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第2話 蘇る混乱。

 祝日の早朝。射撃場に向かう際のお決まりとなったコンビニ前。

 侮れないコンビニのコーヒーとサンドイッチは日常。

 しっかり握るガンケースは非日常。


「イヴ、今日は本当の初射撃。シミュレーションの成果を見せる時だね」

『はい、有栖。今日、有栖が好成績を出せば、売れます!』

「アハハ。イヴ?仕事以上に気合が入っていませんか?」

「はい、有栖。リアルの成果はシミュレーションの最高の対価です!」


 有栖とイヴのオープンモードの会話。

 イヴは曜日や時間帯に合わせて発言のトーンを変える。

 TPOを理解しているからだ。



「有栖ちゃーん、お待たせー」

 佐伯のランクル70から透花が手を振っている。

「おはようございます!氷川さん。……と、佐伯さんも」

『お早う御座います。氷川さん、佐伯さん。今日は宜しくお願いします』


「イヴも一緒なのねー。ガンケースは前に置いて、女子は後ろよー」

 有栖は透花の手招きで後部座席に乗り込む。

(あれ?この香水?この前も……)


「九条さん。鉄砲持って電車は嫌っしょ。次は待合せ場所変えよう」

「あ~、それなら車は交代で出しませんか?」

「有栖ちゃん、車持ってるのー?何?何?」

「あ~、いえ、家族のヤツが。っていうか、父さんの車ですね。フフ」


「そ~の言い方じゃぁ、拘りのヤツなんじゃないの~」

「BMWのE30って解ります?」

「丸目4灯のヤツねー。六本木カローラでしょ」

「氷川さん、その呼び方、よく知ってますね!」

「私もBMW好きなのよー。現金一括で買うために貯金してるの」


「それならゲーム機とパッドの新型出たら買っちゃうの、我慢しないとね~」


「……」

「……」

『……』

「……」

 大きめの走行音だけが社内に響く。


 佐伯はハンドルを固く握り前方を凝視。

(完全に口が滑った……。色恋に疎そうな九条さんでも、解るよな……)


 透花は何事もなかったように無言で缶コーヒーを開封し一口。

(あー、言っちまったよこの男。どうしよう、有栖ちゃんの前で恥ずかしい)


 イヴは緊急避難。

『私は空気を読んで、……ステルスモードに移行』


 有栖は笑いを堪え思慮。

(イヴ、笑わせないで!それじゃ空気読んでねぇーから!)

(それにしても、風見さんの無音の会話以上の居心地の悪さ……)

(思ってたこと言っちゃうかな)


「……あの、氷川さんと佐伯さんって、付き合ってるんですよね?」

 透花はコーヒーを吹きだした。

「!……有栖ちゃん、何故そう思ったか述べよ」

「何故って、佐伯さんの発言と、前も同じ香水の匂いがしたので……」

「香水かー。それだけ?」


「それだけで充分……。佐伯さん、この前、名前で呼びかけましたよね?」

「はぁ……。九条さん、やっぱ気付いてたか。表情変わったとは思ったけど」

「美男美女でお似合いですよ。あ、美男美女は客観的事実です。フフ」


「……有栖ちゃんも、ホントに言うようになったわねー」

「でも、なんで隠してたんですか?」

「だって、私30過ぎてるし。翔太ちゃんはまだ20代中だから」

「だから!俺はそんなの気にしてないって言ってんじゃん!」

「あ、あの……。私は誰にも言いませんから……」


「アハハ。……ごめんね、有栖ちゃん。うん、今はまだ黙っておいて」

「九条さん。余計な気を遣わせて、ゴメン……」

「そんな!2人とも、私は!大丈夫ですから……」


 [……恋はプロセス。他者に隠したい場合が有る。……要調査]



 射撃場入り口にある銃砲店に東条のJaguar XJ-S12が待っていた。

「お早う御座います!東条さん、風見さん」

「お早う、九条さん。あれ?氷川さんも一緒なんだね」

「なんか皆楽しそうに話してるのでー、連れてきてもらいました」


「風見さん。ここで28gの弾って売ってますかね?」

「ちゃんと調べてんな。M3は24gだと、ちと不安だからな」

「24gも買っておきます。動くか確認したいので」

「実体験は大事だからな。ダメなら2発目に使えば良いしな」

「あ~、そうか。28g、24gの順にすれば2発は撃てますね」

「そうそう。1発目がちゃんと動作すれば、とりあえず2発は撃てる」


 有栖は風見と佐伯の会話に聞き入っていた。

(なるほど。考えれば解るけど、実際にやってみるのは大事だよね)

(そして場数を踏む。練習や訓練ってそういうことだもんね)


