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幕間 冒険者2

 その日、テオをリーダーとする冒険者パーティー“底明かり”は、迷宮都市から少し離れた山で集結していた。


 いや、彼らだけではない。


 迷宮都市ユリアノの深層巡りを総動員したと形容できる、三十人ほどの精鋭が集まっている。


 黒い魔獣の皮を纏った狂戦士。いくつもの宝石を身に着けた魔法使い。地味ながら僅かに光り輝いている衣を纏ったモンク。精霊が舞う弓を持つエルフ。大地から生み出されたような鎧を着こんだドワーフの重戦士。複雑な紋様が描かれたフードで顔を隠し、様々な道具を仕込んだダークエルフの盗賊などなど。


 その威圧感は凄まじく、一般的なベテランの冒険者も冷や汗を流しながら道を譲っていた。


 今日この日、ユリアノで臨時結成された深層巡り達による同盟は、“夜なき灼熱”と呼ばれる迷宮の最下層に挑み、ドラゴンを討伐するのだ。


「転送装置の行き先は五十層で間違いないな?」


「ああ」


 ロイドは洞窟の入り口に浮いている、掌ほどの光る球に視線を移して仲間に問う。


 これはあらゆる迷宮に存在する転送装置と呼称されるもので、迷宮を毎回潜る必要なく一度行ったことがある各階層へ行き来ができる非常に便利な装置である。


 だがその由来は全く分かっておらず、迷宮は悪神の罠だと主張する者達の根拠の一つとなっている。


 迷宮がもし善神の試練というのならば、このような便利なものがある筈ない。悪神が人を迷宮に引きずり込むために設置したのだという理屈だ。


 しかし結局のところ迷宮そのものに対する完全な正解は誰も持っておらず、答えが得られるかは分からない。


「準備はいいか?」


「こちらは大丈夫だ」


「同じく」


「ああ。構わない」


 深層巡りの同盟を主導した冒険者。“栄光への導き”のリーダーであるロイドは、獅子のような威厳ある顔で各パーティーを見渡して確認を取る。


「僕達も大丈夫です」


 テオもまた、自らの冒険者パーティーのリーダーとしてロイドに頷く。


 同盟の中ではミアと共に最年少のテオだが、侮られるようなことはない。年功序列ではなく実力主義な冒険者は、年若い者でも実績さえあれば気にしないことが多い。


「では行くぞ」


 ロイドは全員が頷いたのを確認して、転送装置を起動した。


 冒険者達を出迎えたのは広い地下の空間。そして赤と熱だ。


 焦げたような地面のあちこちでは炎が噴出し、最奥ではどろりとした溶岩が流れている。当然ながら冒険者達に熱が襲い掛かるが、事前に司祭の者達が施した光の加護は、ある程度熱や寒さなどを防いでくれるためなんとか活動することができた。


