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初仕事2

「本当にここなのですか?」


「うん。ここで間違いないみたい」


出発してから十五分後、俺たちは幽霊が出るという洋館に到着した。例のごとく移動手段はもちろん徒歩だ。


「立派なお屋敷ですけれど……?」


フレインが言いたいことはよくわかる。きっと怪しさ満開のそれを想像していたのだろう。俺だってそうだ。外壁には蔦が絡まり、屋根にはおびただしい数のカラスが居並んでいる。そんな光景を思い浮かべていた。

だが実際は、まだ建てられて間もない感じの大きく立派な洋館がそこにはあった。

広い庭に無造作に生えている雑草からして人の手が行き届いていない感じこそするが、印象は決して悪くない。


「意外と幽霊騒ぎなんて誰かが変な噂を流したのが広まっただけなのかもしれないね」


アイリスさんはそう言うと扉を開け躊躇なく中に入っていく。俺たちもあとに続いた。玄関から長い廊下を抜け大広間に入ると、そばにあった椅子に荷物を置いて「ちょっとトイレ行ってくる」とアイリスさんが部屋を出た。

フレインが暖炉の前のソファに腰をおろしてため息を一つ漏らす。「どうかしたのか」ときいてほしそうなのでしばらく外の様子を眺めてみる。


「はぁ……」


それにしても広い庭だ。うちといい勝負かもしれないな。


「はぁ……」


豪華な壁掛け時計は午後一時を指そうとしていた。もうすぐ一時か。そういえば腹減ったな。昼ごはんどうしよっかな。


「……実は――」


我慢しきれなくなったのかフレインが話を始めた。


「わたくし幽霊というものを見てみたかったのです」


へーそうだったのか。


「カイルさまはご存知の通りわたくしは幼い頃にお母さまを亡くしています。ですからもし幽霊がいるのならばお母さまの霊にも会えるのではないかと、少しだけ期待していたのです」


伏し目がちにこぼす。

フレインのこういう姿はあまり見たことがない。思っていたより真面目な話だったので俺は言葉に詰まってしまう。すると――。


「向こうに広くてきれいなキッチンがあったの! わたしが何か作るからお昼にしましょう!」


アイリスさんが大広間に飛び込んできた。


「……」


「……」


「あれ? もしかしてお腹すいてない?」


アイリスさんがいてくれてなんかよかったです。



俺たちはアイリスさんの手料理を昼、夜とたいらげて今は大広間でくつろいでいる。時刻は午後十時。


「何も起こりませんね」


フレインが暖炉に手をかざしながら言う。


「ギルドの人は一晩って言ってたんだからこれから何か起こるかもしれないだろ」


俺は窓の外を見ながら答える。アイリスさんも本を読む手を止めて顔を上げる。


「あと少ししたら交代しながら寝ましょう。それでも何も出なかったら――」


バタン!


突然アイリスさんが椅子から崩れ落ちた。俺は倒れているアイリスさんを抱き起こす。


『ほう、二人もまだ動けるとは。さてはお前らも貴族だな』


部屋中におどろおどろしい声が響く。だが声の主は見当たらない。


「……カイルさま……」


見るとフレインが苦しそうに胸を押さえている。


「どうしたフレイン? 何が起きてるんだ?」


「……気を……つけ……てく……」


そう言い残してフレインも倒れてしまう。


「フレインっ! くそっどこだっ! 姿を現せっ!」


俺は声の主を探すため魔力を全身にみなぎらせ、部屋の中を注視する。すると部屋の隅に誰かが立っている。いや浮かんでいる。

そこにいたのは高貴な服装の――


「こども?」


『っ!? オレの姿がみえるのか!? お前何者だっ!!』


声を発すると同時に見えない衝撃波が襲ってくる。だが魔力で強化された俺の体にダメージはない。俺にとっては強風に吹かれた程度だ。


『くっ』


「二人に何をした?」


子どもの姿をした幽霊に努めて冷静に声をかける。


『ふんっ朝まで気を失わせただけだ。それとなぜかお前にはオレの姿が見えるようだが、こう見えてオレはお前より長くこの世にいる。貴族の先輩ってわけだ。敬語を使ってもらおうか』


両手を広げながら幽霊は俺に近付いてくる。

そうか、それを聞いて安心した。俺はアイリスさんの体をそっと床におろす。

そして幽霊に向かってパンチを繰り出した、が実体には当たらず拳は空を切った。あれ?


