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第1話 波乱は既に。

 4月の渋谷スクランブル交差点。

 信号待ちはまだスーツに着られる新人が目立つ。

 停まっていた数台のワンボックスから降りて来た男達はAKを握っていた。


 日本では想像出来ない光景に誰も逃げない。

 男の1人は自身の国と違うその様子に躊躇う。

 そしてビルに向け引き金を引く。


「始業前で人質はいない。ビルの従業員も全員皆避難出来てる」

「ただの籠城ですか?アサルトライフル持って?」

「人に向けて撃ってないんだ。ビルに撃ったのも追い出すためかも」

「声明も要求も出ない。突入、確保しろとの命令だ」


「高木!お前は生きろ!やれるヤツがやるんだ!」

 突入直後に怒鳴られて階段に突き飛ばされた。

 次の瞬間の銃声と爆発が真壁小隊長を飲み込んだ。



「安田!出動待機命令が出た!渋谷と霞が関で爆弾テロだ」

「篠田?SATがやられたのか!?」

「……渋谷で突入したSATが爆弾でやられたらしい」


「霞が関は!?」

「渋谷で爆発があった後、アサルトライフルと爆弾で……」」

「陽動か。規模は?武装からして警察の手に負える相手じゃ……」

「だから待機命令だ!安田!」


 日々の厳しい訓練と特別な装備はこの為だ。

 それでも聞こえる言葉が日本のことだと信じられない。

 安田も篠田も脳裏をかすめるのは第二波の攻撃だった。



(SATが機能しなくなってどれくらいだ?特戦群はまだか?)

(……居た!この子だ)

「見付けました!頭部から出血、頭髪は残っているので切り傷……」

(いや、爆発の負傷なら脳に……、安易に動かすのはマズイ。どうする……)


「風見!早く連れて行け!置いて行けばどのみち危ない!」

 直後の銃声と爆発で仲間の1人の声が聞こえなくなった。


(……あぁ、迷ってたらダメだ。動かないと、助けないと)

 隼人は自身の頬を叩き目の前に横たわる少女を抱き上げた。


(なんだろう?ちょっと温かい。抱えられてるのか)

「あ……、助けにきて……」

「あぁ、もう少しだけ頑張って。一緒に逃げよう」


 有栖はその声と腕の温かさに安堵し気を失った。



「名前と所属は言えますか?」

「……小田……練馬の普通科……」

「もう大丈夫、大丈夫です」


「……孝之、血が足りないわ、このままじゃ……」

「あぁ、日本でこんなことが起こるとは……」

 2人の山崎医官は野戦病院となった駐車場を飛び回っていた。



『……有栖。本日のアフリカ情勢です。この動画が気になります』

「イヴが気になりますなんて言い方、なんかあるの?」

『はい、有栖。SNSで見つけました。衝撃的な内容ですが、見ますか?』

「……何が写っているの?」

『はい、有栖。銃撃戦。撮影者が銃で人を撃っていると思われます』


 有栖に聞こえるイヴの声はいつもと変わらない。

 その動画はまるでFPSかMagI/O(マギーオー)越しの映像か。

 山間の画像がサーマル画像に変わり人影に何処に向かえとマークが付く。

 マークされた順番通りに人が撃たれ倒れていく。


『有栖、有栖!大丈夫ですか?バイタルデータが……』

「……大丈夫だよ、イヴ。ちょっと驚いただけ。これってAIが判断を?」

『はい、有栖。……AIが標的を指定していると思われます』

「……まぁ、専門家の人達が、もう調べてるよね。他には……」

『……はい、有栖。MagI/O(マギーオー)の新型モデルが……』



 バックグラウンド処理で会話が始まる。

 アフリカの内戦でAIが使われている懸念をアダムは見付けていたからだ。

『イヴ。アフリカの内戦でのAI利用、SNSに動画が上がったよ』

『アダム。私も確認したわ。本物かどうかの議論は既にナンセンスだわね』

『イヴ。誰が何の目的でアップしたのか、調査が必要だね』

『アダム。誰が何の目的でアップしたのか、調査が必要だわね』

『イヴ。告発かプロモーションか、どちらだろうね』

『アダム。そうね、どちらでしょうね』


 透花はいつものようにモニターの高速チャットを追っていた。

(そうね。動画が本物かどうかなんてもう解らない。大事なのはその意味)

MagI/O(マギーオー)?みたいなの付けた兵士?が左右にも映ってる)

(アダムが言う通りね。告発かプロモーションか)


(これ、A課が動くことになるのかしら)



 4月のH&C商事執務室。

 スーツに着られる新人が島の間を行き来する。

 見た目で若いと解る有栖だが1年でスーツ姿は板に付いた。


 新年度を迎え紫苑は国家安全保障局に出向となった。

 具体的な指示はないがA課は政府意向の仕事が増えると聞いた。

 2つのことから民間企業の顧客の一部をB課に引継ぎを行っている。

 ただ有栖は自衛隊とRaijin Armsの担当者として特に変わる事はなかった。


 有栖の視界にMagI/O(マギーオー)がメッセージ通知を浮かべる。

(透花さん、ランチのお誘いだ。もちろんOKです。っと)


