↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
25/25

5-5

 一度、テオの家に戻る。

 いない。

 もう一度、池の近くまで歩く。

 いない。

 あの女性たちも、干された洗濯物を残していなくなっていた。

 テオが自分でここを離れた? それとも誰かに連れ去られた?

 魔法で人探しとかできるんだろうか。中級魔術の域は超えている気がする。


 人探し……。

 なんだっけ、現場百回?

 現場は、ここだよね。テオを最後に確認した場所。

 あとは、虫眼鏡? 持ってないけど。

 遺留品……は、特に見当たらないかな。

 一応、這いつくばって地面を見てみる。


 ……足跡が見える。

 昨日の雨で柔らかくなった土に、足跡が付いていた。

 下足痕(げそこん)、下足痕だ。刑事ドラマとかで聞いたことがある。

 テオの家は少し離れた所にあるから、雨が止んでからここを歩いたのは俺たちくらいだろう。

 大きい方は俺の足跡、小さい方がテオだろう。

 ……小さい足跡が多いな。二人分かな。誰か子供が来たんだろうか。

 その足跡は、村の中心部から遠ざかるように続いている。

 誰かと、こっちに向かったのかな。


 足跡を辿(たど)っていくと、村を囲む柵があった。一部が壊れている。

 どうやらテオは、この柵を越えたようだ。

 その向こうは木々がまばらに立ち並び、村の中より地面が湿っているように見える。

 俺も柵を越えて、足跡に沿って進んでいく。




 林の中はぬかるんでいて、少し歩きにくい。

 足跡は、地面に開いた大きな穴に向かっていた。

 穴の周りには二本の木が倒れている。

 背筋がヒヤッとした。

 テオがここに落ちたのだろうか。

 足跡は、途中から何かを引きずったような跡になり、途切れている。

 最悪の考えが浮かび、心臓がバクバクと響いてくる。


「テ、テオー!」


 精一杯叫ぶ。

 不用意に近づくと、俺も落ちてしまうかもしれない。それに、もしもの事態を想像して、穴の中を覗く気にはなれなかった。


「ユウトか?」


 意外と普通の声が聞こえた。


「テオ! 大丈夫!?」


「近づくなよ、崩れるかもしれない」


「わ、わかった」


 急に崩れたのかな。危険な場所だ。


「オレと、村長の娘がいる。怪我はないが、泥で登れそうにない。そっちから、なんとかならないか?」


 木に縄を縛って登ってもらうとか? そんな長い縄、あるかな。

 村の人を呼んできた方がいいかもしれない。村長とか?

 悩んでいると、倒れて斜めになっている木が視界に入る。

 根元が崩れていて、穴に落ちそうになっている。

 ……あの木、ちょっと押したら足場みたいにならないかな。

 木の方に近づいてみる。なんの木かはわからないが、葉っぱも少ないし幹も真っ直ぐだ。


「テオー。この木、落としてみて大丈夫かな?」


「ん? じゃあ離れてるから」


 少し待って、木を押してみる。あまり動かないな。思ったより重かったようだ。

 魔法、使ってみようかな。

 身体強化。これなら中級魔術のはずだ。

 周りには誰もいないし、加減すれば大丈夫じゃないかな。

 自分の胸に手を当てて、イメージする。


「身体強化。少し腕の筋肉増量で」


 体が一瞬光る。できたかな?

 もう一度木を押す。動いた。いけそうだ。

 ゆっくりと、穴に落としていく。途中からは自然と滑っていき、そのまま底に着いたようだ。


「テオ、大丈夫? 登れそう?」


「ああ、いけるんじゃないか」


 待っていると、少女がノロノロと木をよじ登ってくる。

 村長の娘だ。テオはこの子と一緒だったのか。

 俺の近くまで来たので、ヒョイと持ち上げて、地面に下ろしてやる。


「あ、ありがとう」

 服は泥まみれだが、顔と髪には付いていない。

 次にテオが登ってきた。

 この子と同じように持ち上げてやろうとしたが、断られた。




 三人で村まで戻った。

 テオは泥の付いた服を着替えると、村長の娘に話しかける。


「あの穴のこと、村長に言った方がいいよ」


「うん、わかった」


 娘は昨夜と違って、穏やかな顔でテオに接している。

 仲良くなったのかな。


「これ、あげるわ」


 少女はストールを留めていたブローチを外し、テオに渡す。

 緑色の飾りが付いたブローチだ。


「勝手にあげたりして、村長に怒られないか?」


「別に、棚の奥に落ちてた物だし。お母さんのじゃなさそうだから、いいわよ」


「ありがとう」


 テオはニコッと微笑み、ブローチを受け取った。

 村長の娘も、照れたように微笑んでいる。


「ユウト、そろそろ行こうか」


 少女から離れ、俺に声をかける。


「また、帰ってきてもいいわよ」


「……そうだな」


 テオは少女の言葉に軽く応えると、そのまま門に向かって歩いていく。

 俺は村長の娘にペコリと頭を下げてから、テオの後を追った。


「ごめん。テオの家の荷物のことは、聞けなかったんだけど……」


 村人たちに嫌な話を聞かされただけで、何の成果も得られなかった。


「もういいよ。目的の物は手に入ったし」


「その、ブローチ?」


 テオはブローチを見つめている。


「たぶん、テオの母親の物だ」


 テオの母親のブローチが、村長の家にあったんだ。洗濯していた女性たちの噂話を思い出し、少しモヤっとする。

 テオはそれを大事そうに布にくるみ、カバンに入れた。

 村を出て、道を歩いていく。来た道とは違う道だ。


「夜までには、次の街に着くはずだ」


 テオの歩調に合わせて、隣を歩く。

 どうか、このまま無事に進めますように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。