『馬鹿めっ。お前はこれまで来た者たちとは違うようだが所詮生身の人間。霊体のオレにお前の攻撃は絶対に当たらん』


どうやら俺のほかにもこの幽霊と戦って敗れた連中がいるらしい。そのことでかなりの自信を持ってしまっている。


『そしてオレはまだ本気を出してないぞっ!!』


幽霊は手を体の前に出し、さっきよりもさらに強い衝撃波で攻撃してくた。爆風のようなそれは部屋中の窓ガラスを粉々にする。俺は一瞬吹き飛ばされそうになるがぐっとこらえた。


『お前本当に何者なんだ。今のでも気絶しないなんて……』


俺は倒れている二人を確認して胸をホッとなでおろす。大丈夫、今ので怪我はしていない。

しかしまいったな。幽霊の攻撃は俺には効かないが、こっちの攻撃も当たらないなんて。でも。


「まだ本気を出してないのはあんただけじゃないぞ」


俺は両手にさらに魔力を込めた。自分でも怖いくらいの魔力が両手に集中していく。そしてその手で幽霊の腕を掴もうとしてみる。これでダメなら――


ガシッ!


『なっ!?』


なんだ掴めるじゃないか。そうか、これまでこいつとやりあった連中は単に魔法力が足りてなかっただけだったのか。


『くそっ、放せっこいつこのっ!』


幽霊は必死に逃れようとする。俺はそんな幽霊をじっとみつめ、


「あんたの魔法力は……1000か。確かにすごいよ。俺がこれまで会った中で一番だ。でも俺の魔法力は――」


振り上げる拳に魔力があふれてくる。


『わ、わかった。もう悪さはしない、なっ、お、おい、なんだその右手の馬鹿みたいな魔力はっ!?』


「あんたの十倍だっ!」


『たすぶぃぇぇぇぇぇぁっ!』


魔力を込めた渾身の右ストレートが幽霊を打ち抜く。その瞬間、パァッと弾けるように幽霊は霧散して消滅した。


「終わったな」


気付けば夜の十一時。俺は気を失っていた二人を寝室まで運びベッドに寝かせた。初めてあれだけの魔力を使ったせいか、かなり疲れていた俺は二階にも寝室があったのでそこで死んだように眠りについた。



「あ、やっと起きた」

――翌朝。目覚めるとアイリスさんの顔があった。後ろにはフレインもいる。


「いつまで寝てるの、もう十時よカイル君。それにしても結局何も起こらなかったね」


「え、何もって……」


一瞬状況が飲み込めないでいるとフレインと目が合う。なにやら言いたげな顔で目配せしてくる。


「でもごめんね。順番に寝ようって言ったのはわたしなのにずっと寝ちゃってて」


手を合わせて甘えるように謝るアイリスさん。……あ~もしかして倒れた時のこと憶えてないのか。

あとから聞いたがフレインは途中意識を取り戻して、俺と幽霊のやりとりを見ていたという。だがフレインはアイリスさんを怖がらせないよう昨日あったことはあえて黙っていたらしい。

俺に対してもそれくらいの気遣いをみせてほしいものだが。

そんなフレインが言葉を発する。


「アイリスさん冒険者ギルドってどこなのですか?」


「ん、どうして? あっそうか何もなかったこと報告しにいかないといけないもんね。いいよフレインちゃんは。わたしが行くから」


「いや、今度は俺たちが行きますよ。今後のためにも場所を知っておきたいですし」


「? そう、じゃあ……」


せっかくフレインが気を利かせたんだ。俺もそれに乗っかってやろうじゃないか。幽霊騒ぎなんてさすがに二度とないだろうからな。

洋館を出た俺たちはその足でギルドに向かい、アイリスさんはその間住まい探しを買って出てくれた。ギルドで依頼完了を報告すると「本当ですか! あっすみません。正直ルーキーの方には厳しいかと思っていたので……」と受付の女性に謝られた。失敗続きでギルドとしても面目を保ちたかったらしく、依頼料は依頼人からだけでなくギルドからも支払われた。その合計報酬金貨二十枚。俺が家を出るときに持ち出したお金とほぼ同額だった。



不幸の後には幸運がやって来ると聞いたことがあるがまさにそれが現実のものとなった。アイリスさんの住まい探しが徒労に終わったと宿屋で聞かされた直後ギルドから連絡が入り、洋館の持ち主の方から依頼を受けてくれた人にそのまま住んでいてほしいとの話がギルドにあったと伝えられた。

つまり俺たちは依頼を成功させたことで立派な住まいを手にすることが出来たのだった。

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