第60話:お支払いは「自分たちの顔」
二人の前に、巨大な「水晶の壁」が現れました。
『通行料:汝が今、その心に刻んだ「自分自身のカタチ」を、開門の鍵として捧げよ』
「あ、これ。またお供えの時間だねっ」
ぽこは、迷うことなく水晶の壁に手を当てました。
「……ねえ、ぽこ。いいの?」
くうが、壁の前で立ち止まりました。
「さっきの『レンズ』で見たとき、僕たち、とってもかっこいい姿だったじゃない。それを捨てちゃったら……僕たちは、誰になっちゃうの?」
くうは、自分の手のひらを見つめました。もし自分が「自分」でなくなってしまったら、隣にいるぽこのことも、わからなくなってしまうのではないか。そんな予感が、くうの胸をチクチクと刺しました。
「いいんだよ、くう。だって、お顔なんて毎日変わるものでしょ? そんなのより、あっちの『綿あめの雲』のところに行きたいもん。それにね、くう。僕たちが誰であっても、こうして手を繋いでいれば、それは『僕たち』だよ」
ぽこが目を閉じると、レンズを見て獲得した「自分たちの本来の姿」の記憶が、まばゆい光になって壁に吸い込まれていきました。
「……あ。いまね、頭の中が『ふわっ』てしたよぉ!」
壁が溶けるように消えていきます。
「ねえ、くう。僕たち、なんでこんなところに立ってるんだっけ?」
「えーっとね。……わかんない! でも、なんだか体が軽くなって、最高な気分だよっ」
二人は、自分が騎士だったことも、魔術師だったことも、かつて彼女に愛された「人間」であったことも、すべて水晶の向こう側に置いていきました。




