幕間①【とある魔女っ子の冒険録Ⅱ】
あくまで、エル視点。
事実とは、若干の異なりがあります(笑)
どうしよう…。
どうすればいいの…。
やっと、私に相応しい仲間が見つかったのに。
・・・壊れてしまった。
一日中、何やらブツブツを呟いている。
ユーマ、そこには誰もいないよ?
それは、ただの壁だよ。
昇格試験は簡単だった。
天才の私にとって、ゴブリンなんか目を瞑っていても相手にならない。当然、楽勝だ。それよりも道中の方がずっと疲れた。あんなに歩くなら馬車で行くべきだと思う。
まあ、疲れたと言っても少しだけどね。・・・本当に、少しだったのよ?
でも、良い事もあった。
私を気遣ったユーマが「私を背負いたい」と提案してきたのだ。言葉にしなくても、目があった瞬間わかった。
さすが私の仲間、れでぃーの扱いがわかってる。
全然疲れてないし、自分で歩けるけど…せっかくだから甘えた。母様が「殿方の好意を無碍にする事は、殿方の恥を晒す事と同意よ」と教わっていたしね。
れでぃーの私として、それはダメよね?
ユーマの背中は丁度良い広さと心地よい温かさだった。背負われて気付いたのだけど…父様や兄様以外の男性とここまで触れ合うのは、初めてだと思う。
すぅー…はぁ~ くんくん
凄く良い匂い…。
そのまま終われば、人生ランキングに入るぐらい良い一日になるはずだったと思う。本当に最高の一日になったと思う。
・・・ワイバーン。
あいつが現れたから!
たかが空飛ぶ蜥蜴の分際のくせに!!
ユーマが一人で相手をする破目になった。口だけの試験官とパッとしないモブがだらしない所為だ。
私に愚図二人の面倒を任せて、ワイバーンと一緒に行ってしまった。遠ざかる背中を見つめながら私は不安に支配された。いくら私が認めた優秀なユーマでも無茶だと思ったから。
不安は現実のものになった。
壊れたユーマを前に後悔する。
こんな事になるんだったら・・・前衛など気にせず、本気で魔法を撃ち込めば良かった。
愚図二人の命とユーマ一人の無事なら比べるまでもないのに。
狂おしいほどの後悔。
天才でもするんだと、この時初めて知った。
街に帰還してから三日後、彼が正気に戻る。
私は柄にもなく泣いてしまった。
決して、隣で雄叫びを上げがら泣く熊人間が怖かったからじゃない。…まったく、あの外見で人間というのは悪い冗談だと思う。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『私は見た!!』
視線の先で繰り広げられる光景に目を見開き、私は一人、木の陰から言葉にならない叫びを上げた。
今日は、ユーマが別行動を取りたいと言ってきた。理由は、新装備の慣らしと少し特訓したいからだそうだ。
新装備というのは―――――
先日、装備を『バロッテ武具店』という店で一新した。
ワイバーンの素材とギルドの謝罪金により、なかなか良い仕上がり具合だ。おしゃれな所も気に入った。
特に、深い紫のローブに漆黒の外套と私拘りのとんがり帽子に合わせる前提なのが心憎い。計算され醸し出される高い魔女度の演出は、センス的にも二重丸を与えたい。
装備の制作者であるクリスは、会う度に飴玉をくれるし、とても腕の良い職人だと思う。ここまで『魔術師は、こうでなくては!』というのを理解している職人は少ない。
「フードも付いているから、もうとんがり帽子いらないだろ?」と言ってきた誰かさんには、見習ってほしいくらいだ。
ユーマは、本当にセンスがない。
杖に関してもそうだ。
魔術師の杖は余程の高価な物でない限り何かしらの効果を与える物ではないという事を教えたら「じゃ、持っている意味ないじゃん!」と呆れた顔をされた。
杖を持っていない魔術師など魔術師ではないじゃない!!
