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【完結】『運命』を『気のせい』と答えたら、婚姻となりまして【連載版】  作者: うり北 うりこ@8/1ざまされコミカライズ①発売
本編

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34/46

34『運命』は、御者台に座る

 

 馬車の窓から見える光景は、とても信じられないものだった。

 デーリッヒ兄が剣で斬り、ジーシが小型のナイフを投げ、リーゼが殴ったり蹴ったりしている。

 明らかに賊の方が人数は多いのに、ちぎっては投げちぎっては投げという感じで、賊を殲滅(せんめつ)していく。

 

「すごい……」

 

 三人が強くて、襲ってきた方が圧倒的弱者だった。

 賊があまりにも一方的にやられているのである。

 あっという間に、立っているのはジーシとデーリッヒ兄、リーゼだけになり、逃げた意味は何だったんだろう……と、ぼんやりと思う。

 

「ヴォレッカ様、お怪我はありませんか?」

 

 扉が開き、リーゼが私に言う。

 その手には、ボスと呼ばれていた賊の首根っこが掴まれている。

 

「あ、うん。大丈夫だよ」

「それは良かったです」

 

 スッキリ! といった表情だけれど、顔には返り血が飛んでいる。

 

「リーゼ、ちょっとごめんね」

 

 ハンカチでリーゼの顔を拭くけれど、なかなか落ちない。

 乾いたハンカチじゃダメかぁ……。

 そう思って、水の入った革袋でハンカチを濡らす。

 

「顔色、良くなったね」

「はい。外に出て動いたら、スッキリしました」

「そっか」

 

 本当は、戦えることについて聞いた方がいいのかもしれないけど、それはリーゼが話したくなったら話すだろうし、そんなことより大切なことがある。

 

「デーリッヒ兄とジーシと一緒に戦って、守ってくれてありがとう」

「助かった、ありがとな」

「おかげで、誰も大きな怪我なく済みました。ありがとうございます」

 

 私とリーゼの会話が聞こえていたのだろう。

 デーリッヒ兄とジーシが賊を縛り上げながら、お礼を口にする。

 リーゼは少し驚いた表情をしたあと、嬉しそうに、はにかんだ。

 

「デーリッヒ兄とジーシも、ありがとう」

「これが、仕事だからな」

「奥様がご無事で良かったです」

 

 そう言いながら、ジーシは縛った賊に布を噛ませ、今度は馬へと縄でくくり始めた。

 くくると言っても、馬に乗せた状態ではない。賊の両腕を縛り、その反対側で鞍(くら)と呼ばれる馬の上に人が座る箇所へと結んでいるのだ。このまま走り出したら、確実に賊は馬に引きずり回されることになる。

 

「あの、ジーシさん? 何をやっているのかな?」

「二度とヘンルートゥ家を襲わぬよう、制裁です」

「衛兵に引き渡せばいいんじゃ⋯⋯」

「サミレット領に入っていれば、それでも良かったのですが、ここはサザス領内です。そもそも、サザス子爵の差し金という可能性もありますので、手っ取り早く逆らってはいけない相手だと覚えさせましょう」

 

 うん? 何だか、ものすごく物騒なんだけど……。

 

「まったく、サザス領を迂回すると更に二週間かかるからと、ほんの少しお邪魔しただけで、ずいぶんなものですね」

「だからって引きずり回すのは、やりすぎじゃないかな」

「奥様、やる時は徹底的につぶさないと、仕返しにきます」

 

 そういうもの? でもなぁ……。

 

「大丈夫です。ボスと呼ばれていた者には、これからみっちり話を聞きますから。安心なさってください」

「えぇ、絶対に経緯を吐かせてみせましょうね」


 リーゼはやる気満々という顔で笑うけれど、その笑顔の明るさと言っていることのギャップがすごい。


「いやいや、ただの賊って可能性もあるからね」

「そうだとしても、奥様の乗った馬車を襲うなど言語道断。しっかりと話を聞く必要がございます」

 

 あ、これは私が何を言っても無駄なやつだ。

 大人しく、皆の気が済むまでやらせてあげよう……って、デーリッヒ兄が引いてるんだけど。

 

「というわけで、大変申し訳ございませんが、奥様は御者台に乗っていただくことは可能でしょうか?」

「え、うん。別にいいけど」

「デーリッヒ、御者を頼みます」

「あ、あぁ……」

 

 私とデーリッヒ兄は並んで御者台へと座り、馬車の中にジーシとリーゼ、それから賊のボスが入った。

 

「ねぇ、もしかしてボスをサミレット領まで連れて行く気かな?」

「たぶん、ボスだけじゃない。賊全員を連れて行く気だな」

「え? まさか引きずってじゃないよね……」

「そのまさかだと思うぞ。ま、縄は短めにしてたし、頭は打たないだろう。考えるだけ無駄だ、諦めろ」

 

 デーリッヒ兄は、どこか遠い目をしている。

 そして、再び馬車はサミレット領へ向かって走り出す。

 

「なぁ、ジーシさんって何者なんだ?」

「リーゼじゃなくて?」

「そこもだけど、ジーシさんの方がおかしいだろ。上着の内側にびっしり小型ナイフを持ってたぞ」

「……そうなんだ?」

「しかも、ナイフには麻痺毒がしこまれてる」

「はい!?」

「ナイフがほんの少し掠(かす)るだけで倒れるなんておかしいから、ジーシさんに聞いたんだよ」

 

 え、本当にジーシって何者なの?

 デーリッヒ兄と顔を見合せる。

 

「知らない方がいいことって、あると思うんだ」

「たしかに……」

 

 馬車の中で、ジーシとリーゼに下手したら……、いや、素直に答えなければ確実に拷問されているだろう賊のボスに、思わず同情をした。

 そしてこのあと、すべて聞き出した二人から、賊はサザス子爵に雇われていたとを知ることになる。

 ただ雇われただけなので、襲う理由は一切聞いていないそうだ。

 

 それでも、ヘンルートゥ伯爵家の馬車を襲うのだから、サミレット領関係で間違いないだろう。

 大人しくサミレット領を渡さないと酷(ひど)い目に合うという警告なのか、本当に命を狙いに来たかは分からない。

 ハッキリしたのは、サザス子爵が手を引くつもりも、手段を選ぶつもりもないということだ。

 

 

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