第6話 顔合わせ
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翌日、ギルド長と約束した時間に冒険者ギルドを訪れた。
ギルドの指名依頼で、同行予定の冒険者と顔合わせするためだ。
受付…カリナさんに用件を告げるとすぐに会議室のような部屋に通された。
「ギルド長を呼んでくるから少し待っててね」
ニマニマ顔でそれだけ告げてカリナさんは退室していった。
意味あり気な笑顔だったな。
まあ、何が原因かはわかるけど…
俺は溜息を一つ吐いてからその原因に声をかけた。
「エル、いいかげん目を覚ませよ。ってか、もたれかかるな」
肩に乗っかっている頭を押しやり、ちゃんと椅子に座らせる。
それでも、エルはいつもに増して眠そうな目を擦りながらユラユラ揺れている。
昨日、帰ってから同じ部屋にいたにもかかわらず爆睡して話を全く聞いていなかったエルに今回の依頼の件を最初から説明してやった。
彼女的には大歓迎な依頼内容だったらしく、「遺跡……大冒険!!」ってな感じで大興奮していた。興奮し過ぎて朝まで眠れなかったようだが。
俺が夜中トイレに起きた時には、読み古した表紙の本を抱きしめながらリビングで軽くトランス状態のエルを目撃した。真っ暗な中で月明かりに浮かぶ少女、絵になりそうな光景だけど実際に見かけると結構なホラーだったよ…少しチビったのは、内緒である。
カリナさんが退室してから数分経った頃、エルの目を覚まさせるのに四苦八苦しながら過ごしていると部屋の扉を開いてギルド長が入ってきた。
「待たせたかの?」
「いえ、大丈夫です」
「うむ。譲ちゃんは…随分と今日は大人しいんじゃの?」
「・・・・・・(すぴー)」
ギルド長の問いかけにエルが寝息で答えた。
き、気まずい空気が流れる。
「なんかすいません」
「(ごほんっ)…えーっと、さっそくじゃが今回の依頼で組む奴らを紹介するぞい。二人とも入れ」
エルの件を無かった事にするように咳払いしたギルド長の後ろから青年と少女が現れる。
青年は、緑がかった金髪でツンツンと所々跳ねたクセ毛が特徴的だ。やや年上な外見で、ニヤついた笑い顔とかけているサングラスが軽薄そうな印象を与えてくる。
少女は、バンダナから覗く桃色がかったブロンドに黒眼…いや、鳶色の瞳だ。エルよりは大きいが小柄な体形といえるだろう。歳は俺達と同じくらいで、どこか子猫を思わせる顔立ちと雰囲気を持っている。
教えてもらった事前情報では、帝都を中心に活躍中の実力派ルーキーって話だった。うん、どうやら情報は正しかったらしい…何気ない身体の運びが、それを伝えてくる。
俺は緊張しつつも彼らが口を開くのを待った、のだが…
最初に、この二人の口を衝いて出た言葉は―――――――
「にゃははっ! ギルド長、マジうけるにゃ~」
「プ―クスクス…最高~!! 寝息で返事されてやんの」
―――――ギルド長の傷口に塩を塗るものだった。
こめかみに…額全体に青筋を浮かべるギルド長。
まるで、マスクメロンのようだ。
さらに、それをおちょくり倒す二人。
そして…
「・・・ユーマ、お腹空いた」
空気を読まない寝起き第一声を放つ、エル。
ナニ、コノカオス…俺、帰っていいかな?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「痛ぅ~あの糞親父、マジで殴りやがったな」
「暗殺用の毒って、この街に売ってるかな?」
「良い店を知ってる。・・・糞爺を殺るなら手伝う」
「・・・」
少女と家の魔女っ子の発言が物騒だが、多分気の所為だ。
そして、彼女達が具体的暗殺計画を立て始めたのもきっと幻聴だ。
あの後、もの凄く機嫌が悪くなったギルド長に「これで顔合わせは終わりじゃ! さっさと依頼に行け!!」のセリフと共に冒険者ギルドの建物から全員追い出されてしまった。青年と少女は拳骨のおまけも貰っていた。・・・俺は、悪くないのに。
「ユーマ、私はお腹が空いたと言った。・・・至急、ごはんの提供を要求する」
しばらくはギルド前でギャーギャー騒いでいたが、エルの一言で沈静化する。
そんなエルも一緒になって騒いでいたはずなのだが…。まあ、ただギルド長に対する事実無言のバッシングだけどね。『ハゲ』だけは、ギルド三階から椅子が飛んでくるという反応があった。気にしているらしい。
とりあえず、食事件自己紹介と依頼の確認をどこか飲食店に入ってするという方向に話がなり、早々とその場を後にする。一連の騒ぎで、気付いたら野次馬に囲まれていたから離れる時、少し恥ずかしい思いをした。
青年と少女の二人は、この街が初めてということで俺が店を決めた。もちろん『クマさん食堂』一択である。一応、準店員ですから…営業はするべきだろ?
