第72話 夜のビーチ
当然のごとくビーチに人の姿はなかった。
下弦の月と星々の煌めきが
砂浜と海面をうっすらと照らしていた。
3人は各々が好きな花火を手に取っていた。
俺はそんな3人から少し離れた所で
皆の行動に注意を払っていた。
翔太によって何発もの打上花火が
夜空に舞い、
洋の放つ幾つものロケット花火が
漆黒の海へ消えていった。
茜の持つ手持ち花火は
月明かりと共に俺達の周囲を明るく照らした。
歓喜と狂喜に満ちた声が
ビーチを包み込んでいた。
茜の手の中で最後の線香花火が
パチパチと火花を散らしていた。
火花が小さくなり火球が地面に落ちると、
ふたたび月の灯りと星々の瞬きだけが
この場を照らす明かりとなった。
俺達は砂浜に腰を下ろした。
「暑いわ」
茜がポツリと呟いた。
「こんなことなら水着でくれば良かったね」
と翔太が言うと、
「どうせ誰もいないんだし
裸で海に飛び込んでもいいんだぜ」
と洋が冗談半分に口にした。
「待て待て、お前達酔ってるだろ?
さすがに海に入るのは危険だから
許可できないな」
俺は慌てて2人に釘を刺した。
「大丈夫だよ。
浅い所で涼しむだけだよ」
「ノリが悪いぜ、あっくん。
うちの親みたいなことを言うなよ」
俺は
「お前達に何かあったら
親御さんに合わせる顔がないだろ」
と言う言葉をグッと堪えて、
2人の顔を観察した。
月明かりの下ではわかりにくかったが、
それでも2人の酔いは醒めているように見えた。
たしかに2人はここに来てからは
アルコールを摂取していなかった。
俺は少し考えて
この遠浅の海では沖に出ない限り
危険はないだろうと判断した。
「わかったよ。
その代わり泳いで遠くに行くんじゃないぞ」
「わかってるよ、あっくんは心配性だね」
「行こうぜ、翔太」
2人は一瞬で服を脱ぎ捨てると
一目散に駆け出した。
茜が「きゃっ」と小さな悲鳴をあげて
両手で顔を隠した。
波の音に混じって
翔太と洋のはしゃぐ声が聞こえていた。
「あっくんは行かないの?」
隣で煙草を燻らせていた茜が口を開いた。
「俺はここで飲んでる方がいいな」
そう言って俺は缶ビールを揺らした。
「私も泳ごうかしら」
「えっ?
でも水着は持ってきてないだろ?」
「ええ。
でもあの2人を見てたら楽しそうなんだもの」
「いや、あいつらは男だから問題はないけど、
茜は女の子だろ?」
「まあ、あっくんは男女で差別するの?」
「そ、そういうわけじゃないけどさ」
「男の人は良くて女の人は駄目なんて
不公平だわ」
暗闇は人を大胆にする。
いや、狂わせるのか。
俺は夜空を見上げた。
下弦の月が先ほどと変わらず
俺達を見下ろしていた。
「人を狂わせるのは満月に限らないのか」
「あっくんも行きましょ。
きっと気持ちがいいわ」
茜は煙草を消すと、
徐に服を脱ぎ始めた。
俺は慌てて視線をそらせた。
「早く来てね」
そう言って茜は駆け出した。
俺はただ呆気に取られて、
駆けていく茜の後姿を見送った。
そこには
大吾のビデオに映っていた
少女の面影はなかった。
この暗闇の中、
海水に紛れて茜を襲い、
砂浜で茜を犯す。
翔太と洋は驚くだろうが、
2人もすぐに興奮するだろう。
3人で代わる代わる茜を凌辱する。
泣き叫ぶ茜に俺はより興奮するだろう。
そこで俺は慌てて頭を振った。
そして大きく深呼吸をしてから
缶ビールを一息に呷った。
茜の走っていった方へ目を向けると、
翔太と洋が慌てているのがわかった。
「よし」と俺は意を決して立ち上がった。
素早く服を脱いで俺は駆け出した。
僅かな月明かりの下、
俺達は波打ち際で戯れた。




