違反車両
「ちっ!」
軽くヘルメットの中で舌打ちをする。
と、歩道側から1人の、怪しい格好をした者が近づき、男に話しかけて来たようだった。
「※※※※※、※※※よ※※※で※※※※」
何を言っているのか聞気取れず、男はヘルメットのシールドを上げて、
「えっ?何??」
と聞き返したが、自分のバイクのマフラー音が大きくて向こうへ伝わらなかったようだ。
「すいません!少しよろしいでしょうか!!」
先程より少し大きめな声を出したのだろう、今度はちょっと聞き取れた。
「ここでは、アレですので曲がってすぐの左側の空き地へお願いします!!」
更に大きめな声になり、男は困惑した。
信号が青になろうとして、その人物はバイクから離れ、左側へ寄ってくれ、と言わんばかりのジェスチャーをしていた。
「なんだ?」
と思いつつも、男は従った。
急ぎ待ち合わせまで行かなきゃいけないのだが、異様な格好ではあったが、その姿には似つかわしくない、可愛らしい声。そしてジェスチャーした時に服の上からでもわかる大きな膨らみの揺れ。少しくらい、遅れてもいいかな。
と、青になった信号を左折させ、先に言われた、空き地へとバイクを入れて、エンジンを切った。
「仲間には、こんな話しがあった、と土産話にでもしよう。」
ヘルメットの中で男はにやけていた。
と、先程の女性が小走りで近づいてきた。
改めて良く見ると、上下黒い軍服?のような格好をしている。帽子をかぶっているようだが、髪を纏めてあるのか、被っているというよりは乗せている、という表現に近い。マスクをしていて口元はわからないが、クルリと大きな目が可愛いさを感じ、動くたび揺れる二つの膨らみが、男をドキドキさせていた。
「すいません、来ていただき、ありがとうございますー。」
深々と頭を下げた女性に、
「いや、いいけど。時間あまりないので。」
と、答えた。来てしまったとはいえ、やはり早く待ち合わせ場所まで行きたい、男はそう思って、
「何のよう?」
とその女性に尋ねた。
「時間はお気になさらずで大丈夫ですよー。」
と、女性の目が微笑み、
「この後、連行いたしますのでー。」
と、続けた。
「??」
男は最初、この女性が何を言っているのか理解出来なかった。
「連行って言った?え?」
ヘルメットを被ったままだったので、何か聞き間違いをしたのだろうか。
男はヘルメットを取り、改めて尋ねた。
「すいません、良く聞こえなかったんだけど、連行?そう言ったの?」
笑いながら言い返したが、女性が冗談を言っていないと、すぐに気がついた。
いつの間にか、男の周りを同じ格好をした者に囲まれていたからだ。
驚く男をよそに、ふふふ、と笑いながら女性は男へ向かって伝えた。
「これより、【執行部】としてあなたを連行しますー。」