃ高いやつだ!

 こんなところでお嬢様を感じるとは思わなかった。

 コーヒーと紅茶も、すごくいい匂いがする。


「詩音も料理するの?」


 美海が紅茶を飲みながら顔を上げた。


「うん。昨日は調理担当だったよ」

「ふうん、詩音ちゃんが作ったのも食いたかったな」

「じゃあ、今度行ったときに作るね」

「やった」


 夜がコーヒーにミルクを入れながら、首をかしげた。

 ミルクも、ちゃんとミルクピッチャーに入っていた。


「詩音、匠海さんの部屋にしょっちゅう行ってるの?」

「そんなでもないよ。月に二、三回」

「ほぼ週一……?」


 なぜか引きつった美海の顔を見て、俺と詩音ちゃんは顔を見合わせた。


「そうだっけ?」

「さあ……あんまり気にしてなかったけど」

「行っても、宿題してごはん作って寝てるだけだもんね」

「そうだなあ。もうちょいどっか行くか。詩音ちゃん、行きたいところ考えておいて」

「わかった! じゃあ戻るね。あと三十分しないうちに休憩だから、一緒に回ろう」


 詩音ちゃんはトレーを小脇に抱え、頭を下げて戻って行った。

 そのまま見ていると、教室に入ってきた父兄を


「おかえりなさいませ、旦那様」


 と席に案内していた。


「お兄ちゃん、ひどい顔してるけど」

「いつもこんなもんだろ」


 手元のサンドイッチをかじった。

 うまい。うまいけど、もうちょい辛子が多くてもいいかもしれない。

 俺用に詩音ちゃんに作ってもらうときは、辛子を用意しておこう。


「……匠海さんって、なんていうか、こんなにわかりやすい人だったんだね」

「なにが?」

「無自覚かあ……」


 美海と夜が顔を見合わせていた。

 なんだよ……。

 全部食べて会計を済ませ、教室を出る。

 休憩に入った詩音ちゃんと合流して、校内を案内してもらった。


「詩音ちゃん、今日はずっと接客?」

「うん」

「……そっかあ」

「匠海さん、どしたの?」

「いや、いろんな人に『お帰りなさいませ』って言ってるんだと思って」


 詩音ちゃんはきょとんとして俺を見上げた。


「匠海さんもさっき、他の女の子に『お帰りなさいませ、ご主人様』って言われてたじゃん」

「そ、そうだけど」

「匠海さんはしょうがないなー」


 なぜか嬉しそうな顔で、詩音ちゃんは俺の手を掴んできた。


「あっちにカレー屋さんあるよ」

「食べる」

「ふふ、美海、夜、カレー食べようよ」

「いいよー。って、何で手えつないでるの?」


 振り向いた美海が、不思議そうに首を傾げた。


「匠海さんがかわいかったから」

「か、かわいくねえし!」


 かわいいのはそっちだろって思ったけど、詩音ちゃんが嬉しそうだったから、黙ってついて行った。



 カレーを食べて、縁日を見て、劇を見た。

 二時間くらい回って、また詩音ちゃんの教室に戻ってきた。


「じゃあ、私は戻るね。今日は来てくれてありがとう」

「ううん、楽しかった。ありがと」

「僕も楽しかったよ。次は冬休みかな。手紙書くよ」

「わかった、待ってる。匠海さんもまたね」

「おう。遊びに行きたい場所考えといて」

「うん、あとで連絡するね」


 手を離すと、詩音ちゃんがニヤッと笑った。

 スカートに手を添えて、頭を下げる。


「行ってらっしゃいませ、旦那様方」

「……すぐ帰ります」

「お兄ちゃん、もう帰るよ」

「やだー」

「みんな、またね」


 名残惜しかったけど、仕方ない。

 美海に引きずられるようにして、文化祭を後にした。



 再びバスに乗って駅まで戻り、美海と夜を見送った。


「気をつけて帰れよ」

「うん。……お兄ちゃん、詩音がかわいいのはわかるけど、えっと付き合ってないならほどほどにね」

「それは……いや、うん。気をつける。あ、今度俺の大学でも文化祭あるから、来いよ」

「ありがと。あとで日付とか教えてね」


 二人は笑顔で改札の向こうへ消えていった。

 俺は一人で歩き出した。



 その日の夜、風呂上がりにスマホが鳴った。


『匠海さん、今日は来てくれてありがとー!』

「こっちこそ、呼んでくれてありがと。楽しかった」

『それならよかった。……あの、どうだった?』

「なにが?」


 スマホの向こうで、詩音ちゃんが唸っているのが聞こえた。


「メイド服なら似合ってた。他にも来てる子はいたけど、詩音ちゃんが一番かわいかった」

『そ、それは言い過ぎだけど、えへ、ありがと』


 全然言い過ぎじゃないけど、美海に「ほどほどにね」と釘を刺されていたので、黙っておいた。


『あのね、お出かけしようって言ってくれたでしょ? まだ思いつかなくて』

「そうだなあ。あ、俺も文化祭あるんだよ。美海と夜とおいでよ」

『やったあ、楽しみにしてる』


 文化祭の日付や、俺が参加する出し物の話をしてから、電話を切った。

 俺はそのまま、スマホで今日撮った写真を見た。

 詩音ちゃんと美海と夜が三人で笑っている写真。

 詩音ちゃんがスカートを翻して笑っている写真。

 詩音ちゃんが……。

 スマホの写真アプリは、詩音ちゃんと食い物でいっぱいだった。

 少し前に、ここで撮った写真もあった。

 ベッドで抱き合って撮った、たくさんの写真。

 なんつーか、冷静に考えると犯罪臭いな……。

 あの時最後に撮った写真は顔をくっつけ合っていて、たぶん少し横を向いたら口がぶつかってた。

 二人とも眠そうな顔で写ってるから、うっかりしちゃってもごまかせたかもしれない。


「……俺はアホかよ」


 スマホの画面を消した。

 そのまま充電ケーブルにつないで、ベッドに放った。

 部屋の明かりを消して、俺もベッドに倒れ込む。


 目を閉じても、詩音ちゃんの笑顔は消えなかった。

私は感情の重い男が好きなんです。

おにロリのおにの方が先に自覚して自重するも、自重してるうちに煮詰まって重たくなっていく過程が大好きなんです。

***

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

この作品が面白かったら、☆を★に変えていただいたり

ブックマークやお気に入り登録してくださると、

作者がとても喜びますので、よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。