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黄昏は悲しき堕天使達のシュプール  作者: Mr.M
二章 Renewal 5月

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23/137

第23話 2種類の人間

帰りの挨拶が終わり、

子供達が一斉に教室から出ていった。

その中には奥川の姿もあった。

「おい。逃げるんじゃねえぞ」

その時。

背後から声がした。

振り返ると

お供の3人を従えた大吾が立っていた。

「お前ら。

 こいつが逃げないように見張ってろよ」

大吾は3人にそう命令すると

先に教室を出ていった。

俺は「早くしろよ」という洋の言葉を無視して

ゆっくりと時間をかけて鞄に荷物を入れた。

そして予め道具箱から出しておいた彫刻刀を

ポケットに忍ばせた。

「行こうか」

俺は翔太と洋に挟まれて教室を出た。

後ろから茜が黙ってついてきた。


靴箱に相馬がいた。

彼女は俺達に好奇の目を向けた。

だがそれも一瞬のことで、

すぐにいつもの無表情に戻ると

「サヨナラ」

と言って校舎を出ていった。

その挨拶が誰に対してなのかわからず

俺達は誰も返事をしなかった。

「・・相馬って変わってるよな」

洋が誰にともなく同意を求めた。

「いつも1人で難しそうな本を読んでるもんね」

難しそうな本を読んでいる人間が

変わっているという翔太の言葉には

大きな語弊がありそうだが、

概ね翔太も洋の意見には賛成のようだった。

「私は相馬さんはちょっと苦手・・かな」

茜は独り言ちた。


俺達は渡り廊下を歩いて校舎の西へ向かった。

先頭を洋が。

続いて俺。

そして後ろから翔太と茜がついてきた。

洋に「どこに行くのか」と聞いたら、

「体育館だよ」という翔太の声が返ってきた。

そういえば以前にも放課後、

奥川と体育館へ向かったことを思い出した。

気が重いという点ではあの時と同じだった。

「そうだ。

 1つ聞きたいことがあるんだけどよ」

ふいに洋が突然足を止めて振り向いた。

しかし。

洋は口を閉ざしたままで

その先を話し出そうとしなかった。

「どうした?

 聞きたいことがあるんだろ?

 早く言えよ」

「え、えっと・・。

 あ、あっくんってさ、

 奥川と付き合ってるんだろ?」

こんな時に何を言い出すのかと

俺は少々拍子抜けした。

「それがどうしたんだ?」

「だ、だから・・。

 付き合うってどういうことなのか

 気になってさ」

そう言うと洋は頭を掻いた。

俺は返答に困った。

「洋が言いたいのはさ、

 2人で何をして遊んでるのかなってことだよ」

翔太が洋の言葉を補足したが、

その質問にも答え難かった。

「別に・・。

 話をしたり勉強をしたりしてるだけさ」

そう言いながら俺は

奥川を脱がせたあの夜のことを思い出していた。

「やっぱり2人は結婚するのかしら?」

茜の質問はあまりにも飛躍しすぎていた。

「そんな先のことはわからないよ」

と俺は答えたが、

もしこのまま

奥川と付き合い続けることができたら

どうなるだろうと思った。

そして同窓会に来ていた30歳の奥川の姿が

頭に浮かんだ。

「でも、

 付き合ってるのはお互い好きだからでしょ?」

茜の追求は止まらなかった。

「そ、そうだな」

「なら結婚するよね?」

「できればいいな」

俺はそう言って誤魔化した。

俺の返答に満足したのか

茜もそれ以上は聞いてこなかった。

そういえば将来、茜は翔太と結婚する。

同窓会に揃って現れた2人を見て、

俺はお似合いのカップルだなと

羨ましく思ったのを覚えている。

2人はいつから付き合い始めるのだろうか。


俺達はふたたび歩き出した。

ここからは誰も口を開かなかった。


体育館の前の階段に大吾は座っていた。

腕を組んで目を閉じているその姿は

さながら不動明王のような凄味があった。

大吾は俺達が近づくとその気配を察したのか

徐に目を開けた。

「おせえよ」

それから立ち上がると

ゆっくりと俺の方へ歩いてきた。

そして1mほどの距離まで

近づいたところで足を止めた。

大吾はただ黙ってこちらを睨んでいた。

その眼力は相当なモノで

子供であれば誰もが逃げ出すに違いない。

いや。

大人でもこの眼で睨まれたらどうなるか。

仕事柄、

何度かその筋の人間とやり合ったこともあるが、

今の大吾ほどの眼力を持った人間には

然う然うお目にかかったことはなかった。

人間には2種類いる。

人を殺せる人間と殺せない人間。

前者に属する人間は圧倒的に少ない。

そして。

大吾は前者に属する人間だった。

ただし。

それは決して褒められたことではない。

それは恥ずべきことなのだ。

前者に属する人間はどこか欠陥がある。

俺はポケットに手を入れて彫刻刀を握った。

もし大吾が襲い掛かってきたら、

俺は容赦なくその体に

彫刻刀を突き立てるだろう。

泣き叫ぶ大吾を想像すると

自然と口元が緩んだ。

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