天国or地獄or
田島慎二郎、享年35才。
思えば山も谷もないつまらない人生だった。女っ気のない学生生活を送り、二流大学を卒業し、第三希望の地元企業に就職。冒険もせずただただ社会の歯車として生きていた。酔っ払いの暴走車に轢かれるまでは。
でもまさかこうして自分の葬式を空の上から見ることになるとはな。つーか弔問客が少なすぎて恥ずかしいわ。
「もうよいか」
立派な髭を蓄えた白髪の老人が俺に言った。
「俺本当に死んだんですね」
俺は老人の背中から手を離す。
「ありがとうございました。これで心置きなく天国へ行けます」
初めて会ったとき、この白装束を着た老人は自分のことを神と名乗った。もちろん初めは信じなかったさ。どっかの病院から抜け出してきたのだろうとね。でも、千里眼? とやらで「お前の葬式を見せてやる」と言われて、あとは言われるがまま老人の背中に手を置いたら、あら不思議。どうやら本当の神様だったらしい。
「ふぉっふぉっ、何を言っとるか。お主が天国に行けるわけなかろう」
神様が笑い飛ばす。
「え、違うんですか。じゃあもしかして……地獄、ですか?」
おそるおそる訊いてみる。
「いいやそれも違う。お主は生前良いことも悪いこともなんにもしておらぬ。よってお主の受け入れ先はないのじゃ」
そんな。俺はあの世でもそんな扱いなのか。
「そこでわしが直々に出張ってきたというわけじゃ。実はこんなケースは稀でのう……」
神様がこんこんと語り始めた。年寄りは話が長いってのはどこも変わらないな、などとどうでもいいことを考えていると、
「これ、ちゃんと聞いておったのか?」
ごつんと頭を杖で殴られた。痛いじゃないか。
「あ、はい。もちろん」
聞いていなかった。
「よし、では早速お主を別の世界で生まれ変わらせるとするかの。そこで一から人生をやり直すが良い。また死んだら今度は天国にでも行けるようしっかり精進するのじゃぞ」
「え」
どういうことですかと言葉を発する前に俺はまばゆい光に包まれた。
目を開けると太陽のように優しい笑顔が向けられていた。
「奥さま、よく頑張りましたね。念願の男の子ですよ」
俺は赤ん坊になっていた。