 それぞれ必要な装弾を購入し射撃場受付へ。

「あら、この前の。無事に許可が出たのね、良かったわ」

「はい!お陰様で!今日もコレ、いいですか?」

 有栖はMagI/O(マギーオー)を手に取り確認をする。

「えぇ。周りに声を掛けてね」


「今日はトリプルもやれますかね?」

「そうね、一番奥で。声を掛けてみて」

「はい、有難う御座います」


「風見さん。トリプルって3枚のヤツです?」

「せっかく3発撃てるからな。俺もM3持って来たし。東条さんは?」

「フッフッフ。もちろんオートも持って来たよ」


「くっ!次です、次!私もM3申請したので」

「え!九条さん、もう?いつ申請したの?」

「1挺目の確認が終わって、その場で。売れちゃうかもって言われて……」

「アハハ!流石!早ぇ~。やっぱ九条さん、ガチだわ!」



 トリプルも撃てる一番奥の射台へ。

 各々の散弾銃がガンラックに並んでいく。

「九条さんが何を選ぶのか、興味があってね。トレンドかトラッドか」

「フッフッフ。東条さんなら驚いてくれると思うのですが……」


 ガンケースから取り出される機関部を見て感嘆の声が上がる。

「……FNのD5!キレイな彫刻だね。木目もイイ。いや、コレを選ぶとは」

「いつかはFNって思ってたのに、九条ちゃんに先を越されちまったー」

「スゴそうだけど、九条さんが選ぶのはちょっと意外な感じっすね」

「でも、確かに彫刻が凄いわねー。魂を感じるっていったら言い過ぎかしら」


「私、銃に装飾は不要って思ってたんですけど、コレは一目惚れで」

「参考にお聞きしますが、おいくら万円です?こちら」

「400万くらい……。新銃なら。コレはもちろん中古で桁が違うので……」


「銃談議は昼めし食う時にな。撃った後のが盛り上がれるぞ」

 風見の牽引で射撃が始まる。


「イヴ。教習射撃や公式競技と違ってダブルだからね」

『はい、有栖。1ラウンド目はタイミングを摘まみましょう』

「うん。視覚の拡張サポートは要らないから、しっかり記録をお願い」

『はい、有栖。風のデータと合わせて、記録しますね』


「ハイっ!」

 掛け声で2枚のクレーが宙を舞う。

(1枚目はストレート、2枚目は右か)

 1枚目は粉々に2枚目は2つに割れた。

(当たったけど、もうちょい右かな)


「ハイっ!」

(今度は左か!右利きだとスイングがキツイな)

 ストレートの1枚目は粉々に2枚目は割れずに飛び去る。

(右は気持ち先。左はもっと早く追い駆けないとダメだな)


 1ラウンド25枚を撃ち終わり有栖のスコアを見て皆が驚く。

「九条さん、22枚ってスゲー!」

「九条さん、ホントに初めて?」

「九条ちゃん、上手じゃーん」

(有栖ちゃん……。コレ、上手いって話でいいの?)


「イヴのシミュレーションで、タイミングの練習してたので……」

(……公式に比べると、遅いから正直余裕は有るんだけど……)

「九条ちゃん、外した3枚は全部左だな。スイングが上手くいかないか?」

「あ、はい。右よりは早く追い駆ける様にしたんですけど……」


(ヤベー。既に俺には付いていけねー)

(風見さんも流石だ。気になるところを、もう見付けている)

(3人の反応を見ると、有栖ちゃんのスコアが凄いのは確かなのね)


「九条ちゃん。左足の位置を気持ち前に。あと、つま先を少し外側に」

「……左のスイングが楽になりますね」

「そう。……九条ちゃん、公式で撃ってみねーか?」

「はい!」



 ベテラン勢の多い公式射台はクレーの速度と角度が違う。

 クラシックな高級銃を持つ客観的美形で若い有栖は少し浮いて見える。

「お嬢さん、良いの持ってんね。それに負けないように教えてあげようか?」

「キレイな娘を見るとすぐあれだー。冷やかすのは止めとき―」

 周囲から早速ちゃちゃが入る。


「東条さん。あのオッサン、九条さんのスコア見たらビビると思うんすよね」

「……まぁ、あのオッサンに悪気は無いと思うが、そうなってほしいと思うね」

 佐伯と東条が無言で固い握手をする様を透花は呆れ顔で見ていた。


 有栖はMagI/O(マギーオー)を外し風見と並んで射台に入る。

 風見が撃つ様を真横で見て有栖は思った。

(コレだ!シミュレーションで見慣れたクレーの速度と角度)


 有栖は2枚のクレーが砕けるのを確認し弾を装填した散弾銃を構える。

(左足を気持ち前でつま先を少し外側に向けて……)

「……ハイっ」

(右!クレーの速度も角度も予想通り!)

