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たった一包のガムが告げた新時代の幕開け:バーコード誕生の奇跡

始まりは「失敗作」だった。現代社会を支える白黒のストライプ、その美しき足跡

あらゆる革命がそうであるように、その始まりもまた、静かに、そして密やかに訪れた。


1974年6月26日、午前8時1分。オハイオ州にある Marsh スーパーマーケットのレジ係が、10本入りの Wrigley's Juicy Fruit Chewing Gum をバーコードスキャナーにかざした。その瞬間、レジの画面に自動で価格が表示され、新しい時代が産声を上げた。現在、半世紀以上の歴史を刻んだこのガムは、米国国立歴史博物館に永久コレクションとして静かに収められている。


すべては1949年、マイアミのサウスビーチから始まった。若きエンジニアであった Woodland は、当時のスーパーマーケットにおける手作業での会計に問題意識を抱いていた。計算が遅く、コストがかかり、ミスも絶えない。当時27歳だった彼は、商品の会計を自動化するシステムの開発を決意する。


ある日、彼が砂浜をそぞろ歩いていたときのことだ。何気なく4本の指を砂に突き刺し、そのまま引き抜いてみた。砂の上に残された4本の溝――。その歪な線を見つめていた彼の脳裏に、一本の閃光が走る。「線の太さを変えることで、情報をコード化できるのではないか」。バーコードという偉大な発明が産み落とされた瞬間であった。


しかし、時代を先取りしすぎた技術は、常に過酷な冬の時代を迎える。当時の世界には、バーコードシステムに不可欠な低コストのレーザー技術も、高度なコンピュータ技術もまだ存在していなかった。そのため、Woodland は自らの発明を形にするべくIBMに入社する。それから20年という長い歳月が流れた。IBMの同僚である George Laurer が、コードをデジタルで読み取るスキャナーを開発し、印刷やスキャンに最適な直線状のパターンへとデザインを洗練させた。そして1973年、ついにIBMからこの画期的な製品が世に送り出された。


普及への道のりは、決して平坦ではなかった。1976年に発表された「失敗に終わったスーパーマーケットのスキャナー」と題された記事には、次のような冷ややかな言葉が残されている。

「専門家たちは、今頃には1000以上の店舗でスキャナーが導入されていると予測していた。しかし、この高価な機器を取り入れたのは、わずか50店舗に過ぎない」


この停滞を打ち破ったのは、1980年代初頭のことであった。大型ディスカウントストアの Kmart がバーコードの全面採用に踏み切ると、その流れは瞬く間に小売業界全体へと波及し、もはや誰にも止められない巨大な潮流となった。2000年の調査によると、バーコードはスーパーや大型店舗の顧客、小売業者、そして製造業者に対し、年間300億ドルもの莫大なコスト削減をもたらしていると推計されている。


1992年、Woodland はアメリカ国家技術イノベーション賞を受賞。2011年には、米国発明家殿堂入りを果たした。高度な技術が当たり前となった世界を見届け、2012年12月9日、Woodland はアルツハイマー病と老衰のため、91歳でその波乱に満ちた生涯を閉じた。自宅で迎えた、穏やかな最期であった。

挿絵(By みてみん)

今日、スーパーの商品棚、書籍の裏表紙、宅配便の伝票にいたるまで、バーコードを見かけない日はない。商品の流通と管理を劇的にシンプルに変えたそのシステムは、QRコードが街に溢れる現代においてもなお、白と黒のストライプという極小のスペースの中に、人類の至高の知恵を宿し続けている。かつてバーコードが歩んだ道のりのように、現在の技術的な限界もまた、いつか周辺環境の進化によって塗り替えられるに違いない。そして、私たちの気付かないところで、未来の日常を再び静かに変えていくのだろう。

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