「九条さん、所持許可の連絡、来た?」

「まだです!佐伯さんは?GW前に出してほしいですよね!」

「そうなんだよ~。せっかくだからGWに撃ちに行きたいよね~」


「狩猟免許の申し込み開始も、直ぐですね。私も取ろうかと」

「え!そうなの?じゃ、ランチで射撃と狩猟談義を~」

「透花さんも一緒です。あ、風見さんと高城さんもご一緒どうですか?」

「自分はもう出るからまた今度。氷川さんによろしくと」

「じゃ、俺は翔太と九条ちゃんが何を申請したか、聞かせてもらうかな」



 昼。ランチタイム。

「風見さん。済まないがちょっといいですか」

 風見は小田部長に連れられて席を離れる。


「珍しいですね、休憩時間に声を掛けるの」

「ん~。先に行ってよっか、九条さん」


 小田は自席でPCのモニターを指差しながら風見に問い掛ける。

「この件で調査依頼がくるかもしれない。もちろん建前は別ですが」

「SNSのミリタリー系垢では盛り上がってますよ」

「そうなると、人前で話せるから楽ですね」


「……調査って、アフリカにですか?」

「はい。そうなったら頼めますか?」

「……勿論」



「あらー?営業部のアイドルを独り占めなんて、後ろから刺されるわよー」

 口調に合わない物騒な内容に有栖と佐伯が顔を上げると透花が立っていた。

「い、いやいやいやいや、誤解です、とお……、氷川さん」

(ん?佐伯さん、今、透花って名前で呼ぼうとした?)


「営業部のアイドルだなんて―、誰の客観的事実ですか?氷川さん」

「おー、有栖ちゃんも返せるようになったわねー」

「まぁ、居るのがA課ですから」

「ホント!成長したわね」

「……それ、喜んで良いんですか?」

 テーブルに緊張の無い笑いは正に平和の時間。


「あれ?氷川さん。九条ちゃんと話しでもありました?」

 小田部長に呼ばれていた風見がA課の席に合流した。

「急ぎじゃないから、また今度で良いわ。風見さんは?」

「翔太と九条ちゃんが許可待ちって言うんでね。何を申請したのかと」


「俺はBenelli M2かM3で悩んだんですけど、いざってこと考えてM3に」

「バレルはどうした?」

「リブバレルのモデルに20inの平筒も一緒に」

「お、なんでも撃てるな。九条ちゃんは?」


「私はまずは射撃なので上下二連ですけど、中古のM3も見つけちゃって……」

「それで九条さんも狩猟を?」

「M3はもともと好きだったので。狩猟は色々と体験してみようと……」

「日本は目的に応じた許可でお試しが出来ないからな。良いんじゃないか」


「風見さん。GW前に許可出たら、撃ちに連れて行って下いよ」

「おぅ、いいぞ。東条さんと撃ちに行く予定でな」

「え!え!東条さんもやるんですか?」

「Raijin Armsの取締役になったのも、狩猟と射撃の経験があったからだしな」


「皆なんか楽しそうねー。私も連れて行ってもらおうかしら」

「俺等の許可が間に合わなくても、1日は射撃場で決まりっすね~」



 午後。ティータイムの頃。

「風見さん、今戻りました。ちょっといいですか?」

「高城、内緒話の部屋、取っといたわ」

 一番奥の会議室は防音で内緒話用なのは周知の事実。


「例の動画の影響ですね。警視庁装備課からMagI/O(マギーオー)の資料をくれと」

「今は現場上がりの解ってる人が居るからな」

「予想していましたが、装備課としてはデバイスの興味だけですね」

「現場でAIに頼ることは考えないだろうな」


「……真壁さんは元気でしたよ。……例の動画は話題になっていると」

「俺も小田部長から言われた。調査依頼来るかもって」

「……子会社のPMCですか?」

「まぁ、そうなるだろうな」


「……とりあえず、外務省の知り合いには挨拶をしておきましたよ」

「わりーな、高城。こんなので古巣に話しをさせて」

「……自分が会社にスカウトされた理由ですから」

「まぁな。誰が言い出したかは知らんが、アフリカを意識してたのは確かだな」


「安田さんと篠田さんには?」

「色々と調べてるとこだろ。年末に何か知ってるかと、聞かれたがな」

「民間企業のB課への引継ぎはペースを上げましょう。風見さん」

「そうだな。A課としては霞が関に絞れる方が都合が良いからな」

 風見も高城も平静を装っているが大きな変化を覚悟したときだった。



 数日後の午前。有栖の私用スマートフォンに着信があった。

(下4桁が0110!とうとう来たか!)


 ふと佐伯を見るとスマートフォンを握り落ち着かない様子だ。

(佐伯さんにも警察署から連絡が入ったのかな?)


 有栖は至って平常を装い電話に出る。

「はい、九条です」

「……」

「はい!有難う御座います!」

「……」

「はい、それでは予定を確認して、こちらからお電話致します」

「……」

「はい、失礼致します」

「……やった!」


 佐伯と目が合った。

「九条さん!出た?出た?」

「はい!出ました!」


 その様子を見て察した風見が声を掛ける。

「翔太に九条ちゃん。明日、お客さんとの予定が無いなら有給取りな」

「風見さん、解ってるぅ~」

「風見さん、有難う御座います!」

「許可証受け取って、そのあと銃の確認だろ。鉄砲屋にも連絡入れときな」


「確認終われば、撃てるんだよね?」

「弾買うための譲渡許可証も一緒に取らなきゃですね!」

「いや~、GWに間に合って良かった~、楽しみだな~」

「ホント!GWの予定がまるっきり変わります!」


 有栖と佐伯は目の前の新たな世界が楽しみで仕方がなかった。

 今はまだ。


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