 これが迷宮、夜なき灼熱。活動している火山の地下空間と言える迷宮は常に炎と溶岩で照らされ、侵入者達を燃やし尽くす。


「来るぞ!」


 ロイドの声を聞かずとも全員が戦闘態勢だ。


 迷宮が牙を剥いた。


 転送装置は場所によって欠点があり、迷宮の比較的安全な場所に転送されることもあれば、いきなりモンスターに襲われることもある。


 今回は完全に後者だ。


「オオオオオオオオオオ!」


 焦げた大地が隆起する。


 もしここに、オークと価値観が似ている二足歩行する鰐としか言えないような種族、リザードマンがいれば顔を顰めただろう。


 地面から飛び出してきた冒険者達とほぼ同数のモンスターは、まさに二足歩行する鰐なのだ。これがリザードマン達から嫌悪されて“地下住み”と呼ばれている存在だ。


 違う点は、鱗と牙の隙間から炎が噴き出していること。人間より頭二つ分は大きなリザードマンより更に大柄で、横の体型もそれに相応しくがっしりしていること。


 そして知性を感じさせない、本能だけを宿しているような妙に澄み切った瞳か。


 その瞳に矢が突き刺さった。


「ギ!?」


 本能から痛みの原因を引き抜いた地下住みの残った目にも矢が突き刺さる。


 淡々と両目に矢を当てた達人は、無表情無感情といった様子で次の獲物に狙いを定めた。


 冷徹な狩人はテオの仲間だ。


 感情と共に体の起伏も乏しい女であるアマルダは、素晴らしい手際の良さで淡々と赤、青、黄色が入り混じった弓を扱い、地下住みの瞳を狙い続ける。


「おお!」


 そして冒険者の前衛と地下住みが激突した。


 大柄な地下住みはその膂力も凄まじく、単なる鎧なら紙の様に引き裂き、鱗は槍やクロスボウだって貫けない。


 だがここにいるのは人間を超えている者達ばかりだ。


「波ッ!」


 ただ力任せに殴り掛かってきた地下住みをモンクが迎え撃つ。


 その力量差は明らかだ。大振りで雑な地下住みに比べモンクの拳は最短距離を突き進み、無様に揺らしている顎を叩き砕いた。


「せい!」


 前衛で最も大柄な鎧を着こんでいるフレヤが、黒い大剣を大きく振り下ろすと、地下住まいの鱗は無価値なものになった。


 脳天から股まで両断されたのだから、そこに価値を見出すものなどいないだろう。


 テオもその前衛の一員であり、鏡の様に光を反射する盾を構えた彼は、大口を開けて突っ込んできた地下住まいの勢いに負けるどころではない。


「ギガ!?」


 地下住みは混乱した。


 勢いのまま小さな生き物を吹き飛ばそうとしたのに光り輝く盾にぶち当たると、逆に大きく後ろへ弾き飛ばされてしまったのだ。


 大人と子供のような体格差を考えるとあり得ないことであり、本能で生きる地下住みはその原因である光の力が持つ頑強さを理解できなかった。


 しかし、本能で生きているならもっと素早く体勢を立て直すべきだ。


 吹き飛ばされて立ち上がろうとした地下住みの後ろが揺らめいた。


 熱によるものではない。


「ギ?」


 混乱していた地下住みの意識と命が途絶える。


 場にそぐわない程見事なプロポーションの女、テオの仲間であるエリーズが地下住みの首筋から、紫に怪しく光る短剣を引き抜くと、再び陽炎のような揺らめきと共に消え去った。


「モンク殺しだ!」


 そう叫ばれた名を聞いたモンクと剣士、テオ、フレヤ、姿を消したエリーズが警戒する。


 戦場の奥で地下住みと変わらないほどの溶岩そのものが、一塊となって蠢いていた。


 大魔神王がこれに強化を重ねて煮え立つ山の戦線に投入した結果、モンクが多数犠牲になったことから、モンク殺しと呼ばれるようになったモンスターだ。


 理由は外見からも分かる通りに単純明快。生きる溶岩といえる存在に拳を突っ込んで無事なほど、高度に生波を操れるモンクの数が少ないのだ。


 現に迷宮で深層巡りを行えるほど強力なモンクがはっきりと顔を顰めている。


 ただ大戦中に猛威を振るった改良種は、モンクの高僧でも後れを取りかねないほど強力だったが、原種であるこの個体ははっきりとした弱点があった。


 流体に近いドロドロとした体のせいか、足が遅すぎて魔法攻撃の的なのだ。その遅さたるや、杖を突いた老人と殆ど変わらないほどだ。


「光よ悪しきものを浄化せよ!」


 ミアや司祭の杖に光が集い、光の球がモンク殺しに殺到した。


「一発撃つぞ!」


 漸進層に位置する魔法使いが四つの指を光らせて光球を放つ。


 するとモンク殺しは碌な抵抗ができず消え去ってしまった。


 このモンスター、人間に触れたら勝ちという尖りすぎた能力を持っていても、霊的、もしくは魔法的な攻撃に対する防御力が低く、一定の力量を持つ魔法使いや司祭にすれば雑魚同然だった。


 欠点を取り除いた、大戦中の猛威を振るった真にモンク殺しと呼ぶに相応しいモンスターならこうもいかないが、原種は対策さえできれば問題にならない。


 尤も全く問題なく対処されている地下住みとモンク殺しだが、それは冒険者の最上位と言っていい深層巡りが三十人もいるからだ。


 だがそもそも、ここで苦戦しているなら話にならない。


「よし。降りるぞ」


 彼ら冒険者が戦いを挑もうとしているのは、頂点種の中の頂点種であるドラゴンなのだから。

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― 新着の感想 ―
[一言] なーに筋肉チャクラを駆使すれば触れずとも殴れる
[一言] 高速高耐久高火力、同レベル帯の相手なら無双できる性能してますわ・・・同レベル帯ならね・・・
[一言] しっかり強そうだけど これの改良種が大挙して襲ってくる時代ってことはこれくらいならパーティーの数人だけでまとめてゴミみたいにぶっ飛ばせないと多分大魔神王なんか倒せなかったんだろうなぁ…恐ろし…
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