次の街へ
「いよっし。さあ行こうか諸君」
店の在庫も処理し切り、いよいよかつての仲間達と旅することになったマックスが仕切る。
かつては祖国を救うため決死の覚悟を抱いていた男だがその目的を果たして燃え尽き、しかもその道中で仲間達に常識を破壊されたため、現在では非常に気軽なお調子者と言ってもいい。
「さらば迷宮都市。世話になったな」
続けて特に思いを抱いていない迷宮都市に別れを告げるが、視線だけは真剣で恐らく兄がいるであろう場所へ向けていた。
だがすぐに元の気軽な雰囲気の男に戻る。
「久しぶりに海でイカでも食いたい。どう思うサザキ?」
「お、いいねえ。イカ、タコ、エビ。それと東方諸国の刺身だな」
「私も鮮度のいい青魚を食べたいな」
「ははあ。シュタインは青魚か。そっちもいいな」
マックスは大戦後、七十年近く一人で旅を続けていたとは思えないほど気軽に、サザキ、シュタインと共に馬車へ乗り込む。
何十年も一人でふらふらと旅を続けた年月と、仲間と共に旅した時間を比べると、圧倒的に後者の密度が濃すぎるのだ。
「海は広かったのう。感動したわい」
フェアドも懐かしげな顔をして会話に混ざる。田舎の農村で育ったフェアドにしてみれば、海は最も衝撃を受けた場所だ。
「私もです」
「なー。シュタインは沈んでたけど」
「私の筋肉量なら当然の話だ」
それは神殿の秘蔵っ子であったエルリカ、王宮で育ったマックスと山育ちのシュタインも同じだ。
「久しぶりに釣りをしながら酒を飲むのもいいな」
「最後に行ったのはいつだったかね」
「五年前かな?」
一方、サザキとララはなんだかんだ二人で出歩いていたようだ。
(懐かしいけど新鮮だ)
マックスは馬車で他愛のない会話をする仲間達に懐かしさと新鮮さを感じた。
大戦中はサザキ以外、大魔神王を倒す目的と使命があったため、馬車の中でどうしても完全に気を抜くということができなかった。
それに比べ今の目的は、知人への挨拶という気楽なものでありかつてとは大違いだ。
ただ足りない人物がいた。
「それにしてもエアハードの奴、墓の場所くらい教えておけってんだ」
「本当にのう」
マックスの嘆息にフェアドも同意する。
故人の仲間はその遺体を利用されることを恐れ、フェアド達へ誰にも知らない地で身を休めると伝えると、ひっそりと表舞台から消え去っていた。
それ故にフェアド達は仲間の墓所を知らず、墓参りをすることもできなかった。
「ま、変わった奴だったからな」
仲間を懐かしんで酒を飲むサザキに、全員がお前が言うなと言いたい衝動に駆られた。
そんなサザキのことは放っておくことにしたエルリカがララに向き直る。
「彼が身を休めているとしたらどこでしょうか?」
「さてね。とんでもない秘境か、もしかしたら大迷宮の一番下ってことも考えられる」
「なるほど。大迷宮ですか」
「単なる想像でしかないよ」
「いえ、十分考えられると思います」
ララの意見を聞いたエルリカは何度か頷いた。
大迷宮とは名前の通り単なる迷宮ではない。大と付くだけあって底は未だ解明されておらず百層とも千層とも。もしくは底がなく別世界が永遠に続いているのではと実しやかに囁かれている深淵への入り口だ。
そんな大迷宮の一番下を墓所に選んだのではと考察される人物もやはりただ者ではない。
「んで、どこ行くんだ?」
マックスが次の行き先を尋ねると、サザキがちらりと意味ありげに妻に視線を向けた。するとララは口が奇妙に歪んでいるではないか。
「ああね。グリア学術都市国家か」
それで全てを察したマックスが肩を竦める。
次の行き先は少々特殊な場所だ。
リン王国の中にあって独立している学術都市国家であり、魔法評議会が設立されている魔法使いの総本山でもある。
つまり大戦中に活躍して存命している魔法使いが隠居地に選んでいたり……ララの関係者が多数いる場所でもあった。
「今は何人知り合いがいるんじゃ?」
「まあ、数人さ」
「ファルケ君やお弟子さん達もかの?」
「いるだろうね」
フェアドはしかめっ面になっているララを気にすることなく尋ねる。
「グリアと言えば魔法学園が有名だったな。筋肉の栄養に関する学問はあるのか?」
「あるにはあるだろうさ」
「おお! それはいいことを聞いた! 見学はできるのか?」
「できなくもない」
「流石はララ達が名誉学園長をしている場所だ。素晴らしいというしかない」
「儂も学園を見学したいのう」
「私もです」
心底面倒そうなララに、シュタインは普段通りの言葉で核心を突いた。そして学び舎と縁がなく興味を持ったフェアドとエルリカも続く。
だがララにしてみればグリアは“そこそこ”関係のある知り合いが数人いるだけではない。
魔法使いの総本山だけあり、グリアには魔法使いを教育する大拠点が存在するのだが、大戦で校舎は要塞となり学生や教員の区別なく立て籠もって、魔の軍勢と対決した結果かなりの部分が崩壊してしまった。
それを再建する際、ララを含め当時の大魔法使いが名前を連ねており、彼女達は名誉学園長の名を贈られて銅像まで作られている。
だがララにしてみれば、名誉学園長だの若い日の銅像だのは勘弁してくれと言ったところなのだが、政治的に色々あって強行されてしまった。
「はあ、まあ仕方ないか」
そんな都市国家に行きたくはないララだが、まあ最後に顔だけは見せておくかと思うような者達がいる場所でもあるため、仕方なく諦めることにした。
「では行こうかの」
フェアドの言葉と共に馬車が動き始める。
目指すはグリア学術都市国家。
偉大なる魔法使い達の街にかつての勇者パーティーが訪れようとしていた。




