変わり者たち
「飛び上がって剣を振るのが一番かっこよくね?」
「かっこいい、悪いの話になぜなる」
トイレから戻ったフランツは庭の木剣を握ってあれこれ試しながら格好良さについて力説するが、呆れたようなハーゲンにばっさりと一刀両断にされる。
「踊って舞いながら戦う剣の流派もあるんだから、かっこよさが前提の剣術があってもいいだろ?」
「いったいどこの剣術だ。剣は地味な基礎鍛錬の積み重ねだろう」
「全くその通りだわ。それに踊ったりしながらどうやって戦うのよ」
「いやあるって! なあコニー!」
風変わりなことで有名な剣術を例えにしたフランツは、ハーゲンとエメリーヌに否定されてコニーに助けを求めた。
「マドレー流のこと?」
「そうそれだ!」
「な、なに? 本当にあるのか?」
「信じられない……」
ハーゲンとエメリーヌはコニーも否定してくれるものだと思っていたのに、すんなりと流派の名前が出たことで困惑し、逆にフランツは肯定されたことで胸を撫で下ろした。
「確かに飛んだり踊ったり、舞ったりする流派だね。特殊な動きで幻惑してから、隙をついて仕留めるって聞いたことがある」
「つ、強いのか?」
「リン王国が国を挙げて開催した武芸者大会で……何位だったかな……結構上の方まで勝ち進んだ使い手の人がいた気がする。あ、でも最上位の人達は出場してないよ」
「ええ……」
きちんと説明するコニーに対して信じられないと顔に出ていたハーゲンが、その流派の強さについて尋ねた。しかしきちんとした大会で勝ち進んだようで、エメリーヌの方はなんとも言えない顔になっていた。
「観客が大勢いる試合か……思えば縁がなかったな」
「知ってる限り、あんたの弟子も出てないね」
「本気でやれる訳じゃないし、金とか名誉も興味ないんだろ」
それを聞いていたサザキが僅かに首を傾げると、ララの補足に肩を竦めた。
大国であるリン王国が主催する武芸者の大会なのだから、優勝で得られる名誉と報酬は間違いなく屈指のものだ。それ故に求道者の大勢が優勝を夢見るが、一部の者の意見は違う。
最上位の者は別に金や名誉を求めている訳でもないと言っていることが多く、サザキの弟子達はその傾向が強かった。
「それに剣士の中には、自分の技を他人に見せるなんてあり得ないって考える奴もいる」
更にサザキが知る武芸者の中には弟子も取らず孤独に技を磨く者もおり、そういった存在は己の技が大勢に見られて研究されるなど、想像しただけで身震いするだろう。
なおこの類の者だが、大戦中に少し揉めたことがある。
「大戦中にもこの理論を持ち出す奴もいたしな」
「確かにね」
似たもの夫婦は同じような仕草で肩を竦める。
大戦時においても偏屈極まった剣士や魔法使いはいたが、彼らの中には命ある者が滅亡しようと自分の技は絶対に人前で見せない。見せるくらいなら滅んでいいとまで言い切った者がいたほどだ。
「言ってた割には大したことのない奴の方が多かったけどな」
「例外を除いて交流を断つってことは、周りの変化と成長についていけないってことなのさ」
「違いない」
そんな偏屈者達だが、勿論全員が拒絶した訳ではなく渋々ながら協力した者もいた。しかしサザキの記憶にある者達は、勿体ぶったことを言っていた割に大したことがなかった。
それをララは、閉じた世界にいた弊害が出たのだろうと評する。
剣術家が己の腕前を磨く。魔法使いが研究に没頭するのはいい。だが世界の技術は膨大な数の人間によって進んでいるのだ。
まさに大戦に従軍した偏屈達は、いつの間にか自分達の技術や研究が時代遅れで陳腐化していたものだと突きつけられ、殆どの場合は通用しなかった。
七十年近く山の中で生活していながら、教会勢力がこれ以上の完成度はないと断言して、事実その通りに殺しの技術を保っている殺戮機械と、未だ誰も到達できていない光の力が例外中の例外なのだ。
尤も光の到達点に至る資格を有する者はいるが、大戦という極限状態で磨かれた力であるが故に、平和な世の中ではそこに到達するまでの経験を積むことは難しいだろう。
話を変わり者達に戻すが、ララの視線の先にいるエメリーヌもそういう閉じた世界の影響がある。
「ちょっと常識を学びなおそうかしら……」
実はこの踊って舞う剣術に困惑しているエメリーヌ、久方ぶりに入学試験の安全策に引っかかった人物なのである。
魔法こそが至高で剣術に負ける訳がない。どう頑張っても剣では魔法障壁を破れない思っていたのは、彼女の師の影響が強い。
だがクローヴィス流派を筆頭に、世の中には魔法障壁を破れる剣士がそれなりにいるのに、魔法使いが剣士よりも強いとエメリーヌに教え込んでいたということは、その師は思い込みが激しい。世間を知らない。あるいはそう願っていることが考えられる。
そのせいかエメリーヌは知識に偏りがあり、入学試験の際に強力な魔法を使っていいのかと尋ねてしまった。
幸いというべきか事前に尋ねたことで常識はあると判断され、諸々の確認と処置の後で入学が許可された。
つまりコニーやフランツだけではなく、エメリーヌも少々個性的な人物であり奇妙な集団の一員だった。
とは言え史上最も奇妙な集団がすぐ傍にいるので常識的な範疇だろう。
「俗っぽい本も見た方がいいのかしら」
エメリーヌの呟きは青空に溶けていく。
彼女は学園が弟子に碌な教育を施さない危険人物だと警戒していた師が、いつの間にか失踪していたことを知らなかった。