そんなのもわからないなんて・・・ユーマのセンスに同情する。本当に可哀そうだ。早く克服して、完全無欠な天才である私の域まで到達する事を切に願う。
私の仲間なら出来るはずよ?
希望を捨ててはダメよ、ユーマ?
―――――というわけだ。
私もユーマに付き合う言ったら、ユーマが頑なに拒否ってきた。小一時間粘っても駄目だった。凍らせようとしても、だ。
・・・あやしい。
・・・まさか、浮気?
ふと頭を過った女の感に戦慄する。
でも、それはすぐに自分で否定出来た。
考えてみれば、隣には完璧で絶世の少女である私がいるのだ。そんな事起こりようがない。
サラサラの髪に白雪のような肌、神秘の光を灯した魅力的な瞳・・・ああ、美貌溢れる自分が怖い…万人を虜にする自分が憎い。
胸が少しだけスリムだけど、この点はマイナス要素にはならない。だって、未来が詰まっているから。後5年でバインバインもしくはボインボインになる。これは、確定事項だ。
となると、どうして一緒に行っては駄目なのだろう?
うーん・・・気になる。
結局、ユーマに付いて来た。もちろん内緒で。
認識阻害の魔道具を使えば、尾行もバレない。実に、チョロい。だから、途中で少し見失って探索魔法を使ったのは、きっと気のせい。
走るユーマが悪い。
尾行する側の事も配慮してほしい。
私が追い付いた時、ユーマは丁度剣の型を通し終えたところだった。多分、新調した防具が戦闘動作を阻害しないか確認していたのだと思う。
・・・っ?!??!
驚いた。
驚愕した。
驚天動地だ。
ユーマが続いて何やら始めたので、観察を続けていると・・・言葉にならない。
ユーマはヒューマンのはずだ。獣人族の耳も尻尾も生えていないし、他の種族の特徴……もない。
なのに変身系の能力を使える?
ヒューマンが使えるなんて聞いた事がない。
目の前で、何度も腕を変異させている。
視線の先で、紅いオーラを全身から漂わせている。
ふふふ… あはは、あははははは!!
凄い! 凄いよ、私!!
やっぱり、天才の下には同じく類稀なる存在が集まるのね。
ユーマはその後も能力の訓練を続け、能力の使用過多により失神してしまった。あれだけ続けざまに肉体を変異させれば当然だ。
うーん、自分の使っている力の正体…あるいは知識が足りていない?
今日の態度を見る限り、他人にその能力を晒す事もなかったようだし、おそらく教えてくれる者がいなかったのだろう。
そんな推測を立てながらも気を失ったパートナーを介抱する。私は、変身系能力の使用過多で倒れた者には速やかに栄養を補給させる必要があるのを知っていた。
栄養…栄養…っと。
よし、特別にパイヤのドライフルーツをご馳走しよう。
魔法の鞄を漁りながら故郷の味を取り出した。
あれ? ちょっと待って…気を失っているのにどうやって食べさせるの?
うーん…。
うーん、うーん・・・。
とりあえず、口に詰めてみよう。
目を覚ましてから何故か怯えた目をされた。・・・解せない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
今日は、冒険者業がお休みの日だ。依頼と依頼の間の休息日というヤツね。
私のパーティーは、一つの依頼を終わらせる度に三日間休むというサイクルで動いている。私的には、毎日ガンガン依頼をこなしたかったのに、依頼の事前調査と休息の時間が必要だからとユーマが譲らなかった。ユーマは慎重過ぎる。
休みの日は基本自由行動で、ユーマはだいたい大家の食堂を手伝っている。食堂の料理はとても美味で、私好みの店と言えた。ただ、熊が厨房にいるので注意は必要だ。
一方、何もする事がないのが私。暇な事この上ない一日となる。
この前までは、世界から単細胞ゲル糞生物を絶滅させるという有意義な趣味があったのだが、現在はそれも禁止された。
『このままでは、森が無くなってしまう』という理不尽な理由で、ギルドからストップがかかったからだ。
森とか…些細な事より奴らを殲滅する方が大事だと思う。絶対に糞爺の嫌がらせだ。もう少しで、私を汚したゲル共を根絶できたのに!!
