かつての幕間。兄弟の苦悩
申し訳ありませんがちょっと書籍化作業と私生活が忙しいものでして、投稿が不定期になります。どうかお許しください……。
もう八十年近く前、空が赤く濁っていた暗黒の時代の話だ。
若い双子の兄弟の苦悩と決意があった。
「父上のご様子は?」
「変わらず部屋から出られない」
双子らしく顔立ちが同じで青い髪の青年、リン王国の第一王子ゲイル・リンが、後年様々な名を持つことになる弟ギャビンの質問に答えた。
彼らの苦悩の原因は心を病んでしまった父にある。
「西部戦線の幾つかが突破されたと聞いたが本当か?」
「ああ、間違いないようだ」
「くっ!」
焦燥して問うギャビンも答えるゲイルも、現状の危険性をこれ以上なく理解している。
命あるものを滅ぼすためだけに生み出された魔の軍勢は世界各地の戦線を食い破っているのに、頂点である王がそれに対応しないのは話にならない。
ただ、双子の弟であるため、本来は密かに歴史の闇に葬られていた筈のギャビンは、父の優しさで今も生きているのだから罵ることができない。
そして息子だろうと双子の弟を王宮で生活させるなど、王位継承を複雑にしてしまうため王として失格も失格であるが、今回だけはいい方に転がった。
「相談がある」
「分かってる。指揮系統を混乱させるわけにはいかないんだろ」
ゲイルの呟きにギャビンは頷く。
「ああ。それに軍権は父上のものだ。代理だと権限が弱い。どうしても建前や権限というものが必要だ」
「父上にそのことは?」
「……話したが反応がない」
「……いや、頷いてたんじゃないか?」
「……そうかもしれん」
父の反応を見てもないギャビンが頷いていたんじゃないかと口にすると、天井を見上げたゲイルが同意した。
この兄弟の心情を余人が理解することは不可能だろう。
二人とも父である王から、ゲイルに王位を譲るという反応があったという事実を作り上げようとしているのだ。それは実質的に父を追いやり幽閉することに等しくなる。
だが迷っている暇などなく、誰かがやらねばならないことだ。
「……ギャビン、国王陛下からのお言葉があった。私に王位を譲り退位なされるとのことだ」
「ああ。分かった」
ゲイルの宣言は捏造であり簒奪に等しい。だが世界が滅びる瀬戸際なのだから、王国上層部の誰もが望んでいる嘘だ。
「宰相と大将軍をここに」
「はっ」
ゲイルは扉の外で控えていた者に、国の舵取りを担いその嘘を望んでいる者達を呼ぶよう命じた。
「なら俺は、外で頑張ろうとするかね」
「そうか……」
立ち上がったギャビンをゲイルは憂いの籠った目で見る。
彼らもかなり高い確率で、今生の別れが訪れようとしていることが分かっている。それはリン王国の崩壊かもしれないし、ギャビンの戦死かもしれない。だがいずれにせよ死に方を選べる時代ではなかった。
「ああ、国宝の幾つか、特に武具の類だが金物食いネズミに食われてなくなったかもしれん。無事な物も食われては堪らんから、一旦宝物から出しておこう。そうだな、最も優れた戦士達に預かってもらえれば安心だ」
「……ありがとよ」
だからゲイルは兄弟への餞別として、国宝の武器にして青きドラゴンの力を渡すことにした。リン王国王家において、歴代最強の青きドラゴンの力の使い手に。
そして別れの時は訪れた。
◆
「必ず王国を存続させて見せる」
王位継承権もない。歴史に記されることもない。だが父と母から息子として、兄からは血を分けた半身として扱われ、家族として生きていくことができたのだ。
「今日から俺は……そう、マックスだ」
ならばこそギャビン、いや、後の竜滅騎士マックスは武器を取る。
そして奇しくも同じタイミングで立ち上がった者達がいた。
「ここが魔道の深淵ねえ。人が滅ぶ前に間に合ったか間に合ってないか。さてどうなるかね」
魔女は自身が魔法使いとしてほぼ完成したが、大魔神王への対処ができるかと首を傾げた。
「大魔神王を打ち倒す以外に、煮え立つ山が存続することは不可能か」
自らの道を進むモンクが決心した。
「天と地が望んでいようが、人の世が滅ぶなど断じて許容しない。死んでも死に切れん」
誰かが身の丈を優に超える大剣を握りしめた。
「必ず成し遂げます」
意思なき殺戮機械が願われた。
そして。
「んで、どうすんだ?」
酒瓶を揺らす剣士が頬を歪めながら笑う。
「大魔神王をぶっ倒す! 青空を取り戻す! やってやるぞおおおおおおおお!」
魔の軍営の襲撃により農村から逃げるしかなかった小僧が成長して、天に、世界に、命ある全てにそう宣言した。
暗黒の時代で僅かな輝きが生まれた。
これは希望が、命が、光が、勇者パーティーが結成される前の話だった。
◆
おまけ
集結する前の光。
-大魔神王の失敗は数多いが、それは油断や慢心からのものではない。暗黒の化身として醜い人間をこれ以上なく理解していたが故に、命ある全てがそうだと思い込んでしまったからだ。そのツケは集結した光に取り立てられることになる。そして大魔神王も、殆ど把握していない地方の自軍が踏み潰した、小さな小さな寒村から取り逃した小僧に頭をカチ割られることになるとは夢にも思っていなかった-




