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幕間①【帝国魔女の憂鬱】

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 退屈だわ。

 そうよ、退屈なんだわ。


 暇なの。

 そうよ、暇なのよ。



「お嬢様。本日の茶葉は、皇国産の物を御用意いたしました」


 洗練された動きでお茶を淹れる壮年の男。

 全く隙のない姿勢で傍らに立つ彼の名はセバス。

 この屋敷、唯一の執事。

 そして、私を除いた唯一の住人。


「ねぇー、セバス。こう何もする事がないと憂鬱にさえなってくるわね~」


「散歩など行かれてはいかがですか。本日はとても過ごし易い天気でございますよ」


「散歩ね~うーん…気分じゃないわね~」


「そうでございますか。それならば―――――」


 私は昨日と同じセリフを言う。

 セバスも一昨日と同じ答えを返す。


 いつもと変わらないやりとり。

 毎日、繰り返されるやりとり。


 平穏で怠惰な日々。

 …他人はこれを幸せというのかもしれない。


 けれど、私にとっては嫌味で苦痛な日々。

 …それ以外の何ものでもない。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 

 面白いわ。

 ふふっ、面白いんだわ。


 楽しみなの。

 ふふっ、楽しみなのよ。



 今日、森で変態を拾ったわ。

 結界に侵入した異物を見に行ったの。そしたら、彼って裸でオークと戯れているのよ。

 ここ数年で…いや、ここに来てから初めての事かしら、こんなこと。

 しかも、彼はおそらく異世界人。

 生きている彼ら会うなんてかなりレアなのよ。


「・・・貴方、後数時間で死ぬわよ」


 あらあら、気絶してしまったわ。

 私の言った事がそんなにショックだったのかしら~吐血までして。

 ふふっ、それにしても苦悶に歪む彼の表情…今、思い出してもゾクゾクしてそそるわね。

 でも、可笑しいのよ。

 私って、少年にしか興味ないはずなのに。


「一つだけ、貴方が助かる方法があるの。――――――」


 死にかけている彼に甘く囁いたの。

 もちろん、彼は差し伸べられた私の手を掴んだわ。誰だって死にたくないものね。

 彼の私を見る目は、崇拝する神に対するソレになって…ああ、その表情もイイ。

 あまりにも魅惑的な表情だったのよ。

 だから、私ったらポロッと代償が人間を辞める事だと彼に洩らしてしまったの。

 彼は抵抗したわ。

 けれど、ダメよ!

 既に彼は望み、私はそれを了承したのだから。ニガサナイワヨ。

 最後に薄れゆく意識の中で私を見つめる彼の目は、さっきと真逆の光を灯していたの。

 …こっちの表情もイイわね。


 そうだわ!新しい身体は少年型にしよう。

 大人と子供の狭間の身体…(ジュルリ)。

 ふふっ、目が覚めたら今度はどんな表情してくれるのかしら。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 予想外だわ。

 あはは、予想外なんだわ 

 驚きなの。

 あはは、驚いたのよ。




「えぐっえぐっ……恐かった、もうだめかと思った。」

 

 泣きながら蹲る彼。

 堪らない!少年の姿が凶悪なほど魅力的よ。

 新しい身体の試運転に岩を殴らせてみたら…ぷっ、うふふ。

 彼、空に飛んでいったのよ!!

 誰がそんな事を予想できるの?

 誰がその光景を前に驚かないでいられる?


 四龍に連なる真竜が一匹の血を血潮に廻らせ。


 数多の人族、魔物、竜さえも殺し尽くした狂鬼の骨を身体の支柱とし。


 私の秘術を込めた不死の身体と魂を持つというのに。


 ……これほど滑稽で無駄な事はないわ!!

 

 だからこそ、私は惹かれているのかも。

 だからこそ、私は心躍っているのかも。


 だって、私は退屈だったのだから。


 私は彼を鍛えることにしたの。

 新兵の訓練なんていつぶりかしら。


 ああ、そんなに不安な顔しないで…

 ダメよ、そんなに顔を歪ませちゃ…


 そんなに、そんなに魅力的な顔をされると…

 私、加減を忘れてしまいそう。


 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 



 邪魔だわ。

 ええ、邪魔なんだわ。


 燃やすの。

 ええ、燃やすのよ。

  

 