「エルちゃ~ん、お迎え来たわよ」
と、ここで、私を呼ぶ声に深い黙考から我に返る。
「ん」
すぐに返事を返し、冒険者ギルドの応接室から出るとユーマが待っていた。すまなそうな顔で苦笑するカリナに何度も頭を下げている。
「すいません。エルが御迷惑を―――――」
むう…私は悪くないのに。
ユーマの態度に、私は少し不機嫌になった。
「いいわよ~そんなに謝らなくても。今回、エルちゃんは被害者でもあるんだから」
ん。カリナはわかっている。
ユーマに誤解がないよう、もっと言ってほしい。
二人の会話が数分続いた後、カリナに一言別れを告げギルドを出る。その帰宅途中で、ユーマから今晩の夕食抜きを宣告された。・・・解せない。
<数時間前>
暇を持て余した私は街の探索に繰り出していた。まあ、知り合いを訪ねたり買い物したりとその内容は散歩+αだけど。
まずはクリスの所へ行って飴を貰い、次に菓子屋でおやつを補充、その次に話題の喫茶店でケーキを食べ…etc.――――― で最後に、友人のカリナとの世間話目的に冒険者ギルドを訪れた。
しばらくは、平穏に二人お喋りとおやつを楽しんでいたのだけど、途中から無粋な連中が現れ台無しにされる。
私はゴブリンの亜種か何かが街に侵入したのかと思ったのだけど、カリナ曰く歴とした人間らしい。最近、この街に来た冒険者だそうだ。
『おいおい、いつからここは子供の遊び場になったんだ?』
『・・・・・・』
『聞いてんのか?』
『口臭い』
『じ、嬢ちゃん…あんま大人に舐めた態度取ると痛い目―――――』
『口臭い』
というやり取りの後、突然、ゴブリン人間が襲いかかってきた。
言葉が通じない知能の低さ、すぐに暴力的行動を起こす野蛮さ……うん、やっぱりゴブリンだ。
カリナは間違っていたようだから、後で教えてあげなければ。
戦闘は…戦闘とも言えなかったが、数秒で終了した。亜種であっても、所詮はゴブリンだ。他愛もない。
氷漬けにして動きを封じた後は、非殺傷の魔法でずーっとド衝き回した。ギルド内をあまり汚さないように考慮した結果だ。糞爺がまた弁償とか煩いから仕方ない。
最終的に泣き出したゴブリン達は、呼吸用の穴だけを確保した氷のオブジェに閉じ込めておいた。亜種だから貴重なサンプルなるだろうし、ギルドが高く買い取ってくれるかもしれない。
我ながら完璧な対応だったのに、道理を理解しない糞爺が色々と難癖つけてくる。しかも、保護者が来るまで部屋に軟禁させられた。ベラベラと老害の戯言を垂れ流すしか能のないくせして・・・再度、暗殺計画を実行すべきかもしれない。
夕食抜きの宣告を受けた後、撤回を求め必死の自己弁護を続けるも時間切れに終わった。一緒に暮らす家の前に着いたからだ。
ユーマは私に大人しくしているようにと口酸っぱく言って、また食堂の手伝いに行ってしまった。
そこから長い時間…正確には夕食の時間までの二時間、私は本当の絶望に苛まれた。
・・・夕食抜きなんて酷過ぎる。
口寂しさに摘まむ焼き菓子も私を慰めてはくれなかった。
こんな事なら、ユーマから同居をどうしても!と頼まれた時に私有利な条件を決めるべきだった。例えば、三食絶対保障とか毎晩同衾とか…。
夕食は私の分もちゃんと用意してあった。しかも、コロッケだ。
なんだかんだ言って、ユーマは優しい。
よし! 今日は、お礼に添い寝をしてあげよう。
