違反車両
無視して走ってしまえば良かった。
男は数分前の自分を殴りたい心境だった。
目の前の誘惑に引っかかってしまった。
などと思考していると、目の前の女性が近づいて、
男に告げた。
「心配しなくても大丈夫ですよー。
多分、お仲間さん達と会う事はできますー。」
語尾が伸びるのは癖なのだろうか。
ちょっと前まで可愛いと感じていた仕草や態度が、
今は逆にイラつかせていた。
「会う事できるとか、連行とか、わかんねぇな。
付き合ってらんねぇよ。」
バイクに跨がろうとしたが、その前を塞がれた。
「邪魔だよ、そこどけよ!」
男はそう強く出ようとしたが、目の前の男は、
自分より身体が大きい。さらに、帽から覗く目の
威圧感が、足を止まらせた。
「抵抗はしないでほしいですー。」
腕を組み、右手を頬にあてながら続ける。
「あなたのは違反車両なので、条例違反者として、
これから連行させていただきますー。」
違反車両?
確かにバイクのマフラーは変えてある。
しかし、車検が通るマフラーであり、 違反車両というにはお門違いだ。
「マフラーのことか?これは車検対応品だ!
違反車両じゃねえよ!」
男は叫んだ。
「いえいえ。」
微笑みながら男のバイクの一部を指さした。
「ナンバーが曲がって付いていますのでー。」
にっこりと笑う。
「アウトですー。」
「ナンバー?」
指された先のナンバーは確かに上を向いている。
まぁ、言われてみれば違反車両かもしれない。
それでも、他のバイクもそうしている者は多い。
注意は受けても、連行なんておかしいだろ。
「そんなんで、連行っておかしいだろ!
警察でもない、お前らに何の権限があって
わけわかんねぇ事言われなきゃいけねぇんだよ!」
反論する男に、女性は優しく子供を諭すように
話しはじめた。
「警察とか関係ないですー。
ここでは条例が全てで、条例違反すれば誰であれ、
連行する事になっているのですー。」
小さく、「めっ」というポーズを取りながらの姿に、
男は既に苛立ちしか感じられないでいた。
「マフラーも車検対応?かも知れませんがー。
騒音の違反に入りますのでー。」
「ナンバーと合わせて二つの違反となりますー。」
男には理解できなかった。
ナンバーの角度、マフラーの音で連行される。
そんな話があるだろうか。
だが、一つだけ、わかることがあった。
このままでは、自分はどこかへ連れて行かれる。
そうだ、仲間に何とか連絡できれば!
あいつらもこの先のコンビニに来ているはず!
男はポケットの携帯を取り出して、
連絡しようとして、先の女性の言葉を思い出した。
「会う事はできますー。」
確かにそう言っていた。
自分を連行しようとしているのに、会う事ができる?
そして、はっと気づく。
「んー?お仲間さんへ連絡ですかー?
大丈夫ですよー。」
男を覗き込むように話しかける。
「ちゃんと向こうで会えますのでー。」
そして、周りを囲む男達へ一言、命令をだす。
「では、お願いしますー。」
その言葉と同時に、周囲の執行部達が一斉に動く。
男は思わず後退る。
だか、逃げ場はもうなかった。
違反車両一件。
対象者、確保。
なお、他数名同じ条例違反の疑いあり。
周辺にて新たな条例違反の疑いあり。
対象者、男女数名。
スポーツ自転車利用者。
現在監視継続中。
――執行部記録より。




