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魔法技師《マジックメイカー》の精霊銃  作者: 松風京四郎
第一章 商人と王女のサン・カレッド
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突風と鎖


「……さらばだ。サン・カレッドよ」


 ヤコブを取り巻く大気が震える。空気がうねる。間近で見ることしかできないガヴェインはその様子にこの国の終わりを感じた。まもなく、滅びは訪れるとそう悟ってしまった。


「……させるか!」


 門前のヤコブに知らぬ声音が届く。その方向へ目をやれば空から颯爽と降ってきた少年が、鋭くヤコブを睨みつけていた。


「【旅人よ、其方(そなた)にこそ風よ、吹け。大気の精の小粋な悪戯(いたずら)。寂しき流浪に花を添え、我らと友となろう。今宵は宴だ。祝い酒を酌み、飲み明かそう。(あかつき)には乱舞し、踊り狂い、祝宴を楽しもうではないか。()すれば、我らも其方の力の一助となろう】」


 落下中に唱えられた『詠唱(アリア)』。緑の輝きを放つ円形の魔法陣が展開され、黒髪の少年が着地すると同時に、光を放つ。


「【ロウム・ラファーガ】」


 回避しようのない完璧なタイミングで発揮された魔法。凄まじい速度の風がヤコブを駆け抜ける。あまりのスムーズな動きに反応できなかったヤコブは猛烈な風を(じか)に受け、大きく後ろへ後退した。


 なお吹き続ける猛烈な突風。押し戻されるヤコブは杖を突き立て、地面に突き刺して摩擦を生み、止まった。後退した距離300ヤード。元居た位置にまでヤコブは風に押された。


「……主の風。それも、完璧に制御されたまさに魔法の風。……このような力を使えるものがまだいたとは……」


 ヤコブは感慨深げに、だが少し目の色を変えて、そう呟いた。


「……止まりやがった。これは……本物だな……」


 風を起こした張本人、メルクも、本来どこまでも飛ばされる風を、たったこの距離で停止させたヤコブに目を(すが)めて言った。


「……アナ、とりあえず任せた」

「わかりました、お兄様」


 ヤコブに遅れて数秒後。可憐な少女がふわりと舞い降りる。


「【侵略者よ、その鎖に足を止めろ。主の編む空論の撚糸(ねんし)(ひざまず)け。地に打ち付けた(くさび)。伸びる(いばら)の如き鎖。侵略者に永久(とこしえ)の停滞を、永遠の不自由を与え給え】」


 すぐさま詠唱。遠く霞む距離のヤコブを的確に捉え、アナは鍛えられた舌の回りで、高速で『詠唱(アリア)』を紡ぎあげた。ヤコブは少女の存在に気が付いた時には、既に無数の魔法陣が取り囲んでいた。


「……これは……まずい」


 白く輝きを放つその魔法陣のオラクルを一瞥(いちべつ)したヤコブは咄嗟(とっさ)に豪脚で跳躍する。だが、それよりも早く——。


「【アルフ・グレイプニル】」


 無数の閃光から幾つもの強固な鎖が顕現する。それは跳躍したヤコブを捕まえるように追跡し、蔦のようにヤコブの体に巻き付いた。


 強固な楔に、繋ぎ止められた鎖は触れたら最後抜け出すことができない。跳躍したヤコブを鎖が引き戻し、一切の自由が利かなくなった。体に結び付くというより、魂に繋がれたような感覚を想起させるそれは足掻けば足掻くほど痛く、強く、苦しめる。


「……捕縛しました。……どういたしましょう?」


 強力な捕縛魔法を即座に紡いだアナは、メルクに問う。


「……あれはかなりやばい奴だ。おそらくは、迷宮(ダンジョン)で実践的に鍛え上げた、戦いに慣れている紛れもない戦士だ。……ちと残酷だが、このまま攻撃しよう。アナはあの魔法を保ち続けてくれ」

「……わかりました。容赦なく締め上げます」


 ヤコブは鎖に絡まり、荊のような棘に刺さり、一切動けない。精霊のあらゆる力が混在したこの鎖には何人だろうと動くことを許さない。少しでも挙動を擦れば、激痛が走り、皮膚からは血が溢れる。


(……私としたことが力を見誤ってしまった。ここまでの実力のものが二人もいるとは……)


 ヤコブは動けない状況下の中でも至極冷静に思案する。そして、その最中にメルクは容赦なく、魔法を編む。


「……ここは、あの岸さん達に(なら)って……。ふぅ~。【先人達の叡智。我らは敬信を以って、弓を手に、矢を(つが)える。敵対者に烈なる一撃を】」


 メルクの『詠唱(アリア)』の呼応し、煌々と輝く黄金の魔法陣が展開される。未だ、鎖に捉えられるヤコブにも同様の魔法陣が表出する。


「【リヒト・レイ】。刺し穿(うが)て!」


 放たれた一筋の光。直線に突き進むそれは抵抗不可能のヤコブを、文字通り光速で貫いた。


「……ぐぁぁぁぁぁぁ! ……やってくれたな……」


 浮かび立つ苦悶な表情と叫び。しかし、血を流し、腹に穴を開けられ、満身創痍のはずのヤコブの瞳は一切消沈の色を見せておらず、(むし)ろ命を果たせず情けない自分に、そして、自分を捕らえた本物の相手である彼らに、猛烈な憎しみの念を抱いていた。


「……仕方がない。使うまいとも考えていたが、このような敵が現れたとあれば、私も覚悟を決めよう」


 ——瞬間、空気の流れが変わった。それは比喩ではなくて本当に精霊が(うごめ)いたように、雲が動き、急速に黒雲が空を囲い始めた。


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