はじめての客?
洋館に戻った俺たちを待っていたのはアイリスさん、ではなく一人の少女だった。庭で猫と戯れていた少女は俺たちに気付くなり小走りで近付いてきた。
「カイルさんですね。待ってましたっス!」
とバカ丁寧に深くお辞儀をする少女。
誰だろう。もしかして俺たちのサンドウィッチマン効果が早くも出たかな。
「ホテルのお客さんですか? だったらホテルは明日からですけど」
と明らかに年下の少女に俺が言うと、
「ほてる? いやいや違うっス」
一泊置いてから、
「あたしの名前はソフィっス。カイルさんあたしを弟子にしてくださいっス!」
弟子? 何を言ってるんだろうこの子。赤いきれいな花を髪に挿した活発な印象の少女は屈託のない瞳で俺をみつめている。すると。
「あー二人とも帰ってきてたのね」
洋館の裏手からアイリスさんが顔を出した。作業着のような服をはたきながら俺たちのもとへやってくる。どんな服を着ていてもアイリスさんは可愛らしい。
「その子、このまえの幽霊退治の噂を聞きつけて来たみたいなの」
「はいっス。あたしもあの依頼、前に受けたことがあったっス。でも気を失って失敗してしまったっス」
そんなときに俺たちが幽霊退治の依頼を達成したことを小耳に挟んだらしい。
でも弟子だなんて。これ以上他人の人生を背負い込むようなことは御免だ。俺は目を凝らしてソフィを見た。ソフィの魔法力は……ゼロか。
「悪いけど断る」
「えええっ!?」
俺が断るのがそんなに意外だったのかソフィは大袈裟に驚いてみせる。
「なんでっスか、理由を教えてくださいっス!」
すると俺の横にいたフレインが庭の方を指差して大声を上げた。
「いましたわっ!」
突然の嬌声に鼓膜が震える。皆フレインの指差す方を見やる。
「カイルさまあの猫です! 依頼書にあった行方不明の猫です!」
そこにはさっきまでソフィに遊んでもらっていた猫がいた。俺はアイリスさんに確認した。すると
「あの猫ちゃんのこと? ソフィちゃんが拾って連れてきちゃったみたい。すごく懐かれてるのよ」
「ねぇ」とソフィに同意を求めるアイリスさん。
「もしかしてあの猫探してたんスか? だったら連れていっていいっスよ」
「いいのですか?」
フレインは猫にゆっくり近づくと大事そうに持ち上げた。ふぎゃあ! と暴れそうになるが、ソフィが撫でてやるとすっかり落ち着いて毛づくろいを始めた。
「あたしも一緒に行った方がいいみたいっスね」
ソフィは無邪気な顔で俺を見上げた。
俺とフレインとソフィはギルドに家庭教師の依頼完了の報告に行った。猫はソフィの腕の中ですやすやと眠っている。
「はい確かにナジャ家のお坊っちゃんから連絡がありました。……ではこちらが報酬の金貨十五枚です」
「あと、この猫なんですけれども……」
とフレインがきりだす。
「迷子の猫ちゃんですねっ、見つけてくれたんですか。ではその猫ちゃんお預かりしますね」
と言って受付係の女性は猫と交換に銀貨一枚を差し出してくる。
「こちらが報酬の……ってあの、その花ってもしかしてヨクネレ草の花じゃないですか?」
とソフィの髪に挿さっている花をみつめる。
「おい、どうなんだ?」
「花の名前なんてよくわかんないっス。これはお姉ちゃんが可愛いからってつけてくれたものっスから」
とソフィは花を手に取る。俺は続けてソフィにたずねた。
「お前どこから来た?」
「トキワ村っスけど……それがどうかしたっスか?」
フレインが割って入る。
「あのうソフィさん、その花って大切なものなのですよね」
「別にそうでもないっス。村の近くにいっぱいあるっスから。もしかしてこれも探してたんスか?
だったらあげるっス」
そう言ってソフィは受付係の女性に花を渡した。
目の前にいる少女ソフィ。こいつは皆がやりたがらなかった面倒な依頼を今日一日で二つも解決しやがった訳だ。
俺たちは依頼二つ分の報酬も受け取るとギルドを出た。ギルドの前で俺はソフィにお金を渡そうとした。
「このお金はお前のものだ。これを持ってお前は帰れ」
「いらないっス。その代わりに弟子にしてほしいっス!」
とソフィは受け取らない。
「お前のお金だ。そして弟子はとらん」
「いらないっス。弟子がいいっス!」
道の真ん中で押し問答を繰り返すがソフィは頑として譲らない。
強情な奴だ。なぜ俺の周りはこんな奴ばかりなんだ、とフレインに目がいく。俺が引き寄せてしまってるのだろうか。
「…………わかった。弟子にしてやってもいい。ただ、お前は魔法が使えないから危険な依頼には連れていかない。それでもいいか?」
「はいっス! あたし頑張るっス!」
無理やり俺とフレインの手を取り強く握るソフィ。小さいくせに思いのほか力が強い。
こうして新たな同行者がまた一人増えた。……いつまで握ってるんだ、放せ痛いぞ。




