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魔法技師《マジックメイカー》の精霊銃  作者: 松風京四郎
第一章 商人と王女のサン・カレッド
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冷笑と後悔


「……貴様らなどが大国の守護者などと(うた)っているのが愚かしい。フロンティアも落ちたものだ。……貴様ら程度の力であれば、主の力を借りずとも、この国を壊滅できるだろう」


 ガヴェインに冷や汗が走る。今までの脅威となった魔獣(マギカ)にも、この光の矢の雨と鋼の槍によって、掃討してきた。しかし、悠々とそれを凌ぐ相手が目の前に立っている。そう本当の意味で理解した時、全身に震えが生じた。


 ガヴェイン達、そして、全大国の騎士全てに言えることであるが、身を守る鎧や甲冑以外に、武器と呼べるものが生産されることはなかった。必要であれば、魔法で生み出せばいいだけであるし、何より魔法の力が絶対であるから。


 しかし、今ガヴェイン達は後悔していた。なぜ、少しでも戦う術を増やしておく努力をしなかったのだろうと。何百年という月日が経ち現在に至る古き技術を、ただ当たり前のように信用し続けてきたのだろうと。少しは改善の余地がないのか、新しい技術を生み出さなかったのか、理想を追い求めることができなかったのか、それを考えることができなかった己に激しく悔いていた。


「では、こちらも事を済ませることにしよう」


 杖を片手にヤコブは一歩を踏みしめる。その一歩に途轍もないエネルギーが込められているような気がして、大地が、空気が胎動した。


「……とにかく、撃ち続けろ!」


 思うようにならないガヴェインは仲間の騎士達にそう命令をする。内心、意味を為さないと思いながらも、目の前に必死の抵抗をするためにガヴェインとその仲間の騎士は『詠唱(アリア)』と『呪文(スペル)』を唱え続ける。


 飛び行く光の矢。回避不能のそれらを、数多の数のそれらを、歩みながら、打ち払い、うち砕き、蹴り上げ、叩き折り、一切の攻撃を受けつけない。


「無駄なことを。……貴様らには敬意が足りない。主への感謝が足りなさすぎる。本来、魔獣(マギカ)に喰われ、主の生贄となればよいものを、くだらぬ結界を張り、聖域から離れ、都市を創り上げる。貴様らは主から身を引こうとしているのに、愚かにも都合の良い時に魔法を使用する。それは主に対しての冒涜(ぼうとく)だ」


 ヤコブは怨嗟(えんさ)に顔を歪め、冷たく言う。


「……これは、ただの罰だ。主への敬意を忘れ、冒涜した貴様らの罪に対する天罰だ。……ありがたく、仕置きを受けろ」


 光の矢が飛び行くこの地を一歩一歩ただ歩み寄るヤコブは、そう残し、距離を詰める。迫りくる圧倒的な恐怖に、一人……一人と恐れ(おのの)き、逃げ出す。


「……全く、阿呆共(あほうども)がっ!」


 唐突に、ヤコブは加速し、瞬間的に距離を詰める。小数の世界を思わせるその速度は騎士達の目では追えない。逃げ出した一人の騎士の眼前に現れたヤコブはその豪脚で蹴り上げる。

 重厚な甲冑に身を包んだその騎士は、その重みを感じさせないほどに吹き飛ばされた。鋼は砕け、皮膚にまで達したその一撃によって、血飛沫を上げた。


「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 鳴り渡る一人の騎士の裂帛(れっぱく)。それを、反吐を吐くような冷徹な瞳で一瞥したヤコブは、その雄々しくも思わせる無精髭をなびかせ、加速する。


「……主へ反抗した挙句、力果てるまで戦いもしない。……主への愚弄も(はなは)だしい」


 憤怒に感情を支配されたヤコブは逃げ出した騎士達を蹴り殴り、鉄槌を下す。フロンティアの中心、迷宮(ダンジョン)の中で生きてきた彼の力は平和ボケした騎士達に圧倒的な暴力を知らしめる。飛び交うのは未だ追尾する光の矢と血潮を上げて、苦悶を浮かべる逃げ出した弱者達だった。