 続く2つの撃発音に砕け散る2枚のクレー。

(よし!こっちのが合ってる!)


 続く2巡目。

「ハイっ」

(左!大丈夫、間に合う!)

 クレーを追って上がった銃口は1枚目を砕いても動きを止めない。

 曲線を描き位置がリセットされた銃口は再びクレーを追う。

 左に飛んだクレーが撃発音と共に粉々に砕け散る。

(ヤッタ!ど真ん中!)


 その後も有栖はクレーの左右に関わらず確実に当て続けた。

(最後だ。今までと同じようにやれば大丈夫)


「あれ?なんか見てる人、増えてません?」

「次を当てれば満射。満点だからね。ベテランでもそうないよ」

「九条さんはメンタル強いからなぁ。ちゃんと当てそう」

(有栖ちゃんはメンタル強いって言うより、制御してる感じよね……)


(イヴだったら、なんて言っただろう。フフ)

 有栖は散弾銃を構えコールする。

「ハイっ」

 飛び去るクレーを銃口が追い抜き撃発音が後を追う。

 ラウンド最後のクレーは粉々に砕け散った。


「九条さん、スゲー!ホントに満射だ!」

「本当に凄いね、偶然で出るもんじゃないよ」

「有栖ちゃん、凄いわねー」

(有栖ちゃん……、本当にサヴァンとかそういう類なんじゃ……)


 流石に風見も異常性を感じていた。

(九条ちゃん、色々デキ過ぎな面があったが、流石にな……)



「タンメンお願いします」

「あ、私もタンメンを」

「俺はとんかつー!」

「風見さんと東条さんが頼むんだから、私もタンメンねー」

「私はアジフライと……、クリームソーダ!」


「ちゃんとした食事が取れるのね。以外かもー」

「ここは団体や自治体の大会会場になる事も多いからな」

「利用者が多いこともあって、有栖ちゃんはちょっとした話題ねー」

「ちゃちゃ入れたオッサン。満射見て苦笑いでしたね」


「初めての射撃で満射は本当に凄いよ」

「俺なんか公式で撃ったら15枚しか当たらなかった……」

「初めてでそんだけ当たりゃ、大したもんだけどな」

「有栖ちゃんは、スポーツは得意だったのー?」


「私、ボールが落ちる場所や何処に飛ぶか解るんです」

 その一言は皆の関心を引いた。


「小さい頃は、それが当たり前だと思ってましたけど、違うんですよね」

「クレーが何処に飛ぶかとか、何処で落ち始めるかが解んの?」

「はい。……思った通りになります」

「なるほど、天性の素質が有るんだね。羨ましいね」


「得意ですけど、目も疲れるんですよね。甘いものが欲しくなります」

「有栖ちゃん、それでクリームソーダ?」

「はい。アイスとか炭酸飲料が欲しくなるので、今日は特別にダブルです!」


 透花は以前から気になっていたことを思い返す。

(空間把握に視覚と姿勢制御も……。サヴァンを疑う方が合理的よね)


「さて、混んできたから、今日はこれくらいにするか」

「そうだね。高速が混む前に移動しようか」



「じゃ、俺は2人を送って帰りますんで~」

「おぅ、翔太。九条ちゃんと、……氷川さんを頼むな」

「じゃ、風見さん、私達も行こうか」

「はい。世話になります、東条さん」


 東条は風見と2人になったことで迷っていたことを口にした。

「……変なことは言えないけど、九条さんはサヴァン症候群とかだったり」

「……東条さんが珍しいですね。今日のスコアを見ると、それも解りますが」


「頭部の負傷がサヴァン発症のきっかけになるのは、知ってるよね?」

「……それと、九条ちゃんのスコアが繋がるんですか?」


「……九条さん、東京事件の被害者じゃないよね?」

「……話が飛びますね。どうしてそんなことを?」


「アメリカに居る時に、ニュース雑誌の記事で読んでね」

(部隊の情報が何処から出たんだって、問題になったヤツか)


「当然ながら想定外の大事件だった訳で……」

「渋谷と霞が関でテロなんて、考えたくないですからね」


「現場も相当混乱していて、霞が関の救出部隊にも被害が出たと」

(俺達のことか……。中村が……)


「最後に救出されたのが頭部を負傷した小学生の女の子で……」

(確かに助けた。……中村が女の子を抱き抱えて運んだ。いや、中村は……)


「……記事に依れば当時7歳で九条さんと同い年位の、Arisu Kujoって子でね」

 東条から聞いた名で風見の記憶と混乱が蘇り心を激しく揺さぶる。


(誰が助けた?誰を助けた?……俺はその時、何をしていた?)


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