赤薔薇と王子様①~ロゼリアside~
まずはロゼリアsideからはじまります。
ヴォレッカの故郷であるサミレット領が危機らしい。
そのことを知った時、私にできることは何かと考えた。
女性は政治に直接関与することを良しとされなくて、許されるのは、社交の場での情報収集と噂の操作くらいのもの。
できることは、あまりにも少ない。
そのような中で、私にできることは?
そう考えた時、ある案が思い浮かんだ。
宰相派を揺るがせれば、ヴォレッカの助けだけではなく、お父様の力にもなれる。
けれど、私がしようとしていることを知ったら、お父様は反対するだろう。
昔から、何をするにも両親には反対ばかりされていた。
今はファララス公爵家の娘として、ゆくゆくは他家の妻として、いかに有益な存在になれるのか。私の価値はそこにある。
けれど、私だってお兄様たちのように剣を握り、政治を学びたかった。
でも、女性である私にはそれが許されない。ずっと女性だからと蚊帳の外であることに不満を持っていた。
駄目なことが増える度に、窮屈で息苦しく感じていった。
ライラクス様を追いかけ、アピールをひたすらにしていたのも、別にライラクス様が好きだったわけではない。
両親への当てつけなようなものだった。
社交界一の美丈夫に熱をあげ、追いかけまわす私は、さぞ市場価値が下がったことだろう。
ライラクス様が伯爵家で、我が家が縁を結んでも何も旨味がないことも、私が彼を選んだ理由だった。
くだらない反抗だ。それでも、こうしている間はまともな縁談が来ないこともわかっていたから都合が良かったし、社交界の赤薔薇とまで呼ばれる私に一切の興味を示さないライラクス様に対して、何としても振り向かせてやると意地になっていたのもある。
とは言っても、ライラクス様の顔は非常に好みだったので、婚姻となっても彼ならいいかなという気持ちがなかったと言えば、嘘になるのだけれど。
そんなだから、ライラクス様は私を選ばなかったのだろう。
ライラクス様がヴォレッカを選んだと知った時、こんなにも追いかけまわすのに都合が良い人がいなくなるなんて困ると、ヴォレッカ・サミレットさえいなければ……という、何とも自分勝手すぎる感情を持った。
選ばれたのが自分じゃないということも気に食わなくて、会ったこともない相手に憎しみを覚えた。
そのような、ものすごく自分勝手な理由でヴォレッカを一方的に恨んでいたわけなのだけれど、蓋を開ければライラクス様の完璧な片思いだし、ヴォレッカは面白いしで、私はすっかりヴォレッカを気に入ったのである。
ヴォレッカは良くも悪くも貴族らしくなく、社交辞令も言わないし、詮索もしてこない。言葉の裏を考えなくて良いというところが楽で良かった。
ヴォレッカのそばでは肩肘を張っているのも馬鹿らしく、久々に窮屈さを感じなくて済んだ。
「やっぱりこれしかないわね」
そう決意すると、私は真っ赤なドレスを身にまとい、夜会へと繰り出した。
夜会の目的はただ一つ。誰にも相談はしていない。
「本当にいつ見ても腹が立つわね。私が同じ立場なら、もっと国のために尽くすのに」
まぁ、彼からしたら持たない私の方が羨ましいのかもしれないけれど。
それにしたって、無気力過ぎだわ。
怒らないように、気を付けないと。
私は自分が最大限美しく見える微笑みを浮かべ、目的の人物からフレシア公爵が離れた瞬間を狙って近づいた。
「リュシアン殿下、ごきげんよう」
「そなたは……」
「ロゼリア・ファララスと申します。ファララス公爵家の長女でございます」
「あぁ、美丈夫を追いかけまわして、振られた令嬢か。私に何のようだ?」
とても冷たい視線を向けられるだけでなく、馬鹿にされ、カチンとくる。
けれど、淑女たるもの笑顔を絶やしてはならない。
「へぇ、泣かないのか。気が強いんだな」
「殿下は、私が嫌がる言葉をあえて選んでいらっしゃるのでしょうか?」
「だとしたら?」
「驚くほどに腐った心をお持ちだなと思っただけですわ」
そう、淑女だから笑みは絶やさなかった。けれど、馬鹿にされて我慢もできなかった。
「あら、言い返さないとでも思いまして?」
「普通、王家の人間には言い返さないだろ」
「そうですわね。でも、言われっぱなしは性に合いませんの」
呆気に取られている殿下を見て、これは失敗かな? と思う。感情的になり過ぎた。
けれど、ここで諦める私ではないわ。
「……私に何の用だ?」
「是非、一緒に踊っていただけないかと思いまして」
「は?」
「ご存じの通り、私、皆さまに腫物扱いをされておりますの。ですが、殿下はそもそも私に興味がないでしょう? だから、ちょうど良いのですわ」
「あなたは失礼な人だな」
「そのお言葉、そっくりそのままお返しいたします」
そう言い切れば、殿下は手を差し伸べてくれる。
「私と踊ったところで、あなたに何も得はないよ。宰相に目をつけられるかもな。それでも、踊るか?」
「えぇ、もちろん。宰相様なんか怖くありませんわよ」
そう言いながら手を取った私に殿下は呆れたようにため息をつく。
「……怖いもの知らずなのか、それとも馬鹿なのか」
「殿下は、息をするかのように失礼なことを仰いますのね。モテないでしょうに……」
「憐れむのはやめてくれないか。どうせ、私の婚姻相手は宰相が決めるんだ。愛想良くしても、意味などないさ」
感情の読み取れない表情で、殿下は言う。
「殿下は、立ち向かったことはありますの? 反対されても押し切ろうとしたことは? 相手の裏をかこうとしたことは? 全力を尽くしたことはあるんですの?」
「そんなの無駄だろう。相手の望むようにして、流されているのが楽でいい」
至極どうでも良さそうに言われ、何だか私の生き方を否定されたように感じた。
私はいつだって、無駄になろうと足掻いていた。今だって、そう。
少しの可能性に賭けて、足掻いている。
「私はそのようにはなりたくありませんわ」
「……なぜ泣く」
「泣いてなどおりません! ただ、私は何もかも諦めたくないだけですわ。どれほど他人に馬鹿にされようと、滑稽であろうと、私だけは私を信じたいだけで……」
「そうか。強いな、ロゼリア嬢は」
「そうですわ。私は強いんですの。だから、自分の道は自分で切り開くし、弱い者は守りますのよ」
そう、私は強くなくてはならない。下を向いてはならない。
いつでも前を向いて、振り返らず、自分のことを信じてないと。
でないと、一度止まったら、もう強い私ではいられなくなってしまう。
「なら、私のことも守ってくれるか?」
驚いて見上げれば、オーケストラによる美しい音色が流れ始めた。
ロゼリアsideは、もう1話続きます。
こちらの公開は、明日です。
結婚式の番外編もやりたいので、時折不定期に更新していきます。