「たわけっ!『焔砲フレアカノン』!」


 私と彼の甘い生活に水を差す邪魔者が訪ねてきたの。

 奴の名はボリス。

 下僕の一人。

 帝国一の剣士(笑)。

 私からしてみれば、デカい身体とバカ力だけが取り柄のむさ苦しい存在でしかないわ。

 どうやら私の御使いを済ませてきたらしいけど…『精霊大樹の雫』か、そういえば頼んでいたかな。


 身の程をわきまえないこのバカは、私が席を外している間に彼と楽しそうにしていたの。

 ここは、もう一度燃やすべきよね。

 今度こそ消し炭しようと思ったけど…寸前で止めたわ。

 残念だけど、このバカに頼みたい事ができたのよ。ホントニザンネンダケド。


「そう、ちょうどよかったわ。ユーマを街まで連れて行ってほしいのよ。――――――」


 彼と離れて暮らすのは、身を切るような思いがするわ。

 でも大丈夫よ、監視を付ければいつでも彼の顔を見られるもの。

 それに、この半年で手元にある彼で遊ぶネタが切れてしまったのよ。

 新薬や新しい訓練器具とかを用意したいんだけど…開発には時間がかかるものだし、仕方ないわよね。


 ああ、でも心配だから……森の魔物には旅立ちの日までに消えてもらいましょう、うふふっ。

 

 あ!追加武装や高機動型身体とかも用意しようかしら、目からビームとかいいかも!!



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 恋しいわね。

 彼が旅立ってから何日目かしら。

 ああ、恋しいわ~彼の怯える表情が、苦痛に歪む顔が……会いに行こうかしら。


「それであんただけ戻ってきたの?へぇ~私は、私が呼ぶ時以外はここに来るなと教えたなはずなんだが…忘れたのか、ボリス?うん、どうなんだ?」


 研究開発に忙しい私をバカがまた訪ねてきた。

 今は、消し炭になって転がっている。

 ボルドラの森がどうとか言っていたけど、関係ない。燃やすのみ。

 ボリスへのお仕置きが済んだら幾分かは気分が晴れたわ。

 バカもたまには役に立つじゃない!


 筋肉ダルマが帰ってから一ヶ月ぐらいが過ぎたわ。

 今日、訓練用新薬の一つが完成したの。

 効能は、魔物を洗脳して指定した対象を襲わせるというものよ。

 一番のセールスポイントは、知能の低い魔物でも正確に命令を実行できるという点ね!

 あとは、死ぬまで絶対に洗脳が解けない事かな。


「う~ん、どこかにいい感じの実験体はいないかしら」


 数日、森の中を散策したのだけれどなかなかこれはというのがいないの。

 彼の旅立ちの日に殺し過ぎたのが原因かしら。


 遠くの空に飛竜ワイバーンが飛んでいるのは、見えるんだけど―――――


飛竜ワイバーンか…もうこれでいいかしらね~。うん、ユーマなら大丈夫でしょ!!」


 無事、捕獲したわ。虫の息だけど。

 だから、下位竜って嫌なのよ~貧弱すぎて!!

 少しぐらいお腹が穴だらけになっても我慢しなさいよね、竜のくせに。

 仕方ないから魔法薬ポーションを飲ませて全快させたわ。

 薬の効果が少し高かったけど。

 ちょっと活きが良くなって、若干の生命力強化もされてるみたいなの。

 でも、私は気にせず命令を与えてから送り出したのよ。

 今回、初めて竜種と戦うだろうからって、ハンデも与えているし大丈夫でしょ。

 ハンデは、戦闘は陸上戦のみということにしたの。

 優しいでしょ?私って。

 あ、もちろん襲わせる対象は…彼よ♡



 あらら~竜種の相手は、まだ早かったみたいね。彼、ボロボロだわ~。

 しかも、バックアップまで作動して…うーん、ホムンクルスのみの力じゃ無理だったわね。

 それに少しだけ勇敢過ぎかしら?…感情制限も高く設定し過ぎたみたい。

 おかげで、久しぶりに彼の苦痛に歪む顔を堪能できた事は良かったけど。

 これでも彼を監視している人工精霊からの映像を見ながら少しだけ反省してるのよ、私。

 だから、すぐに対策を用意するわ。

 やっぱり“鬼”と“竜”の力を使えるようにしといた方がいいみたいよね。

 と言っても現状、100%使いこなせない事は明白だから…10%限定で解放とかでいいかな?

 あとは、感情制限も緩和しようかな。






「えーっと……コレで良し!Ver.1.1送信っと」


 パッチ修正が届いた時、彼はどんな表情するのかな?

 彼の記憶からもアイデアを採用したから驚くだろうな~ふふっ、楽しみ。

 え-っと、次は何を創ろうかしら。



 忙しいの。

 そうね、忙しいのよ。


 最高だわ。

 そうね、最高なんだわ。

 


 





 

 お読み頂きありがとうございます。


 今回のエピソードは、シャルロッテ視点の話でした。彼女のちょっとぶっ飛んだ頭の中をイメージした運びとなっています。伝わったかな?

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