ベットを買って以降、御無沙汰だったからユーマも喜ぶに違いない。寝床への侵入自体は、認識阻害の魔道具と潜入用の闇属性魔法を使えば楽勝だ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
某日の依頼完了後、糞爺から呼び出しがあった。ユーマがチラッと失礼な視線を向けてきたので、リバーブロー(杖)で応えた。
それにしても老害は、用があるなら自分から来るべきだという常識も知らないらしい。今度、身体に教え込んでやろうかと思う。
部屋に案内されてから偉そうにしている糞爺が不愉快だった。思わず唾を吐いてしまったのは仕方がない。
話が始まると同時に私は睡眠を取ることにした。理由は明白、老害の寝言など聞くに値しないからだ。
どうせいつものイチャモンだろう・・・・・・ぐ~すぴー。
帰宅後、話の内容をユーマから聞いた。珍しく意味なある内容だった。明日は、槍とか降ってきそうだ。
遺跡調査か・・・・・・ふふふっ、血沸き肉踊る冒険が私を待っている!!
その晩は、興奮のあまり愛読本シャルロッテ・フェッルム・ミュラーの冒険記を朝まで読み返して眠れなかった。でも、問題はない・・・明日も糞爺が長話をしている間に、睡眠は十分とれる。
今日、新たな同志を得た。
彼女の名はトア・グリード、遺跡調査に同行する銀色ランクの冒険者の一人。そして、共に糞爺暗殺を目指す仲間でもある。
暗殺計画の具体的構想は依頼終了後に綿密に練るとして、とりあえず出発の朝一に『ギルド長はハゲ頭』と書いたチラシを街中に撒く事をトアと決めた。
顔合わせの食事会?で、トアとは友達にもなった。依頼が終わる頃には親友になっているかもしれない。理由は・・・フィーリングというヤツ?
トア曰く、頭の沸いた兄にいつも苦労しているらしい。ユーマに絡んでいるその兄の様子を見る限り真実だと思う。「にゃ~にゃ~」煩い男だ。
と、ある事に気付いた。
それは、彼女の慎ましい胸・・・現在の私よりもあると思われる胸だが、気持ちばかりの胸パットを入れて底上げされていた。
…圧倒的同情。
将来的バインバインのボインボインが約束された私としては、心苦しさで一杯になる。その後は、自然と母なる海よりも深く優しさを持ってトアと接した。
自己満足だとわかっているけど・・・私って、本当にズルイ女ね。
急に食堂の熊が暴れ出して食事会?は、お開きになった。
私は、魔道具を使い速攻で退避したので被害はない。ユーマは、捕まった…冥福を祈る。
あの熊は、やはり危険な存在だった。
冒険者ギルドに討伐依頼を出そうかと思う…金色ランク指定で。
しばらくしてユーマが帰って来た。何故かデコピンをされたので、氷弾で応酬したら朝まで続いた。・・・寝もい。
次の日、ユーマから遺跡への出発が一日延びたと告げられる。原因は例のダメ兄の所為らしい。トアも大変だ。
おかげで、チラシばら撒き作戦も決行が延びたのだが、チラシの数を倍にできたので、結果良かったのかもしれない。
糞爺の反応も確かめたかったところだが、それよりも先に遺跡調査の為、街を出た。残念だったが仕方ない。
遺跡道中の馬車では、糞爺が顔を真っ赤にする光景を思い浮かべながらトアと楽しくオセロに嗜んだ。
うーん…絶好調。
こんなにも気分が良いと何か良い事でもありそうな予感がしてくる。
例えば・・・
・・・遺跡調査が大冒険の始まりになるとかね。
お読みいただきありがとうございます。
次回は…魔女登場。