「ほぇ~昇格から二ヶ月で銅色三本って凄いね~。あ、これ美味しい!」
「当然。これも美味しい・・・食べるといい」
「でにゃ~ユーマ、この街でおすすめのお店知らないかにゃ? もちろん、大人のお店の! にゃはは」
「知りませんよ。ってか、酒臭いって」
食事をしながら互いの自己紹介まではスムーズに終え、続いて依頼の確認に移るはずだった。それがいつの間にかただの宴会になっている、不思議だ。酒飲んでるのは一名だけだけど。
しかし、そんな些細な事など今の俺にはどうでもいい。それよりもエルが他人に自分の食べ物を勧めたうえに分け与えている事の方が重大だ。前に俺が貰おうとした時には、代わりに容赦のない氷弾が飛んできたのに。ほんの切れ端で、だぞ!!
――以下省略――
こんな感じで俺達の他愛もない宴会が続いていた。
おかげで、二人の事が少しだけわかった。
彼らは、兄妹二人だけのパーティー。
活動拠点は帝都。ランクは銀色三本で、主に迷宮に潜っているそうだ。今回、ギルドが彼らを指名した理由は金色ランクへの昇格試験も兼ねている事と探索士であるレヴィの存在があるからということらしい。
ちなみに、自己紹介の時に互いのギルドカードを見せ合っている。一時的とはいえパーティーを組むのだからと言って、二人はステータス項目も平均だけでなく全開示、さらには能力も一部開示してくれた。
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所属:冒険者ギルド
名前:レヴィ・グリード
種族:ヒューマン
年齢:17
職業:探索士
属性:風
能力:俊敏・〇
特技:鑑定
ステータス:平均 D- [筋力 E 体力 D- 技能 C 敏捷 C 魔力 D- 精神 D-]
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所属:冒険者ギルド
名前:トア・グリード
種族:ヒューマン
年齢:16
職業:拳士
属性:光
能力:剛力・〇・〇
特技:‐
ステータス:平均 D- [筋力 C 体力 D 技能 D- 敏捷 C- 魔力 E- 精神 D-]
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二人ともさすが金色間近の銀色ランクの冒険者。優秀なステータスだ。
初めて会う能力持ちの冒険者でテンプレ特技というのも、なかなか興味深い。
「レヴィさん、質問があるんですがいいですか?」
「敬語とかは止めようぜ、ユーマ。名前も呼捨てでいい、歳も変わんねえだろ。で、質問は何かにゃ~?」
「じゃ、御言葉に甘えて……さっき見せてもらったギルドカードに知らないものや見慣れないものがあったから教えてもらおうと思ってね。職業…特に探索士の事とか、能力とか・・・あと特技も」
鑑定ってのは、字面から予想できるけど一応ね。
「探索士を?・・・ああ、そうか…この街には、迷宮がないからな。まあ、探索士ってのは簡単に言うと斥候職ってヤツだ。それに同じ探索士でも活動内容から呼び方が違う、少し変わった職業でもあるな」
「呼び方が違う?」
「ああ。呼び方は三種類あって、シーフ・スカウト・レンジャーだ」
指を一本ずつ顔の前で立てながらレヴィの説明が続く。
「まずは、シーフ。主に迷宮専門というか外では役に立たねえ奴らだ。索敵とか苦手で、戦闘力も低いしな。代わりに、鍵開けや隠し扉の発見、手に入れた物の鑑定が得意だ。逆にレンジャーは外専門で索敵も戦闘も得意だが、迷宮では役立たずだ。鍵開けとかもできないから…」
