王都を歩く
(懐かしいは懐かしいんだけど……やっぱり勘違いじゃねえな。幾つかの神殿が無い。まあ、当たり前か)
ルークの案内で王都を歩むマックスは、七十年経っても不変であるはずの建造物、神を称える者達が集う神殿の幾つかが無くなっていることに気が付く。
大国リン王国の王都ともなれば、様々な神の神殿があってしかるべきだ。しかし、現在存在する多くが、大戦前には非主流派に属していた神の神殿であり、マックスの少年期に隆盛を誇っていた神殿の威容は見る影もなかった。
(当時の偉い神は殆ど殺されたからな)
主流だった神々は聖域に集っていたせいで、大魔神王に襲撃された際にほぼ全滅していた。尤も流石に聖域への侵攻は非主流派の神達も見過ごせず、普段は足を踏み入れない地での戦いに参加したが、そういった神達は単騎で暴れ回った大魔神王にとっても優先順位が低く、命からがら脱出することができた。
その結果、主流派だった神を称える者達は勢力を落とし、その後のとある事件でほぼ致命傷に近い深手を受けて衰退してしまう。
なお非主流の神の中には酒の神が存在しており、サザキの飲み友達というのだからスケールが大きいのか小さいのか分からない話である。
閑話休題。
(マジで理不尽だったから分かるよ。あの馬鹿大魔神王がブチ切れてたなら猶更だ)
天界で行われた戦いをマックスが見る術はないが、それでも大体のことは想像できる。
ついこの前の模造品と同じく、大魔神王があまりにも馬鹿げた耐久力で神からの攻撃を耐えながら一直線に走ってそのままぶん殴り、踏み潰し、掴んで引き裂く。
本当にこれだけで大抵は終わり、事実神々はその極まった暴力に抗し切れなかった。
(よく生きてるな俺……)
二、三、四と続いていく大魔神王の形態変化を思い出したマックスは、ぶるりと身を震わせる。そのどれもが理不尽の極みであり、理解できない力の結晶だった。
(フェアドもよく生きてるわ。俺だったら掠っただけで死ぬのに)
そんな理不尽の攻撃を常に耐え続けたのが勇者フェアドであり、彼だけしか大魔神王の真っ正面に立つ資格がなかった。
「本当に賑やかじゃのう」
「そうですねえお爺さん」
今は年老いていたとしてもだ。
「ああ、そうだ。武芸者大会みたいなのが開かれるか?」
「はい。今大会も盛況が予想されています」
(まさかとは思うが出場という話……な筈がないか)
ふと思い出したようなサザキの質問に、ルークは一瞬どきりとしたがすぐに考えを打ち消す。
ルークからしても頂点の争いならともかく、今更勇者パーティーの剣聖が、言葉は悪いが一流程度の大会に出場するとは思えなかった。
もし出場するという話になれば、国中を巻き込んだ大騒動に発展するだろう。
「なるほどな。俺がもっと若けりゃ出場したんだが」
「十歳くらいかね」
「だっはっはっはっ! それくらいだな!」
サザキはうんうんと頷きながら年寄りらしい言葉を放つと、肩を僅かに竦めたララの呟きに爆笑した。
確かに十歳のサザキなら、暴れ回るということがない。かもしれない。
「モンクも出場しますか?」
「はい。数人はいるようです」
「そうですか」
一方、シュタインはモンクが気になるようで、同門の可能性もあるのではと考えていた。
(よくよく考えれば、試合とは言え実戦をしている今の時代のモンクを見ていない)
シュタインの思考が深まる。
鍛錬をしているモンクは弟弟子が責任者の神殿で見かけたが、長く関係を断っていたせいで実際に戦っているモンクの姿は見ていないことに気が付いた。
(ふむ。やはり筋肉鍛錬比べを見に行きたいな)
「観戦にはなにか特別な手順は必要ですか?」
「入場料を支払えばいいだけになります。こちらでお席を準備することもできますが、少々目立つかもしれません」
「やはり入れないほど盛況ですか?」
「決勝や準決勝となればかなりの人数が集まりますが、それ以外でしたらスペースはあるかと」
「立てるだけのスペースがあるなら十分だろ」
「そうだな。ではこちらでなんとかします」
「畏まりました」
武芸者大会に勝手な解釈を付け加えたシュタインは、ルークにどれほど混雑しているか尋ね、共に興味を持っているサザキの意見に頷く。
「こちらになります」
そうこう言っているうちにルークは大通りから少し外れ、さりとて王都の隅でもない絶妙な位置にある宿の前で足を止める。
宿の名を道端の野営地亭。これまた大きすぎず、小さすぎもしない宿屋であり、リン王国の暗部が情報収集のために直接経営している拠点でもある。
つまり従業員は全員が裏の関係者であり、断られていなければこれから来る賓客のことも承知している。
つまりつまりである。
(勇者パーティーにどうやって接客したらいいんだ! 神様どうか教えてーーーーーーーー!)
(料理はなに出したらいいかさっぱり分からないんだけど!)
(き、緊張して昨日は寝れなかった……!)
どんな時も表の顔を崩さなかった、百戦錬磨の諜報員達が取り乱しているここは、新たに生み出された苦労人達の巣窟でもあった。




