フレインの決意
一夜明けて。
「だからぁ、俺は楽して暮らしたいんだよっ」
「なっ、カイルさま、あなたという人は――」
俺はなにものにも縛られず自由気ままに生きたいのだ。
勢いで家を出てしまったが、今考えるとそれも正しい選択のように思えてくる。
「勝手すぎます!」
フレインはふるふると震えながら言った。
俺たちが宿屋を出たとき、外にはフレインが待ち構えていた。朝はまだ少し肌寒いっていうのに。
そして俺の顔を見るなり「さぁ家に戻って家督を継いでください! そしてわたくしと結婚してください!」と血気ばったのがついさっきのことだ。
「テオール家とクイン家の十六年来の約束ですよ。それを破るつもりですか!」
「俺がした約束じゃないからな」
冷たいようだが本当のことだ。
アイリスさんは俺とフレインの会話を聞きながら餌をねだる鯉のように口をパクパクさせている。すいませんアイリスさん、朝からこんなところ見せてしまって。
「あのね二人とも、わたしには貴族のことはよくわからないけど喧嘩はよくないと思うな。だからお互い相手の言うことも受け入れようよ」
ねっ。と至極まっとうな言葉で俺とフレインは落ち着きを取り戻した。
しばらくして、
「メアリーさまも困っていましたよ」
と弱いところをついてくる。姉メアリーは俺にとっての弁慶の泣き所なのだ。俺は口をつぐむ。
「…………」
しばしの沈黙が流れた後、フレインが口を開いた。
「わかりました。わたくしもカイルさまに同行します」
え……今なんて?
「アイリスさんの言う通りお互い相手の言い分を受け入れることにしましょう。わたくしはカイル様の気が変わるまで一緒にいます。ただ結婚のことはしばらく忘れることにします」
アイリスさんは「わたしが言いたかったのはそういうことじゃ……?」と首をひねっている。首をひねりたいのは俺の方ですよアイリスさん。
フレインの行動力は小さい頃から知っている。フレインが同行すると言うのなら、なにがなんでも同行してくるのだろう。
「……はぁ。もう勝手にしてくれ」
「はい!」
フレインは通行人が皆振り返って一目惚れしてしまうくらいのとびきりの笑顔でうなづいたのだった。