ここで、一旦酒を煽りながら間が取られた。
仕草が一々ワザとらしい。勿体付ける気満々といった感じだ。
「それで、俺のスカウトだが・・・迷宮も外も、さらに戦闘もなかなかイケる万能職だぜ。特に俺はシーフお得意の鑑定も独学で習得しているから、外での索敵も迷宮に潜るのに必要な技術もカ・ン・ペ・キにゃ~。にゃは、にゃはははは」
「へ、へぇ~…」
ワザとらしい仕草とか、自分を自慢したいが為の布石だったのね。ああ、酔っ払い面倒臭い。
「じゃあさ、迷宮に潜る時ってパーティーに探索士は必須な感じ?」
「いや、そうでもないにゃ。何度か迷宮に潜った事がある冒険者は、経験である程度カバーできるからな。もちろん探索士がいるといないでは、稼ぎや安全度が違うけどな」
だろうな、鍵開け出来なかったり隠し扉を見逃したり……即死系のトラップを見抜けなかったとか洒落にならないだろうし。
「うーん…依頼が終わったら俺も迷宮に挑戦しようかと思ってたんだけど、難しいかな?」
「んにゃ~必須の知識を覚えれば、低層を潜るだけなら難しくない。ただ、器用じゃないと知識を実践できないから無意味だけどな…ステータスで言うと技能Dくらい? 妹っちなんかは脳筋過ぎて結局、実践できなかったしな~にゃははは~」
Dか・・・E+の俺には到底無理か。
どうするかな~迷宮探索…その対策も聞いとくか。
次のアドバイスをレヴィに貰うべく俺が口を開こうとした時だった。
光の尾を残すように胡椒瓶が目の前を通り過ぎ、笑い声を上げていたレヴィの口にホールインした。
「っぶふ?! び、びにゃぁぁああああ~辛ぇぇええええええええ!!」
火を噴きそうな勢いでゴロゴロと床を転げまわるレヴィ。
「誰が脳筋よ! 技能ステータスと脳筋関係ないし!!」
憤った少女の声が響く。
胡椒瓶を投げたのは彼の妹、トアの仕業だった。
彼女の怒りは収まらない。追撃の踵落としから馬乗りになって顔面にラッシュを決めている。ビクンビクンしてるけど大丈夫だよ、な?
見ようによっては激しくじゃれ合う?仲の良い兄妹の図・・・にも見えなくはないんじゃないかな?
うん、きっとそうだよ。ほら、エルだって気にせずデザートを食べてるじゃない。
なにより、あの暴力の中に巻き込まれたくないし。
微笑ましい兄と妹の肉弾コミュニケーションを眺めていると服の肘部分を引っ張られたので、そちらに視線を移す。
「ごちそうさま。・・・ユーマ、帰ろ」
安定のマイペースだな、エル。
でも、俺も今回は賛成かな。
お店で暴れる二人を沈めたのは、親父さんのアリガタイ拳骨だった。親父さんの背中に熊のスタンドが見えた。あの大きさは、多分グリズリーだ。
そして、何故か俺も拳骨を貰った。
…俺は、悪くないのに orz
拳骨の瞬間、小さい時に死んだ婆ちゃんに会った気がする…対岸から俺を手招きしていた。「いや、呼んだら駄目だろ!!」とツッコミを入れたのを覚えている。
エルは、隣から魔力を感じたと思ったらいつの間にか消えていた。一人だけ拳骨回避である。
ズルいと思ったので、帰宅後デコピンをプレゼントしたら氷弾が返ってきた。今日は、朝まで軽い死闘を繰り広げながらの徹夜だろう。
あ、レヴィに能力の事を聞き忘れたな・・・まあいいか、今はそれよりも如何に氷弾を潜り抜けてデコピンを決めるかの方が重要だ。
遺跡出発は、明後日に延期になる。
重傷者が一名いたし、仕方ない。
・・・俺も眠いし。




