42『運命』の知らないところで
それから何が何だかよく分からないうちに、サザス子爵は王都より来た騎士様に捕らえられた。
お父様は、騎士様に事情聴取を頼まれ、応接室で対応をしている。
「ヴォレッカ、会いたかった……」
何の説明もないまま、目がつぶれるのではないかと思うほどのまばゆい笑みをライラクスに向けられる。
王都を出て四ヶ月ちょっと。久々に見ると、まぶしすぎて目を開けているのがしんどいレベルだ。
「えっと……ヴォレッカ、その方は?」
戸惑いながら、お母様が聞いた。
私と同じように、いや、私以上に現状がよく分からないという顔をしている。
「申し遅れました。ライラクス・ヘンルートゥと申します」
「……え? じゃあ、ヴォレッカの嫁ぎ先の?」
「はい。ご挨拶が遅くなり、申し訳ありません」
そう言いながら笑みを浮かべたライラクスに、お母様も頬を染めるどころか、顔色を悪くした。
「お、お出迎えもせず申し訳ございません。どうぞこちらへ」
応接室の方へと慌てた様子でお母様は歩き出す。
「お母様、今応接室はお父様と騎士様で使っているわよ」
「あ……。そうなると、ご案内できるところが……」
だよね。ヘンルートゥ家のように屋敷が広いわけじゃない。お客様をお通しする部屋は一つだけだ。
「私も色々とライラクスに聞きたいことがあるし、お母様の方もバタバタしてるでしょ? お父様の事情聴取が終わったあと、挨拶することにしよう? ライラクスもそれでいいよね」
「もちろん、かまわないよ」
「というわけだから、ライラクスはこっちね」
そう言いながら、ライラクスの腕を引いて歩き出す。
向かうのは、私の自室だ。
「少し合わない間に、ヴォレッカはまた可愛くなったな」
「はい?」
自室へと向かっている途中、突如浴びせられた甘い言葉に思わず足が止まる。
振り返れば、ふわりと甘く微笑まれ、眉間にシワが寄った。
「今はふざけている場合じゃないんだからね。何がどうなったのか、きちんと説明してちょうだい」
「分かっているよ」
そう言いながら、引っ張っていた手を解くと、ライラクスは指を絡めて繋ぎ直す。
「でも、頑張ったんだ。これくらい、いいだろう?」
「…………これくらいなら」
サミレット領のために頑張ってくれていたのは、分かっている。
分かっていて振りほどくことなんかできるわけがない。
不謹慎にも、ライラクスは私のことが好きなのでは? という疑問が再び頭の中に浮かぶけれど、それは頭の隅に蹴散らして、少し早足で自室へと戻った。
「ここは?」
「私の部屋ですよ」
部屋に入った途端に聞かれて答えれば、ライラクスは物珍しそうに部屋を見渡した。
「何というか、ヴォレッカらしいね」
必要最低限のものしかない簡素な部屋を見て、ライラクスは嬉しそうに笑うけれど、その言葉は褒めているのだろうか。
「そんなことより、状況を説明して」
「もちろんだよ。まずは結論から言うと、サミレット領がサザス領の領土になることはない。フレシア公爵が切ったんだ」
「切った?」
「そう。悪いのはすべてサザス子爵で、何も知らなかったし、何もしていないということにした」
そ、それはすごいな。
サザス子爵、フレシア公爵が後ろについていると言っていたのに、すでに切り捨てられたあとだったんだ……。
それからライラクスは順を追って説明をしてくれた。
フレシア公爵は戦争を起こす気なのかもしれないが、確証が持てないため、ひたすらフレシア公爵を探っていたところ、武器を何箇所かに隠していることが分かったらしい。
そのうちの一つがサザス領で、今回捜索に踏み切る理由にサミレット領の娘であり、ヘンルートゥ伯爵夫人である私を賊を使って襲わせた罪を使ったのだそうだ。
「まさか、襲われたことが役に立つなんて……。もしかして、泳がせたのもそれが理由なの?」
「あぁ、彼らとサザス子爵が繋がっているという確証がほしかったからね」
なるほど。私の知らないところで色々と進んでいたのか。
「サザス領で武器が見つかったとして、そうなったらフレシア公爵も言い逃れできないんじゃない?」
「子爵が勝手に言っていることだと言い逃れるつもりだろう」
「じゃあ、サミレット領をサザス領の領土にしようとしたのは?」
「そのこと自体は、サミレット領の事情によるものだから、咎めるのは難しいらしい。すまない……」
申し訳なさそうにしたライラクスに、私は首を横に振る。
「ううん。罪を問いたいんじゃなくて、私はサミレット領を守りたかったの。ライラクス、本当にありがとう」
「その言葉、帰ったらファララス公爵令嬢にも言ってあげてくれないか」
「ロゼリア様に?」
ロゼリア様は、特に関わっていなかったはずだ。
それなのに、どうして?
「ファララス公爵令嬢は殿下と婚約し、情報を流してくれたんだ」
フレシア公爵は宰相であり、王妃の叔父でもある。
王妃の実子である殿下は宰相派に常に囲われている。
その殿下と婚約って……。
「それ、すごく危険なんじゃ……」
「あぁ。でも、ファララス公爵令嬢が自身で選んだことだ。それに、殿下は令嬢にベタ惚れだ」
「あ、そうなんだ?」
「それに対して、令嬢もまんざらではない」
な、なるほど。
そこに愛があるわけですね。
「だから、ヴォレッカが気にすることではない」
「うん、分かった」
人の恋愛に首を突っ込むのは野暮ってものだもんね。
こうして、私の知らない間に、サミレット領に降りかかる問題は解決した。
今夜完結です。
最後まで、よろしくお願いします。