 凄惨(せいさん)極まるその戦場を震えながら指示を出し、意味のない魔法を紡ぎ続けるガヴェインは戦慄(わなな)いていた。


「……大国の一つで……陛下を守り……己を鍛え上げ……有意義な毎日を暮らしてきたというのに……私の力では……この男を……止められないというのか……」


 自分の不甲斐なさに、情けなさに、ガヴェインは打ちひしがれる。女王に忠誠を誓ったその日から、自分にも仲間にも厳しく鍛錬を積み重ねてきたというのに、無意味だと見せつけられる現実に悔やんでいた。

 女王に(かしず)き、敬愛してきた自分より、圧倒的な敬愛を自分の信ずる者のために向けるヤコブ。自身がやってきた全てを否定される、そんな感情や感覚がガヴェインの胸中を埋めた。


「……自明の理だ。私と貴様では信仰心がまるで違うのだから」


 いつしか膝を地面につけていたガヴェインの目に映ったのは、知らぬ間に光を失っていた空と、地に伏せ血を流す同胞達、そして、冷笑するヤコブであった。


「……なんてことだ。サン・カレッドの誇り高き騎士達が……私の大切な仲間達が……たった一人に……」


 倒れ、痛みに(あえ)ぐ仲間に目も当てられない自分に項垂(うなだ)れた。


「……主の意志を尊重する我らに、飾りだけの力の貴様らが勝利する道理などない。貴様らの力など取るに足らない無意味なものだ」


 残酷に、冷徹に、目に見える事実を淡々と言葉にした。全くもって違わないのだから、途方に暮れて笑うことすらできなかった。


 ガヴェインは伏せていた目を、首を掴まれ無理やり開かされる。目の前に映るのは誰一人として立っていない仲間達。その光景にガヴェインは喘ぐ。


「……殺せ。……陛下に無様な姿を……見せるわけにはいかない」


 最後の忠誠だとガヴェインは覚悟を決めた。己の力では相対するこの男に盾つく資格すらないと理解してしまったから。だから、散り際くらいは潔く受け入れようと、覚悟を決めた。


「……忠誠心を尽くす……か。……愚行だ」


 だが、その覚悟すらもこの男には切り捨てられた。


「……付き従うと決めたのであれば、終焉を迎えるまで身を尽くせばいい。忠義のために死を選ぶ、と。はっ、そんなものただの逃避だ。……無謀であろうと、敵対する者に盾つき、己の全てを捧げる。それこそ、本物の忠義だ。貴様のそれは紛う事なき欺瞞(ぎまん)だ」


 ヤコブは鼻で嗤った。意思を、考えを、何もかもを否定した。


「……貴様にはこの場所に必要ない。私は貴様を敵として認めない。戦う意思も、敬愛心も持ちえない貴様に私は何も与えてやらない。……不愉快だ。貴様はそこで()(つくば)り、この国の終焉を悲観でもして見ておけ。私は貴様に死など与えず、ただ苦痛を感じさせてやろう」


 ガヴェインは掴まれていた首を投げられ、離された。土をつけられ、口に苦い味が染みた。立ち上がることができず、死ぬこともできず、精神は崩壊していた。


「……思わぬ時間を食ってしまった。主の命を取り急ぎ行うとしよう。……主よ、敬愛する私に大いなる力を宿してください。必ずや、主の望みを叶えましょう」


 両の手を合わせ、(かしず)くように膝をつき、虚空を見つめたヤコブは、数秒後立ち上がった。


「……では、主の命に従い、愚かなるこの国を破壊する」


 門前で、そう高らかに宣言したヤコブは、狂気的に笑みを浮かべた。


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